INTERVIEW2025.09.18

教育

卒業生のいるお店 — 屋台手打蕎麦・鴨まる(プロダクトデザイン学科卒業生・三木俊輝さんインタビュー)

edited by
  • 上村 裕香

全国各地で活躍する京都芸術大学の卒業生たち。旅先でふらっと立ち寄ったお店で「このお店のオーナーさん、もしかして京都芸術大学の卒業生?」なんて偶然の出会いもあるかもしれません。

この連載では、卒業生が営むお店を、卒業生へのインタビューを通してご紹介します。お店をはじめたきっかけや、学生時代の学び、今後の展望についての質問を通して、卒業生の想いやこだわりを深く掘り下げます。きっとそこには、本学で培った感性や学びが、いまもなお息づいているはず。気になるお店があれば、ぜひ実際に訪れて、新たな発見とあたたかな繋がりを体験してみてください!

屋台手打蕎麦・鴨まる

三木俊輝さん

屋台手打蕎麦・鴨まる 店主
2019年 京都芸術大学 プロダクトデザイン学科卒業

 

人との繋がりを大切にする土地で

講義や仕事の終わりに見かけたら、つい寄り道したくなる風情たっぷりの屋台風キッチンカー。提灯の「手打蕎麦」の文字に誘われてカウンターに腰を下ろすと、人の良さそうな店主がにこやかに迎えてくれます。お品書きにあるのは「鴨せいろ」と「日本酒(伯楽星)」のみ。疲れた体を労るのにうってつけなメニューに心躍ります。
プロダクトデザイン学科の卒業生・三木俊輝さんが営むのは、「屋台手打蕎麦・鴨まる」。2023年11月から、屋台風のキッチンカーを使って宮城県仙台市の駅前で日本蕎麦を提供しています。

在学中から、さまざまな立場から「食」を学ぶ学生の架け橋となるプロジェクトを行ったり、柑橘系ジャムの商品開発を手掛けたりと、料理とプロダクトデザインを掛け合わせた取り組みに挑戦してきた三木さん。仙台の地での新たな挑戦について、うかがいます。

 

——学生時代から料理はお好きだったんですか?

三木さん:学生時代のアルバイトをきっかけに好きになりました。1年生のときは大学を辞めて調理専門学校に通おうかと迷ったこともあったんですが、大学で学ぶプロダクトデザインの知識と、他の分野を掛け合わせることで、学びが広がることに気づいて、続けることにしました。学生時代は「水田レストランプロジェクト」を立ち上げ、食に関わるいろんな学校の学生たちが交流できるイベントを開催しました。調理学校以外の、経済学部や農学部などさまざまな分野で「食」に関わる学生も参加してくれました。「食」って料理人だけじゃなくて、一次産業から三次産業まで多くの分野の人が関わっているじゃないですか。そういう人たちが学生のうちから繋がれる場を作りたかったんです。



——プロダクトデザイン学科での学びはどのように役立ちましたか?

三木さん:プロダクトデザイン学科では、ものづくりをするときに「どんな素材を」「どのように加工するか」という2つの軸の引き出しをたくさん作ることが大事だと学びました。この考え方は料理にも落とし込めるなと感じました。素材は食材、加工方法は調理方法と置き換えることができますよね。どんな食材を、どのように調理するか、この引き出しを増やしていく考え方は料理に活かせるなと思いました。学生時代に取り組んだほかの事例としては、四国・因島の柑橘「だいだい」を使ったジャムの食品開発を手がけました。商品開発、調理だけでなく、ラベルデザインなどの工程も、学科で培ったデザインソフトの技術を活かしてひとりで行いました。

 

——卒業後は京都で和食の料理人をしていたとのことですが、仙台に移り住んだきっかけは?

三木さん:仙台に移り住んだきっかけは全国にいる元気なじーちゃん、ばーちゃんと共に食で元気を届けるプロジェクト「ジーバーFOOD」がきっかけです。

学生時代、日本一周中に北海道で胆振東部地震を経験し、震源地厚真町で炊き出し支援をする中で「精神的な美食の前に、肉体的に生きるための料理が大切なんだ」と気づきました。卒業後に東京のコロナ専門指定病院で調理師として働いた経験経て、今の日本に必要な食は「日本の力を支えてきた家庭料理だ」と感じ、「ジーバーFOOD」を立ち上げ責任者として、地方で食に関わる活動をはじめました。

 

——事業との関わりが終了してからも、仙台に住み続けているのは、この土地ならではの魅力があるからでしょうか?

三木さん:そうですね。東北ってすごく雪が降っているイメージだったんですけど、太平洋側から暖かい風が吹くからか、過ごしやすい気候で、食材が美味しい。そして、人との繋がりを大切にする、助け合いの精神が土地に根付いているんです。

 


すべて手作りだからこその温かみ

こちらがお店の顔となるメニューの「鴨せいろ」。

試食した本学の職員に感想を聞いてみると、「美味しかったです。お蕎麦を茹でたあと、ふわっと香りが漂ってきて、麺はコシが強くてびっくりしました。鴨肉も、最後にバーナーで炙られていたからか、炭のような香ばしい風味があり、噛めば噛むほど肉の甘みが広がってとても美味しかったです」と絶賛。三木さんが原材料の生産から関わり、出汁や付け合わせのねぎ、わさびまで、こだわり抜いてすべて手作りでつくる一品です。

 

——なぜ「鴨せいろ」を看板メニューに?

三木さん:私がシンプルに鴨せいろが大好きだからです。和洋中と様々な料理を作ってきましたが料理のレシピって何百、何億通りと無限にある中で、「愛情を持って作れる料理」「自分で食べてしまいたい料理」を作ろうと思いました。

 

——「鴨せいろ」のこだわりポイントを教えてください。

三木さん:私の料理人生はこれから50年以上あるので、料理に使用している原材料の10種類すべてに一次産業から関わっているようにしています。
蕎麦は機械打ちの方が安価で美味しいものがたくさんありますがそれでも手打ちにこだわり続けていることです。
屋台では江戸前流の二八蕎麦で、蕎麦粉八割、小麦粉二割で作っています。蕎麦粉十割は将来、店舗を構えたときに提供したいと考えています。

 

 

——お店の雰囲気で特にこだわっているところはどこですか?

三木さん:屋台も含めて、できる範囲はぜんぶ自分で作ってみようという考え方でやってます。だれかに頼みたくないからじゃなくて、まず自分でやってみて、その大変さやありがたみを知りたいから。そういう気持ちを込めて、すべて手作りでやっています。

 

——どんなお客さんがよく来られるんですか?

三木さん:会話を楽しみに来てくれる方が多いですね。蕎麦を食べにきてくださっているのはもちろんですが、人の温かさや手作りのものを求めてきてくれている印象があります。

 


ホームカミングデーで広がる新たな輪

 

——ホームカミングデーで国内外から集まる卒業生たちに料理を振る舞うことについて、意気込みなどがあれば聞かせてください。

三木さん:ただ料理を提供するだけじゃなく、密に繋がりたいと思っています。この記事を見て興味が湧いたら、気軽に連絡してほしいです。人との繋がりが、次の活動に繋がっていくと思ってるので、新しい繋がりを作れるホームカミングデーにしたいですね。

 

——三木さんの今後の目標や、「鴨まる」の未来の姿は?

三木さん:秋頃には仙台駅近くに屋台の場所が決まる予定です。来年以降は、仙台の秋保で農場を借りて、蕎麦やネギを自分で育てながらお店をやりたいと思っています。秋保は仙台駅から車で30分ほどの温泉で有名なエリアで、自然に囲まれていて、蕎麦が育てやすい環境でもあるんです。都会で働く人が休日に30分ほどで来られて、自然に触れ合いながら蕎麦を楽しめるってすごくいいなと思って、都会で疲れた人がストレスフリーになれる、そんな場所を作りたいと思っています。

 

毎年11月頃に開催されるホームカミングデーでは、昨年度に引き続き、今年度も全国各地で活躍する卒業生がホームカミング懇親会(立食パーティ形式)でお料理を提供してくれます。ぜひ、ほかの「卒業生のいるお店」についてもチェックしてみてください!

 


【お店について | information】

屋台手打蕎麦・鴨まる
宮城県仙台市(9月は長町駅前西口広場、10月以降は仙台駅周辺で出店予定)
詳しい営業日・場所はInstagramにてお知らせしています
https://www.instagram.com/kamomaru_soba

 

【お店からのお知らせ | announcement】
復興に向けて歩み始めた能登の料理人と生産者、地元企業が協力し、能登の食材で作ったおせちを全国に届ける「復興能登おせちプロジェクト」、今年も予約がスタートしました。食の力で能登の復興を目指す取り組みです。三木さんは特別サポートシェフとして参加しています。詳しくは、下記のホームページをご覧ください。
https://notoosechi.base.shop


 

 

【卒業生の紹介|introduce】

三木俊輝(みき としき)

プロダクトデザイン学科卒業後、たん熊北店本店にて調理師を取得。
コロナ禍はコロナ専門指定病院荏原病院の調理師として従事。
その後、食を中心に東急不動産の物件を利用し「食で繋がるシェアハウス」運営管理。
仙台にて「ジーバーFOOD」事業責任者。ガイアの夜明けにて放送。
「復興能登おせち」企画進行・立案。中長期的な災害支援を行う。
現在は屋台手打蕎麦「鴨まる」店主。

 

 

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  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

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