REPORT2022.05.16

文芸

絵本をたどって、よみがえる思い出 ― 文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信

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  • 京都芸術大学 広報課

京都芸術大学 文芸表現学科 社会実装科目「文芸と社会Ⅱ」は、学生が視て経験した活動や作品をWebマガジン「瓜生通信」に大学広報記事として執筆するエディター・ライターの授業です。

本授業を受講した学生による記事を「文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信」と題し、みなさまにお届けします。

(取材・文:文芸表現学科 3年 椎木優希)

 

「絵本」ときいて思い出す風景はありますか?私は小さいころ、よく絵本や児童書を読んでいました。展開や結末も知っているはずなのに、何回も飽きるまで。

母からは寝る前の一冊として、よく絵本を読んでもらっていました。私のお気に入りは、なかやみわさんの「そらまめくんシリーズ」。寝る前の布団に母と二人並んで読み聞かせてもらう時間は、平日にゆっくり一緒に過ごすことのできる大切な時間だったと思います。

子どものころの絵本体験はかけがえのないものです。この記事では、絵本から得ることができる体験はどのように子どもに影響しているのか、いろいろな方に話をお聞きしました。

 

子どもは食べるように読む

京都芸術大学こども芸術学科の教員である浜崎由紀先生に、絵本が与える子どもへの影響についてお話をうかがいました。浜崎先生ご自身も、出産祝いとして絵本をもらったときに、再び絵本に出会われました。そこから、子育て支援をするサークルや小学校の読書活動のボランティアを通して、子どもや親に向けての絵本の活動を始めたそうです。

「絵本や児童文学というのは、大人が子どもに何かを期待してすぐにその影響が出るものではありません」

小さいときに読んでもらった絵本を大人になってから読んでみると、印象が変わっていたり、子どもの見方と大人の見方が違っていることに気づいたり、という体験を一度はしたことがないでしょうか。

子どもは大人に絵本を読んでもらって耳からことばを聞き、絵を見ておもしろがったり驚いたり、時には恐がったりして、純粋に絵本を楽しみます。

「絵本を通して体験したり発見したり、子どもは日々成長しているので、同じ絵本でも一度目の体験と二度目の体験では異なります」

大人が求める「絵本の効果」、例えば感性の豊かな子に育ってほしいと願ったり、賢い子になってほしいといった親の希望に対する効果は、すぐに表れるものではありません。そのような目的から読むのではなく、子どもと一緒に大人にも楽しんでほしいそうです。

「子どものころに、どのようなきっかけでこの絵本に出会ったのか、絵本のタイトルや誰が作者なのかということは忘れていることが多く、実際に大人になって読んでみて、幼いころの記憶が呼び起されることがあります」

そのため、大人になってから子どものころに読んでいた絵本の話をしたときに、「何かが出てきた話」とあいまいな記憶から、実際に見て「これこれ!この絵本!」とその絵本に再び出会うことがあります。また、絵本について振り返ると、介在した人との思い出やぬくもりも一緒に呼び起します。

「寂しいときに読んでもらってすごく嬉しかったことや、身近な人、例えばお母さんであったり、お父さんであったり、おばあちゃんであったり、幼稚園や保育園の先生などに読んでもらったときの記憶も一緒に呼び起こされます」

子どものときに読んでもらった絵本というのは、一方的に大人から教えを与えるものではなくて、本の内容やおもしろかったと思う気持ちも含めて、「心の栄養」になるものだそうです。

 

“読み聞かせ”ではなく“読み語り”

浜崎先生は、絵本の「読み聞かせ」ではなくて、絵本の「読み語り」ということばを選んで使われていました。子どもに絵本を“与える”、“させる”、“してあげる”というようなことではなく、絵本と時間や場所を子どもと大人が共有し、それが積み重なって思い出として残っていくことを大切にされていました。

物語を語ることや、話す声が心地よいというのも、子どもの耳に残ります。声に出して読んでもらい、体全体で五感を通して体験した絵本だからこそ、大きくなって絵本や絵本を読んでもらったときのことを覚えているそうです。

「絵本や児童文学の中で、子どもは普段出会わないことばに出会ったり、出会わない絵に出会ったりします」

普通の日常生活では出会わないことばに触れるということは、子どもにとっておもしろい体験になりますよね。

「このような絵本や児童文学の体験の基となるのは、生まれてすぐ身近な人から語りかけられることばや肌のぬくもりで、赤ちゃんにとってそれはとても大事なものです。それは始めてもらったギフトみたいなものです。語りかけられることばと同様に、ことばがいっぱい詰まった絵本や児童文学というのは、子どもにとってとても大事なもので、これらの積み重ねがアイデンティティーの形成にも関わります」

たくさん読んであげたいと周りの大人は思ってしまいますが、お気に入りの絵本が1冊でもあれば、それでいいのではないかと浜崎先生は語ります。

「大人が好きな曲を何回でも聞くように、子どももお気に入りの絵本を何回も読んでもらうことが、耳に心地よく、ことばもお話も楽しいのです」

 

成長してからの気づき

絵本『おおきなかぶ』

『おおきなかぶ』の「うんとこしょ、どっこいしょ」は、大人が読むとその魅力がわからなかったりするかもしれませんが、小さかったときの私は、その掛け声が大好きだったのを覚えています。

「教育的、教訓的なお話や大人が感動したものを、同じように子どもにも感動してもらいたいと思って大人が読んでみても、子どもはそっぽを向いて興味を示さないことがあります。見ている視点が大人と違うからですね」

大人になってから、思い出に残っている絵本を少し思い返してみたときに、私はとても幸せな時間を過ごしていたのだなと、心を温めてくれます。そういう環境も含めて、子どもは絵本を心の栄養にしているのだなと感じました。成長してその気持ちに気づけたとき、きっと倍の幸せを感じるのではないかと改めて思いました。

 

子どもの頃に読んだ絵本に大人になってから出会う

絵本は、子どものころの感じ方とおとなになってからの感じ方が異なっていることがあるというお話を受けて、子どもだったときの絵本との出会い方や、そのときどんな様子だったか、また心情などを、私と同じ文芸表現学科の学生に聞いてみました。

絵本『どうぞのいす』

作: 香山美子 絵: 柿本幸造
出版社: ひさかたチャイルド

[あらすじ]
うさぎさんは「どうぞのいす」と書かれた看板を立てて手作りのいすを置きました。そこに、ロバさんがやってきて、そのいすにどんぐりの入ったかごを置き、お昼寝を始めます。そこに、くまさん、きつねさん、リスさんがやってきて、次々にかごのなかのものを取り換えっこしていく心温まる思いやりのこもったお話です。

中塚麻友さん(京都芸術大学文芸表現学科2020年度入学)

何回も何回も読んでいた絵本です。
うさぎさんが小さな椅子を作り、「どうぞのいす」と書いた看板を立てます。そこに、最初に来たロバさんがどんぐりのカゴを椅子に置いてお昼寝始めたところから「どうぞのいす」の意味が変わってしまうお話なんです。

物語の中では、次から次にやってくる動物たちによる取り換えっこが始まっていきます。それは、やってくる動物たちが、椅子の上に置いてあるものを食べては、「次の人に悪いなぁ」といって必ず自分のもっているものを置いていくからなんです。心温まる作品だよね。

今、何が自分の中に残っているか影響しているかと尋ねられると言葉にしにくいのですが、温かい思いやりの気持ちに触れるっていいなと思います。優しい世界観で、絵も柔らかい感じが大好きでした。

 

絵本『きょだいなきょだいな』

作: 長谷川 摂子 絵: 降矢 なな
出版社: 福音館書店

[あらすじ]
広い原っぱの真ん中に、大きな「何か」が次々に現れます。巨大なピアノだったり、巨大なせっけんだったり……。そこに100人の子どもがやってきて遊びます。リズミカルな文章と大きな元気いっぱいに遊ぶ子どもたちに心が温かくなる絵本です。

中田瑞生さん(京都芸術大学文芸表現学科2020年度入学)

ずっと家にあったんですよ。お兄ちゃんのお下がりの絵本がまわってきたんだったかな。よく読んでいました。寝る前の絵本の時間に、お父さんかお母さんに読んでもらってたときの優しい声が印象に残っています。お父さんとお母さんの柔らかい声が好きでした。

一番好きなのは、巨大な瓶の中で子どもたちが眠っているシーン。久しぶりに見ると、小さいときはもっとキラキラした印象だったかなと思います。今見ても綺麗な絵だけど!絵の子どもたちが何をしているかを想像するのも楽しかったです。本当に100人いるのか数えたりして。

それから、最後に100人の子どもたちが、お父さんやお母さんの待つそれぞれのお家に帰っていくところも安心感があって好きでした。あとことばのリズム感が良くて。それを親(大人)が読んでくれているのを聞いて、「うちのお父さんお母さんこんなこと言うの」と幼いながらに思っていました。読んでもらっている時間が好きでした。

 

 

今回、話を聞いた学生は成人を迎えた大人ですが、子どもとしての立場もあります。両方の気持ちがわかる立場の人間として、お話を聞くことができました。それぞれに忘れられないエピソードがあって、その人に優しい温かい時間をもたらしているのが伝わってきました。

 

私にとっての絵本

今回いろいろな人に絵本から受けた影響のお話を聞かせてもらうことができました。人それぞれに絵本の思い出や環境の記憶があったように感じます。この記事を読んでくれた人が懐かしいなと思って、思い出に残っている絵本を再び手に取ってくれるきっかけになってくれたら幸いです。その絵本はあなたにとって、きっといい思い出を呼び起こしてくれて、新しいつながりを作ってくれます。今まで気づけなかったことに気づけるきっかけになるかもしれませんね。

 

 

インタビュイー

浜崎由紀先生

京都芸術大学こども芸術学科准教授。
京都女子大学文学部英文学科卒業、同大学大学院発達教育学科研究科児童学専攻修了、児童学修士。研究領域は児童文化学、保育学。
著書に、『子どもの生活と児童文化』(共著 創元社)、『よくわかる児童文化』(共著 ミネルヴァ書房)など。

インタビュイー

中塚麻友さん

2001年滋賀県生まれ。
京都芸術大学文芸表現学科2020年度入学。
趣味はゲームとお話を考えることで、ファンタジーのお話を書いている。

インタビュイー

中田瑞生さん

2001年長野県生まれ。
京都芸術大学文芸表現学科2020年度入学。
赤色に執着気味で、ポケモンがすき。
今は、地域に根付いた情報を伝えることに興味がある。

インタビュアー

椎木優希

2001年鹿児島県生まれ。
京都芸術大学文芸表現学科2020年度入学。
文学の中で絵本や児童書籍に興味がある。
声優オタクで、毎日のんびり生きている。

 

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