「自分だけの世界が、みんなのモノになった」。そう話すのは、人気ブランドSOU・SOUとのコラボレーションで、てづくり手ぬぐいの制作と販売に挑んだ染織テキスタイルコースの3年生20名の学生たち。
長年続く名物授業でありながら、昨年に引き続き今年もコロナ禍により祇園祭での対面販売は中止に。それにめげることもなく、一人ひとりが創意を凝らしてオリジナルデザインの版・型をつくり、白地の手ぬぐいに染めつけました。できあがった製品のパッケージングや店頭販売、ネットショップの運営や発送、SNSを活用した宣伝まで、すべての過程を学生たちが分担して、自分たちの手で進めてきました。
「この2ヵ月半は、ゼミという名の会社に連日出勤していたみたい」と笑うのは、実習全体のリーダーであり、自身もシルクスクリーンで手ぬぐいを制作した菱木(ひしき)すず菜さん。同じくシルクスクリーンの土井あずきさん、伝統的な「注染(ちゅうせん)」の技法で制作した小野花織さん、新川(にいかわ)晶子さん4名の学生たちに、この「季節を彩る手ぬぐい」実習の全貌を伺いました。
※本文では一部、皆さんからのコメントをあわせて編集しています。
日本の四季を、自分なりに解釈
― デザインのテーマは、「七十二侯」だそうですね?
はい。先生から「一年を72分割して季節を表したもの」だと教わったものの、私たち学生のほとんどが初めて耳にする言葉。これまで自分の中になかったものを、どうカタチにしていけばいいのか… しかも、一般の人に “売れる物” として。みんなが一番頭を悩ませたところだと思います。
(以下は土井さん)私が染織テキスタイルコースに進むきっかけとなったのが、まさにオープンキャンパスで先輩たちが紹介していたこの手ぬぐい。ずっと楽しみにしていた実習だったので、まずは「自分が好きなものは?」、次に「家族ならどう思う?」、そして「お客さんが選ぶものは…」と、自問自答を繰り返し、じっくりと発想をふくらませていきました。
― 「シルクスクリーン」と「注染」、その違いは?
すごく簡単に言えば、「近代技法」と「伝統技法」ですね。細かな柄までくっきりと表せる「シルクスクリーン」に対して、型染めの一種である「注染」は、色のにじみや染めムラが独特の味わいに。この実習では「シルクスクリーン」を選んだ学生は、プリント作業まで自分の手でおこないますが、「注染」を選んだ学生は、自分のつくった版を専門の染め工房へ委託することになります。職人さんに希望の色を伝えて、染めあげてもらうんです。
普段の制作のように、細かな色合いまで自分でコントロールしたい、と思うなら「シルクスクリーン」ですが、外部の職人さんと協力してつくりあげる「注染」も、この授業ならではの貴重な経験。「どちらもやりたくて選べない!」と、両方の技法に挑戦したツワモノも5名ほどいました。
それぞれの制作に染まる日々
― シルクスクリーンを刷る工程で、とくに気をつかったことは?
つくるのは1人1つの柄ですが、それを50枚の手ぬぐいに染めつけなくてはいけないので、3日間集中して「刷る日」が設けられました。担当の先生方から厳しく指導されたのは、「この3日間に向けて、体調を万全にしておくこと」。もちろん、自分たちにとって勝負の時なので、前の週からアルバイトも遊びも控えて、作業のためのパワーを養いました。
シルクスリーンの作業自体は、何度も授業で経験してきましたが、これまでと違うのは「売り物をつくる」ということ。代金に見合う完成度が求められるうえに、失敗作が増えるほど製造コストがかさみます。一つひとつの作業に、味わったことのない緊張を感じました。
― 注染の広報スタッフは、工房で制作過程を見学したとか?
すごく刺激的な体験でした。型をのせた手ぬぐいの上から、大きな刷毛でズバーッと糊を置く熟練の技。注いだ染料がみるみる布に染みていく、ドラマチックな美しさ。SNSの宣伝用にスマホで撮影しながら、思わず見とれてしまいました。インスタグラムで動画を紹介しているので、ぜひご覧ください。
(以下は小野さん)私は、先輩方が昨年つくったウェブサイトで初めて注染を知り、「こんな面白い技法があるなら、もっと広める活動に加わりたい」と選びました。実物を見たときも、シルクスクリーンとは違う柔らかなニュアンスがすてきで。「どうつくるのか、この目で見てみたい」という想いもありました。
― 出来上がったときの心境は?
シルクスクリーンは、一枚ずつ刷って、蒸して、色落ちしないように水洗いして、アイロンをかけて…と、大変な作業の繰り返し。完成の喜びにひたる余裕さえなかったかも。それでも、「自分じゃなくて、だれかのためにつくる」という想いが、特別な心の支えとなっていた気がします。
注染の方は注染で、「自分の出したい色を、職人さんにどうやって伝えればいいか」という、また別の悩みを抱えていましたが、どの学生も仕上がった手ぬぐいに大満足していました。
(以下は新川さん)私は、技法だけでなく「外注する」というプロセスを学ぼうと、注染を選びました。ところがいざ発注しようとしても、カラーコピーや写真では思う色をうまく表現できなくて、イメージを伝える難しさを痛感。だからこそ、仕上がった手ぬぐいの一つひとつが、「あ、この子の色だ」と思えるものに染めあがっていたときは、「プロって、すごい!」と鳥肌が立ちました。
手を離れて、育つ作品
― 3日間の店頭販売は、大盛況だったようですね?
7/16から18の間、四条河原町の「SOU・SOUおくりもの」という店舗2Fのスペースで、注染5種類をのぞく全商品を販売しました! もともとはシルクスクリーンだけを先行発売する予定でしたが、職人さんが注染も6種類、先に納品してくださって、2日目から店頭に並べることができました。もちろん、お店での接客も学生が交代で担当。みんな「自分の作品を目の前で買ってもらう」という、初めての体験をかみしめていました。
(以下は菱木さん)じつは私、ずっと制作が思うようにいかなくて、「染織に向いてないのかも」と悩んでいたんです。けれど、この実習で「私の作品が売り物になる」と実感できたことで、大きな自信をつけることができました。これからは新たな気持ちで、つぎの制作に取り組めそうです。
― これまでの実習を通して、とくに強く感じることは?
「モノをつくって売る」ことが、こんなに大変だとは…。まずは先輩方から経理についてのデータなどを引き継いで、その予算や原価計算をもとに、外注先と交渉したり、販売や宣伝スタイルをいちから考えて実行したり。やることの多さは、ものづくりの比じゃないぐらい。そのぶん、制作だけでは得られない、大切な学びもいっぱいありました。
たとえば、ショッピングに行っても、商品パッケージや店舗での陳列方法、広告ポスターに自然と目がいくようになったり。これまで見過ごしていた、商品を引き立てる工夫や細かな気配りに気づくことができ、世の中の見え方が変わったような気がします。
― 最後に、おひとりずつご感想を!
(小野さん)初めてプロとのコラボレーションを経験して、伝え方の大切さを実感。将来のために、もっと学んでいきたいと思いました。
(新川さん)ゼミ全体がひとつの会社として動いたことで、戸惑いもあったけど、いろんな人と絆が深まり、全員と仲良くなれました。
(土井さん)ずっと自己満足で制作してきたけれど、実際にお客さんと接して、ひとに見てもらう、理解してもらう幸せを体感しました。
(菱木さん)これまでの中で一番大変な課題だったけど、初めて経験することの一つひとつが、本当にいい勉強になりました。
染織テキスタイルコースは、他のコースに比べて個人作業が多く、あまり話をしたことのないクラスメイトもいたそうです。それがこの実習を通して、みんながお互いのパートナーとなり、親しくなりました。コース内だけでなく、工房やSOU・SOU店舗の方など、いろんな人とのつながりが生まれました。それは、作品以上に大きな成果だといえるでしょう。
「ひとのために、ものをつくる楽しさを知った」。そんなだれかの言葉に、全員が大きくうなずきました。一人ひとりの色、カタチに染めた手ぬぐいが、いろんな人の手で使われて、味わいを深めていく。決してひとりでは完成しないものづくりの魅力が、そこにはあります。布の先につづく世界の広さを知った皆さんは、これから、どんな作品をつくってくれるのでしょうか。
「季節を彩る手ぬぐい」は、8/1〜8/7まで学生たちが運営するオンラインショップにて発売。遠方のファンも多いので、全国どこからでも買い求めてもらえることに、店頭とは違う喜びがあるそうです。オンラインショップ終了後も、商品の発送など、まだまだ作業はつづくと思いますが、学生の皆さん、どうぞがんばってください。ご協力ありがとうございました。
SOU・SOU×京都芸術大学 染織テキスタイルコース
季節を彩る手ぬぐい オンライン販売
期間 | 2021年8月1日(日)12:00〜2021年8月7日(土)23:59 |
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種類 | シルクスクリーン 14種類(店舗販売で品切れになっている可能性有り)、注染 11種類 |
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