それはきっと、これまでの人生で“最大”の挑戦。
2025年の「瓜生山ねぶた」が、9月10日18時きっかりに点灯の瞬間を迎えました。講堂、エントランス、そしてギャラリーの暗闇を吹き飛ばし、つぎつぎと輝きを放つ20基の“ねぶた”たち。
つくりあげたのは、この春まで高校生だった1年生たちです。大勢のメンバーでコンセプトを練りあげ、模型をつくり、木組みを立て、針金を通し、和紙を貼る。すべてが初体験づくしの工程を約12日間という期間内にやりとげて迎えた歓喜の瞬間に、彼らを見守ってきた先輩アシスタントや担当教員たちも感無量の表情です。
本学の名物行事として18年目を迎える「瓜生山ねぶた」は、1年生向けの選択授業「マンデイプロジェクト」の最終課題。コースも学科もバラバラなひとクラス35名がチームとなり、週一回の授業でさまざまな共同作業にチャレンジ。お互いの個性や得意分野への理解を深めた集大成として、力を合わせてつくりあげるのが、このねぶた制作です。
「例年より、悩んでいたチームが多かったなぁ」と、つい十日ほど前のことを遠い目で語るのは、テクニカルディレクターの森岡厚次先生と池永誠之先生。









謎のテーマと格闘しながらの制作
「いやいや、こんなに悩ませたのは誰?」と、1年生のみなさんなら思うでしょう。
なにしろ今年のテーマは、『ん』。
一昨年の『1mm』、去年の『漆黒』をしのぐ、究極に「?」なお題です。
「とりあえずAIや検索サイトに聞いても、なんにも出てこないから。自分たちで考えなさい、ってことですよ」と、ちょっぴりドヤ顔の先生たち。くやしいけれど、その目論みどおり、学生たちは考え抜き、悩み抜き、何度も立ち止まっては、自身や仲間とぎりぎりまで向き合いました。だからこそ、「白く光る」「電球の数」「紙や針金の量」といった多くの規定を持ちながらも、自由奔放で個性豊かなねぶたを生みだせたのでしょう。



これまで出したテーマに自分なりのイメージがあった先生方も、今回ばかりはまったくの白紙。“味完成のみりん”、“壊れた楽器”、“沈黙するモアイ像”などなど、学生それぞれの発想や解釈に、「しっかり悩んで、着地したのがよくわかる」と素直な賛辞を送っていました。


興奮!「瓜生山ねぶた2025表彰式」

大きな挑戦、だからこそ、大いに賞賛されたいのは当然。定刻どおりに春秋座に集った学生たち、先輩のアーカイブチームが撮影・編集した約12日間のメイキングムービーに見入り、担当教員の動画メッセージに歓声で応えながらも、どこかそわそわした様子。映像が終わりに近づくにつれ、会場じゅうに緊張したムードが漂ってきます。





そしてついに運命のとき、芸術教育センター長のご挨拶で表彰式がスタート。
20クラス約700名以上が祈るなか、テクニカルディレクターが選出する「TD賞」、実質4位とされる「同窓会賞」、「奨励賞」と「優秀賞」、そして本ねぶたの最高賞である「学長賞」の5タイトルが発表され、クラスの代表者たちに賞状が授与されました。以下に、それぞれの受賞作品を紹介いたします。
TD賞 Jクラス『化け蛸』




「見破れるもんならやってみぃ」とコンセプトに書かれているとおり、自らに巻きつけた触手で人間の顔に擬態するタコ。TDの先生方を驚かせた「企画決定までのスタートダッシュ」をはじめ、「本当にできるのかな、というアイデアをみごとに完成させた熱量」が、見る人すべてを「ん?」と惹きつけるユーモラスな傑作を生みだしました。


同窓会賞 Fクラス『漂うもの』




わずか1ミリほどのミジンコが、圧倒的な大きさとなって目の前に迫りくる。そのギャップを楽しむうちに、「人の目を逃れながらも、ひそかにこの星を支えている」というコンセプトがじわりと沁みてくる作品。同窓会代表である3期卒業の大先輩は、さらに「あえて針金だけでつくられた、外殻の部分が生みだす透明感もすばらしい」と大絶賛でした。


奨励賞 Qクラス『親愛なるあなたへ』




巨大なオルゴールの装飾に目をいざなわれ、頂上で躍るバレリーナの細やかさに息をのむ。「コンセプトにあった“小さな音に気づく”繊細さが、ディテールにまでよく表れていますね」と、表彰状を手渡す学部長の河田先生。それを受け取った代表者が壇上から、「Qクラス、ありがとうー!」と声をかける姿にも、細やかなチーム愛があふれていました。


優秀賞 Jクラス『化け蛸』





表彰式会場をどよめかせた、当人たちも予想外のW受賞。発表前に「TD賞は唯一無二の賞」という説明があったのはこのことか、と思い至る人もいたはず。副学長の荒川朱美先生による、「擬態と騙し絵を組み合わせたコンセプト、それをかたちにする確かな造形力、本当にすばらしい」の賛辞に、最初のとまどいはすぐ納得の拍手へと変わりました。
学長賞 Tクラス『存在していたが、存在していなかったもの そして存在するもの』





「選ぶのが大変だった」という「瓜生山ねぶた」初参加の今年4月に学長に就任した佐藤卓先生から「アイデアも造形力も文句なしのすばらしさ」と絶賛された作品のモチーフは、約1億5千万年前の生物とされる始祖鳥。代表者の「だれが欠けてもできなかったから、みんなと出会えてよかった」という涙ながらの言葉に、会場にいただれもが共感したはずです。



「なんだか私まで、もらい涙が…」と徳山理事長から贈られた「ねぶたてぬぐい」(本年度の全ねぶたイラストいり!)を手に、全員集合の大撮影会で式は終了。

その表彰式にはいなかったけれど、点灯式の会場では、「ねぶた界隈」と書かれたTシャツを身につけた本学附属高校の「高校生ねぶた」参加者たちの姿も。先輩たちの作品に圧倒され、「自分たちもがんばらなくちゃ」と次年度への闘志をたぎらせていました。

もちろん1年生の皆さんにとっても “人生最大”を更新するものづくりはここからが本番。さらに大きく、ひるむことなく、制作の壁にぶつかっていかれることを、心より応援しています。2025年度の「瓜生山ねぶた」つくりあげ、支えてきたすべての皆さん、今年もすばらしい作品をありがとうございました。



先生より愛と期待を込めて
作品や挑戦を称える声が多い一方で、先生方からはこんな本音も聞こえてきました。「ねぶた制作は思った以上に体を使う作業。これからは体力づくりも大切になっていくかもしれませんね」。道具や材料を運び、持ち上げ、組んだり切ったり縛ったり。どれもリアルなものづくりには欠かせない基礎力です。また、「最近の学生は優しい子が多い」という言葉の一方で、「自分の考えをもっとはっきり伝えられると、さらに作品は力強くなる」
来年挑戦するみなさんには、実際に体を動かすことや日々の小さな発言を通して、自信を少しずつ積み重ねていってほしい。そうして迎える制作の場では、これまで以上にたくましく、自分らしいねぶたを形にできるはずです。
来年はどんな瓜生山ねぶたがキャンパスに並ぶのでしょうか。今から期待しています。
ねぶた作品一覧(受賞作品以外)
















全員集合写真=中山博喜
制作風景写真・点灯式・表彰式・クラス集合写真=吉見 崚
作品写真=高橋保世
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