REPORT2024.07.29

京都ファッション

すべて一点物の「伊勢木綿の貫頭衣」 — SOU・SOUと空間演出デザイン学科の学生のコラボ展示販売会

edited by
  • 上村 裕香

2024年7月12日(金)から15日(月)まで、「SOU・SOU おくりもの」2階の店舗にて空間演出デザイン学科の3年生が、伊勢木綿を使用した「貫頭衣」を制作し展示、販売を行いました。

本学の学生と人気テキスタイルブランド「SOU・SOU」がコラボするこの展示販売会は、2010年から毎年、祇園祭の時期に合わせて四条河原町で開催しています。
本学の准教授で、テキスタイルブランド「SOU・SOU」代表の若林剛之先生と本学専任講師の伊藤正浩先生の指導のもと、貫頭衣という日本古来の衣装を現代デザインとして制作、販売まで行っています。
生地には伝統工芸品である伊勢木綿を使用しており、ファッションを通して日本の文化や伝統産業の価値をお客様にお伝えし、それらを残していく方法を学生が自ら模索しました。商品は毎年完売と人気を博しています。

今年度は、空間演出デザイン学科の3年生18名が「流線」をテーマに貫頭衣を制作しました。

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流線

線にはいろんな意味があり、時間が流れていく線、人と人とを結ぶ線などがあります。今回のテーマは「流線」。歴史のある伝統工芸品の伊勢木綿と学生一人一人が考えたデザインが一つの線としてつながり、それぞれの考える「流れ」を、線と共に頭衣を通じて日々の生活でも着てファッションを楽しんでほしいという意味を込めました。
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古来の衣服を現代に

貫頭衣の制作は、空間演出デザイン学科の授業(SOU•SOUゼミ)の中で、学生たちが半年の期間をかけて取り組んできました。
授業のはじまった4月には、「SOU・SOU」代表の若林先生から、SOU・SOUという会社の成り立ちや貫頭衣の歴史、作り方などのレクチャーが行われ、5月からは実際に販売する貫頭衣のデザインや制作を開始。6月からは、販売するにあたっての広報活動やオンラインショップの運営なども学生が行ってきました。

学生たちが制作した「貫頭衣」は、弥生時代に着用されていたシンプルな構成の衣服で、袖と身頃が一続きになっており、広げると四角い布になります。
今回の授業では、「SOU・SOU」から提供された伊勢木綿の生地に、学生たちが絵や染色、刺繍などの装飾を施し、個性豊かな貫頭衣を作り上げました。貫頭衣の種類はワンピースのような縦長の形の長方形衣、Tシャツのような感覚で着られる四角衣の2種類があります。

(伊勢木綿は、江戸時代から作られている三重県の伝統工芸品。単糸という、繊維によりをかけた1本の糸で織られている。またこの糸は弱撚糸という撚りかけ方が少ない糸で、糸の状態が綿に近くふんわりと柔らかい肌触りで、しわになっても元に戻りやすい性質を持つ)


個性豊かな「流線」

空間演出デザイン学科の3年生の川崎 友奈さんと利倉 杏奈さんは、それぞれ布用絵の具で模様をつけたり、手縫いで刺繍したりしました。
川崎さんは「ひょうたんや蔓の形を布用の絵の具で描きました。ひょうたんの実はくびれと膨らみのバランスが美しくて、夏のイメージにも、今回のテーマである『流線』という言葉にもぴったりだと思って、このモチーフを選びました」と、貫頭衣のデザインについて説明します。

利倉さんの貫頭衣は、デフォルメされた大口を開けたおじさんらしきキャラクターが刺繍されている、目を惹くデザインの一着です。
なぜこのデザインを選んだのか聞いてみると、利倉さんは「これはいままでの制作から引き続いて使っているモチーフです。『流線』というテーマを聞いて、線が流れていったら行き着く先は絵かなと思って、イラストっぽいモチーフを刺繍することにしました」と、テーマについての独自の解釈を教えてくれました。

こちらは、澤井 心さんの小さな花が散りばめられた一着。
澤井さんはこの一見、テーマの『流線』とは遠いようなデザインについて、「身近にある線的なものってなにかなと考えたときに、お花の中にも流れるような美しい線があるんじゃないかと思ったんです。茎や葉の曲線もそうですし、小さなお花が流れていく様子もそう。日常の中にある時間の流れと、貫頭衣が持っている弥生時代から現代までつながる時間の流れに共通点を感じて、ゆるやかな流れを見つけられたらと思ってこのデザインにしました」と話します。
この小さな花が流れるようなデザインの貫頭衣は、色ちがいでピンクと黄色の二種類のデザインがありました。すべて布用の絵の具で一筆ずつ描いている一点ものです。

白地に赤の炎が目を惹くこちらの「火車 KASHA」という作品は、脇村 虎太朗さんがシルクスクリーンを使って制作した貫頭衣です。
貫頭衣という伝統的な衣服に、京都をイメージして選んだ妖怪の火車を組み合わせ、炎の流れをつくることで『流線』というテーマを捉えようとしました。
脇村さんが使ったシルクスクリーンとは、化学繊維の網目状にインクが通過する穴と通過しない部分をつくり、上からインクを押し付けることで版画の版を印刷する技法のこと。
版のもととなる図案も、ワキムラさんが自分で描き、大学内の工房・ウルトラファクトリーで印刷しました。プリントされたイラストの精密さに見入っていると、「ぼくの図案はシルクスクリーンで印刷するにはデザインが大きく、置く場所を変えて何度も刷らなければいけなくて。だから実は、少し線が二重になっているものもあるんです」と教えてくれました。こちらも、まったく同じものは一点としてないんですね。

 

貫頭衣のある生活

当日、販売されていた会場はこちら。
学生が制作した145着の貫頭衣が集まり、見て回るだけで楽しい空間でした。
初日に販売を担当していた学生は、自分の制作した貫頭衣が売れ、「外国の方だったのでとっさに『わたしがつくりました』って言えなかったんですけど、すごくうれしかったです!」と大きな笑顔を浮かべていました。

会場での販売は終了後、オンラインショップでも販売が行われていました。

ショップURL:https://kuasousou.stores.jp/

蒸し暑い夏にぴったりな日本の伝統的な衣服・貫頭衣を日常の中に取り入れて、涼を感じてみてはいかがでしょうか。

 

 

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  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

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