KYOTO T5の学生たちが制作に携わった、地元の人だけが知る「本当の京都」を紹介するガイドブック「OUR KYOTO」が刊行されました!
- 上村 裕香

京都に暮らす人がおすすめする「観光ではない京都」180カ所を日英バイリンガルで紹介するガイドブック「OUR KYOTO-Where Locals Go」(青幻舎刊)が、2025年7月10日に発売されました。

本学の酒井洋輔先生(空間演出デザイン学科 准教授)と京都館(京都市広報webサイト)編集チームが編著を手がけ、制作には本学の伝統文化イノベーション研究センター「KYOTO T5」で活動する学生たちも携わっています。
「OUR KYOTO」は有名な観光スポットではなく観光客のための場所でもない、京都に暮らす、職業も立場も年齢も違う26名の紹介者と京都館編集チームが実際に通うお気に入りの場所や物事を紹介する、一般的なガイドブックとは一味違った京都ガイド。制作のため、銭湯を自転車で回ったり、180カ所のGoogleマップピンを設定したり、写真のモデルを務めたり……奮闘した学生たちのインタビューとともに、本書の内容をご紹介します!
海外に向けて京都のよさを発信する

本書は京都市の公式情報サイト「京都館」での人気連載「My Local Guide Kyoto」に書籍オリジナルのコンテンツを加え、再編集したものです。編著を担当した酒井先生が、これまでに掲載されてきた連載コンテンツの書籍化を出版社に提案したのがはじまりなんだそう。
酒井先生:連載「My Local Guide Kyoto」のコンテンツが3、4年分蓄積されたタイミングで、京都市の方から「海外に向けて京都のよさを発信したい」と言われて、「それならバイリンガルの本を作りましょう」と提案しました。
KYOTO T5とは?

書籍制作に携わった学生たちが所属するKYOTO T5は、2018年に京都芸術大学で始動した研究センターです。京都における伝統文化の継承・発展に寄与することを目指し、伝統文化資源の発掘・再評価、資源・人的ネットワークのリデザイン研究、事業化(地域活性化・製品化)というイノベーションサイクルを高度化させる取り組みを推進しています。現在は約40名の学生が所属し、様々なアプローチで京都の伝統文化と関わっています。
今回お話をうかがったのは井口友希さん(クリエイティブ・ライティングコース2年)、岡本由衣さん(空間デザインコース4年)、孫田かれんさん(ファッションデザインコース2年)の3名の学生たち。

井口さん:わたしは伝統文化に関わる職人さんにインタビューをして記事を書いたり、職人さんが使っている道具について調べたりしています。
KYOTO T5の活動内容は多岐にわたります。祇園の眼鏡店「EYEVAN」との連携プロジェクトでは、眼鏡紐や手ぬぐい、お香の企画・製造を担当。通信教育課程のオンライン授業プラットフォームair-Uで開講している講座「京都職人オンラインワークショップ」は毎年人気を博しています。
過去に、KYOTO T5の学生たちが取り組んだ京都の老舗喫茶店「イノダコーヒ」のグッズデザインプロジェクトの様子はこちらの記事でご紹介しています。
https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/848
銭湯50カ所を自転車で巡る

岡本さんが担当したのは、京都の銭湯を紹介するこちらのページ。酒井先生が「まだ銭湯が街のそこかしこに残ってるのが、京都のひとつの特徴」と語るように、京都で暮らしていると銭湯は身近なものとして暮らしの中に溶け込んでいます。京都での「ファースト風呂」になりやすいと紹介されている大衆浴場・船岡温泉や、風情を感じる銭湯の入り口の写真が掲載されています。一般的な観光ガイドでは触れられることの少ない、暮らしに根付いたものを紹介しているのが本書の魅力です。
岡本さんに与えられたミッションは「とにかく銭湯の入口の写真を撮ってくる」ことだったそう。


岡本さん:Googleマップで銭湯をリストアップして、自転車でルートを組んで京都中の銭湯を回りました。酒井先生のおすすめの銭湯も聞いて、50カ所くらいは回ったと思います。でも、一度目は回っているうちに日が暮れてしまって、写真の色味が合わなくなって……結局、撮り直しました。最終的に掲載されたのは入り口の写真だけですが、銭湯の方々に「ガイドブックを作っているんです」とお話をしたら、銭湯の中を撮らせていただけることもありました。いままで意識していなかったけど、銭湯が自分の住んでいる街にこんなにあるんだ、と驚きました。
180カ所のGoogleマップピン登録

お話を聞く中で「大変そう!」と驚いたのが、孫田さんが担当したGoogleマップのピンの設定作業です。冒頭のページのあるQRコードから、掲載スポット180カ所をまとめたGoogleマップにアクセスできます。本とGoogleマップを併用することで、より実用的な使い方ができるのです。さらに、本の巻末には場所それぞれの個別QRコード一覧も。このGoogleマップのピンを登録するのが、孫田さんに与えられたミッションでした。
孫田さん:地味に大変な作業でしたね。同じ名前で別のお店があったり、ニッチなお店はGoogleマップに掲載されていなかったりして、住所から推測して「ここだ!」って場所にピンを立てるってことを何度もやりました。期間は3か月くらいです。途中で、掲載予定だったお店が変更になったり、掲載できなくなったりして、その修正作業も大変でした。
でも、大変なばかりじゃなくて、いままで知らなかったニッチなお店を知る機会にもなりました。街を歩いているときに「あ、このお店、Googleマップのピン立てたお店や」って気づいて、実際に行ってみたりもしました。
「後ろ姿のモデル」が重要な理由

井口さんは、街の風景やお店の外観写真を撮影する際のモデル役を担当しました。例えば、こちらの園芸用品の専門店・LIFETIMEの外観写真に写っている後ろ姿、井口さんです。井口さんは「わたしは酒井先生と、一緒に京都を回っただけなので」と謙遜しますが、酒井先生は「モデルは重要」と話します。

酒井先生:ただの「後ろ姿のモデル」って思われるかもしれないけど、撮影現場でカメラを構えながら店員さんと話すのって、結構大変なんですよ。でも、井口さんが店員さんと話してくれることで、自然な雰囲気の写真が撮影できる。
井口さん:撮影は、だいたい1日に4カ所くらい回って、合計10カ所は巡ったと思います。一番印象に残っているのは競馬場ですね。競馬場にはじめて行ったので。

「KYOTO T5の活動で行ったことのある場所が紹介されていたりもするんですか?」と聞いてみると、見せてくれたのはこちらのページ。

1818年創業の、風情ある京都ならではのお店「桔梗利 内藤商店」を紹介しています。いまでは珍しいシュロの箒やタワシ、ブラシなどの日用品を扱うお店です。孫田さんが以前からKYOTO T5の活動を通して関わっていたお店で「クライアントワークで何か作るってなった時に頭に浮かぶお店の1つ」と親しみを持っていると話してくれました。学生たちがこれまでに行ってきた活動とリンクする部分もあるんですね。
観光地ではない「本当の京都」を26名が紹介

この本の最大の特徴は、観光地ではない「本当の京都」を紹介していることです。競馬場、豆腐屋・お箸屋などの専門店、様々なタイプの飲食店など、一般的なガイドブックには載らない場所が多数掲載されています。
紹介してくれたのは京都で暮らすデザイナー、イラストレーター、伝統工芸品の職人、喫茶店や書店の店主など、様々な職業の人々。祇園祭、五山送り火、御手洗祭などのお祭りや骨董市などの行事や催し、さらには鴨川の土手、大文字山、京都市バスなどの日常風景的なものまで、各地の写真が掲載され、思わず京都に行きたくなる、京都が好きになる一冊です。
酒井先生:この本は、別に「おしゃれガイド」ではないんですよ。観光客の方が行く嵐山とか清水寺とか、あるいはInstagramでバズっているようなお店ではなくて、京都のローカルな人が本当に行く場所を紹介しています。観光地になっている場所は、素顔の京都っていうよりは、化粧した「観光客のみなさんにとって最適化された」京都だったりするので、そうではなく、「本当の京都」にフォーカスした本にしたかったんです。

バイリンガル形式を採用した理由は、京都にも外国人観光客の方が増えていて、そういった方にもローカルな場所を知ってほしいからです。ぼく自身、旅行をするときは地元の人が行く店にしか行かないんです。バルセロナに3回くらい行ってるんですが、いまだにサクラダファミリアには行ったことがない。フラッと入ったカフェの店員さんに「本当に美味いと思う店を一軒だけ教えてほしい」って頼んで、教えてもらったところに行ってみたり。そういうことを、京都を訪れる観光客の方にも京都でやってみてほしいなと思っています。
完成への想い、読者に向けて

完成した本を手にした学生たちは「うれしいです。家族とかに見せたい!」と素直な喜びを語ってくれました。自転車での銭湯巡り、180カ所のピン打ち作業、30カ所でのモデル撮影と学生たちの地道な努力と情熱が詰まった一冊です。
酒井先生は学生たちの頑張りも含めて「価格以上の価値はある」と断言し「買って本棚に並べといてほしい」と話します。
酒井先生:若い人からしたら少し価格が高いのでためらうかもしれないけど、今回スポットを紹介してくれた人たちは、京都在住の、それぞれの分野でスペシャルな仕事をしている人たちなので、ぜひ手に取ってみてほしいですね。ちょっと無理して買った本が本棚にあるとか、高い本を持ってるってことが、自分を支えることもあると思うので。
本書は日本国内だけでなく、ロンドン、アムステルダム、ニューヨークなど海外での販売も予定されています。いままで知らなかった京都らしさ、ローカルな文化や生活に触れたい方におすすめしたい一冊です。ぜひ、書店でお手に取ってみてください!
■書籍情報
OUR KYOTO ― Where Locals Go
編著:酒井洋輔・京都館編集チーム
出版社:青幻舎
発売日:2025年7月10日
仕様:A5判変型/272ページ/日英バイリンガル
定価:3,800円(税別)
詳細はこちら(青幻舎公式サイト)
https://www.seigensha.com/books/978-4-86831-004-4/
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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。