INTERVIEW2024.12.12

アート

「可能性」を宝石の輝きに託して──フコクアトリウム空間プロデュースプロジェクト「Dimension」

edited by
  • 京都芸術大学 広報課

大阪・梅田の地下街は「ダンジョン」と呼ばれています。

7つの駅に13の路線が乗り入れ、地上ではさまざまな商業施設へと繋がっている上に、おまけに通行者が歩くのも速く、うかうかと人の波に揉まれているうちに迷ってしまう……ゆえに「ダンジョン」と呼ばれているわけです。

そんな梅田地下街の中心に憩いの場所があるのをご存知ですか? ホワイティうめだのイーストモールのすぐ近くにある「フコク生命(いのち)の森」──大阪富国生命ビルの地下にあるアトリウム空間です。

京都芸術大学ではそんな「フコク生命(いのち)の森」にアート作品を展示する「フコクアトリウム空間プロデュースプロジェクト」を実施し、立体作品「Dimension」を展示しています(〜12月25日まで)。

学生たちは、作品にどのような想いを込めて今年度のプロジェクトを完成させたのでしょうか。

可能性の輝きを宝石に託すストリングアート

フコクアトリウム空間プロデュースプロジェクト(略称:フコクPJ)は、大阪富国生命ビルの地下2階から地上4階にわたる吹抜けアトリウム空間「フコク生命(いのち)の森」をアートでプロデュースする社会実装プロジェクトです。

「フコク生命(いのち)の森」は、梅田駅や大阪駅を利用する人にとっての待ち合わせスポット。ホワイティうめだや大阪駅地下街にも通じるこの場所はいつも人で賑わい、一日に1.7万人が通行するといいます。

芸大生ならではのアイデアや表現力を活かして作品を制作し、夏には平面(壁画)作品、冬には立体作品でアトリウム空間を演出します。

今年度の夏には「人生(ヒトイキ)トキメキ」という壁画作品を制作し、展示と風鈴づくりワークショップを実施しました。

前期プロジェクトの紹介記事はこちら▼
トキメキの「ひといき」を見つけて――フコクアトリウム空間プロデュースプロジェクト『人生トキメキ』

冬の立体作品は例年、梅田エリアをハートで彩るエリアイベント「UMEDA MEETS HEART」への参加作品をご依頼いただいています。

今年度の作品として制作した「Dimension」は、およそ3m四方ほどの大型の立体作品です。

富国生命保険相互会社は昨年100周年を迎えました。「101年目の門出となる今年度は、次なる100年の「可能性」を、磨き上げれば宝石となって輝く“原石”に見立て、美しく輝く宝石を制作しました」とリーダーの一木彩希さん(キャラクターデザインコース / 2年生)は語ります。

「Dimension」は2層構造になっています。外側の層はブリリアントカットのような形をした多面体。金属製の枠に透明なテグスが張り巡らされ、カットを施されたダイヤモンドのような硬質な輝きを表現しています。

テグスを透かして見える内側の層は、柔らかい色彩の正二十面体です。枠は木材で製作され、外側の多面体とコントラストを成しています。それぞれの面をかたちづくるレース糸は四色に塗り分けられ、台座に設置されたライトの光をまとい、空間全体にあたたかい質感を与えます。

「人と人のつながり」を表現するために選択したというストリングアートの技法により、宝石が放つ光のプリズムを表現し、また模様の中には「UMEDA MEETS HEARTS」のトレードマークであるハート型が織り込まれています。

そして、たくさんの面を組み合わせるということには、「支え合う」ことで「未来」が生まれるというメッセージを伝える意図があります。

富国生命保険相互会社様の輝かしい「未来」を予感させるこの立体作品を、参加した学生たちはどのように制作したのでしょうか。参加した学生たちにインタビューをしてみました。

左から 坪根 生京さん、中山 野愛さん、一木 彩希さん、下村 神楽さん、高木 英恵さん

自然にできていった役割分担

宝石の輝きを表現するために辿り着いたストリングアート。制作を進めるうちに、木枠に釘を打って糸を張り巡らせる既存の方法では施工ができないことが判明したそうです。

そんな中で、今回のために特別なくし状の部品を制作してくれたのが、下村神楽さん(プロダクトデザインコース/2年生)だったそうです。本学の学生に開かれているウルトラファクトリーや学科の機材を使って制作したその部品は、テグスの張力にも耐えることができる優れもの。

下村さんはCAD(3D設計ツール)を使って、各部品の設計を最後まで管理していたと言います。角度と長さが少しでもズレてしまうと組み上がらないのが、多面体制作の大変なところ。

今回制作した外側の宝石は、なんと50面体だったそうです。現地に赴いて完成する瞬間まで気を抜くことのできない、本当に大変な役割だったと思います。

そして、ストリングアートの制作のほとんどを担当したのが、坪根生京さん(クロステックデザインコース / 2年生)だったそうです。坪根さんは宝石の造形や糸の織り方を熱心に考えていった結果、最後にはストリングアートを他の人の半分の時間でこなしてしまうほど習熟してしまったのだとか。

「やってみたら楽しくて、この作業が好きなんだと思います」と語る坪根さん。それで出来てしまうのって、本当にすごいと思います。

10人という少人数で始まった後期のフコクPJ。制作を進めていく中で、それぞれが学科で得た専門知識を出し合ううち、役割分担が自然にできていったそうです。そんな素晴らしいチームワークでリアルワークPJが出来たこと、得難い経験ですね。

大変だけど、ここでしか得られない深い学びがある

もちろん、楽しいことや、上手くいったことばかりではありません。

フコクPJは本当のお客様とプレゼンを重ねながら進めていくリアルワークプロジェクトのひとつ。先生方はもとより、クライアントである富国生命保険相互会社様の期待に応えるだけのアイディアを出し、さらにはそれを実現しなければいけないのです。

冬の立体展示が動き始めるのは、夏の平面展示を制作している真っ最中。壁画と並行しながらアイディアをブラッシュアップし、そして富国生命保険相互会社様の前でプレゼンをしなければなりません。

夏季集中授業の時期にプレゼンを作成している間、森先生(立体制作担当)はマンデイPJ(ねぶた制作)で教鞭を執っており、PJのみなさんは先生に電話をしたり、時には休憩されているに駆け込んだり……みなさんが口々に、「本当に大変でした」と振り返ります。

写真左が制作担当の森 太三 先生

学内で3案に絞られたアイディアを富国生命保険相互会社様の前で発表し、選ばれた「宝石」のテーマをまた2班に分かれて検討。そうして採用されたのが「Dimension」でした。そこから急ピッチで設計やデザインの詳細を詰め、なんとか完成に漕ぎつけたのです。

大変だったのは、プレゼンや制作に奔走していたリーダーやメンバーばかりではありません。MS(マネジメント・スチューデント)として参加していた高木英恵さん(ビジュアルコミュニケーションデザインコース / 2年生)は、予算や進行の管理を担当していました。

当初の予定とは異なる進行になってしまったときに、メンバーから相談を受けて担当教諭とやり取りをする、橋渡しとしての役目。予算とモノ関係のマネジメントのすべてを管理する彼女は、プロジェクトの後方ですべてを見渡し、調整のために奔走しました。

「昨年度はメンバーとして参加していたからフコクPJが大変なことは分かっていました。1ミリでもズレたら失敗してしまうというシビアな作品の制作を、みんなで戦い抜くことができて本当によかったです」

このプロジェクトの“母”になった、と笑いながら語る高木さん。「全ては準備。準備をしっかりして、管理できれば大丈夫ですよ」

フコクPJと、みなさんのこれから

最後に、インタビューに参加いただいたみなさんにフコクPJへの想いを語っていただきました。

中山野愛さん(空間デザインコース / 2年生)は、「来年はMSとして参加したい」と意気込みを語ってくれました。

「フコクPJは一年で平面作品と立体作品の両方を制作することができるから、それぞれで全く違う学びを得ることができた。それがすごくよかったです」

3年生になるとインターンシップが始まるからどうしようかな……とはにかむ坪根さんは、未来のフコクPJメンバーに「メンバー同士で妥協をしないで」とエールを贈ります。

「腑に落ちないままで進めようとしないで。妥協をすると、ダサいものができてしまう。、きちんと議論をしたほうがよい結果になると思います」

リーダーであり、「Dimension」のアイディアを発案者でもあったという一木さんにとって、フコクPJの魅力は「自分の学科の専門授業だけでは得ることのできない学び」を得られることだそうです。

一木さんの所属するキャラクターデザイン学科は、学科の授業では、主に平面を制作しています。立体作品を制作できることを魅力に感じて参加したフコクPJでは、それまで経験のないことにも挑戦し、経験で自分の幅が広がるのを実感できたそうです。

「フコクPJのようなリアルワークプロジェクトは、妥協ができません。本気の作品づくりを経験することができたことは、今後活動する上で大きな資産になると思います。学校の中で得難い人脈を持つこともできましたし、何より制作を通して「私はこんなことができる」と思えるようになったことがよかったです」

お客様である富国生命保険相互会社のご要望にお応えしながら作品を作り上げていくリアルワークプロジェクト「フコクアトリウム空間プロデュースプロジェクト」。学生たちは10人と少人数ながら、濃密な学びを経験できたようです。

梅田エリアをハートで「UMEDA MEETS HEART」への参加作品である「Dimension」は、12月25日まで「フコク生命の森」に展示されます。お近くにお立ち寄りの際は是非ご覧ください。

(文:天谷 航)

 

 

京都芸術大学 Newsletter

京都芸術大学の教員が執筆するコラムと、クリエイター・研究者が選ぶ、世界を学ぶ最新トピックスを無料でお届けします。ご希望の方は、メールアドレスをご入力するだけで、来週水曜日より配信を開始します。以下よりお申し込みください。

お申し込みはこちらから

  • 京都芸術大学 広報課Office of Public Relations, Kyoto University of the Arts

    所在地: 京都芸術大学 瓜生山キャンパス
    連絡先: 075-791-9112
    E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp

お気に入り登録しました

既に登録済みです。

お気に入り記事を削除します。
よろしいですか?