INTERVIEW2025.05.30

京都

KYOTO T5 きょうのお祭り手帖 #02 葵祭 煎茶献茶祭|一滴のお茶に真心をこめて

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  • 京都芸術大学 広報課

伝統工芸の本当の姿に光を当て、「かわいい伝統」「かっこいい伝統」「おしゃれな伝統」を世界に持っていく京都伝統文化イノベーション研究センター(T5)が発信するコラムを瓜生通信にてお届けします。

今回は、「きょうのお祭り手帖 #02 葵祭 煎茶献茶祭|一滴のお茶に真心をこめて」をぜひご覧ください。

 

 

新緑の爽やかな時期に行われる「葵祭」。流鏑馬神事や、約8kmの道のりを平安装束を身にまとった総勢500名もの人々が練り歩く「路頭の儀」が有名ですが、それ以外にも、5月初旬からさまざまな関連行事が行われます。今回は葵祭の最後に行われる「煎茶献茶祭」について、小川流煎茶七代目家元・小川後楽さんと、3名の小川流師範の方々にお話をお聞きしました。
#葵祭 #煎茶 #左京区

 

煎茶献茶祭は葵祭を締めくくる神事で、連日の祭礼でお疲れになった神様をねぎらうため、御神饌(神様に捧げるお食事)としてお茶をお供えし、その後「拝服席」で神饌のお下がりをいただくことで神と人がともに和み、楽しみます。上賀茂神社では表千家・裏千家が隔年交代で抹茶を神前にお供えし、下鴨神社では小川流が毎年煎茶をお供えします。

 

 

小川流煎茶は江戸時代末期に開かれた煎茶道の流派で、医者であった初代家元によって編み出された衛生的かつ合理的な煎茶法が特徴です。

小川流のお茶は「滴滴のお茶」と称され、数滴のお茶を、香りと舌触りを楽しみながら味わいます。片手にすっぽりと収まるほど小さなお茶碗に、余白たっぷりで一口にも満たないくらいのお茶。でもその数滴にものすごいうま味と栄養が詰まっています。

急須からポタポタと落ちるお茶の水滴に光が反射する様子が神秘的です。 

 

 

小川流煎茶には独自の伝統を誇る本格手前を中心に、 日常にも生かせる略手前など約三十種程あり、楽しみながら次第に奥義を極められるようになっています。基本的には煎茶・玉露・番茶といった それぞれの茶葉に応じたお手前があり、これに季節や場所、用いる道具などで 様々なバリエーションが加わっていきます。

 

 

煎茶献茶祭では本格手前が披露されました。難しい約束事がなく、和やかな雰囲気で行われる普段のお稽古とはうって変わって、ハレの舞台である煎茶献茶祭では静謐で、きりりとした緊張感が漂います。お道具なども普段のものと異なり、茶器は白磁でできたシンプルなものを使います。

また、お手前の途中、茶葉を取り出し茶碗にお茶を注ぎ分けるまでの間は、白紙で作られたマスクで口元を覆うのも印象的です。これは神様への捧げ物に息がかからないようにとの意味が込められているのだそう。

 

 

こちらは茶巾で茶碗を拭う様子。この前にも、茶碗を水で清める動作があり、医者であった初代家元ならではともいえる衛生的な思想がお手前のあらゆるところに表現されています。茶器を拭う際には、清潔さを保つために一碗ごとに茶巾を使う面を変えるなど、細やかな衛生的配慮が感じられます。ここまで徹底的に清潔さを考えられたお手前は、小川流煎茶が確立された200年以上前の当時としては、かなり画期的だったのではないでしょうか。

 

 

どのような心持ちで煎茶献茶祭を行われたのか、実際に神前でお手前を披露されたお家元にお聞きしました。

「神人和楽という考え方。神事では緊張もするけど、後ほど拝服席があります。神様も私たちも、その日ばかりは和やかに。その一心です」

「神人和楽」、神様も人も、一杯のお茶で楽しく和やかな時を過ごす。素敵な考え方ですね。

煎茶献茶祭という神事自体は、雅な音楽が流れたり派手なパフォーマンスがあるわけではない、厳かで質素なものですが、目に爽やかで流れるような美しい動作は神秘的で、自然と目を惹かれます。神様に美味しいお茶を差し上げようという真心がお手前を美しく見せるのでしょう。

神事が始まってから降り出した雨は、しとしとと静かで、雨音の中に急須から滴る水音を探し出すように、その場に居合わせた誰もが一挙一動に息をのんで見つめていました。

 

左から早野元楽先生、長谷川佳楽先生、今橋治楽先生

 

一緒に取材を受けてくださった早野さんは、実は京都芸術大学の一期生だったとお聞きしました。在学中は彫刻を専攻されていたそうです。煎茶をはじめたきっかけは、本学の授業で煎茶を淹れる体験があり、そこではじめて飲んだ煎茶の味に感動し、心を奪われたことなのだとか。

「日本人がこんなに美味しいお茶を知らないって衝撃的でした。自分も知りませんでしたから。後世に残していきたいと思いました。」 

授業で煎茶に触れたことでその魅力に気づき、それが30年もの時を共にする人生の伴侶になるなんて。

私も早野先生と同じく、授業で小川流煎茶、そして「滴滴のお茶」に触れ、普段飲んでいたお茶との違いに衝撃を受けました。これがお茶なら、私がこれまで飲んでいたお茶は何だったの?色のついたちょっと味がする水?、、、というくらい。それくらい一滴に味と栄養がぎゅっと凝縮されているのです。

 

 

最後に、煎茶を淹れるなかで日々大切にしていることについて、お聞きしました。

それは「自然の声に耳を傾けて淹れる」こと。自然の流れに抗うのではなく、沿っていく。天気や気温、湿度など自然の摂理に寄り添ってお茶を淹れるのが小川流の淹れ方です。 

小川流では、各地の神社で行われる神事やお寺の大遠忌法要などの際、お手前を披露したり、一般の方でも参加できるお茶会を行っています。

四季の移り変わりを感じ、合理的に考え抜かれたお手前を通してお茶の本質を探求する。皆さんも、そんな魅力溢れる小川流のお茶を楽しんでみてはいかがでしょうか。

 

きょうのお祭り手帖

#02 葵祭 煎茶献茶祭
小川流煎茶
小川後楽 今橋治楽 長谷川佳楽 早野元楽

文:
西岡菫(文化財保存修復・歴史文化コース)

撮影:
西岡菫(文化財保存修復・歴史文化コース)

小川流 HP:http://www.ogawaryu.com/

 

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