INTERVIEW2025.03.25

京都

KYOTO T5 職人interview #78 岩絵具|01|色合わせは長年の勘

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  • 京都芸術大学 広報課

伝統工芸の本当の姿に光を当て、「かわいい伝統」「かっこいい伝統」「おしゃれな伝統」を世界に持っていく京都伝統文化イノベーション研究センター(T5)が発信するコラムを瓜生通信にてお届けします。

今回は、「職人interview #78 岩絵具|01|色合わせは長年の勘」をぜひご覧ください。

 

270年以上続く、日本最古の新彩岩絵具を作っている「上羽絵惣」さん。
伝統的な製法にこだわり、職人の五感による手作業を大切に製造されています。
今回は職人の普照さんが実際に作業している様子を取材させていただきました。

#中京区 #岩絵具

色合わせは長年の勘

──どのような作業をされているのですか?

ここで作ってるのは新彩岩絵具という岩絵具なんですけど、これは上羽絵惣でしか作っていないものなんです。ここでやっている作業は、方解末という、炭酸カルシウムの方解石という石を粉にしたものに、色をつけて絵具にしていくということです。

今日は色のついた液体に方解末を混ぜる作業です。早い話は、染める作業だよね。タライみたいな容器の中で手で混ぜていきます。ただ、それも混ぜただけでできるというわけではなくて、今までの色が変わらないように調整しながら作るんですよ。

不純物を取り除きながらしっかりと染めていきます。

できた絵の具を溶いて塗るとき、色落ちしないようにしっかりと染めないといけないので、今までの色が変わらないように、ずっと同じ色になるように染めていくっていう技術が大変なんです。今やってるのはこの真ん中の色に合わせる作業です。

本来なら真ん中のこの色に合わさなあかんのですよ。

──これは両サイドが違うものですか?

そうですね。材料は同じなんですけど、色が微妙に違ってるんですよ。上から乗せると分かります。

同じ材料で作る絵具の微妙な色の違いをきっちり合わせて、変わらないようにやっていくのが難しい。

以前この色を買って使われたお客様に、ちょっと色が違うよって言われたら大変なんで。100%はいかへんけども、99%くらいには近づけたいね。

もともと原料にも結構ムラがあるのでね。方解末も、仕分けを手作業でやってるんですね。感覚だけで分類してるので、どうしても仕分けた時によって多少ばらつきがあって、前回やった時と同じように色を入れても同じ色にならなかったりするんです。

粒子の重さや細かさをきっちりと微調整しながらっていうのが一番難しい点ですよね。染める顔料は物凄い種類があるとかってわけじゃないんですけど、いくつかの種類の色をうまいこと組み合わせてたくさんの色を作っているので結構大変な作業です。

感覚を頼りに作る

これが今さっき言っていた方解末です。これが新彩岩絵具になるのですが粒の大きさによって5番から11番まで番号がついているんですね。一番若い番号が5番でこれが一番粗いんですよ。

原料にはいろんな大きさの粒が入っていて、これを分類します。

大きい甕に水を張って、撹拌するんですね。水の中に入れて攪拌すると時間によって重いものが沈んで軽いものは中々沈まない。その時間差で大きさを分けていきます。これを水干製法(すいひせいほう)と言います。手の感覚だけだから難しい作業です。

──目で見ても分かりますか?

目で見てじゃあ分からへんね。

どっちが5番か7番かと言われたら分かるんですけど、隣り合ってる番号のだとちょっと難しいですね。

この方解末に、先ほどのように色をつけたら、今度は乾燥させます。

今ちょうど天日に干してカチカチに固まってます。

──触っても大丈夫でしょうか?

カチカチでしょう。

これは一番細かいやつだね。

──チョークみたいですね。

そんな感じです。線引いたりする、あれと同じような原料ですね。

こっちのは、さっきのと違ってだいぶ粗いですよ。

──本当だ。砂みたいですね。ここのものは、この後どういう作業をされるんですか?

ビニールに包んで紙袋に入れて。

うちは卸しをしているので、大体は500gずつで小売店さんに行くっていう感じで。

小売店さんに行くと、絵を描く方はもっと小さい単位で100gとかで買われたりしますね。手作業で小分けしたり、紙袋に入れたり。紙袋も手作りだったりするんですよ。わりと原始的な感じで今でもやってます。(笑)

作業は違えど同じ染め

──お仕事を始められて何年ぐらいですか?

15年。この仕事をするまでに色々なことをしていました。友禅とか、カステラも作ってました。私は、元々友禅をやっていたんですけど、60越えてから、ちょっと手伝ってもらって良いかと言われて。

──技術として似たようなところがあったから、岩絵具のお仕事も出来たということですか?

液体と粉でまた違うけど、染めること自体は同じやから。

これやったらできるかなと抵抗が少なかったのね。

微調整を毎回毎回

──日々大切にされていることはありますか?

やっぱり、体に気を使うね。動けんようなったら、できないし。

それと、前回作ったものとの兼ね合いやね。データは取ってあるんやけども、必ずしもそれに合うか言うたら微妙な誤差があるから。

そのための微調整を毎回します。

──お弟子さんはいらっしゃるんですか?

今のところ誰もいいひんなぁ。だから、誰が来てもわかるようにデータを残してる。この仕事も今日明日にやらないといけないものでもないからね。ああ、これが不足してるなと思ったら、補充して。まだ体が動くうちは頑張ろうかなと思います。

──この仕事は普照さんだけなんですか?

新彩岩絵具を作ってるのはうちだけやね。昔はもっとあったんかな。

この技術自体もともと発祥はあるんですけど、そこはもう辞められててうちが受け継いだ形なんですよ。自分はこうやって絵具作れても、絵は描けないから。どうやって使うんかも分からんかった。

普通の絵の具やったら、パレットに出して使うんやろうけど、これどないすんの?言うて(笑)また、作る側と描く側ではちょっと違うんかねぇ。僕の仕事はこんなとこかな。

 

職人interview
#78
上羽絵惣株式会社
普照廣夫

文:
西岡菫(文化財保存修復・歴史文化コース)

撮影:
中田挙太

上羽絵惣 HP:
https://www.ueba.co.jp/

 

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