放置竹林を食とデザインで解決する — ラーメン店「キラメキノトリ」と学生自主企画団体「くあたけPROJECT」のコラボが実現!
- 上村 裕香
関西にお住まいの方ならご存知のラーメン店「キラメキノトリ」。2013年4月に河原町丸太町で1号店をオープンして以来、京都・大阪・滋賀・奈良に23店舗を展開しています。北海道産小麦100%の自家製麺で作る「鶏白湯らーめん」と「台湾まぜそば」が人気のラーメン店です。
「キラメキノトリ」の運営を行うキラメキノ未来株式会社は、京都府内の竹林で採取した竹を活用して国産メンマを製造し、店舗で提供する「京都産メンマプロジェクト」を2024年春から実施しています。2年目となる今年は、京都府立八幡支援学校高等部の生徒たちや、放置竹林の課題を芸術の力で改善する本学の学生自主企画団体「くあたけPROJECT」とのコラボが実現! 本学の学生たちが考案したメニューが店舗で提供されたり、メンマをモチーフにしたマスコットキャラクターのステッカーを配布したりと、放置竹林問題について知ってもらうための試みが行われました。
本記事では、キラメキノ未来株式会社の代表取締役社長である久保田雅彦さん、京都芸術大学の自主企画団体「くあたけPROJECT」のメンバーである井上くるみさん(イラストレーションコース|3年生)、中川楽さん(イラストレーションコース|3年生)、酒井心那さん(イラストレーションコース|3年生)にお話を伺いました。
竹の新たな活用法で雇用を生み出す

京都産メンマプロジェクトが始まったきっかけは、2023年8月に知人を通じて、京都府向日市や長岡京市の放置竹林問題に取り組んでいる市民団体の方から、竹の再利用について相談されたことだと久保田さんは振り返ります。
それまで、竹の再利用方法は、竹炭や竹パウダーを作るといった需要の少ないもので、ボランティアの方が活動を続けるための資金を竹の再利用によって得ることが難しい状況でした。

久保田さん:竹がお金に変わらないと、ボランティアを継続することが難しくなり、どんどん放置竹林が増えていってしまう。全国的にも問題視されていることですが、京都府も同じ問題を抱えていました。そこで、ボランティアの方が幼竹(タケノコとして食用に出荷される時期を過ぎ、2メートルほどの高さに成長した竹)で作ったメンマを「ラーメン店で提供できないか」と相談を持ちかけてくれて、実際に幼竹でつくったメンマを食べてみると美味しかったんです。製造には非常に手間がかかるんですが、「キラメキノトリ」も京都生まれのブランドなので、京都府のボランティアの方々と放置竹林問題に取り組む中で、なにか面白いことが起きるんじゃないかと思い「京都産メンマプロジェクト」を始めました。
国内のラーメン店などで主流となっている外国産メンマは、中国から乾燥メンマを輸入し、日本の工場で味付けをしています。国産メンマへの切り替えと同時に、久保田さんは国産メンマ作りを決意。福岡県の糸島市で国産メンマを製造している方に話を聞き、幼竹からメンマを製造する方法を模索しました。
キラメキノ未来株式会社は、「ラーメンを通じた社会貢献」に注力し、子ども食堂や障がい者支援施設でラーメンを提供するなどの活動を行っています。今回の「京都産メンマプロジェクト」も、そうした活動の一環です。メンマの原材料である幼竹をボランティア団体から買い取ることで、ボランティアの方々が活動を継続することができます。
久保田さん:プロジェクトが始まるまでは「参加者がお金を出し合ってボランティアをしている」状態だったんです。例えば、八幡市では5〜6人のボランティアチームで竹林を管理しているのですが、自費で道具やゴミ袋、作業日のお弁当などを買って活動されています。しかし、メンマの原材料として幼竹を1本1,000円で買い取る仕組みを作れば、ボランティアではなく仕事として伐採ができるようになります。同じような取り組みをしている他の地域の団体より高い買取価格にしているのは、雇用を生み出し、経済を回して、持続可能な活動ができるようにと考えたからです。
企業コラボで活動を学外に広める
「くあたけPROJECT」は、2023年10月から活動している学生自主企画団体で、舞鶴市での放置竹林の伐採ボランティアや、小学校での竹材を使った作品制作ワークショップなどを行っています。団体を立ち上げた井上さんは「大学の芸術教養科目の授業が発足のきっかけでした」と語ります。

井上さん:関心を持った出来事やイベントについてプレゼンテーションをする授業を通じて、放置竹林問題に関心を持ち、同じ授業を受講していた学生と「授業外でもなにか活動できないか」と話し合って、くあたけPROJECTを設立しました。いまは5人のメンバーで活動しています。舞鶴市で行われた放置竹林から竹炭を作るワークショップに参加したり、学内の夏祭りイベントに空間演出として参加し、竹の灯籠を作って展示したりしてきました。自分たちの活動を学内だけで終わらせたくなかったので、「企業とコラボして、自分たちの活動や放置竹林問題を知ってもらう」ことが大きな目標でした。以前から、舞鶴市のボランティア団体の方から「福岡県(糸島市)で幼竹からメンマを作っている方がいる」という事例については伺っていて、幼竹を使ったメンマに興味を持って調べていくうちに、久保田さんがされている「京都産メンマプロジェクト」を知りました。
井上さんが久保田さんに電話をかけ、メンマプロジェクトを手伝わせてほしいとお願いすると、久保田さんは「いいよ」と快く引き受けてくださったそう。井上さんの行動力がこのコラボを産んだんですね! 久保田さんは「学生とコラボして一緒に考えることで、学生の経験値が上がれば」と考えたのだと話します。
学生たちがまず参加したのが、竹林にて幼竹を採取するボランティアです。京都府立八幡支援学校高等部の十数名の生徒と教員も参加し、採取後には同校の調理室でメンマを作る実習も行われました。竹が生えているのは崖のような急斜面で、幼竹といっても竹は1メートルを超える高さのもの。それでも支援学校の生徒たちは、ナイフで楽しそうに幼竹を切り、採取していたと井上さんは話してくれました。



井上さん:支援学校の生徒たちと関わる機会があまりないので、普段どういう風に過ごしているのか、あまり知らなかったんです。久保田さんやキラメキノトリのスタッフさん、ボランティアの方たちが、支援学校の生徒たちにフラットな姿勢で接していて、それがすごくいいなと思いました。環境問題という大きな課題に、所属している学校や団体、障がいの有無など関係なく力を合わせて立ち向かっていく感覚があって楽しかったです。
久保田さん:支援学校の生徒たちは、普段、周囲の人にサポートを受ける側で、人の役に立つという経験をしてこなかったことが多いんです。今回は、ボランティアチームのメンバーが切り倒した竹を、生徒たちに崖の上まで運び上げてもらいました。生徒たちに、人の役に立って感謝されるという経験をしてほしかったんです。
企業との協働でデザインする経験
中川さんが担当したのは、京都産メンマプロジェクトの広報ポスターの制作です。アプリのクーポンを提示すると、メンマ丼を無料で提供する「キラメキ秋祭り【第3弾】」企画についての広報ポスターを制作しました。中川さんは普段、情報デザイン学科イラストレーションコースで学んでいます。大学の課題でのポスター制作と、実際に企業と協働しながらデザインすることには大きな違いがあったと話します。

中川さん:実際に企業と協働することで、企業のブランド戦略などについて理解を深めながらデザインを考える、普段の授業とは違った経験ができました。授業では、どうしても「与えられた課題に対してデザインをどのように工夫するか」という受け身の姿勢になってしまう場合が多いので、実際に久保田さんとミーティングをしながらポスターのデザインを決めていくのは新鮮な経験でした。プラスの経験値をもらえた感覚です。
酒井さんは、店舗を訪れたお客さんにプロジェクトについて説明するポスターを制作し、店内に掲示しました。
酒井さん:わたしがくあたけPROJECTに参加したのは発足の半年後くらいです。チームで制作することが好きで、なにか新しい経験ができるかなと考えて参加しました。これまでメンバーとして活動してきて、プロジェクトの活動は知っているつもりだったけど、ポスターを作ることによって「くあたけってこんな活動もしてきたんだ」と改めて知ることができました。
店舗では、メンマ丼を提供したお客さんにオリジナルキャラクター「めんまくん」のステッカーをプレゼント! こちらのキャラクターも学生たちが考案し、久保田さんと話し合いながらブラッシュアップを重ねて、可愛らしいキャッチーなキャラクターに仕上げました。

久保田さん:ポスターやステッカーのデザインはもちろん、そもそも「メンマ丼を提供したい」というのも、学生たちの提案だったんです。くあたけPROJECTの学生たちから提案書をもらった中で、メンマ丼は社内でも評判が良く、実際にキャンペーン期間の10日間で1万食提供したので、お客さんからの反響も大きいものだったと思います。
井上さん:わたしたちも実際にメンマ丼を食べにお店に行って、お客さんが「メンマ丼ください」って言っている声が聞こえてうれしかったです。あと、SNSで店名を検索するとメンマ丼を食べたというお客さんの投稿がたくさんあったり、「めんまくん」のステッカーの写真を投稿してくださっているお客さんもいたりして、自分たちが作ったものが世に出ていることにとてもやりがいを感じました。


デザインを通して企業と関わる
くあたけPROJECTは、この「京都産メンマプロジェクト」とのコラボをもって活動を終了します。井上さんは「自分たちが学んでいることが、プロジェクトを通して社会貢献に繋がっていると実感できました。『やりたい』と思って行動すると、企業の方が『一緒にやろう』とその気持ちを受け止めて協働してくれる。それは学生だからこそできる経験だと思うので、なにか新しい活動をしたいと思っている方がいたら、行動してみてほしいなと思います」と活動を振り返り、学生たちにエールを送りました。
久保田さんは学生たちとの協働について「飲食業はデザインと関わる機会が多いので、今後もいろいろな人を巻き込んでプロジェクトを拡大していきたい」と話します。
久保田さん:キラメキノトリは店名がカタカナで、看板も青を基調としています。京都市内のラーメン店はほとんどが漢字の店名で、看板は暖色系です。そこで、あえて寒色を選ぶことで差別化を図っています。こうした場面でもデザインが店舗経営に深く関わっていますよね。デザインを学ぶことで、学生が企業と関わりを持てる機会はとても多いと思います。いいデザインが、いい会社を作ると思っていますし、今後も機会があれば協働していきたいです。

放置竹林問題という環境課題に、食とデザインという異なるアプローチで挑んだこのプロジェクト。企業の方々だけでなく、プロジェクトに参加する学生、支援学校の生徒たち、ボランティアの方々など、多様な人々が関わることで、放置竹林問題の解決に取り組むだけでなく、豊かな学びと成長の場が生まれました。くあたけPROJECTの活動は今回で終了してしまいますが、京都産メンマプロジェクトは来年以降も継続予定です。来年は、他のラーメン店や韓国料理店、焼肉店などとも連携し、もっと大きなプロジェクトになっていく予定です。ぜひ、プロジェクトの今後にご注目ください!
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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。