こども芸術大学では、認可保育園となる前から行われてきたワークショップ形式の「創作の時間」を保育園でも受け継ぎ、子育て講座として幼児クラス(3歳児、4歳児、5歳児)の親子を対象に開催しています。こども芸術大学の「創作の時間」は、芸術表現をとおして親子が対話を深め、また同時に想像すること、創造することの楽しさを体験する、そして子どもとお母さんが協力しあい、調和する心をゆっくりと育てることを目的としていました。
2022年度の第1回目は、梅田美代子先生※を講師に迎えて、「風の水族館」をテーマに行われました。
※梅田美代子先生は京都芸術短期大学ビジュアルデザインコースの教員、情報デザイン学科、こども芸術学科の教授を歴任。認可保育園こども芸術大学の前身である「こども芸術大学」立ち上げから教務的な活動のサポートやアートアンドチャイルドセンター長として関わって来られました。
見えないものを感じて、見えないものを描く
創作の時間を始める前にみんなの気持ちを合わせて「さかながはねて」の手遊びをしました。そして保育士の先生から、床に敷かれた透明ビニールを挟んで向き合って座りビニールに線を描くデモンストレーションがありました。保育園のホールや保育室では、園長先生や保育士の先生による風をイメージした素敵なピアノの生演奏が流れています。その音の中で子どももおとなも思い思いに伸びやかな線を描いていきました。中にはなかなか描きだせない子も。そんな場面では「風ってどんなカタチかなぁ」とおとなが声をかけ、子どもも「どんな色かなぁ」と語り合いながら、親子の創作が始まりました。
しばらくすると梅田先生から「みなさんが描いた線の中にお魚さんがいませんか」と声掛けが。交差した線の中にお魚を見つけた子どもたちは「お魚さんがいたー!」と色を塗ったり、お父さんやお母さんが「お魚さんはどこにいるのかな?ここにいるんじゃない?」と、そっとヒントを出したりする姿がありました。なかには、ビニールシートをゆらゆら揺らして風が吹いている様子を表現する親子も。風を感じたのかもしれません。別のところでは子ども自身が可愛いお魚さんになって泳いでいました。
そうこうしていると「お魚屋さんでーす」と保育士の先生が子どもたちに呼びかけました。プチプチのお魚が準備されています。お魚屋さんでプチプチのお魚をもらった子どもたちは、色を塗ったり模様を描いたりして自分のお魚を作ったり、準備された魚ではなく自分でプチプチをハサミで切って、自分の好きなものをオリジナルで作る子どももいました。その中にはイカや虹もあって楽しい作品になりそうな予感がします。そうして出来たお魚はどんどんビニールシートに貼られていきました。
しばらくすると、また「お魚屋さんでーす」と先生が。「ん?」と思って見てみると、今度は色とりどりのお魚です。子どもたちは好きな色のお魚を選んで、またいろんな色を塗ったり模様を描いたり夢中でペンを走らせます。そして、このお魚はビニールシートには貼らずに、お父さんやお母さんが小さな丸い穴にタコ糸を通してモビールを完成させました。
山の中の水族館
ビニールシートに描かれた風とお魚、モビールのお魚が完成すると、親子揃って作った作品を持って園庭に出ていきました。あらかじめ木々の間には麻紐が張ってあり、思い思いの場所に作品を吊るすと風の水族館の完成です。園庭では、梅田先生お手製の水族館入園チケットが配られ、保育士の先生が「チケットを見せてくださーい」と、本物の水族館のようでした。
実はこのチケットは、園庭が一度に親子で混み合わないようにとの梅田先生の配慮あふれるアイディアです。このチケットのおかげで子どもたちはワクワク感が増し、クラスごとにゆっくりと入館。お魚になった気分で水族館をお散歩して、みんなで風の水族館を楽しむことができました。
おとなの“気づきの時間”
今回の創作の時間は、見えないけれど 確かに感じる風を表現する、子どももおとなもイメージの世界であそぶというものでした。参加した保護者のかたは何を感じてどんな気づきがあったのでしょうか。お話のあった一部をご紹介します。
家でも創作活動をさせてあげたいと思い、絵具やクレヨンを用意して「はい、どうぞ!」と渡すと、全部うさぎやハートになってしまうんです。
>一人で楽しんでいるんだと思います。そこで親御さんが何か子どもに声をかけることで色々なことが表現として出てくると思います。子どもの中にはたくさんの物語が詰まっています。一人ではなかなか表に出て来にくいのかも知れませんね。誰かと話をしながらだと自分の経験や思い出が膨らんで、表現の幅が広がることがあります。
水族館のチケットが絶妙で、子どももとても喜んでいました。おうちではどんなふうに取り入れたらいいですか?
>子どもは「待つ」のが難しいのです。水族館のチケットのようなツールがあると楽しみでご機嫌で待ってくれます。それと幼児の集中は15分くらいだと私は思っているので、プログラムを考えるときにはそれを意識して展開するようにしています。今日のプログラムでも描き始めてから、交錯した線の中にお魚を探したり、プチプチのお魚を出したりと15分ぐらいおきに次々と子どもが飽きないような工夫をしました。おうちでもそんなことを少し考えて、子どもを楽しませられるといいですね。
直前まで「パパ嫌だ」と言われていたので、無事に終わるか心配でした。今は無事に終わってほっとしています。
>最近いろんな所でワークショップをすると、お父さんが参加されることが多くなったように思います。お父さんも何回か繰り返していくうちに、子どもの普段見られない姿や感性などが見えて気づきがあると思います。嫌だ!とやらない子もいますが、その場が嫌いなわけではないですね。周りの環境に順応するのに時間が掛かるんだと思います。それと、プログラムに沿ってやることだけがいいとは、私は思っていません。子どもの様子を見ながら、その場を親と子が共有していることが大切だと思います。
一緒に創作活動をしたお母さんやお父さんも、色々なことを感じておられることがわかりました。そういったみなさんの想いを共有できる場がすばらしいですね。梅田先生のお話のなかに「子どもの話に耳を傾けることを大事にしてほしい」という言葉があり、ともすれば大人の話を聞かせてばかりになりがちな子育てや子どもの教育において、本当に大事なことにあらためて気づく機会となりました。
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