REVIEW2021.03.12

アートプロデュース学科の一年生と巡る。― 2020年度 卒業展・大学院修了展鑑賞ツアー〈後編〉

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  • 京都芸術大学 広報課

大学生活を過ごしたキャンパスそのものを“美術館”と見立てた「2020年度 卒業展・大学院修了展」。賞の発表とは別の角度から、展覧会の雰囲気やバリエーション豊富な作品の数々をご紹介するべく、アートプロデュース学科一年生の学生7名と鑑賞ツアーを行いました。

今回は、後編の様子をご紹介いたします。

 

参加者:アートプロデュース学科 一年生
植田峻介、岡部仁星、國村優、曽根原佳乃、高田果鈴、辻笙、松岡英智

 

鑑賞ツアー〈後編〉の行程

人間館A棟地下1階(映画学科)、2階(キャラクターデザイン学科)、3階(マンガ学科、こども芸術学科)、4階(アートプロデュース学科、文芸表現学科、歴史遺産学科)〜直心館(プロダクトデザイン学科)〜興心館(空間演出デザイン学科)〜智勇館・創々館(情報デザイン学科)

 

人間館A棟地下1階 映像ホール(映画学科)

映画作品たちの空気感を表したかのような「たかはら団地」。団地だからだろうか、とても古風な印象を受けました。映画自体を見るのはこれから。見れば「たかはら団地」はより面白い空間になるだろうと感じました。映画を見る映像ホールにはジャズのような音楽が流れていて、ゆっくり落ち着いて映画を見ることができそうだと感じました。

私が特に楽しみにしているのは『綯交ぜ(ないまぜ)』。京都市上京区の出町桝形商店街にある映画館「出町座」でも上映された『ロストベイビーロスト』にて主演を務めていた松尾渉平さんが出演なさっているそう。その演技に圧倒されました。

高原校舎での展示の様子。

 

 

人間館A棟2階(キャラクターデザイン学科)

キャラクターデザインとひと括りに言ってもゲームだったり、イラストだったり、一人ひとりさまざまな展示で、見ていて飽きなかったです。実際に体験できるようなものもあり、楽しかったです。

アニメやゲームのキャラクターを描くだけでなく、設定を考えるために重ねたリサーチが一緒に展示されているなど、原画展と新作ゲーム発表会とアニメイトが一緒くたになっているようで楽しかったです。一日中居ても飽きないですし、すべてを見ることはできないなと思うほど。

村上日向《Meconopsis》

モチーフとなった花への愛情がキャラクターからも展示空間からも伝わってきて、幸せをお裾分けしてもらえているよう。「推し」の布教活動の一環として、自身の好きな花を擬人化させた作品で、作者の花への愛情がヒシヒシと伝わってくる作品です。花の特徴をしっかりと捉えたキャラクターたちは見る人を惹きつけます。あえて性別を設定せず、見た人に委ねるところが、花というモチーフの良さが表れていると感じました。

キャラクターと一口に言ってもイラストをデザインするだけでなく、リサーチを重ねてどんな特徴があり、どんな性格をしているのかを熟知した上でイラストに落とし込んでいて、大変労力を要するものだと実際に鑑賞してみて思いました。言葉ではなく絵だけで表現することはとてもすごいことなのに、それで自分の好きなものを多くの人に知ってもらうきっかけ作りの技術として駆使しており、かっこいい。等身大にすることで一緒に写真が撮れたり、実物の花を見ている感覚になったりとメリットの多い展示方法を取っていておもしろかったです。

 


人間館A棟3階(マンガ学科)

マンガは自分の中でとても惹きつけられる作品です。特に私は作画にこだわっています。なかでも『スカッシュ』という作品は作画がとてもかっこいい。迫力があり、構図の使い方がとてもうまい。漫画を見る・読むことで自分の創作意欲がすごく掻き立てられます。どういうタッチで描いているのか、どういうストーリーなのかなど、マンガは見る部分がとても多く、どれも勉強になります。

『スカッシュ』

まだすべての作品は読めていないし見ることができていません。だから、じっくり見る時間を取りたいなと思います。何度も見たい、読みたいと思わせるような素晴らしい作品ばかりでした。

 


人間館A棟3階(こども芸術学科)

パンを使ったしりとりやいろんな形に見立てた流木かるたなど、発想力や想像力を広げる遊びが多くありました。こどもだけでなく大人が遊んでもいい刺激になると思います。

中でも神戸で起きた地震をテーマにした絵本が印象に残っています。こどもにとっては実感が沸かないかもしれないけれど、大人は当時を知っている。過去を未来へ受け継ぐ方法として、絵本という大人とこどもの共通のものを使うという発想はとても素晴らしいなと思いました。

曽田みなみ《おとがなるころ》

仕掛け絵本になっていて、ページをめくると地震の凄惨な現場が緻密な技術で作り出されています。歴史をさかのぼり、その町の「おと」に触れる。そうして聞こえてきた「おと」たちがこの町を形作り、作家の地元でもある今の神戸へと成っていく。

 

坂本若菜《かっぱいろいろ かっぱにぎにぎ かっぱくんくん》

「カーペットで絵本を読めるようにしたかった」というのをキャプションで読み、ちょっと切なくなったのですが、代わりに小さな椅子が置いてあって、それは普段幼稚園で使っているものだそう。コロナ禍でやりたかった展示方法ができなくなってしまっても、その中でできることで工夫をしたのは、素敵だなあと思いました。

 


人間館A棟4階(アートプロデュース学科)

卒業論文の内容だけでなく、展示方法も見て欲しい空間です。アートプロデュース学科は研究のジャンルが幅広く、いろんなことを研究しています。ガイドマップに「旅のしおり」とあるように、一人ひとり調べることやその方向性は違うけれど、どこかつながりがある。そのつながりを見て考えるのがまたおもしろい。なぜこの論文はこのジャンルなのかと考え、新しいジャンル分けなどをしてもらえたらとてもおもしろいと思います。

 

 

人間館A棟4階(文芸表現学科)

執筆した本と同じ空間に筆者の紹介文や影響を受けた作品を展示することで、書かれた作品の背景や筆者の人柄、オリジナリティを考えることができ、より作品を読みたくなります。あらすじだけではなく、装丁や内容からピックアップした一文だけ書かれたところもまた、興味をそそられます。

中でも鹿島愛唯里さんの『THIS IS WHO I AM』は、自身の境遇から自分にしか描けないストーリーを構成していて、とても読みたくなりました。

『THIS IS WHO I AM』

 


人間館A棟4階(歴史遺産学科)

なぜ現在こうなっているのかを歴史という観点でリサーチをする。とても勉強になる展示でした。リサーチをするということは、人生においても役に立つことだと思います。卒業論文は、その人がいかにその分野に対してリサーチをしてきたかが目に見えるようにわかるもの。どれも長い期間、深いリサーチを行ってきたことがわかり、圧倒されました。

 


直心館(プロダクトデザイン学科)

同じ学科でも、作っているものが多種多様。全然違っていておもしろく、部屋ごとにいろいろな特徴があって、時間が足りないほど。今すぐにでも商品化して欲しいものがたくさんありました。

田乃中愛海「酒器を用いた味覚と色彩の研究」

お酒の味を器で表現しているのがおもしろくて、実際に自分の好みのものを飲んでみたい! 日本酒の飲み比べをしたくなりました。

カラーチャートにより日本酒の味わいを色で目に見える形で表現していて、様々な場面で活躍するプロダクトだなと感じます。初めて日本酒を飲む人に向けたり、言語を介さずに伝えることができることから、外国の方に向けてだったり、日本酒を飲むことがより身近になると思います。製品のその先を考えることができる素敵な作品でした。

山下樹人「Nagare」

歯車の数がめちゃめちゃすごい!どの角度から見ても歯車があって、正面からだけでなく側面からも楽しめます。これらの歯車がどう作用し合うのか、実際に動くところも見てみたくなる作品。歯車が動いている様子を撮影した映像からは、世界の理(ことわり)や輪廻転生など、巡っていく何かを考えずにはいられませんでした。

設計図の展示に用いたネジの周りを歯車で覆うなど、展示に関しても細部までこだわりを感じられました。この歯車を展示することで、どういった影響を鑑賞者に及ぼすのかはわからないけれど、動いている姿を見るだけで安心感がある。まるで「大きな古時計」みたいでした。

 


興心館(空間演出デザイン学科)

 

竹之内春花「botanical Entrance Garden」

庭の概念が覆る作品。これまで庭と聞けば、裏庭やお家から門までの間にある庭など、面積を多く占めている植生のある場所というイメージでした。でもこの作品では、家主が気持ちを込めて手入れしたものを庭としており、道路沿いの長屋や集合住宅でも庭を持つことが可能になるのだなと、新たな発想が生まれます。どの地域にどの門庭があるのかを地図で表現することで、視覚的にわかりやすく捉えることができました。

神原初音「balena」

サステナビリティの観点を取り入れた作品。フリルが多い服やピシッと決まる服など、多様なデザインの服を作ることができてすごいなと思います。このアイデアなら大量消費のレディメイドでも、端材をなくすエコな衣服を生産できるのではないかと考えられます。モノトーンでスタイリッシュに着こなしが可能なので、大学生にも人気がありそうです。

 

 

智勇館・創々館(情報デザイン学科)

 

磯本朱里「RED FISH STATION」


建物に入ってまず目にする、カートゥーンを思わせるポップでユニークなキャラクターが彩る展示。「RED FISH STATION」と書かれた、ひときわ目立つその作品は、宇宙空間に浮かぶ惑星や不思議な生物たちのよう。展示場所を染め上げるほど作家の世界観で溢れていました。作品名から一人ひとりのキャラクターまで個性にあふれ、一つひとつの設定すべてが気になる作品です。

 

前濱蘭々子「my image of season words」

月ごとの言葉をロゴタイプで表し、ついつい自分の誕生月を見てしまう作品。文字の雰囲気やイメージがデザインに落とし込まれていて、言葉から思い出される出来事や記憶に近い色味や形、字体でお互いに共有できるものがあるのではないかと思いました。
イメージを共有する際にフォントや文字のデザインがあることで、より相手と同じものが共有できるため、ビジュアルで見せることは重要な役割を果たしているのだなと感じました。

 

渋谷敦志「土産言葉」

方言の交換がお土産の交換みたいで可愛らしい作品。地元の方言を探して自分が知っているものかどうか、クイズ形式でやりたくなってしまいます。実際にその地に住んだことがある人が作ったら、そこに含まれる方言は異なるものができあがるのかと思うと、そちらのバージョンでも見てみたいと思いました。

辞典にも載っていない日本語として方言を取り上げていたため、日本語を勉強中の外国の友達へのお土産として持っていきたいなと感じます。

一般的には、標準語が美しいとされているけれど、方言も決して無くしてはならない文化なのでは?と再認識しました。私も地元の方言を大学4年間で忘れないようにしたいです。そして、方言モチーフのガチャガチャも回したかった。

 

 

いかがでしたか?
アートプロデュース学科一年生の学生7名と巡る、卒業展鑑賞ツアー。

80,000㎡を超える広大なキャンパス全体を使い、個性豊かな約750点もの作品を展示する卒業展・修了展。受賞作品紹介とは異なり、一年生ならではの瑞々しい視点で、さまざまな作品を紹介させていただきました。

今年度は、新型コロナウイルス感染症対策の観点から蜜にならないよう人数制限をし、予約制での開催となったため、予約がいっぱいでご来場いただけなかったという方々も多くいらっしゃいました。

このような記事を通じ、受賞作品紹介とは違った切り口で「卒業展・修了展」を楽しんでいただけましたら幸いです。

 

参加者:アートプロデュース学科 一年生
植田峻介、岡部仁星、國村優、曽根原佳乃、高田果鈴、辻笙、松岡英智

(撮影:高橋保世、広報課)

 

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