INTERVIEW2022.07.20

アート教育

対話型鑑賞ACOPで培う「生きる力」 伊達隆洋先生へのインタビュー。― 文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信

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  • 京都芸術大学 広報課

京都芸術大学 文芸表現学科 社会実装科目「文芸と社会Ⅱ」は、学生が視て経験した活動や作品をWebマガジン「瓜生通信」に大学広報記事として執筆するエディター・ライターの授業です。

本授業を受講した学生による記事を「文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信」と題し、みなさまにお届けします。

(取材・文:文芸表現学科 3年 小池真鈴)

 

アートプロデュース学科にて実施されている対話型鑑賞プログラムArt Communication Project、通称ACOP(エイコップ)。ACOPとは「みる・考える・話す・聴く」の4つを基本とし、知識だけに拘らず鑑賞者同士のコミュニケーションを重視した鑑賞方法のことです。
アートプロデュース学科の生徒たちがACOPで学んだことを活かし、展覧会などのイベントでファシリテーターを務めている様子が瓜生通信で記事にされています。

コミュニケーションこそが「アート」― Open Storage 2021 対話型作品鑑賞プログラム「アートのヒミツ基地?!みんなで探検ツアー」
https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/911

そんなアートプロデュース学科の学科長である伊達隆洋先生は、学生時代は心理学を専攻、それらの知見を用いてACOPが人に及ぼす影響について研究されています。

 

アートプロデュース学科 伊達隆洋先生

 

なぜ鑑賞に対話という要素を取り入れるのか、ACOPによって鑑賞者にどのような変化が起きるのか、伺いました。

 

ACOPについて

ACOPは美術館や博物館、本学を始めとする教育機関のほか、企業における人材育成や組織織開発の手法として活用されるなど、社会のさまざまな場所で注目を集めています。その様子は京都芸術大学 アート・コミュニケーション研究センターのホームページから見ることができます。
https://www.acop.jp/

 

なぜこれほど多くの場でACOPが実施されているのか、実施によってどのような結果を期待されているのか。ACOPを授業で展開し、同時に研究を進める伊達先生に伺いました。

 

写真の作品を学生と鑑賞する伊達先生


「ACOPはものの見方について考えることだと思ってます。でも見方っていうのは単に美術の批評だけではありません。自分たちが日常生活において人とか物を見るときや、目の前で起こっている現実について考えるとき。そんなときどういう目線で見ているんだろうとか、そのものの見方でいいのかなということを改めて考えます」。

クロード・モネ《散歩、日傘をさす女》

例えばあなたとその友人がクロード・モネの作品である《散歩、日傘をさす女》を見たとします。あなたは「儚げで美しい絵画だ」と思いましたが、友人は「切ない、悲しげな絵だ」と言います。なぜあなたと友人は違う感想を抱いたのか。
同じ絵を見ているのに違う意見が出るのは二人のものの見方が違うからです。人と意見を交換することにより自分の見方を振り返り、深く知ることができます。

「ACOPは作品について解説されてからみるのではなく、まずは自分で作品をみます。そうすると自分のものの見方がそこに反映される。作品がそう言っているんじゃなくてあなたがそうみている。一人だったらそれで問題ないけれど、他の人がいてその人たちは自分とは別の見方をするので、どうして自分はものをこう捉えるのかと考えさせられます。そうして内省していくというか、そういうプログラムだと思っています」。

ACOPは自分の思考パターンを理解することのほかに、感じたことを言語化してさらにそれを口に出すという練習をしています。
作品を鑑賞する時、結局どこかに正解はあるとか間違ってはいけないとか、そういうことに取り憑かれて上手く自分の意見を口に出せない人が多くいます。これは作品鑑賞の場に限らず日常生活や仕事をしている時でも当てはまります。
その意識を変えるために、まずは自分が作品に対して感じたことを、簡単な言葉でいいので発言してもらいます。こうして凝り固まった頭と価値観をほぐし、より柔軟で素直な意見を引き出します。
そして、作品のどういう要素からそう感じたのかを問い、考えてもらうということをします。その時に、あくまでも作品を考えるということを主体として行います。そうしなければ自分の好きな要素ばかり目に入ってしまって、他のところを全然みていないという事態になってしまうからです。

作品をみて考えたことを口にする、そして人の意見を聞いてもう一度みてみる。こうしてみる、考える、聴く、みるというサイクルを身に付けていきます。

 

伊達先生が初めてACOPに参加した時

対話型鑑賞に初めて参加した大学院生の時に、「こんなにも作品ってみることができるんだ」と感じたそうです。それまでは作品の見方というのが分からず、「芸術って単に奇抜なことをやっている」とか「美しいものをカタチとして追及している」というレベルでしか捉えていなかったと言う伊達先生。
しかしACOPに参加し、鑑賞者同士が作品をみて会話をすることで作品がよりみえてきたり、作品の見方を通して様々なことに思考を巡らせたりしている様子をみて、「実践哲学のようだ」と考えたそうです。単に作品を評価するのではなく、作品を通して社会のことや自分のものの見方について考えられるというACOPに面白さを覚えた伊達先生は、心理学の大学院とACOPへの参加を両立し理解を深めていったそうです。

 

ACOPをアートプロデュース学科で実施する理由

“なぜACOPをアートプロデュース学科で実施するのか”という問いに対し伊達先生は、「アートプロデュース学科は特性として自分たちが作品を作るのではなく、展覧会などのイベントで表現者と鑑賞者をつなぐっていう大きな役割を担っているから」と言います。
京都芸術大学のほとんどが自分たちで作品を生み出す学部で構成されており、生徒のみならず教員にも多くのアーティストが在籍しています。そんなアーティストたちが生み出した作品と鑑賞者の出会いをつくり、人とモノそしてコトをつなげる方法について学んでいくのがアートプロデュース学科です。
https://www.kyoto-art.ac.jp/art/department/artstudies/artproduce/


詳しく聞くと、「作品は鑑賞される時、鑑賞者の持っている背景や生きている時代、属している文化など様々な要素と化学反応を起こして理解されていくので、作者が作品の意味を独り占めすることはできないんです。作品は鑑賞者の中でそれぞれ形作られていく。そういうことを知るためにACOPをアートプロデュース学科で実施しているというのが一番大きな理由ですね。なぜ鑑賞者と作品をつながなくてはいけないのか、つなげたときに何が起きるのかっていうことを知るためでもあります」と答えてくださいました。
 

「作品というのはみる人を単に心地よくさせるものではなく、時には揺さぶってくるし壊してくる。世の中のあり方とか、このままでいいのかというようなことも問うてくる。作品に問われることで、それをみている自分自身が変わっていく。そういうプロセスを通して芸術が本当はこういう力も持っているのかと気づく。それをまずプロデュースする人間が理解しないといけない。どういう作品がいま世の中に出るべきか、多くの人にみてもらうべきかということを考えるのが、アートプロデュースの役割です」

 

ACOPの授業風景。生徒が各々の意見を積極的に発表している。

 

ACOPで培う「生きる力」

インターネットでACOPについて調べるとAERA dot.(アエラドット)にて対話型鑑賞に関する伊達先生へのインタビュー記事が出てきます。
https://dot.asahi.com/aera/2017113000040.html?page=1


この記事には対話型鑑賞に参加しているうちに統合失調症の症状が起きなくなった学生がいるという内容が書かれています。本文に「統合失調症の学生で言えば、美術作品について語るというワンクッションを置くことで、話しやすくなる。作品について語っていることは、実は自分自身の投影なんです。それが他の人に受けとめられ、レスポンスも返ってくることで、自己肯定感が育っていきます。それが改善につながったと考えています」という伊達先生の言葉が載せられています。
 

統合失調症などの精神障害の治療や日々の生きづらさの緩和のためにカウンセリングを受ける人がいます。「カウンセリングのような場面だと、治す人(カウンセラー)と治される人(相談者)という風に役割が決まってしまう不自然な感じがあって、自分はあまりしたくないと思っていた。そもそも本当にそれは“取り除かれるべき経験”なのか、もしかしたらカウンセリングという関係の持ち方自体が、そういうものの見方を再生産することになっていないかという危うさを感じていたので」と伊達先生は言います。
 

そしてACOPに参加した時に、「カウンセリングが本来やろうとしていたことはこれだろうな」と感じたそうです。例えばうつ病を患っている人がカウンセラーと話すことによって、自分の見方とは違う物事の捉え方を知り、考え方に変化を起こしていくというのがカウンセリングの良い活用方法です。ACOPで同じような効果を得られたパターンが、統合失調症の学生の例です。
 

「作品を人とみて話すことによって考え方が広がっていき、結果として精神障害が楽になるのならそれがいい。誰の手柄にもならないから」


ACOPに参加することでみる、考える、言語化する、口に出すなどの様々な力が身につきます。また、作品の鑑賞を通して自分のものの見方を知っていくことで、メタ認知の能力も鍛えられます。これらはすべて生きるうえで不可欠な能力ですが、普通に暮らしていて身に付けるのはなかなか難しいでしょう。
 

今回、伊達先生にインタビューをさせていただき、普通の鑑賞と比べたときのACOPの有用性の高さや、様々な方面への可能性について知ることができました。生きている以上、辛い出来事や悲しい事件は起きます。そして生きるのがつらくなった時、ACOPという場で身に付けた力はきっと救いになります。ただ力を培う機会はACOPだけではありません。作品を鑑賞する時、物をみる時、人と話す時、様々なタイミングにチャンスは溢れています。

 

 

インタビュイー

伊達 隆洋 (だて たかひろ)

京都芸術大学 アートプロデュース学科准教授。
京都芸術大学 アート・コミュニケーション研究センター研究員。
専門分野は臨床心理学、対話型鑑賞。

インタビュアー

小池 真鈴 (こいけ まりん)

京都芸術大学 文芸表現学科 クリエイティブ・ライティングコース 2020年に入学。
子どもの貧困に関心があり、子ども食堂について調べている。

 

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