REPORT2025.03.28

京都染織

未来への通過点 2024年度 京都芸術大学 通信教育課程 卒業・修了制作展

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  • 京都芸術大学 広報課
  • 高橋 保世

京都・瓜生山キャンパスにて「2024年度 京都芸術大学 通信教育課程 卒業・修了制作展」が2025年の3月9日(日)から16日(日)まで開催されました。

本学の通信教育課程は18歳の若者から仕事と両立する社会人など、あらゆる年代の方が集まり1万6千人以上の学生が学ぶ、日本初の4年制通信芸術大学です。

そんな通信教育課程の学生にとって最終課題である卒業・修了制作。芸術学科、美術科、デザイン科、芸術教養学科の4学科18コース、そして通信制大学院の6領域11分野で学ぶ学生たちが学びの集大成となる作品を制作しました。

今回は会場に展示された作品と共に、通信教育課程ならではの取り組みや学生たちの制作の裏側について紹介したいと思います。

日本全国から学び舎に集う作品

全国各地で学ぶ学生たちが、オンラインや対面授業を活用しながら独自の視点で表現を磨き、作品を生み出していく通信教育課程だからこそ生まれた多様な作品が、卒業・修了制作展に並びました。

展示会場(人間館1階)に入ると、はじめに染織コースの作品が一面に展示されています。色鮮やかに「染」められ、丁寧に「織」られた作品群は、来場者の視線をくぎ付けにします。

 

染織と聞くといわゆる着物のような衣服を想像される方もいると思いますが、染めた布を使って制作されたバッグやポーチ、ワンピース、ドレスなども展示されています。他にも絵画のような作品がある一方で糸染めの作品など同じ染織コース内でもさまざまな技法を使った作品があります。

表現方法や技法は作者の個性でもあり楽しみ方のひとつです。しかしその一方で、鑑賞する分野への知識があまりなく、作品を理解することが難しい場合もあるかと思います。

そのような方の鑑賞の手助けになるのが、各ブースに置かれたポートフォリオです。
そこには、作品のテーマや制作のきっかけ、作家自身の言葉などが綴られており、作品の背景や思いに触れることで、より深い鑑賞体験が得られるようになっています。

作品のポートフォリオ

 

奥に進んでいくと、イラストレーションコースの作品が展示されています。キャンパスでの展示数は10点ほどですが、WEB卒業・修了制作展では100点以上の作品を鑑賞することができました。

 

瓜生山キャンパスに来場しなくても作品を閲覧できるようになっているのは、通信教育課程ならではの取り組み。
キャンパスに展示されてない作品や、見逃した作品は3月31日(月)までこちらでご覧いただけます。(https://www.kyoto-art.ac.jp/t/graduationworks/

また、WEB展では作品を見られるだけではなく、作品に込めた想いや、説明なども詳しく書かれているので、現地の展示と併せて見ていただくとより展覧会を楽しめる仕掛けとなっています。

イラストレーションコース学科長賞の作品

卒業制作への取り組み

人間館1階ギャルリ・オーブとNA102教室では9つのコース(日本画、洋画、陶芸、染織、芸術学、歴史遺産、文芸、和の伝統文化、アートライティング)と大学院の3つの領域(美術・工芸、芸術学・文化遺産、文芸)の作品が展示されています。

 

洋画コースの卒業制作は6回のスクーリング授業で、100号キャンバスサイズの作品を2枚制作します。スクーリングは1年をかけて実施され、1枚目の進捗が見え始めると2枚目も描いていくそうです。この期間は一番絵が変化する時期のようで、学びや視点もどんどん深くなっていきます。

また、ギャルリ・オーブの上には芸術館(京都芸術大学が展示・保存・教育普及を行う博物館)と呼ばれる展示場がある他、望天館(人間館出入口の奥)で2コース(写真、書画)2領域(写真・映像、コミュニケーションデザイン)が展示されています。

芸術館での展示

 

望天館での展示

通信で学ぶことの魅力

人間館の2階では空間演出デザインコース、グラフィックデザインコース、情報デザインコースの計3コースが展示されていました。実際に使ってみたい!と思う作品がたくさんあり、作品のバリエーションも豊富でとてもわくわくしました。

 

その中でも興味深かった作品を2つ紹介します。

ひとつ目は、グラフィックデザインコースの鎌倉のオーバーツーリズム問題を新しい観光スタイルの構築で解決をはかる『鎌倉クエストー地域住民が作る新しい鎌倉観光』の展示です。(https://www.kyoto-art.ac.jp/t/graduationworks/detail/11190/
神奈川県の観光スポット鎌倉を9つのテーマに分別し、それぞれのスポットで体験してほしいアクティビティや楽しみ方をまとめていました。観光スポットの混雑問題に着目し、外国人観光客の訪問先の分散と鎌倉の深い魅力をより堪能できるようにと作られ、観光客と地域住民の双方が満足できる持続可能な観光を目指したようです。

また、この9つにわけられた観光スポットはマップが制作されていて、巻物にして持ち帰れるという遊び心も持ち合わせており、鎌倉観光の魅力を楽しめる仕掛けになっていました。

 

ふたつ目が、尼崎優子さん(空間演出デザインコース)が制作された『BOSAI FACTORY』です。この作品は「地震災害を生き抜くための知識をカルタを通して得ること」を目的に制作されたものです。(https://www.kyoto-art.ac.jp/t/graduationworks/detail/11096/

「日本は地震の多い国ですが、実際地震に直面すると取るべき行動がわからないという人が多いという課題があります。そうした課題を解決するためカルタを通して防災の知識を学べる作品として制作されました。カルタを選んだのは大人から子どもまで知っていて一緒に遊べるからだと尼崎さんは語ります。カルタの内容は、44枚の読み札それぞれに地震災害時の知識が記述されていて、取り札(絵札)には群馬県をモデルにしたユーモアのあるイラストが描かれています。

(※)お話しを伺った尼崎さん

 

取り札(絵札)に群馬県のイラストが使用されているのは、尼崎さん自身が住んでいる群馬県と地震の経験を組み合わせることを目標にこの作品を制作したからです。可愛いイラストやカルタに記された知識も非常にクオリティが高く、さらには子どもだけでなく大人にも楽しんでもらえる工夫や、実際に災害に直面した際の対応を体験するコーナーを展示されていて、作品に込めた想いの強さがうかがえます。
詳しくお話を聞くと、商品化を目指していまもブラッシュアップしているらしく、そのためにも群馬だけでなく、他の海に面している都道府県にも適した作品になるように発展させていくようです。

(※)

 

また、制作では、同じコースで学ぶ仲間が協力してくれたと話してくださいました。尼崎さんは群馬県でデザイン系の仕事をしながら通信の学習を進められていますが、作品を完成させるためには、実際にカルタを体験してもらう必要がありました。家族や親戚には体験してもらっていましたが、それだけでは足りないと感じていたときに、同じコースで学ぶ仲間たちから積極的に声をかけてくれたようです。
驚いたのは、群馬県から離れた山口県の学生が協力してくれたこと。通信の授業では、他の学生と関わることが少ないイメージがあるかもしれませんが、授業ではしっかりと交流をもつことができるし、SNSで繋がることで課題についての相談なども活発に行われているのだと尼崎さんは語ってくれました。
この背景には、通信教育課程独自のコミュニティシステム「air U」の存在があります。通信制といっても全ての授業がオンライン上で行われるわけではなく、キャンパスで受ける授業や現地に赴くフィールドワークもあるため、住居が離れていても、全国各地で学ぶ仲間との交流をもつことができるのです。こういった遠距離における交流は通信制の魅力かもしれません。

学ぶ意欲と周りの人達

人間館3階では建築デザイン、ランドスケープデザインコースの2コースによる展示が行われています。模型で統一された展示空間は環境デザイン分野の特徴であり非常に見ごたえがあります。何よりも様々な都市を対象に制作された模型は、将来的に建設される未来が想像でき、素晴らしいクオリティでした。

 

NA307教室では建築デザインコースの卒業生のインタビュー映像が公開されており、映像内で、「通信で学ばれる方はみんなやる気がある」と言及されるところがありました。
通信教育課程ではさまざまなバックグラウンドを持った方が学ばれていますが、半数以上が社会人の方です。仕事をこなしながら学びを継続することは本当に難しいこと。そんな状況でも学ぶ意欲をもつ方たちだからこそ、高い学習意欲をもって取り組む方が多く、いい刺激を与えあえる環境が自然とできているのでしょう。
また本学の通信教育課程では、普段は接点のないような方とも関わる機会があるので嬉しいと言っているのが印象的でした。

展示には模型だけでなく、都市や土地の状況からどんな未来を作るのか想定したパネルもありました。それらは、都市や土地の特性だけでなく、周囲で働く人や住む人々に配慮した細かい観点から制作されていて、そのこだわりには社会人としての経験が活かされていると感じました。

 

人間館4階では学際デザイン研究領域の研究パネルが展示されています。
デザイン思考による創造と、伝統文化の探究を両軸にする学際デザイン研究領域では全ての作品が個人ではなく、チームで制作されています。

野村ゼミの「地域の風土記」、早川ゼミの5つの観点から社会を研究した作品は、着目する視点が面白く一つのパネルで完結しているため集中して閲覧することができました。

興味深かった研究として、野村ゼミの『新橋 間(あわい)  風土記~重なりあい、浸透し合う、複雑で雑多な新橋~』や早川ゼミの『職場の飲み会におけるコミュニタス化による新たな価値創出の研究』があります。

前者は、新橋の時代ごとに台頭したヒト(江戸:武士や職人、明治:官僚、軍人など)やランドマーク施設の成り立ちを追うことで新橋という町の歴史を多角的に調査しています。

後者は、職場における飲み会の価値の変化が指摘される背景を再考すると共に、飲み会の役割や求められる時間などを考察していました。
前者はクオリティが素晴らしく、後者は着眼点と題材の扱い方が面白いため見ていただきたいです。

 

多くの方が社会人学生である通信教育課程。そのため、作品の魅力も通学課程とは異なるものも多くみられました。人生経験が豊富だからこその作品、社会を知ったからこそ出力された作品。ひとつひとつが想いや努力、時間が重なった成果物です。来場された方は現物の作品だけでなく、会場である人間館と合わさった魅力を堪能してほしいです。本学の通信教育課程に興味をもった方にもぜひ見ていただきたい展示になっています。

そんな「2024年度 京都芸術大学 通信教育課程 卒業・修了制作展」ですが、3月16日(日)までに来場されるのが難しい方もいらっしゃったと思います。そんな方にはWEB卒業・修了制作展で作品をご覧いただけます。また、過去の作品も閲覧できますのでご活用ください。
WEB展示はこちらからご覧ください(3/31まで)→https://www.kyoto-art.ac.jp/t/graduationworks/

 

(文=轟木天大  作品写真=高橋保世  (※)その他写真=広報課)

 

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  • 京都芸術大学 広報課Office of Public Relations, Kyoto University of the Arts

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    連絡先: 075-791-9112
    E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

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