INTERVIEW2021.03.16

舞台教育

コロナ禍での上演。演劇甲子園への道!

edited by
  • 京都芸術大学 舞台芸術研究センター
  • 京都芸術大学 広報課

 毎年7月下旬から8月上旬に開催される全国高等学校演劇大会。そのブロック大会である高校演劇コンクール近畿大会「第55回近畿高等学校演劇研究大会」が2021年1月に京都芸術劇場 春秋座にて行われました。

 例年は高校演劇コンクール近畿大会で選ばれた優秀校2校を春秋座にご招待し、『演じる高校生』として本格的な舞台で作品を上演していますが、今年度は新型コロナウイルス感染拡大により延期された、この高校演劇コンクール近畿大会も兼ねて5校の演劇が上演されました。

 『演じる高校生』特設サイト:http://k-pac.org/?page_id=11986

『演じる高校生』

京都芸術劇場 春秋座のこけら落とし以来、毎年開催している高校演劇コンクール近畿大会の優秀校2校を春秋座に招待し、本格的な舞台で作品を上演する企画。

 全国大会を目指す高校は、地区大会、都道府県大会、ブロック大会と、まさに甲子園を目指す高校野球のように駒を進めます。今回のブロック大会である近畿大会では、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山の代表校が参加する予定でしたが、和歌山県代表の和歌山県立向陽高等学校は、出場権がありながらも、残念ながら出演を辞退されました。

 

近畿大会2府4県の代表校

滋賀県立甲西高等学校
同志社高等学校
追手門学院高等学校
兵庫県立西宮今津高等学校
奈良市立一条高等学校
和歌山県立向陽高等学校(出演辞退)

 

 上演作品は、創作・脚色は問わず自由ですが、上演時間は1時間以内、1秒でも超えると失格。そんなシビアな予選を経て、各ブロック大会の最優秀校1校が翌年度に開催される、夏の全国大会(全国高等学校演劇大会)へ出場します。夏の全国大会の出場校は全国で12校。高校野球の甲子園大会よりも狭き門かもしれません。
 また、最優秀校以外の近畿ブロック大会出場校から1校が、同年度の春に開催される春季全国高等学校演劇研究大会へ推薦されます(今年は3月26日(金)~28日(日)に北九州で開催)。

 

春秋座の舞台より、全国大会への出場校が決定!

 2021年1月に開催された高校演劇コンクール近畿大会「第55回近畿高等学校演劇研究大会」 兼 第20回『演じる高校生』において、夏の全国大会へ出場する最優秀校に選ばれたのは、同志社高等学校(京都)でした。創作脚本賞についても、同志社高等学校『ざつもくりん』を創作した岩井太陽さんが受賞しました。
 春季全国高等学校演劇研究大会の推薦校には追手門学院高等学校(大阪)が選ばれました。この度、受賞された同志社高等学校と追手門学院高等学校にインタビューをしました。今回の『演じる高校生』の舞台写真を撮影した、京都芸術大学 美術工芸学科 写真・映像コース3年生の神谷拓範さんと2年生の小林幸尭さん・東郷樹さんの臨場感あふれる写真と共に、『演じる高校生』の“生の声”をお伝えいたします。

 

同志社高等学校(京都府)『ざつもくりん』

作:岩井太陽(生徒創作)

 

撮影:小林幸尭


この度は、全国大会へのご選出、まことにおめでとうございます。全国高等学校演劇大会の近畿代表校に選ばれた感想はいかがですか?

とても嬉しいです。全国大会は、以前にも同志社高校が開催府県代表として上演したことを聞いていたので、憧れとともに、近しくも遠くも感じる存在でした。昨年度、部員は1年生が5名のみで手さぐりだった中、地区大会で優秀賞を受賞することができました。そのことに手ごたえや嬉しさを感じる一方で、それ以上は進めなかったことに、京都府大会や近畿大会でも上演して多くの人に観ていただきたかった、と自分たちに足りない部分を感じ、悔しかったです。今年は後輩も加わり、コロナ禍でも多くの方の支えで、府大会・近畿大会で上演できたことに加え、全国大会出場という大きな夢を叶えることもできました。感謝の気持ちでいっぱいです。不安もありますが、全国大会に出場できることに、すでにウキウキしています。
 

春秋座の舞台で演じてみていかがでしたか?

正直なところ、本番中のことはあまり覚えていません。今までの大会では、毎回とても緊張していたのですが、今回の大会では今まで以上にじっくり稽古ができたおかげか、落ち着いて舞台に立つことができました。緞帳が降り切った時、「あ、今の本番やったんや。」と思うほど自然体で演技できました。

 

コロナ禍では、部活動や稽古には色々と制約があったかと思いますが、いつも通りにいかない中で、稽古や演出などで工夫した点、苦労して本番に臨んだ点などについてお聞かせください

ひたすら効率を重視しました。京都府大会後、1ヶ月半ほど稽古期間があったのですが、初めの1週間は全て話し合いに充てました。あらためて、演劇で表現する理由や何のために演劇をしているのかなど、根本的なことを話し合いました。一見、今回の作品の内容に直結しないことも含みましたが、この話し合いのおかげで稽古の内容が以前よりさらに濃くなり、短い稽古の時間でも意味のある時間になりました。時間を効率的に使うために発声や基礎練習は全て各自が個々で行ったことや、長台詞など各々が練習してきて持ち寄り、稽古場ではみんなで練習の成果を見るようにしたことも大きかったです。

 

撮影:東郷 樹

 

-上演作品の見どころや今回、春秋座で演じ、難しかった点や、面白かった点、演劇をやっていてよかったと思えた点など、感じたことについて教えてください。

見どころは、雑木林のシーンです。大黒幕を飛ばし、広々と開けた空間の中の四人。そこで登場人物の心情が大きく揺れていくのです。雑木林の照明や木々を表現する大道具にもこだわりました。
今回の作品に限ったことではありませんが、これまでの作品でも、場面転換の見せ方には工夫を凝らしてきました。観ている方が「おお!」と思うような見せ方を、部員みんなでアイディアを出し、何度もやり直しながら、創り上げてきました。

 

-夏の全国大会の舞台に向けて、目標や決意などについて教えてください。

“妥協しないこと”です。演出も役者も音響も照明も、部員の全員がとことん話し合って、妥協せずに創り上げていきたいです。意見が一致しないことはたくさんありますが、妥協せずみんなの意見をすり合わせていきます。自分とは異なる意見でも、そのなかでの工夫や研究を自分の納得いくまで行うことで、妥協ではない創り方ができると思うのです。これからもひとつずつ、目の前の課題にとことん向き合っていきたいです。

 

-創作脚本賞受賞についておうかがいします。今回の作品の脚本について、苦労した点(難しかった点)やこだわった点があれば教えてください。

一番苦労したのは、調べ作業です。今回の脚本は、1年前の高校1年生の冬に書いたものが原型なのですが、思うようにアイディアが浮かびませんでした。実は、0から1を作ることがあまり得意ではないのです。制作期間のおよそ8割は調べ作業に当てました。本やインターネットはもちろん、論文や講習会のレジュメ、インタビューやアンケートといった資料など、できるだけ多くの素材を集めました。調べていく中で、「この性質はここでこう活かせそう」、「この表現に惹かれる」など多くのことを感じ、アイディアがたくさん出てきました。調べながら毎日、頭の中がカオス状態でした。何かを描くことにおいて、知らなくて良いことなんて何一つないと考えています。結果、初稿の脚本は1時間半の大作になってしまいました。伝えたいことを、投げかける。そのような脚本作りを心がけていますし、これからもそうありたいと思っています。(作:岩井太陽さん)

 

 次に、この春に福岡県で開催される、第15回春季全国高等学校演劇研究大会への出場校に推薦された、追手門学院高等学校をご紹介いたします。

 

追手門学院高等学校(大阪府)『学校へ行こう』

原案:演劇部 構成・脚本:いしいみちこ(顧問創作) 補作:神永真美

 

撮影:神谷 拓範


-この度は、全国大会へのご選出、まことにおめでとうございます。春季全国大会の推薦校に選ばれていかがですか

全国大会という「夢の舞台」に立たせていただけることが、素直に嬉しいです。選ばれたからには、たくさん爪痕を残してきたいと思います。初めての舞台なのでどんな景色が見られるのか、すごく楽しみな気持ちでいっぱいです。

 

-春秋座の舞台で演じてみていかがでしたか?

春秋座では、いままでの劇場とは違い、お客さんが自分たちよりも下にいたり、2階席があったりと空間が広く、場を温めることがすごく難しかったです。また、劇場の中はコロナ対策が徹底されていてやや緊張感があったので、お客さんの空気も硬くなっていたなと思いました。
ただその中で、どうやってお客さんとコミュニケーションをとっていくのかを考えていくのが楽しくもありました。

 

撮影:神谷 拓範

 

-コロナ禍では、部活動や稽古には色々と制約があったかと思いますが、いつも通りにいかない中で、稽古や演出などで工夫した点、苦労して本番に臨んだ点などについてお聞かせください。

本番までの練習では、顔の表情が見えなくなってしまうマスクをつけていたので、自分がどのような表情をしているのか、それが伝わるのかすごく心配でした。また、私たちの劇は体をよく使うので、マスクをつけていても息苦しくならないよう、トレーニングやランニングをたくさんしました。稽古を始めた当初は、自粛中の身体の癖や部活動の活動制限のために表現がすごく小さくなっていて、自分を出すことが出来ませんでした。ですので、稽古中だけでなく日常でもめいっぱい周りを感じながら生活することを意識して、自分がそのまま表せるようにしました。

 

-上演作品の見どころや今回、春秋座で演じ、難しかった点や、面白かった点、演劇をやっていてよかったと思えた点など、感じたことについて教えてください。

今回の作品は、みなさんにも共感してもらえることや考えてもらうことがたくさんあると思います。楽しい作品になっているのですが、それ以外のところにも目を向けてもらえるとより面白く感じてもらえると思います。
演劇をやることで「隣にいる人」のことを考えるようになり、すごく視野が広がったと思っています。周りの人を大切にしようと考えることが増えたので、演劇をやれて良かったなと思います。

 

-最後に、春の全国大会の舞台に向け、目標や決意などについて教えてください。

3年生は本当に最後の舞台になるので、このコロナという状況下でも舞台に立てるということに感謝を忘れずに、今このメンバーでできることをたくさん楽しんで遊びまくりたいです。

 

 

 追手門学院高等学校の上演がある第15回春季全国高等学校演劇研究大会は、この3月に北九州芸術劇場にて開催。現3年生にとっては高校最後の舞台となります。また、2021年8月4日(水)~6日(金)に和歌山県田辺市の紀南文化会館で開催される、第67回全国高等学校演劇大会には同志社高等学校が出場されます。それぞれの大会で、彼らにとっての『こころ・ひらく・せかい』が開花することでしょう。

 

京都芸術大学 Newsletter

京都芸術大学の教員が執筆するコラムと、クリエイター・研究者が選ぶ、世界を学ぶ最新トピックスを無料でお届けします。ご希望の方は、メールアドレスをご入力するだけで、来週水曜日より配信を開始します。以下よりお申し込みください。

お申し込みはこちらから

  • 京都芸術大学 舞台芸術研究センターKyoto Performing Arts Center, Kyoto University of the Arts

    舞台芸術の創造過程の総体を研究対象として、乖離しがちであった「創造の現場」と「学術研究」とのより有機的な結びつきを図るべく、2001年4月に発足。学内劇場である「京都芸術劇場」(歌舞伎劇場である春秋座 ならびに多目的小ホールの studio 21)を活用し、京都芸術大学舞台芸術学科を中心とした学内主任研究員による上演・研究活動を組織すること、学外および国内外の研究者および研究機関との共同研究、国内外の舞台芸術創造拠点との共同作業など、舞台創造の現場と密接に連携した研究・創造のネットワーク作りを目指す。
    http://k-pac.org/

  • 京都芸術大学 広報課Office of Public Relations, Kyoto University of the Arts

    所在地: 京都芸術大学 瓜生山キャンパス
    連絡先: 075-791-9112
    E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp

お気に入り登録しました

既に登録済みです。

お気に入り記事を削除します。
よろしいですか?