保育室内の和室には、お雛様が飾られています。その優しいお顔のお雛様の横に、“LaQ(ラキュー)”という玩具のパーツを組み合わせて作ったお雛様やぼんぼりが、ちょこんと仲間入りしています。こどもたちの遊び心に感動です。私もその心に誘われ、小さな巻き寿司(うそっこ)を作って供えてみました。
3月3日は給食でちらし寿司や菜の花の和え物、おやつにはひなあられをいただいて、ひな祭りをしました。そして、早々に飾ったお人形は、5歳児クラスのこどもたちと一緒に「来年またね」と、大事に箱にしまい片づけました。
学年末を迎えて学級懇談会が開かれ、こどもの一年間の育ちについて話し合われました。乳児クラスでは、身辺自立や基本的な生活習慣が確立し言葉の獲得も身に着け始めて、目に見える成長に、驚きとうれしさの交流がなされています。一方で、自我の芽生えとともに自己主張のエネルギーも大きくなり、“躾”という側面では、おとなの葛藤も生まれています。保護者と先生との間では子育てについて、連絡帳や日誌の中で対話が繰りかえされています。
幼児クラスでは、一年間の育ちを、保育の流れとともに綴られたメッセージをもとに、家庭での様子が語り合われてました。「わたし」「わたしとあなた」「わたしとわたしたち」といった関係性の育ちや、言葉で自分の思いを伝えたり聞いたりするコミュニケーションや、いざこざが起こった時の折り合いをつけるこどもの姿が、先生の丁寧な関わりとともに話し合われていました。集団ならではの心の育ちの過程が伝わってきます。そして、これからは個人懇談会が開かれ、一人ひとりの育ちについて語り合われます。
5歳児クラスのこどもたちは進学を前に、保育園生活を満喫しています。目が輝いています。担任の先生の願いをもとに「土」をテーマにして、瓜生山と遊んだ一つの思い出作りに取り組んでいます。「土の実験室」と名付けて、山で自分のお気に入りの土を採集して細かく砕き、最後は“超こま”といわれる細目の砂ふるいをかけて作ったこだわりの砂で布を染め、その布を使って三つ編みを編んで“My縄跳び”を作っています。その色の風合いは格別です。
初めての卒園児です。卒園の保育証書は、前身である「こども芸術大学」の文化をぜひとも引き継ぎたいと思い、本学の名誉教授の梅田美代子先生の手ほどきを受けながらウルトラファクトリーで制作しています。5歳児クラスのこどもたちもその場を見学に来て、一人ひとりが保育園のサインを印刷する体験をしました。今、そのサインを額に入れた記念品づくりを、園長と個々に取り組んでいます。園長の楽しみです。一人ひとりの創る過程に個性が光ります。
一方、他のクラスのこどもたちは、4歳児クラスのこどもたちがリーダーシップをとって、お別れ会の企画をしています。こそこそと内緒で先生と一緒に案を練っています。どんな会になるのか楽しみです。
瓜生山の四季とともに育んでいく保育は、こどもにとってかけがえのない心の原体験になっていきます。今、一年間を眺めてきた瓜生山がうふふと笑っています。その声の響きとともに園庭には、保育園の開園を記念して植えたサンシュユの花が咲き誇っています。一輪一輪その顔や表情は違っていて、どれも美しいです。
初めて卒園児を送り出す日を瓜生山とともにみんなが目を細めて見守っています。
追記: 毎月発行する園だよりに「瓜生山でこどもが笑う」と題して、園長の気づきや思いを綴っています。この文章は、3月号に掲載したものに加筆修正をしています。
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鍋島 惠美Emi Nabeshima
1951年京都に生まれる。1974年京都教育大学幼児教育科卒業、西宮市立幼稚園に勤務。1976年神戸市立「聞こえとことばの教室」に勤務。言葉の発達に困りを抱えるこどもの治療保育に携わる。1979年京都教育大学附属幼稚園勤務。2003年京都教育大学大学院修了。泥だんご学会創設者・加用文男教授のもとで学ぶ。その間「ニューヨークこどものくに幼稚園」で研修する。2012年京都教育大学附属幼稚園定年退職。2014年縁あって、京都光華女子大学で保育者になりたい女子学生とともに学びあう。また臨床発達心理士として、京都市保育園連盟の巡回相談に携わる。2019年またまた縁あって、認可保育園こども芸術大学の園長になり、こどもたちと暮らしている。幼稚園で務めていたころから、実践記録をこどもたちと一緒に絵本にして遊んでいる。夢だった実践の絵本創りに、これまた縁あって旧京都造形芸術大学の卒業生の友達に絵を描いてもらい絵本を創る。『こえをかじったネズミ』ぶん:なべしま えみ、え: きんばら きみずき