REPORT2022.03.02

文芸

見て、調べて、歩いて、知る。 —ブックフェアから出会った京都のまちの本屋さん「開風社 待賢ブックセンター」: 文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信

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  • 京都芸術大学 広報課

京都芸術大学 文芸表現学科 社会実装科目「文芸と社会Ⅱ」は、学生が視て経験した活動や作品をWebマガジン「瓜生通信」に大学広報記事として執筆するエディター・ライターの授業です。

本授業を受講した学生による記事を「文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信」と題し、みなさまにお届けします。

(取材・文:文芸表現学科 2年 靏田 彩花)

2021年10月10日(日)、京都府立京都学・歴彩館の南側広場にて下鴨中通ブックフェアが開催された。京都府内や関西圏の古本屋さんや個人経営の本屋さんなどから総勢12店舗が出店。会場には「本の環 hon no wa」という本の物々交換ができるコーナーも開かれ、イベントは幼い子どもから高齢の方まで様々な人で賑わった。新たな本との出会いだけではなく、本屋さんとの出会いもあった。

下鴨中通ブックフェアの様子と出会い

秋の清々しい青空のもと、会場に着くと、まずお店ごとのテントがコの字型に並んでいるのが目に入る。その中心に「本の環 hon no wa」のコーナーも設置されている。入口付近に立ち、全体を見渡してみると、たくさんの本が視界に入り、ワクワクがとまらない。
その気持ちを抱えたまま、近くのブースから順番に見ていくと、置かれている本の種類に驚きが。どのブースでも、小説などの文庫本は比較的少なく、絵本、美術・芸術、写真集、画集、リトルプレスといったような本が中心に置かれている。小物や雑貨なども販売されている。「ブックフェア」というとどうしても私は文芸などの文庫本や単行本などを思い浮かべがちだった。そのため、本以外も置かれていることに衝撃を受けた。

参加店の(本)ぽんぽんぽんホホホ座交野店のブースの様子。


その中で、ひと際子どもたちで賑わい、目を引くブースがあった。「開風社 待賢ブックセンター」だ。クールな印象を受ける店名だが、それとは反対の温かい雰囲気が感じられた。琉球・沖縄の文化などに関連する本から色彩豊かな海外作家の絵本まで幅広い種類の本が数多く並べられ、もっと見てみたいと感じる。しかし、本に夢中な子どもたちの間を割って入ることは、大人しては気が引けて、早々に退散。後ろ髪を引かれるような気持ちのまま後にすることとなった。

開風社 待賢ブックセンターのブース。印象的な絵本の一部。

「待賢」というまち

ブックフェアからひと段落した数日後、イベントについて振り返ってみた。京都府内だけでも、自分が知らない、独自の色を持った本屋さんや古本屋さんがたくさんあった。自分は本を買うとなると、チェーン店やショッピングモール内にあるような大型の本屋さんに行くことが多いため、会場のどこにいても非常に新鮮に感じられた。開放的な本屋さんの数々。その中で、やはり待賢ブックセンターのことが思い浮かぶ。遠くからでも、もう少し見ておけば良かったかもしれないという後悔があった。そこで、待賢ブックセンターについて知りたいという思いが湧いた。

そのまま、インターネットで調べることにした。まず、店舗は、4.5坪という広さで西陣のはずれの「待賢」というまちにあるということだった。京都の土地には詳しくないため、どのような場所なのか想像がつきそうにもなかった。どうやら、その待賢という場所は、平安京時代にあった待賢門から由縁があり、かつてあった待賢小学校の学区にもなっていたそうだ。お店の公式サイトの説明する文章のなかには、「特別なものを売るのではなく、日常によりそうものを売りたい」と書かれている。定休日が日曜日と月曜日。営業時間は11時から19時。店主の方の名前は鳥居貴彦さん。やはり気になる。とりあえず行ってみるのもいいかもしれない。

沖縄を感じる

iPhoneの地図と周りの景色を見ながらお店に向かって歩く道中では、二条城の塀が見えた。観光客も多く、その塀の高さからは確かな歴史の圧があった。歩くにつれ、広かった道幅が狭くなっていき、住居が増えてきた。日常生活が感じられる道のなかにあるようだ。
そのまま歩いていくと、無事お店の前まで着いた。店舗は風情ある一軒家の建物だ。外壁に沿うように並べられた本には、雑誌や最近話題の漫画、文庫本が多い。地面に置かれた箱に入ってる本は絵本が中心だ。窓部分には展示物もある。置いてあるバケツでは、木材が売られている。「本」という道に置かれた立て看板以外に看板らしきものは見あたらない。だが、のれんが掛かった入口にある木の板に、「ブックセンター こちらです」と子どもの文字で書いてあった。

おそるおそる中に入ると、思っていたよりもずっと落ち着いた和やかな空間になっている。店内にも子どもの文字が書かれた紙や木材があちらこちらにあった。畳になっている場所があり、靴を脱いであがれるようだった。そのスペースには、絵本や児童書、沖縄に関する本が数多く置かれている。沖縄に関する本には、沖縄の料理や伝承・民話、おもろさうしという沖縄の歌謡集の本などがある。他にも、焼き物や「TULIP」というポークの缶詰など沖縄のスーパーで見かけたことのある食料品が同じ棚に置いてある。その横には、ガラスのケースに入った伊江島のピーナッツ糖があり、こちらも沖縄の空港でも見かける商品だ。このお店に来ると、沖縄に縁がある人は懐かしさを覚えることだろう。
店内を飾るものには、強面のお面や網に入った大きなガラス玉、いわゆる浮き玉と呼ばれる漁具などがある。浮き玉は同じ形状のものを沖縄のいろいろな店で見たことがあるため、これも沖縄関連のものとして存在しているように思う。

これほどの数の「沖縄」やその本がある理由について、店主である鳥居さんに話を聞いた。
鳥居さんの奥様が沖縄県の出身であるそうだ。その縁で、たびたび沖縄に訪れることがあり、そこで沖縄関連の本を仕入れているという。沖縄について書かれた本は多数あるのだが、沖縄のなかでしか流通しない。こちらの本州まで、でてこない。沖縄の本を探している人は本州にもいるため、こうして置いているということだった。「TULIP」の缶詰に関しても同じであった。沖縄では「SPAM」と並ぶポークの人気缶詰商品であるにも関わらず、本州では取り扱いが少ないのだそう。また、同じ棚に置かれている焼き物は、沖縄で修行していた鳥居さんの友人が手掛けられたものだった。沖縄の手法で作られたらしい。

テーマはお客さんに決めてもらう

店にある子どもの字で書かれた案内やこのお店についても聞いてみた。鳥居さんには、お子さんがおり、小学生のこどもたちが外にある売り物の木材に自由に書いているという。お店には現在住んでいて、玄関口でやっているような感じでもあるとお話してくださった。それは、このお店から感じる和やかさの理由の一つでもあるような気がした。

土足で見れる場所の本棚には、詩や言葉、小説などの文芸本、人文学、リトルプレスという基本的に少部数で作られている出版物など様々な本が新刊と古本分けられることなく置かれている。棚を眺めているだけでも楽しい。並べる本の基準でもあるのだろうかと疑問を持った。鳥居さんいわく、「売れるものを置く」ということだった。それも、「ベストセラーというわけではなくて、買ってくれるひとがいる本を置く」ということらしい。また、仕入れる本を選ぶときは、それを買いそうなお客さんの顔が2.3人ほど浮かんだら仕入れるようにしているという。そうでないものもあるらしいが、本棚からは本屋としてのこだわりを確かに感じることができる。

さらに、鳥居さんは、「お店のテーマやコンセプトなどを聞かれるが、このお店がどういう店かは来た人に決めてもらったらいい」とおっしゃった。「こういう店で、こういう使い方してくださいってこちらから言うのはなんか変じゃない」ということだった。さらに、お客さんに本をおすすめすることについても、「この規模でこれ面白いですよと言われたら、それ以外がなくなってしまう」と話す。そのため、おすすめをするよりは、自由にみてもらいたいというのが鳥居さんの店主としての意思だった。

本屋が自分にはあっていた

鳥居さんは現在自身で本屋を開くまでに、本屋に勤めていたことがあり、そのあとに出版社にも勤務していたそうだ。鳥居さんにとって出版社と本屋は真逆だという。出版社は新しい本を作り、仕入れてくださいという風に持って行く。本屋は本を並べて、お客さんを待つ、という違いがあるらしい。その中で、「比べたときにお店の方が自分にはあっているのかな」と思ったという。

そうお話されるとともに、「店を開けてたら、遠く離れた九州の大学生がふらっとくる日もある、それが面白い」と言った。九州の大学生というのは、最近お店に訪れた、九州から青春十八きっぷで、岡山の本屋さんから聞いてやって来たという大学生のことだ。「縁もゆかりもない人が突然全然違う方向から話を持ってくるみたいな」と言い、斜め上の方向からくるような出会いを楽しまれているそうだ。「ネットとか本を売るにもやりかたはいろいろあるけど、やっぱり店を開けてここにいるっていうのが自分にはあってるのかなって思いますね」といい、そして「いいですねって言われるけど、生きるためにやっていることでもある。結局これしかなかった」とも話された鳥居さんにとって、本屋さんとの相性がよかったのだろうと感じた。それは、経験に裏付けられたものでもあるだろう。

「看板がないので、店名がわからないと言われる。でも、『本屋』でいいんちゃうとも思う」。そう語る鳥居さんが営む待賢ブックセンターには代わりに、木材に書いてある子どもたちの案内文字がある。沖縄に縁がある人、本が好きな人、どんな人でも、日常のなかで、人の温かさが伝わるこの本屋さんにふらっと訪れてみてはいかがだろうか。

開風社 待賢ブックセンター

所在地 京都市上京区大宮通椹木町上る菱屋町818
定休日 日・月
営業時間 11時~19時

http://kaifusha-books.com/taiken/

鳥居貴彦
京都府出身。高知大学卒業。「開風社 待賢ブックセンター」の店主。2019年の3月29日に「開風社 待賢ブックセンター」を開業。2021年の11月14日には九州に支店がオープン。お店の定休日には、恵文社で手伝いもしている。

インタビュアー。

靏田彩花
2001年生まれ。京都芸術大学文芸表現学科2020年度入学。大学では小説を書いている。物語が好きで、趣味は読書。

 

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