表現する仕事を続ける矜持 — 阪元裕吾監督最新作『フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡[私闘編]』公開記念! 主演・松本卓也さんインタビュー
- 上村 裕香

本学の映画学科卒業生・阪元裕吾監督の最新作『フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡[私闘編]』が2025年10月10日(金)から全国で公開されます。
本作は『ベイビーわるきゅーれ』『ネムルバカ』で注目を集める阪元裕吾監督による、フリーの殺し屋・国岡昌幸の日常に密着したフェイクドキュメンタリー『最強殺し屋伝説国岡』シリーズの第3弾です。同じく映画学科卒業生の松本卓也さん、伊能昌幸さん、上のしおりさんが出演されます。
今回は国岡役の伊能さんとともに主演を務めた松本さんに映画の魅力や制作過程、大学での学び、表現者を目指す高校生や大学生へのメッセージなどをお聞きしました。

松本卓也
プロフィール
1995年、京都府生まれ、京都造形芸術大学(現 京都芸術大学)映画学科俳優コース卒業。国岡シリーズ以外にも阪元裕吾監督作品に多数出演。(『べー。』『スロータージャップ』『ハングマンズノット』『ファミリー☆ウォーズ』『ある用務員』『黄龍の村』『ネムルバカ』)そのほか映画『セトウツミ』『この道』、ドラマ『今度生まれたら』『仮想儀礼』『RoOT/ルート』『老害の人』、テレビ番組『戦国炒飯TV』、舞台神保町花月『NO.2』、日本劇団協議会 朗読劇『香たる月』などに出演。
主演の松本さんの提案からはじまった本作

本作は京都最強の殺し屋、国岡昌幸(伊能昌幸)と、前作『グリーンバレット』で国岡の相棒として頭角を現した真中卓也(松本卓也)を筆頭に個性豊かな殺し屋たちが続々と登場する、コミカルなやり取りから迫力のアクションまで見どころ満載の一作です。
松本さんが演じる真中は、殺しの腕は二流で、困ったことがあれば酒に逃げる、うだつのあがらない殺し屋。ある依頼でミスを犯したことで謹慎処分となり、実家の手伝いをさせられていた真中は、国岡の「お前さ……本当は殺し屋やめたくないんじゃないの?」という言葉で、再起を図ることを決め、特訓の日々がはじまります。
——本作『フレイムユニオン』は、松本さんが阪元監督に「『国岡』シリーズの新作を撮ろうよ」と提案してスタートしたそうですね。
松本さん:阪元監督が『ベイビーわるきゅーれ』で知名度を上げていく中で「もしかして『国岡』シリーズの新作はもう撮らないのかな」と不安になって、『国岡』シリーズを一緒に盛り上げられればと思って阪元監督と伊能くんに話しました。当時、ぼくは28歳だったのですが、俳優としてキャリアをあまり積めていないという焦りや、30歳までになにか動きたいなという思いもありました。
——『国岡』シリーズは阪元監督のキャリアの原点でもあり、最新作はファンにとっても待望の作品だと思いますが、松本さんにとっても思い入れのあるシリーズなんですね。本シリーズ、そして最新作の魅力を教えてください。
松本さん:シリーズを通しての面白さは、前半のドキュメンタリー部分の緩さ、会話の面白さと、ラストのアクションシーンですね。「こういう人いるよな」と思えるような面白いキャラクターがたくさん登場して、後半はバチバチにアクションをやるというギャップは、個人的に観ていても興奮しますし、魅力的だなと思っています。『フレイムユニオン』でもアクションシーンに注目していただければうれしいです。

——アクションシーンの撮影中、苦労したことはありましたか?
松本さん:アクションはあまりやったことがなかったので、難しかったですね。アクション監督の垣内博貴さんには「殴られたり蹴られたりといった『やられるリアクション』が上手い」と褒めてもらえたんですが、自分が殴るような攻撃の演技は、体の使い方に慣れるまで苦労しました。現場では垣内さん以外にも、天内浩人役のRioさんからもアドバイスをもらいました。
——本作で演じられた真中卓也はどんなキャラクターですか?
松本さん:真中は当て書き(映画や演劇で、その役を演じる俳優をあらかじめ決め、俳優のイメージに合わせて脚本を書くこと)で、阪元監督がぼくをイメージしてキャラクターを作ってくれているところもあるので、「ぼくの性格を10倍ぐらい誇張すると真中になる」というイメージがありました。演じるまでは、あんなにとんでもないやつだとは思ってなかったですけど(笑)。でも、情けないけど実は「殺し屋を続けたい」という矜持を持っている泥臭い部分は、憎めない、愛すべき人物だなと思っています。
『マンデイプロジェクト』で得たコミュニケーション能力を活かして
——京都芸術大学で学んだ経験は、今回の作品や俳優活動にどのように活かされていると感じますか?
松本さん:映画学科の授業で演技の基礎的なことから教えてもらえたり、学科の先生方に相談できる環境があったりしたことはよかったなと思います。演技の仕事を続ける上でも、当時教えていただいたことが活かされていますね。脚本をもらって演技プランを考えているとき、大学時代の役作りの授業で得た知識から「こういうアプローチでいこうかな」と考えたりすることはいまでもよくあります。
——「これは印象に残っているな」という授業や活動はありますか?
松本さん:やっぱり『マンデイプロジェクト』が印象に残ってますね。学科横断型で、普段接することのない他学科の学生とワークショップに取り組んで、最終課題で「瓜生山ねぶた」を共同制作する授業です。それぞれ専門分野は違いますが、同じ芸術を学びにきたいろんな学科の学生たちとコミュニケーションを取れるというのは楽しかったですね。約半年間、一緒に授業を受ける中で、チームのメンバーと鴨川に行ってお酒を飲みながら話したり、授業外でも一緒に制作物を作ったりして、交友の輪が広がりました。様々な学生と話し合いながら制作物を作ることで得られたコミュニケーション能力は、監督やスタッフと話し合って映画を作るいまの仕事の糧になっているなと感じます。
——阪元監督、伊能昌幸さんとは本学映画学科の同窓生で、10年来の付き合いとお聞きしました。みなさんの関係性やそれぞれの印象は?
松本さん:2人ともずっと友達って感じでしたね。在学中、阪元監督の映画に関わるようになって、溜まり場になっていた伊能くんの家に入り浸るようになりました。阪元監督が在学中に撮影した映画『べー。』に参加したときは「なんて過激な映画を撮るんだこの人は」と思いました。演者が登場するシーンで、両サイドからクラッカーをパーンと鳴らして、プロレスの入場みたいなシーンにしているような、観たことがない演出で、「変なことしてるな」と。でも、その作品が「学生残酷映画祭2016」でグランプリを受賞して、手のひら返しましたね(笑)。当時は「ぼくには理解できないことをしてるな」と思ってたんですけど、受賞後は「これが正解だったんだな」と思いました。阪元監督は学生時代から印象が変わらないですね。伊能くんは10年経って、尖ってる部分もあるけど落ち着いた大人になったなという印象です。学生時代は負けん気が強くて、我が強いタイプだったと思います。

表現を仕事にする、仕事にし続けるという信念
——先ほど真中について「殺し屋を続けたいという矜持がある泥臭さが魅力」とおっしゃっていましたが、仕事を続けることへの信念、という意味で、松本さんも演じる上でご自身を重ねる部分があったのでしょうか?
松本さん:重ねる部分はありました。役者をやめたいとは思っていませんが、地元の友達が結婚したり、子どもが生まれたりという報告を聞いて、将来に対する漠然とした不安がありましたね。そういう意味では、真中の『殺し屋を続けたい』という場面では、自分の仕事に対する思いを重ねていました。
——その思いは、映画の撮影を通して変化しましたか?
松本さん:そうですね。前はこれから将来どうしようと不安に思っていましたが、いまは「自分が決めた道だし、決めたことをやるしかない」と腹を括っています。俳優を続けていきたいと思っています。
——プロの俳優として活動する中で、プレッシャーや壁に直面することはありますか?
松本さん:あります。壁だらけですし、プレッシャーだらけです。本作でも、主演なので「失敗したらどうしよう」と思いますし、舞台の仕事でもやっぱり緊張します。現場は常に緊張感が漂っているので、プレッシャーを感じることは多いですね。もちろん準備はするんですけど、結局緊張はするし、プレッシャーも感じる。でも、しっかり準備をした上で「用意、スタート」と言われたらもうやるしかない。演技に入ったら、緊張よりも「やるしかない」という気持ちに切り替わって、現場では自然と集中できるんです。
——松本さんが大切にしている「表現の軸」や「核」となっている考え方があれば教えてください。
松本さん:映画や舞台はみんなで作るものなので、個人プレーは避けたいと思っています。オファーをいただいた時は「なんで自分なんだろう」「なにを求められているんだろう」ということは考えるようにしていますね。特に、映画の撮影現場では、ワンシーンだけの役だと現場に着いて他のキャストと初対面ということもあるので、事前にしっかりと「どういう仕事を求められているのかな」ということを理解してから臨むようにしています。

表現者の先輩から後輩たちに送るメッセージ
——本学で俳優・映像作家・監督などを目指す学生や、演技を学んでみたいと思っている受験生・高校生に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。
松本さん:正直に言うと、ぼくはあまり大学で優等生ではなかったのでおこがましいのですが(笑)。これから入学を考えている人は、まずオープンキャンパスに来て、どんな環境かを実際に見てほしいです。在学生には、大学での学びも大切ですが、学外の活動にも積極的に取り組むことをおすすめします。ぼくが阪元監督と一緒に映画を作るようになったのも、大学の授業の中ではなく自主制作でしたし、学生時代から学外のオーディションも受けていました。学生時代は自由な時間があるので、外に向けて発信していく経験を積んでおくといいと思います。
——今後挑戦してみたい役柄や目標はありますか?
松本さん:恋愛映画をやってみたいです。恋愛映画がずっと好きで、憧れだったので。特に報われない2番手の役が憧れです(笑)。ヒロインを助けるけど結ばれない、そんな役をやってみたいです。今後の目標は、俳優を続けながら阪元監督の作品作りにも関わって、好きなことができる環境を作れたらと思います。
——最後に、この記事を読む読者の方に向けて、メッセージをお願いします。
松本さん:この映画は本当に面白い作品だと自信を持って言えます。京都芸術大学の卒業生がこんなにたくさん関わっている作品を見る機会は貴重だと思うので、在学生のみなさんにはぜひ「先輩ってどんな仕事してるんだろうな」と気にして観ていただいて、「自分は大学でこんなことしたいな」と考えるきっかけにしてもらえたらうれしいです。この映画も舞台挨拶などイベントをやるかもしれないのでその時、観にきてもらえれば、ぼくたちに質問できることもあるかもしれません。気軽に学生時代のことなど聞いていただければと思いますので、ぜひ観にきてください。
ロングインタビューで『国岡』シリーズや『フレイムユニオン』の魅力や松本さんの学生時代について、そして俳優として活動する中での苦悩や壁の乗り越え方などをお聞きしました。表現者になりたい高校生や芸術を学んでいる大学生のみなさんにとっても、気づきがあったのではないでしょうか。
映画『フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡[私闘編]』は2025年10月10日(金)公開です。京都では、10月17日(金)より出町座で公開。ぜひ、劇場に足を運んでみてください!
『フレイムユニオン最強殺し屋伝説国岡[私闘編]』公開情報

映画『フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡[私闘編]』2025年10月10日(金)公開
出演:松本卓也 伊能昌幸 上のしおり 大坂健太 Rio 沖田遊戯 /藤澤アニキ
脚本・監督:阪元裕吾
アクション監督:垣内博貴
プロデューサー:所隼汰 阪元裕吾
共同プロデューサー:山内拓哉 山口幸彦
2025/日本/ビスタ(一部シネマスコープ)/5.1ch/103分
©「フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡[私闘編]」製作委員会
配給:キングレコード
公式Xアカウント:@kunioka_movie
https://flame-union.com
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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。