学びながら生きるすべての人々へ — 2024年度 京都芸術大学 通信教育課程 卒業・修了制作展
- 上村 裕香

本学の通信教育課程に通う、18歳で入学した若者から社会人まで、あらゆる立場・職業の学生たちの学びの集大成を展示する「2024年度 京都芸術大学 通信教育課程 卒業・修了制作展」が2025年3月9日(日)から16日(日)まで、本学の瓜生山キャンパスにて開催されました。
学内での展示期間は終了してしまいましたが、展示作品は「Web卒業・修了制作展サイト」でアーカイブがご覧いただけます。
(リンクはこちら→)https://www.kyoto-art.ac.jp/t/graduationworks/
本学の通信教育課程は、芸術教養学科、芸術学科、美術科、デザイン科の4学科18コースで国内外から集まった1万7千人以上の学生が学ぶ、日本で初めての4年制の通信制芸術大学です。
今回は、この春、通信教育課程を卒業し、学びの集大成を展示されるとともに、新たな学びに向かっていく染織コース、グラフィックデザインコース、イラストレーションコース、建築デザインコースの4名の卒業生にお話をうかがいました。
何歳になっても学べる幸せを噛みしめて

染織コースの学科賞受賞作品「心に染むサンゴ草 —オホーツクの風土—」は、水谷和子さんの作品です。友禅染めの技法を使い、着物と名古屋帯をデザインしました。水谷さんは61歳で本学に入学し、在学中から積極的に作品制作に取り組んできました。
——点描で表現されたサンゴ草が印象的ですね。このモチーフを選んだ理由は?
この作品はわたしの故郷であるオホーツクの風景と風土を表したものです。2011年、生育が危惧されたノトロ湖のサンゴ草の種子を、市民有志とともに集め、保全したときの思いを点描で表現しました。また、隣接するオホーツク海の灯台の光や鯨ひげもデザインに盛り込んでいます。現在、秋になるとサンゴ草が赤く色づいているのはみんなの力があったからだよ、という思いでこのモチーフを選びました。


——京都発祥の友禅染めの技法が使われています。制作過程について教えてください。
この着物は背縫いを境にして、それぞれ違った文様や染織でデザインする「片身替わり」で仕立てているので、はじめは4年前期・後期で着物を半分ずつ仕上げようと思っていたんですが、先生から「前期に帯を、後期に着物を作ったほうがいい」とアドバイスいただき、前期・後期で帯と着物をそれぞれ制作しました。実際に制作する時間よりも、テーマを決め、デザインをどうするかということに悩んでいる時間のほうが長かったですね。わたしは北海道に住んでいるので、スクーリングのときは制作途中の着物を大学に持ってきて、制作していました。
友禅染めの技法を選んだのは、「授業で道具を揃えたし、せっかくだからやろう」と思ったのと、わたしが教えていただいていた先生が加賀友禅を習ったことのある方だったからです。本学での学びを土台にしながら、現場でしか得られない知識や感覚に触れることができたのは、大きな財産になっています。
——水谷さんは61歳でご入学されたそうですが、入学しようと思われたきっかけは?
以前から地元で民族刺繍を習っていて色に興味があったことと、わたしが病気になって回復したころに、主人が「染織みたいな楽しい、興味のあることを学んでみたら」と背中を押してくれたのがきっかけです。
入学してからは、毎回違う染織の技法を学べて新鮮でした。型染めや蝋染め、フェルトメイキング、スクリーンプリントなど、色々な染織の技法を一通り学んで、卒業制作にあたってその中から自分がどの技法で制作したいかを決めるんです。
——印象に残っている授業や、授業での課題を自分で進めるコツはありますか?
最初に受けたデッサンの授業が印象に残っています。それまでデッサンを習ったことがなかったので、見よう見まねで作品を提出したら「点数はつけられません」という講評が返ってきて、少し笑ってしまいました。でも、再提出で2回目の作品を出したとき、先生が「指導によって絵がこんなに変わるものなんだと思って、指導の重要性を感じた」と言ってくださったんです。「同じ人が書いたとは思えない」と。通信の場合は教室で書くわけではないので、時間をかけてじっくりと課題に取り組めるのも、いいところのひとつだと思います。
——通信制大学で芸術を学んで、人生に変化はありましたか?
そうですね。わたしに大学という居場所があることで、家族との距離感がいい意味で変わったと思います。在学中、家族や子供たちが色々と悩んでいる時期があって、普段だったら寄り添っていたんでしょうけど、気持ちとしては「お母さん、それどころじゃない!」と思っていて(笑) もちろん、悩みを聞いたりはしていましたが、わたしにやりたいことがあることで、親子一緒になって暗くならずに済んだのかなと思っています。子供に干渉しすぎない距離感を保ててよかったなとつくづく感じます。
それに、入学して、自分の子供と同じくらいの年齢の学生さんや、働きながら大学に通う学生さん、人生の先輩にあたる学生さんがひとつの教室の中で学んで、話したり、刺激しあったりしたことは、すごく新鮮で、考えさせられました。やっぱり一番は、「学べる幸せ」を感じましたね。
——卒業後について一言、そして、これから入学する芸大生にメッセージをお願いします。
実は卒業制作は、はじめは北海道らしくハマナスの根で植物染めをしようと思っていたんです。調べてみると、秋田八丈という草木染めの絹織物は、ハマナスを使って糸を染めているようだとわかって、でも、それは3年間乾燥させなきゃいけないみたいなんですね。わたしが根を掘ったのが3年生のときだったので、卒業制作には間に合わないなと思って、今回の友禅染めに変更しました。なので、卒業後、ハマナスの根から抽出して染織してみたいなと思っています。今回、卒業制作で点描の技法を試してみたらそれがとても楽しかったので、また点描の作品も作りたいと思っています。
この卒業制作の作品は禅語と合わせて作った作品なので、これから入学される方には「而今(じこん)」という言葉を贈りたいと思います。今を生きる、という意味の言葉で、「学びのときは今だ」って思いを込めて。思い切って、中に入ってみてください。
学友や教員からのフィードバックで得た「デザイン=新たな自分の発見」という気づき
次にお話を伺ったのは、グラフィックデザインコースの三森大悟さん。愛知県のメーカーで人事を担当しながら、キャリアの幅を広げるために本学でグラフィックデザインを学んできました。卒業制作では、人事という仕事から着想を得たビジュアルブックを制作。その過程で、デザインが単なる視覚表現にとどまらず、「新たな自分を発見するきっかけ」であることに気づいたと語ります。

——働きながら通信制大学で学ぼうと思ったきっかけは?
仕事で資料やウェブサイト・動画を制作することが多く、デザインは身近な存在でした。しかし、大学ではデザインとは関係のない学部でしたし、本を買ったり単発のデザインスクールに通ったりといった独学では限界を感じていたため、体系的に学びたいと考え入学を決めました。
また、キャリアの観点も大きかったですね。現在38歳で、新卒で入社して約15年。「自分の軸」を持ちたいと考えていました。「人事×〇〇」という形で、これまでの経験に何かを掛け合わせることで強みを見つけられるのではと考えたとき、私は「デザインを通じて誰かの役に立つこと」に楽しさを感じていると気づいたんです。そこで、「人事×デザイン」に可能性を見出し、働きながら学べる通信制大学に入学しました。

——卒業制作のビジュアルブックのコンセプトや制作過程について教えてください。
「人事×デザイン」をテーマに考え、当初は「仕事で使えるデザイン学習キット」を企画しましたが、本当に自分が取り組むべき卒業制作なのか、疑問を感じるようになってきまして……。そこでユーザーインタビューを実施したところ、みなさん一様に「どんな仕事をしているか」ではなく、「自分は仕事をこう捉えている」と語ってくれて、インタビュー自体が非常に面白かったんです。その発見をもとに、仕事を前向きに「ワタクシゴト(私事)」として捉える「仕事の捉え方のデザイン」を、本の形で表現しようと考えました。デザインを「モノをつくること」だけではなく、「考え方そのものをデザインすること」だと解釈したんです。


——人事として働きながらデザインを学ぶ中での気づきが、制作のきっかけだったんですね。
作品テーマにある「コミュニケーションエラー」という言葉が印象的です。
そうですね。ビジネスパーソンが仕事に対する意味ややりがいを見出せず、モチベーションが下がってしまう状況を「(自分と仕事の間の)コミュニケーションエラー」と表現し、それらをなくすことが大きな狙いでした。デザインの力を活用し、人が自分らしく前向きに働くことを後押しする。それが卒業制作のテーマであり、今後私がやりたいことの指針にもなりました。
——仕事と学びを両立する大変さや、学ぶ時間の捻出方法は?
私の場合は、朝早く起きたり、隙間時間を活用したりしていました。特に通勤時間を有効活用していましたね。デザインソフトを触る時間よりも、作品コンセプトを考える時間を重視していたので、車窓を眺めながらあれこれ考えを巡らせていました。メモ帳とボールペンを常に持ち歩く習慣もできましたね。
仕事と学びの両立は大変ですが、「次の日の仕事にすぐ活かせる」という強みがあります。通信教育課程を選んだのは「効率的に学べる」ことが大きかったのですが、授業で得た発見を「これ、明日試してみよう」と即座に応用できる点は、大きなメリットだと感じています。
——通信制大学の授業の強みは「いつでも、どこでも学習できる」こと。印象に残っている授業や、授業での課題を自分で進めるコツなどはありますか?
働きながら自宅でWEB学習できる点はもちろん魅力ですが、スクーリングも非常に刺激的で、私は2か月に1回ほど東京の外苑キャンパスに通っていました。
スクーリングでは、課題作品だけではなく、私のデザインの強みや「らしさ」について、先生にフィードバックをもらうようにしていたんです。印象に残っているのは、ウェブデザインのスクーリングで「作品の格好良さを追求するのではなく、初めて見た人がサイトの目的を直感的に理解できる『安心感』をデザインしている。それが三森さんの強みですよ。」と先生からフィードバックをいただいたことです。自分でも新たな発見がありました。

——本学のグラフィックデザインコースで学んでよかったこと、達成できたことは?
通信教育課程には、年齢や業種を問わず本当にさまざまなバックグラウンドの方が学んでおり、仲間との交流が非常に刺激になりました。いま取材をしている最中にも、学友の皆が冗談まじりに茶々を入れてきますが(笑)、デザインを学ぶ上で、学友の率直な意見を得られることは大きな力になります。実際、デザインを発信する際も、第一印象はとても大切ですから。
——卒業後について一言、そして、これから入学する芸大生にメッセージをお願いします。
まずは、学んだことを今の仕事に活かしたいです。最近、「企業カルチャーをデザインする」プロジェクトに携わることになりました。目に見えにくいものを捉えて仕組みや制度に落としこむことは、デザインそのものです。卒業制作とも近い領域ですね。
これから入学される方々に伝えたいのは、「アウトプットを心がける」ということです。私もそうだったように、知識を得たいと入学される方も多いと思いますが、インプットだけでは苦しくなってしまいます。授業の感想でもなんでも良いので、とにかくアウトプットすることで、学友や先生から反応が返ってくる。それが学びの糧になり、自分でも気づかなかった強みの発見にもなります。これは、単位を取って卒業すること以上に、かけがえのない学びであると思います。
通信制大学という進路選択の形
こちらの青色の使い方が目を惹くビジュアルノベルゲームでコース奨励賞を受賞したのは、イラストレーションコースの大坂芙美さん。高校卒業後、1年間漫画家を目指して勉強し、通信教育で本格的にイラストの勉強を学びたいと入学しました。

——大坂さんは現在23歳で、通学部に通う多くの学生たちと同年代です。進路として通信制大学を選ばれた理由を教えてください。
ひとつは、漫画を描きながらイラストの勉強ができることです。特に京都芸術大学の通信教育課程を選んだのは、イラストレーターの米山舞さんの講義があるからです。デッサン力や構図の理解力という基礎を固めつつ、米山さんにしかできない表現で幅広く活躍されており、わたし自身もオリジナリティがあって一目で心を動かせるような絵が描きたいと思っているので、最も尊敬しているイラストレーターのひとりです。
——通信制大学で学ぶことへの不安などはありませんでしたか?
わたしはあまり不安はありませんでした。入学以前から、オンラインでイラストの講義を単発で受けることはよくあったので、学習のイメージはしやすかったです。逆に、一般教養の講義についてはどういうものになるのかなと疑問がありました。実際に入学してみると、思った以上にレポートを書くのが難しいなと。でも、やはり専門科目の講義や課題については期待した通りのものでした。
——実際にイラストレーションコースで学ばれて、印象に残っている授業などはありますか?
特に印象に残っているのは、ロボットや機械を書く課題です。ロボットはこれまでずっと書きたいと思いながらも挑戦できていなかったジャンルだったので、専門の先生に描き方を学べるのはうれしかったです。趣味でイラストを書いていると、自分の好きなものや書きやすいものばかり描いてしまいがちですが、大学では課題に沿ってイラストを描くことで、自分にない引き出しを探っていくことができるので、描けるものの幅が広がりました。
米山さんの授業では「京都芸術大学通信教育課程イラストレーションコースのメインビジュアルを考える」という課題が出されました。大学のテーマが青色なので青色を取り入れてみたり、構図の取り組み方を考えてみたりと、刺激的な授業でした。

——卒業制作のビジュアルノベルゲーム「Steller Echos」のコンセプトや制作過程について教えてください。
卒業制作の「Stellar Echos」は、「深海×宇宙」をテーマに、キャラクターと対話を深め、救い出すビジュアルノベルゲームです。主人公は2人乗りの宇宙船である小惑星に不時着します。その惑星では毎月ひとり、太陽にだれかを生贄に捧げなければいけないという設定で、主人公はキャラクターと対話を深めてだれを太陽に捧げるのか、宇宙船で救い出すのかを選択していきます。
キャラクターデザインにおいては、宇宙と深海という2つのテーマを組み合わせることで、クラゲやクリオネなどキャラクターに海洋生物のシルエットを取り入れ、幻想的な雰囲気と近未来的な世界観をどちらも表現できるように工夫しました。

——卒業制作の作品についても、先生方や学生からフィードバックをもらいながら制作されましたか?
そうですね。卒業制作をはじめたときは、キャラクターたちがみんな白っぽい衣装を着ていて、宇宙っぽい空気が漂っている、という要素だけがありました。そこから、1人目の子がクラゲっぽい形をしているから他のキャラクターにも「深海」というテーマを設定したほうがいいんじゃないかと先生にアドバイスをいただき、この形になりました。フィードバックは全体的なコンセプトについてや、「どのようにこの作品を世間にアピールするか」ということについて、この作品にしかない強みを探すためのものが多かったです。趣味でイラストを描いているときとはまったく違う視点をいただけました。
——卒業後はどのような活動をしていきたいですか?
春からはイラストの制作会社に入社して、イラスト制作に取り組みます。働きながら、空いた時間に今回の卒業制作の中身をより深めて、いずれは世間に公開していければと。
——余談ですが、通信教育課程の学生さんは新卒の就職活動についてのサポートってあるんですか?
京都芸術大学のキャリアセンターは利用できますよ。個別相談だったり、卒業生のポートフォリオの閲覧だったり。わたしは基本的には民間の就職支援制度を利用していましたが、サイバーエージェントなどの大手企業に就職を希望する学生さんは、面接のときに聞かれる質問内容を聞けたりするので、大学のキャリアセンターを使えるのは便利だなと思いました。
——現在、通信制大学へ入学を考えている高校生やこれから入学する芸大生に一言、メッセージをお願いします。
わたしは富山県に住んでいることもあり、スクーリングには行かず、完全にオンラインで完結して卒業したのですが、やはり自宅でひとりで学習していると、つい誘惑に負けてしまうんですよね(笑) でも、ギリギリで課題を出すだけで終わらないように、シラバスに載っている参考文献を通読したり、自学したりということは心がけていました。通信教育の一番の強みは空いた時間にできることだと思うので、「自分のやりたいことがある人」にはすごく向いていると思います。高校生のみなさんもいま、無限に時間があると思うので、そこを活かして自分のやりたいこと、できることを見つけて、努力を重ねて「神」になってほしいなと思います!
学びを仕事に活かす、仕事を学びに活かす

続いてお話をうかがったのは、建築デザインコースの島田乃麻さん。設計事務所で働きながら、建築士の資格を取得したいと21歳で入学しました。卒業制作では、日本のものづくりをこれからの時代に継承していくための工房を中心とした施設の建築計画を制作しました。
——建築士の資格取得のためにご入学されたそうですが、もともと建築を学ばれていたんですか?
もともとは地元の大学で経営学を学んでいたんですが、大学2年生になって進路を考えたとき、「本当に自分のやりたいことってなんなんだろう」と考え直して、ものづくりが好きだな、建築を学んでみたいなという気持ちになって、通信で学ぶことにしました。
ちょうど、地元の大学を退学するタイミングで現在勤めている設計事務所の社長に声をかけていただいたんです。素人の状態から、仕事でも通信でも同時進行で建築を学びはじめました。普通の大学生だとできない学び方で、すごく良い経験になりました。
——印象に残っている授業や、授業での課題を自分で進めるコツなどはありますか?
1年生のときの「7層のスキップフロアのあるワンルームの住宅を設計しなさい」という課題が印象的でしたね。高さ10メートルという制限があって。紙に書いて平面的に考えるのは簡単ですが、空間の中で立体的に、模型の制作を通して考えるのが面白かったです。
あとは、これも1年生のときなんですが、「写真の配置や情報の見せ方を雑誌の誌面作りを通して学ぶ」という課題はよく覚えています。ただ図面を書いて、建築をデザインするだけじゃなく、他者に向けてプレゼンテーションして伝えるということの難しさを学びました。授業ではそういった建築とは一見関係なさそうなところから学びはじめ、実際に図面を書いてみて、空間を作ってみて、その規模がだんだん大きくなり、施設や公共空間のデザインに進んでいきます。その集大成が、今回の卒業制作です。
——卒業制作「Street Factory」のコンセプトや制作過程について教えてください。
ぼくは、ものづくりの分野で現在懸念されている「人手不足」に焦点を当てて、ものづくりの魅力を発信できる場を設計しました。地元の地場産業で、甲州印伝という鹿の皮に漆を塗った製品があるんですが、そういった伝統的なものづくりを発信しつつ、実際に木工などができる工房を町に開放した施設として提案しています。
こだわったのは、1.5階のスキップフロアを作ったこと。1階のレストランと1.5階の工房の2つの距離を近くすることで食事をしながら工房での作業の様子が見えるんです。制作するときには、先生から「ボリュームが揃いすぎている」と指摘をもらって、遊び心を加えました。ボリュームっていうのは、今回の場合建築を構成するなかで、プロダクトショップとかレストランとか、それぞれのプログラムを当てはめていく建築の大きさを検討していった箱のことです。やっぱり、それぞれのボリュームをずらして配置したほうが、実際に歩いてみたときにまっすぐに配置しているよりも新しい景色が見えたり、アクティビティが生まれたりするんです。設計するときは、この施設によってどういう体験が生まれるかということを、すごく考えて作りました。


——島田さんは卒業制作の舞台でもある山梨県で働きながら、本学で学んでこられました。仕事と学びを両立する大変さや、学ぶ時間の捻出方法は?
ぼくは、職場の方々が理解してくださっていたことも大きかったんですが、土日などの休みでできるだけ建築を学ぶことにコミットしたり、コンセプトを隙間時間に考えたりして課題をこなしていました。図面作成や模型作りはとことん作業がイメージしやすいと思うんですが、実はその作業にたどり着くまでに頭の中で考えることがいっぱいあるので。少し時間があったら白い紙にアイデアを書いてみて、休日に隙間時間で考えたものをぎゅっと形にしていくことを心がけていました。
——本学の建築デザインコースで学んだことで、キャリアに変化はありましたか?
ぼくは設計事務所で働きはじめたタイミングと通信で学びはじめたタイミングが同時だったので、本当になにもわからない状態からはじまって、どっちの学びも活きているという実感が強くありました。仕事も大学に活きているし、大学も仕事で活きているし。仕事で書類とか図面とかを作ってって言われたときにどうしたらはやく書けるかとか、文字や写真をどう配置したらいいかとか、私生活の場面でも、建築を通して物事を考える視点を得たことが力になっていると感じます。
あとは、通信には様々なバックグラウンドを持って、色々な業界で働いている学生さんが集まっているので、自分のまったく知らない世界を知ったり、やる気に満ち溢れている他の学生さんに刺激されたりということもありました。プラスな気持ちが働いて、前向きに学習ができて、建築デザインコースに入ってよかったなと思います。
——卒業後について一言、そして、これから入学する芸大生にメッセージをお願いします。
卒業後は実務経験を積みながら建築士の資格取得を目標にして、仕事では規模の大小にかかわらず、クライアントにとって特別な空間を提供できるようにがんばりたいです。
これから入学される方には、建築を好きになったきっかけを忘れないでほしいです。みなさん、好きな建築や建築によって得た体験があって、建築を学んでみようという気持ちになったと思います。通信でひとりで学んでいると孤独を感じたり、つまづいたりすることもありますが、そういったときに、自分が建築を好きになったきっかけや、興味をもった気持ちに立ち戻って乗り越えていってほしいなと思っています。
働きながらキャリアアップを目指す方や、生涯学習として芸術を学び始める方、そして近年増えている高校からの進学先として芸術大学を選び入学される方など、様々な方が通う通信教育課程。今回は、4名のさまざまな立場・職業の卒業生にお話をうかがいました。インタビューを終えて作品を観てまわると、作品ひとつひとつに卒業生のみなさんが大学で過ごされた時間が宿っているように感じられます。
多様なバックグラウンドの中で学生たちが制作に向き合った成果が一堂に介した「通信教育課程 卒業・修了制作展」。ぜひ、学生たちの学びの時間を想像しながら、ひとつひとつの作品をウェブで鑑賞してみてください。
(文=上村裕香、※作品写真=高橋保世、その他写真=広報課)
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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。