INTERVIEW2024.08.22

教育

トキメキの「ひといき」を見つけて――フコクアトリウム空間プロデュースプロジェクト『人生トキメキ』

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  • 京都芸術大学 広報課

大阪の人は、歩くのが速い――そんなウワサを聞いたことはありませんか?

でも、本当に速いのです。地下街なんて、のんびり歩いていると轢かれそうになるほどです。でも、京都や東京とは違って歩きにくい混雑ではないのが不思議なところです。

そんななか、先を急ぐように歩いていたおじいさんが鮮やかな壁画に気付いて立ち止まりました。

「ええなあ、これ」

そう笑顔で言うと、おじいさんはまた歩き出しました。元通りの、快活なスピードで。

「フコクアトリウム空間プロデュースプロジェクト」、夏の平面展示のはじまりです。

フコクアトリウム空間プロデュースプロジェクト2024

京都芸術大学では、富国生命保険相互会社の方々と産学連携させていただき、今年もここ「生命の森」へ出展する作品を制作しました。

さまざまな学年・学科の学生が参加し、「変わり気のない毎日の中にトキメキを」という想いをこめて学生一同制作に臨んだ作品となっています。

「トキメキ」によって、もたらされ広がっていく、感情や未来の無限性を、この世に存在するすべての色を、組み合わせ次第で表すことができる光の三原色の「赤、青、緑」で表現しています。

蝶の部分は、和紙の千切り絵を使って表現しています。
千切り絵は、様々な感覚を使うことで楽しみながら制作することができます。
製作する私たちが楽しみながら作品を作ることで、壁画にもポジティブな感情が反映されると考えています。

さらにこの壁画には、それぞれの季節を象徴するものがたくさん散りばめられています。そんな季節の柄には、セラミックスタッコなどのメディウムを使用して凹凸を出しています。
和紙の独特な質感と、メディウムの凹凸によって近くで見ても楽しめる作品にすることができました。

ぜひ近づいて自分なりのトキメキを探してみてください。

 

人生(ひといき)トキメキ

あなたは、今日何かにトキメキましたか?

たとえば、パン屋さんで焼きたてのパンを買うことができたとき。
服屋さんでステキな1着に出会ったとき。
何気なく買ったアイスが当たりだったとき。

何気ないトキメキは、一日に彩りを与えてくれるものです。

しかし日常を過ごす中で、毎日トキメキを感じることは案外難しいものです。
ですが、ほっとひと息をつくことで、私たちは日々暮らしているなかで見落としているささやかなトキメキに気がつくことができると考えました。

そんなささやかなトキメキが人をポジティブな感情にすることで、自然と表情が明るくなっていきます。
そうすることで、周りの環境に明るい影響を及ぼしていき、さまざまな連鎖を起こします。

そうやってトキめく毎日を積み重ねていくことで、やがて明るい未来へと繋がっていきます。

小さな出来事が、最終的に大きな出来事につながる現象である「butterfly effect」に着目しました。
ささやかなものがやがて大きな力へと変容していくという、トキメキが秘めている性質を表現するにはぴったりです。

この壁画を通して、あなたの今日という一日が、トキメキで溢れますように。

 

制作:京都芸術大学プロジェクトメンバー

杦本まな保、井上くるみ、小牟田夢乃、一木彩希、岩野由依、中山野愛、宮本真洸、赤部凛、坪根生京、松本新希、廣瀬友莉、高木英恵、西田菜々、下村神楽、吉山明里、山田瑠璃、平岡倫奈

指導教員:山内庸資先生

想いを形にする「空間プロデュース」

フコクアトリウム空間プロデュースプロジェクトは、JR大阪駅前にある大阪富国生命ビルの地下2階から地上4階にわたる吹抜けアトリウム空間「フコク生命(いのち)の森」をアートでプロデュースする社会実装プロジェクトです。

「フコク生命(いのち)の森」は、梅田駅や大阪駅を利用する人にとっての待ち合わせスポットです。ホワイティうめだや大阪駅地下街にも通じるこの場所はいつも人で賑わい、一日に1.7万人が通行するといいます。

芸大生ならではのアイデアや表現力を活かして作品を制作し、夏には平面(壁画)作品、冬には立体作品でアトリウム空間を演出します。

今回、芸大生たちが制作した壁画は、題して「人生(ヒトイキ)トキメキ」。縦2m、横約9mの大作です。

下から上に向かって、橙色から青へと層状にグラデーションしていく背景は、夕陽をイメージしたものです。

その上に白い線で描かれているのは、四季の風景です。採光窓からの自然光が当たる左の部分には冬らしいクリスマスやお正月の風物が描かれ、中央には夏らしく花火やお祭りの風景。右の端には、春を桜を基調とするデザインで表現しています。

そして、四季の絵では鮮やかな蝶が舞っています。色とりどりの羽根は本当に飛んでいるかのように優美な動きを表現し、四季の表現とあわせて、時の流れを見るものに想起させます。

四季を描く線はそこかしこにメディウム(※絵の具にさまざまなものを混ぜて立体的な質感を与える手法)が用いられていて、「これは何だろう?」と興味を引きます。蝶の羽も和紙を貼りその上から絵の具を塗ることにより不思議なテクスチャが与えられています。

「ときめき」が詰まったこの作品は、たくさんのモチーフが描き込まれていながら全体の統一感をきちんと感じられる、素晴らしいものに仕上がっていると思います。

また、「リンとトキめくトキメキリン」という、風鈴づくりのワークショップも実施しました。ガラス製の風鈴に「自分がときめくもの」や壁画に描かれた「ときめき」たちをガラス製の風鈴に描いてもらい、蝶の折り紙細工を付けてお渡しするというものです。

芸大生たちは、どんな気持ちでこの「人生(ひといき)トキメキ」に向き合ったのでしょうか。

五感で感じて、思い出してほしい

左から 廣瀬 友莉さん、中山 野愛さん、坪根 生京さん

「ときめいてもらえる作品ってなんだろう、と考えはじめてみたら難しくて。最終的に、『自分の中のときめきに気付いてもらえる』ような絵にしよう、と思ったんです」

そう語るのは、プロジェクトリーダーの中山 野愛さん(空間デザインコース・2年)。

ときめく色合いを追究するうちに「夕暮れのグラデーション」を背景にすることに決め、段重ねのグラデーションの制作を統括した中山さん。実際の写真から色味を決めて行ったそうです。

落ち着いたホワイトで描かれるたくさんの季節の風物詩や蝶も、ときめきの大事な要素です。見た人も、かならずひとつは自分の心がときめくものを見つけられるはず。

「ぜひ、近付いて見てほしいです」

ワークショップ「リンとトキめくトキメキリン」の風鈴も、ときめきを伝えるために考えたものなのだそうです。

「最初はクリスマスのオーナメントを作ろうという話も出ていたんですが、夏なので風鈴にしました。持ち帰った人が見るたびにWSのことを思い出してくれるように、蝶の折り紙をつけました」

プロジェクトのリーダーは初めての体験で、「すべてが大変だった」という中山さん。

「どちらかと言えば身体を動かしたい性格で、計画や予定を立てるのは苦手なんです。みんなに助けてもらいました」

そう謙遜する中山さん。みんなが作業しやすいようBGMを付けたりと、楽しんで作業ができる雰囲気を作ったりするのが上手だったと、担当の山内庸資先生からは聞いています。天性のムードメーカーですね。

「【人生/ルビ:ひといき】トキメキ」は、フコク生命ビルのみなさんヘのプレゼンを経て選ばれた作品です。中山さんの班には、彼女を支える二人のメンバーがいました。

坪根生京さん(クロステックデザインコース・2年)は、「ときめき」という難しいテーマを説得感あるものにするべく、コンセプトの肉付けを担当しました。

「人生」と書いて「ひといき」と読ませるタイトルも、坪根さんのアイディアです。「ときめき」とは何なのか。難しいテーマに、三人で頭を悩ませる期間があったと言います。

廣瀬友莉さん(イラストレーションコース・2年)は、壁画のデザインを担当。なんと、デザインの完成までに4回も描き直したのだとか。

「季節の順番を悩んだり、実寸大で作ってみたら『線が太いほうがいいね』となったり……それから、『メンバー全員のときめくもの』を入れたりしました」

壁画をよく見ると、顔や髪の毛が生えた(?)モチーフがそこかしこに溶け込んでいます。実はこれ、メンバーひとりひとりの「ときめく」ものに、各人のトレードマークを足してデザインしたものなんだとか。

メンバーたちの「ときめき」が詰め込まれた作品とワークショップは、フコク生命ビルの皆さんにもあたたかく迎えられました。特に、夏らしい和の要素を取り入れた「リンとトキめくトキメキリン」が好評だったそうです。

大変なことも、あとになってみれば楽しいはず

大規模な制作プロジェクトには、「時間」と「人」と「モノ」の管理が欠かせません。今回、マネジメントを担当していた三人にもお話を伺いました。

「時間」担当の西田 菜々さん(ビジュアルコミュニケーションデザインコース・2年)は、「計画的な性格なので、まったく苦ではなかった」と豪語します。

「毎日カレンダーとにらめっこしながら、理想的な進行と現実の間でバランスを取って、柔軟にスケジュールを決めていました」

「人」担当の岩野 由依さん(キャラクターデザインコース・2年)は西田さんとは逆に、臨機応変タイプ。

「人が少ない日が生じてしまうこともあったので、そういうときは『今日はこれをしたほうがいい』と柔軟に割り振りを変えたりしていました」

「モノ」担当の高木 英恵さん(ビジュアルコミュニケーションデザインコース・2年)は、とにかく早めの行動を意識。

「余ったら余ったでだめなんですけど、購入はとにかくスピード勝負です。『これを買う』と決めたらすぐに先生に連絡していました」

蝶の素材となる「さざなみレース」という和紙や風鈴の調達は、在庫の変動などで思うようにいかないこともあったそうです。

三人とも、昨年度から続けてフコクアトリウム空間プロデュースプロジェクトに参加している、いわばベテランです。未来のプロジェクト参加者に何かメッセージはありますか?

西田さん「なにが起きても、自分を責めず気楽に。何でもいいからやって、試してみることが大事!」

岩野さん「楽しくやれるのが一番。大変なことはたくさんあるけど、あとからしてみたらきっと『楽しい』の一部になるはず」

高木さん「すべては準備。不安があっても、『備えあれば憂いなし』です」

学科やコースによる制限がなく、だれでも参加ができる本プロジェクト。多様なバックボーンを持つ仲間たちと力を合わせながら、現在は冬季の「立体造形」展示に向けた準備をしています。

幅広い年代の方が楽しめる「トキメキリン」制作ワークショップ

やがてワークショップの時間になると、メンバーたちが「トキメキリン」を持ってアトリウムを通行する人々の呼び込みをはじめました。山内先生が率先して看板を持ち、お客さんを呼び込む光景も。

友達同士、親子連れ、おひとり、ご夫婦……さまざまな方がワークショップに参加してくださいました。

簡単な説明を受けた後は、壁画のほうに行って描きたいモチーフを選んでもらい、そのあと描きやすいよう作った台の上で風鈴に絵を描いてもらいます。

完成した風鈴に蝶の折り紙を結びつけたあとは、割れないように大切に梱包し、これもメンバーがいちから作ったという厚紙の箱に入れてお渡しします。この箱、一枚の紙にレーザーカッターで透かしや切れ目を入れて、立体的に折れるようにしたものなのだそうです。

一番乗りで参加してくださった浴衣のおふたりにお話を聞いてみました。

――どうしてここ(フコク生命の森)に来たんですか?

「適当に来たんです」
「HEP FIVEでプリクラを撮ろうと思ったらまだお店が開いてなくて、うろうろしてたらここに」

――すごい偶然ですね!(笑) お二人は何を描きましたか?

「パンプキンに、ゆきだるまに、好きなキャラクターに……」
「花火に、くらげに、めんだこ、ゆきだるま、あとロボット!」

――いっぱい描きましたね。楽しかったですか?

「はい!」
「楽しかったです」

トキメキの「ひといき」を彩る

「フコク生命(いのち)の森」は梅田の駅地下を歩き疲れた人々や誰かと待ち合わせをする人にとってかけがえのないスペースです。

樹の風合いを活かした床や壁、鮮やかな緑の植え込み。採光窓や緑色の硝子を通して差しこむ光はやわらかく、耳をすませば鳥の声や水の音が聞こえてきます。

休憩しようと思って腰をおろし、スマホの画面からふと顔を上げると巨大壁画が目に入る。気になって、近付きたくなる――そんなふうにして、アートとの出会いがたくさん生まれるのではないでしょうか。

展示期間は8月31日まで。是非お立ち寄りください!

(文:天谷 航)

 

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