COLUMN2020.11.05

教育

社会人の学び重ねの意義 ― AIが進化する時代、身につけるべき「人間ならではの力」とは

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  • 本間 正人

本学通信教育課程には、北海道から沖縄までの日本全国、18歳から90代まで、約7,500人が学んでいますが、日本では、残念ながら「社会人が大学で学ぶ」ということが、あまり一般的ではありません。

大学の学士課程への入学者数は、令和元年度 631,273人。うち、25歳以上の数は3,000人と約0.5%にすぎません。大学通信教育を含めても約2.4%。いずれにせよ、その割合は非常に低い値になっています。

参考:文部科学省 将来構想部会(第23回)配付資料「資料1-3 今後の社会人受入れの規模の在り方について」


しかし、グローバルな視座に立つと、どうでしょう。
実は「社会人が大学で学ぶ」ということは、ごくごく普通のこと。

高等教育機関への入学者のうち「25歳以上」の方が占める割合は、OECD各国平均は約16.6%と、社会人学生も相当数含まれており、一度社会に出たあと、再び大学で学ぶ「学び直し・学び重ね」の文化が根づいているのです。

参考:参考:文部科学省 将来構想部会(第13回)配付資料「高等教育の将来構想に関する参考資料」


そのようなグローバルな視点で捉えた「社会人の学び重ね」の意義について、教育学を超え、最新学習歴を更新する「学習学」(Learnology)の構築を目指して、研究・実践活動を展開する京都芸術大学 副学長の本間正人先生に伺いました。

本間正人(京都芸術大学 副学長)

「教育学」を超える「学習学」の提唱者・東京大学文学部社会学科卒業、ミネソタ大学大学院修了(成人教育学Ph.D.)。京都芸術大学教授・副学長・NPO学習学協会代表理事・NPOハロードリーム実行委員会理事。「楽しくて、即、役に立つ」参加型研修の講師としてアクティブ・ラーニングドリームを25年以上実践し、研修講師塾を主宰する。ミネソタ州政府貿易局、松下政経塾研究主担当、NHK教育テレビ「実践ビジネス英会話」「三か月トピック英会話:SNSで磨くアウトプット表現術」の講師などを歴任。TVニュース番組のアンカーとしても定評がある。一般社団法人大学イノベーション研究所代表理事、アカデミックコーチング学会会長、一般社団法人キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会理事、一般財団法人しつもん財団理事などを務める。

英語には「社会人入学」という言葉がありません。社会人が学び続けるのは、当たり前。私が博士号をとったミネソタ大学の成人教育学コースでは、35歳の私が最年少で、40代、50代、60代以上の学生が大多数でした。

例えば、大きな病院の教育部長に任命された女性の場合には、RN(看護師資格)は持っていても、新人研修のカリキュラム設計やOJTについて体系的に学んだことがなかったので、その理論とスキルを学ぶために入学していました。企業や法律事務所のHR(人事)やHRD(人材開発)の人も多く、修士号をとることがその後の昇進のために必要だと話していました。

年功序列でポストが上がっていくという仕組みではないため、給料の高い管理職、専門職に就こうと思えば、学位や資格を取得して、「自分はその仕事にふさわしい」というエビデンス(証拠)を示さなければならないのです。

日本の組織も、徐々にそういう方向に移行しつつあります。何もしなければ、地位も給与も上がらない、という状況が広まっています。これまで、日本の大組織のトップは、入社年次や派閥のバランスなどで選ばれる傾向がありましたが、国際的な競争が激化する中、そんなやり方は通用しません。自分の強みを活かして、最新学習歴を更新し、要職にふさわしい能力・識見を備えた人物が指名されるという方向になっていくはずです。

また、「社員は一つの会社だけに帰属する」という常識も崩れてきています。兼業を認める、奨励する企業も増えていますし、副業(サブ)や複業(マルチ)も確実に広がっていくでしょう。1週間40時間は、メインの会社の仕事をしながら、残りの時間で収入を補いながら、経験を積み、腕を磨き、かつての「ふくぎょう」を本職にするという選択肢も有望です。日本人の平均寿命は延びる一方、株式会社の耐用年数は短くなっているので、人生の中で転職する確率は増えていくのが当たり前。こうした点でも、アメリカ社会の「ジョブ型雇用」に対応する準備をしておきたいものです。

特に、今、社会人として仕事をしている皆さんの場合、学校教育の主軸は「国語、数学、理科、社会、英語」という教科教育が中心でした。もちろん、これらの科目の学習も大切ですが、AIが進化する時代に、暗記や情報処理能力の相対的重要性は低下します。「できる子、できる人」の定義は、ペーパーテストの点数よりも、「人間ならではの力」「機械に置き換えられない能力」に遷移していくのです。

それは、オリジナルの新しいものを生み出していく創造力や、物事に意味を見出す力、人間関係を構築し深めていく力、そして、興味関心を持って自らチャレンジしていく力などで、一般大学よりも芸術大学の得意な分野なのです。


主要5教科と呼ばれる科目の学びは日本語ベースで行われてきたのに対し(英語教育も)、芸術の分野は言語への依存度が低いので、世界に発信しやすいのも大きな特徴です。社会科学、人文科学で世界的な業績を上げている日本人は少ない一方で、美術や工芸、建築、デザイン、音楽、映画、などでは、国際的な活躍をしている人がたくさんいます。

インターネットが発達して、自分の作品を簡単に安価に世界に知らしめるインフラも整っています。「私は会社員だ」などと自分にレッテルを1枚だけ貼るのではなく、地球社会を視野に入れた、自分自身の可能性発掘を考えてみてはいかがでしょうか?


(文・本間正人)

 

本間正人副学長が、文部科学省のYouTubeチャンネル 「今からスタート、今からスタディ!(いまスタ!)社会人の学び応援プロジェクト」にトップバッターとして登場。

「大人が自身に学習投資をして、最新学習歴の更新を」と語る本間先生。学び直しを考える社会人の方々の背中を押すメッセージが満載です。

 

 

  • 本間 正人Masato Homma

    「教育学」を超える「学習学」の提唱者・東京大学文学部社会学科卒業、ミネソタ大学大学院修了(成人教育学Ph.D.)。京都芸術大学教授・副学長・NPO学習学協会代表理事・NPOハロードリーム実行委員会理事。「楽しくて、即、役に立つ」参加型研修の講師としてアクティブ・ラーニングドリームを25年以上実践し、研修講師塾を主宰する。ミネソタ州政府貿易局、松下政経塾研究主担当、NHK教育テレビ「実践ビジネス英会話」「三か月トピック英会話:SNSで磨くアウトプット表現術」の講師などを歴任。TVニュース番組のアンカーとしても定評がある。一般社団法人大学イノベーション研究所代表理事、アカデミックコーチング学会会長、一般社団法人キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会理事、一般財団法人しつもん財団理事などを務める。

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