COLUMN2025.04.16

大学の階段でグリコ~あの頃を思い出して~――文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信

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  • 京都芸術大学 広報課

突然ですが皆さん、階段使ってますか?

文明の発達したこの時代、できるだけエレベーターやエスカレーターを使いたい、なんて人がほとんどではないでしょうか。

いやいや、階段を侮るなかれ。

エレベーターやエスカレーターを使わずにあえて階段を使って遠回りすることで、健康のためになるだけでなく、見えてくるものだってたくさんあります。

執筆者の私が通う京都芸術大学の瓜生山キャンパスには多種多様な階段があります。

例えば、冒頭に掲載された写真は、有終館(部室棟)へと続く階段で、主にサークルに所属している学生が使う階段です。その他、学内には、数階段を使う必要がある建物もあります。

 

そこで今回、私たち文芸表現学科の4名は学内にある階段を使ってじゃんけんグリコをして、童心に帰り創作に役立てようという企画を立ち上げました。

文芸表現学科のメンバー(左から、多田、山岡、田中、米田)

 

まずは一般的なじゃんけんグリコのルールからおさらいしましょう。

 

・グーは「グリコ」、チョキは「チョコレート」、パーは「パイナップル」
・じゃんけんで勝ったひとりは自分の出した手に合わせて、グーなら「グリコ」の三段駆け上がって(あるいは駆け下りて)いく
・だれが一番にゴールに着くのか、競いながらじゃんけんをして進んでいく

 

さて、ここまでが従来のルールとなります。
今回、普通のルールでは面白くない。企画に参加するメンバーがせっかく文芸表現学科(※)の学生なので、私たちは新しいルールを設けました。

 

・一番にゴールに着いた人は階段からの眺めをテーマに作品を作る
・ビリだった人は完成した作品に対しての講評を行う

 

完成した作品と講評は後ほど登場しますので、ぜひ最後までご覧ください。

※……小説、脚本、ノンフィクション、編集などを学び、言葉のプロを目指す学科

1.グリコスタート

それでは早速、グリコスタート。
今回はさきほど紹介した、有終館(部室棟)へと続く階段を使用します。

 

11月下旬。真っ赤に染まった紅葉の隙間から木漏れ日が差し込み、幻想的な風景が広がっていました。
まるでどこか知らない世界へ繋がっているかのようです。

この先には部室棟、大学に所属する各サークル団体が使う備品などを収納する小さな建物があります。私はサークルに属しているので見慣れた場所ではあるのですが、そうでなければ「大学にこんな場所があるなんて知らなかった」なんていう学生もいます。
少し歩くだけでこんなにも綺麗な景色が広がっているのに、知らないなんてもったいないですよね。

けれど私にもきっと、まだまだ知らない階段がきっとあるはず。そう思うと、少しだけ世界がきらきらして見えませんか?

2.最初はグー、じゃんけん……

 

そうしてじゃんけんを繰り返していくと……

 

 

いつの間にか三人がこんなに遠くに。勝ち続けてしまいました。

「最初はグー、じゃんけん」と言う声も次第に大きく張るようになっていきます。
ここまで来ると、じゃんけんの手もよく見えず……。お互い口頭で「グー!」「パー!」
と伝えていました。

子どもの頃は無邪気に大声を出して遊んでいたものですが、少しずつ恥じらいが勝つようになり、大人びた振る舞いを心がけるようになりました。誰かを呼ぶとき以外にこんなにも声を張るのは久しぶりで、本当に子どもの頃に戻れたかのようです。

たまにはこういった静かな場所、想いでの場所に行って大きな声を出してみるのもいいかもしれません。もちろん、周りの迷惑にならない範囲で、ですが。
きっと、懐かしい気持ちになれますよ。

3.謎の灯篭?

 

ふと、横に彫刻のようなものが。

「なにこれ?」と不思議がるメンバーたち。
今までスルーしてきましたが、一体なんなのでしょう。灯篭のような形をしており、向こうに見える京都の街を見守っているかのようです。

それを覆い隠すような立派な紅葉の木と、その隙間から覗く夕暮れの風景がとても幻想的ですよね。

子どもの頃はもう帰れなければならないからと、単純にそれだけで夕暮れの景色が嫌いでしたが、門限もない今見る夕暮れはただ美しく、そう感じる自分に対して少し切なさを感じたりもします。

にしてもこの灯篭、結局なんなのでしょう……

なんと、過去の瓜生通信の記事に詳しく書かれておりました……!

こちらは大学と瓜生山の歴史について詳しく書かれた記事。かつて瓜生山山頂に築かれていた山城や、瓜生山で祀られていた神霊など、興味深いことがたくさん綴られています。

 

以下、過去記事より引用。(https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/1023

「徳山前理事長は本学を建てるために、瓜生山を購入、整理をしていた。すると、何百という石碑が並んでいた。北白川跡の話から想像できるとおり、瓜生山は多くの命が散っていった場所だった。徳山前理事長は、そのような山の霊を慰めたいと思い、直心塔という供養塔を建てられた。そうすることで、ここへ集まってくる若者がきっと幸せになるとも信じていた」

 

なんと、この大学の創設者が建てた供養塔だったのですね。今までなんとなく認識していたものが、こんなにも素敵な想いが込められたものだったとは……。

もしかしたら今でも、私たちをひっそりと見守ってくれているのかもしれません。

4.美しい階段で行われたグリコ。優勝者は……

 

さて、最初こそ勝ち続けていた私ですが、いつの間にか多田さんに大差で抜かされていました。
無邪気に勝利のポーズをする多田さん。

そして、私たちを悔しそうに見上げていたのは……

 

米田さん。ビリは米田さんです。

こうやって「あの子が勝ったんだ!」とわくわくするのも久しぶりの感情。そして「あの子が作品書くのか!楽しみ!」となるのは私たち芸大生ならではの感情です。

というわけで、優勝者の多田さんに作品発表を、米田さんに講評をしてもらうことになりました。

文芸表現学科の学生である以上、いかなる作品も「ここをこうしたらもっと良くなるのではないか」「この表現よりもこっちのほうが……」などと考えてしまい、純粋に作品を楽しむ気持ちを忘れがちです。

皆さんも、つい難しいことを考えてしまって純粋にものごとを楽しめないなんて経験、身に覚えがある人も多いのではないでしょうか。
そんなときは、子どもの頃のわくわくした感情を少しだけ思い出してみるといいかもしれません。

ということで、私はただ作品を楽しみに待つだけ……。

5.作品発表

さて、いよいよ作品が出来上がったようです。
多田さんが制作したのは、今回の企画と美しい紅葉から着想を得た短歌。

 

夕紅葉

幼き日々の

影重ね

帰るを忘れ笑い駆ける階

 

米田:紅葉が綺麗な、夕日の差し込む時間帯の頃のグリコの舞台だった階段が鮮明に浮かぶいい歌だと思います!童心に帰る楽しさが相手にも伝わりそうです!

実は私は、あまり短歌には詳しくないのですが……。字を見るだけで、とても美しく楽しかったあの光景が浮かんできます。米田さんの言う通り、楽しさが伝わる歌ですよね。

6.振り返って

いかがでしたでしょうか。普段見ている景色でも、少し見方を変えるだけで普段気がつかなかったものに気づいたり、美しい風景に出会ったり。
今回は「童心に帰る」という視点の変え方をして、いろいろな景色や感情に出会いました。

皆さんも、普段見ているものの見方を、ほんのちょっとだけ変えてみてください。私たちのように、普段使っている階段でグリコや子どもの頃にしていた遊びをしてみてもいいかもしれません。

何気ない日常の風景が、きっときらきらして見えるはず。そうやって得られた感性や気づきが、新しいアイデアやインスピレーションに繋がるはず。
きっと、あなたの人生に影響を与えてくれるでしょう。

 

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