REPORT2023.08.16

今というこの瞬間を大切に―フコクアトリウム空間プロデュースプロジェクト

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  • 京都芸術大学 広報課

フコクアトリウム空間プロデュースプロジェクトとは、JR大阪駅前にある大阪富国生命ビルの地下2階から地上4階にわたる吹抜けアトリウム空間「フコク生命(いのち)の森」をアートでプロデュースする社会実装プロジェクト。平面制作・立体制作・空間プロデュースと、芸大生ならではのアイデアや表現力を発揮して多くの人を魅了することができるプロジェクトです。

学生たちは4月にプロジェクトをキックオフし、「今が生まれる」というタイトルの展示を制作。「今を大切にしてほしい」という学生たちの思いがこもった巨大な壁画を飾り、工作ワークショップを実施しました。
 

 

今回で9年目を迎えるこのプロジェクトでは、毎年夏季に「巨大壁画」、冬季には「立体オブジェ」の制作・展示を行っています。コロナ禍以降ライブペイティング形式や参加型ワークショップを取り止めていましたが、今回はワークショップを復活。

天空に伸びる「大樹」をモチーフとした「フコク生命(いのち)の森」には、都会の中にいながら大自然を感じられるようさまざまな演出が施され、1日に約1.7万人が行き交うそうです。そんな人気スポットをプロデュースするプロジェクトに、今年も計20名の学生が参加しています。

巨大壁画展示「今が生まれる」

今というこの瞬間は、ただ過ぎていくようで積み重なっていくもの。
「今を大切にしてほしい」という私たちの思いをこめて作成した巨大壁画をご覧ください!

展示期間:2023年8月5日(土)~8月31日(木)
制作:京都芸術大学 学生プロジェクトメンバー
HYORY JEON、宮崎その、髙木英恵、金田旺己、酒井快太、西田菜々、石神紗香、青山日向子、岩野由依、小原陽菜、三ツ井梨菜、田頭涼太、中島廉太郎、市川翔太郎、袋井颯、SONG CHENXI
制作補助:栁果歩 志方克成 木田 光風 宇野真太郎(マネジメントメンバー4名)
指導教員:藤井俊治先生
運営協力:京都芸術大学 芸術教養センター

ワークショップ体験
ONE MISSION2023

君への挑戦状、毎日をアップデートせよ!
「目標達成カレンダー」を作成!ステンシルで自分だけのカレンダーを作ろう。毎日の頑張りが、自身の未来への成長につながるよ。
さらに壁画参加型のワークショップも開催!壁画にラメを飛ばし、一緒に壁画を完成させよう!
参加費:無料
日時:2023年8月5日(土)・8月6日(日)両日とも10:30~12:30/13:30~15:30
場所:JR大阪駅前 大阪富国生命ビル 地下2階 アトリウム空間「フコク生命(いのち)の森」
所要時間:お一人様30分程度

設営当日。ワークショップ開始の1時間ほど前に「フコク生命(いのち)の泉」へ向かうと、学生たちが脚立や電動ドリルを使って巨大な壁画を組み立てていました。組み立てを手伝うグループ、絵の最終仕上げをするグループ、ワークショップの準備をするグループ……マネジメントの学生さんの指示や先生のアドバイスのもと、てきぱきと作業を進めています。街中でアートが組み立てられていく様子は通りかかった方の興味を引き、立ち止まる方もちらほら。

組み立てられた壁画は、縦2m、横約9mの大作です。鮮やかな赤色で描かれた人物から色とりどりの髪の毛が延びてゆくというデザインには、どのような思いが込められているのでしょう。デザインのリーダーを務めた酒井快太さん(染織テキスタイルコース1年)にお訊ねしてみました。

酒井快太さん(染織テキスタイルコース1年)

酒井さん:「今が生まれる」というテーマには、一瞬を一瞬を大切にしてほしいという思いが込められています。髪の毛を描いたのは、「過去」である毛先から「今」である生え際までの時間の積み重ねがそこに反映されているからです。

――素敵なテーマです。たくさんの色が使われていて、目にも楽しいですね。

酒井さん:人物を赤色にしたのは、見た人が元気になるような絵になってほしいと思ったからです。カラフルさを重視した結果、全体で約140色を使っているんです。

――140色! 塗るのに時間が掛かったのでは?

酒井さん:彩色は1ヶ月弱で終わりました。パソコンでデジタルの下絵を作って、「この色はこの番号」というように絵の具の色に番号を振って管理をして……大変でしたけど、最後には番号だけで色がわかるようになってしまいました(笑)。

絵の具を混色する班、番号を管理する班、実際に塗る班。そうやってメンバーみんなで手分けをした結果が、この巨大壁画をすばらしい速度で完成できた理由だそうです。

若いうちから、貴重な「協業」の経験を

例年1年生や2年生が多く参加するというこのプロジェクト。先生方との面談を経て4月12日にキックオフをしたあと、4ヶ月弱でこんなに立派な展示を完成させているのですから驚きです。既に何度かプロジェクトの経験があるマネジメントチームと、作業を担当するメンバーチームの2チームに分かれ、作業を進めたそうです。

平面絵画について調べたり実際に展示会場に足を運んでイメージを膨らませたあと、4つの班に分かれてデザインの案を作成。デジタルネイティブ世代の学生さんたちらしく、Web上でホワイトボードのようにアイディアを整理できるデジタルコラボレーションツールmiroを使ってアイディアを纏めてもらい、プレゼンをしたとのこと。

酒井さんが主導となってデザインをした「今が生まれる」を採用した富国生命ビルの方は、「ワークショップを是非開催してほしい」とリクエスト。そこからワークショップを含めた空間デザインを練り直すため、ふたたびコンセプトやデザインを考えるチームとワークショップのチームに……

「巨大壁画」の指導を担当した藤井俊治先生(京都芸術大学非常勤講師)は、「とにかく学生さんのやる気がすごいんです」と言っていました。

藤井先生:大学1年生や2年生だからこそ描ける成果物が出てくるのがいいんです。未熟なりのよさというか。「今」をとらえるというテーマを「髪」に託すデザインは、「今の気持ち」「いま見ているもの」を描ける若さが生んだものだと思います。同時に社会実装の機会として、デザインと富国生命ビルさんの希望をすり合わせるという、貴重な体験が若いうちからできる。こういうプロジェクトを成功させることができるのが京都芸術大学の強みだと思います。

20人で作り上げたひとつの絵。お話を聞いた後に壁画へ目を向けると、たくさんの色を使っているにもかかわらず、空間を損なうことのない優しい雰囲気を感じられることに驚きます。周りの左上から右下に向かって光が落ちていくような視線誘導の演出も、学生さんたちが自分で考えて作り上げたそうです。またところどころでメディウム(塗料の質感を調整する素材)としてグラスビーズやセラミックスタッコ(漆喰のような質感を与える下地)を混ぜた塗料で彩色をしています。ぜひ、近づいてご覧ください。

かけがえのない「今」の思い出に――参加型ワークショップ

ワークショップでは、布製のアドベントカレンダーにステンシルを施す「目標達成カレンダー」を準備しました。持ち帰ったあとも展示のことを思い出してもらえるようにという思いから、ステンシルの型紙デザインには壁画の人物を象っています。

ステンシルとは、紙や布の上に文字や模様のかたちに切り抜きがある型をのせて、そのうえから彩色をする技法です。綺麗な仕上がりになるように、色の組み合わせやステンシルの道具をメンバーが徹底的に検証したそうです。また、カレンダーを乾かす時間を利用して壁画にラメのメディウムを塗布するというアクティビティも用意しました。

ワークショップの開始直後から、お子さま連れのお客様が続々とご参加。選んでいただいた組み合わせの色をスポンジに乗せ、文字や模様の型の上から布へと置いていくと、まるで魔法のように綺麗なカレンダーが出来上がります。

上手にラメを吹き付けられました!
ワークショップの担当の学生さんと記念写真

「用事のついでにたまたま行きがかった」というこちらのお子さま。どうしてこの色を選んだの? と尋ねると、「夏だし、鮮やかなほうがいいかなと思って」とはきはきとした答えが返ってきました。

メンバーは2日間のワークショップのために、約60個のアドベントカレンダーを用意していました。参加した方々にとっては、かけがえのない夏の思い出のお土産になったのではないでしょうか。

継続するからこそできた体験

2年生でプロジェクトへの参加を終える学生さんも多いなかで、「フコクアトリウム空間プロデュースプロジェクト」は社会実装プロジェクトのなかでも「リピーター」として参加するメンバーが多いそうです。マネジメントチームとして参加した木田光風さん(空間デザインコース3年)もその一人でした。

木田光風さん(空間デザインコース3年)
ワークショップの対応をする木田さん

木田さん:去年もラーニングアシスタントをしていたんですが、今年も似たような立場(マネジメントチーム)として参加させていただきました。メンバーの作品づくりを補助をする役割ですね。備品を購入するために先生方に相談をしたり、常勤の先生方と非常勤の先生方との間の調整をしたり。それから、メンバーたちのブレストやプレゼンが上手くいくように、テンプレートを用意したり、「富国生命ビルさんで実施する意味を盛り込んでみよう」ってアドバイスをしたり……

――本当に大変な役割ですね。

木田さん:私としては「楽しい体験をおすそわけをしていただいている」という感覚でした(笑)。

――今日お邪魔して思ったのですが、メンバーの皆さん本当に仲がよさそうで素敵です。

木田さん:今年は例年よりも人数が少なくて、去年までだったら分担できていた作業が一人に集中してしまうことも多く、本当に大変だったんですけれど。忙しいからこそ、その分だけ絆が深まったのかなと思います。

――このプロジェクトに3年間参加して、どうでしたか?

木田さん:本当に学びが多かったです。入学したてだった私に、芸術にまず触れてみようというところから始めてくれて、それからマネジメントとして、お手伝いをできる立場になって……。みんなには本当に「ありがとう、本当にお疲れ様」って言いたいです。

学科やコースによる制限がなく、だれでも参加ができる本プロジェクト。普段は絵を描いていないメンバーも多く、巨大壁画の制作を開始したときには線を引くのもひと苦労だったそうですが、そこから1ヶ月でこんな立派な作品ができるのだから、若さの力は素晴らしいですね。多様なバックボーンを持つ仲間と力を合わせながら、現在は冬季の「立体造形」展示に向けた準備をしています。

ひらかれた場所を、あたらしく彩る

展示を見て立ち止まったお客さまの一人が、こんなことをおっしゃっていました。「ここな、去年まで椅子なかってん。座れへんかったんやで」。つまり、お客さまが椅子から絵を眺めることができるのは数年ぶりということです。

「フコク生命(いのち)の森」は梅田の駅地下を歩き疲れた人々や誰かと待ち合わせをする人にとってかけがえのないスペースです。樹の風合いを活かした床や壁、鮮やかな緑の植え込み。採光窓や緑色の硝子を通して差しこむ光はやわらかく、耳をすませば鳥の声や水の音が聞こえてきます。休憩しようと思って腰をおろし、スマホの画面からふと顔を上げると巨大壁画が目に入る。そんなふうにして、アートとの出会いがたくさん生まれるのではないでしょうか。

展示期間は8月31日まで。是非お立ち寄りください!

(文:天谷 航)

 

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