REPORT2026.11.04

京都/アート/歴史

妥協しない心、地域への愛着が紡いだ19年。粟田大燈呂プロジェクト2026参加学生にインタビュー!

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  • 出射 優希

今年も粟田神社の恒例行事である粟田祭が開催され、2026年10月11日(日)の夜渡り神事では、本学の学生が制作した新作3基を含む11基の大燈呂・中燈呂が巡行しました。粟田神社の氏子区域である地下鉄東山駅周辺を迫力ある大燈呂が彩り、地域住民の方をはじめ駆けつけた本学の教職員や在学生・卒業生が巡行の様子を見守りました。

今回の記事では、「粟田大燈呂プロジェクト2026」に参加した学生にインタビュー。28名のメンバーを代表して、マネジメント・スチューデント(以下:MS)の北坂雫さん(情報デザイン学科・2年)、根布莉乃さん(情報デザイン学科・3年)、そしてスサノオノミコト・アメノマヒトツノカミ・来年の干支である未(ヒツジ)と3基それぞれの制作リーダーを担当した金本笑さん(環境デザイン学科・3年)、志村美咲さん(プロダクトデザイン学科・2年)、角谷凛香さん(空間演出デザイン学科・2年)に、大燈呂プロジェクトへの思いや、春から夏へと半年間に渡る制作の様子をお話いただきました!

 

そもそも粟田祭って? 復興から19年を迎えた粟田大燈呂。

スサノオノミコト・オオナムチノミコトを主祭神として祀り、厄除け・病除けの神
と崇敬される。京都の東の出入口である粟田口に鎮座する為、古来東山道・東海道
を行き来する人々は旅の安全を願い、また道中の無事を感謝して当社にお参りされ、
いつしか旅立ち守護・旅行安全の神として知られるようになる。

——粟田神社HP「御由緒」より

 

粟田祭は、毎年10月に行われる粟田神社最大の祭礼行事です。京都の交通の要衝として栄えた粟田口で、悪疫退散を願う秋の恒例行事として、地域の人々に長く親しまれてきました。
初日の出御祭(おいでまつり)、2日目の夜渡り神事、そしてスポーツの日に行われる神幸祭・還幸祭、15日の例大祭までを粟田祭と呼び、現在では海外からの観光客も足を運びます。

神社からの依頼を受け、江戸時代から途絶えていたとされる大燈呂の制作・巡行を本学の学生が継承して今年で19年目。次年度には20年を迎える粟田大燈呂プロジェクトは、毎年まちを歩いてのフィールドワークからはじまり、原案の作成、学内、粟田祭実行委員会のみなさんへのプレゼンテーション、模型制作、材料の準備を行い、夏休みに本制作がはじまります。

 

スサノオノミコト、アメノマヒトツノカミ、ヒツジ。3基の燈呂に込めた思い

メンバー全員が、イラストや文章などさまざまな方法で2つのデザイン案を提出し、投票で決まったという今回の燈呂。原案が採用され、リーダーとしてチームをまとめた3人に、そのこだわりをお聞きしました。

「スサノオノミコト」は、粟田神社の主祭神として、これまでも繰り返し制作されてきた象徴的な神様です。昨年、過去作が解体されたことを受け、今年は新たなスサノオノミコトが制作されました。荒ぶる神、厄災を鎮める神、二つの側面をもつスサノオは、その性質から神仏習合の神である牛頭天王と同一の神だと考えられています。



テーマ「破壊と守護の狭間」

金本さん:1年生のときにも粟田大燈呂プロジェクトに参加しました。当時は右も左もわからず、模型段階では表情のかっこ良さを決める墨入れのことまで考えられていなかったので、すごく後悔が残ってしまいました。なので、今回もう一度大燈呂に挑戦するにあたって、その時の経験を活かし「ここに、こう墨入れしたら良い表情になる」と考えながら制作しました。

これまでは燈呂ひとつに一人の神様が乗っていましたが、それだと物足りないと感じがして、今回は同一視されている牛頭天王とスサノオの二体が争い合うような迫力ある場面を目標に制作していきました。

 

決まったサイズのなかで、どの角度から見てもかっこ良い燈呂にするため、何度も検討を重ねて背中合わせの構成に決定。巡行の際には下から見上げるような角度になることも考え、顔の角度にもこだわったと言います。

続いて「アメノマヒトツノカミ」は、粟田神社の末社にあたる鍛冶神社に祀られている、製鉄・鍛冶の神様。炎に包まれながら刀を鍛える姿を、鍛冶神社の狛犬たちが見守っています。



テーマ「祈りを打ち、災いを祓う」

志村さん:もともと日本刀が好きだったこともあって、平安時代から粟田地域で続いている刀鍛冶の歴史や文化に目を向け、鍛冶文化を象徴するアメノマヒトツノカミの案を出しました。鉄を打つことで不純物を取り除き、強い刀へと鍛え上げていく。刀を打つ姿に、人々の迷いや不安も打ち祓い、より良い未来を鍛え上げてほしいという願いを込めています。

 

熱い鉄が飛び散る様子や、炎と狛犬のコントラスト、炎に照らされた真剣な眼差しまで、臨場感がある燈呂です。

 

志村さん:アメノマヒトツノカミは一つ目なので、「子どもたちに怖がられるんじゃないか」という心配がありましたが、火力や鉄の状態を見極めて一振りに魂を込める刀鍛冶の真剣な眼差しだと伝わるよう、特に目の表情にこだわって墨入れ・蝋入れを行いました。巡行当日は、じっと見つめてくれるお子さんもいれば、かっこいいという声も聞こえ、うまく表現できたかなと、ほっとしました。


続いて、2014年から毎年制作している干支の動物。今回は、来年の干支である「未(ヒツジ)」を制作しました。時間や時空をつなぐ瑞雲と白川に囲まれた親子のヒツジが、中央の瑞光(めでたい兆しとして現れる光)に向かっていく様子が表現されています。

テーマ「光の絆」

角谷さん:ヒツジは干支で「未」と書きますよね。なので、テーマである「光の絆」に、未完成・未来など、これからに向けて発展していくという意味を重ね合わせ、見た人にも前向きな気持ちで明るい未来に進んでいってほしい、という思いで制作しました。

3基の中で、原案から完成まで一番デザインが変わった燈呂がヒツジかもしれません。螺旋を描いて光に向かっていく構図が特徴的なデザインですが、これは原案の段階からどうしても譲れない部分でしたし、ヒツジはどうしてもかわいいイメージが強い動物なので、燈呂として見た時にどうすればヒツジのかっこ良さを引き出せるか、ビジュアル面でもすごく悩みました。メンバー全員妥協したくなかった分、たくさんの意見をまとめることに苦労しましたが、最後まで折れずにできてよかったなと思っています。

 

瑞雲や水の表現など、曲線を表現することも難しかったそうです。3基ともそんな苦労は感じさせない、ただただ迫力ある美しい造形です。依頼を受けて制作するプロとして、伝統を担う職人として。一人ひとりの「妥協しない」精神が、粟田大燈呂の歴史を紡いでいます。

 

フィールドワークで理解を深め、地域のお祭りで種をまく。

そんな大燈呂の制作は、まちを歩きながらのフィールドワークや、お祭りでのワークショップなど、地域との関わりのなかで進んでいきます。

 

北坂さん:5月に行ったフィールドワークでは、粟田祭の実行委員会さんから直々に粟田地域についてお話を聞かせていただきました。過去に燈呂になった神様のお話や、鍛治神社などの末社のお話など、メモをとったり写真を撮ったりしながらお聞きして。自分たちでもリサーチをした上でそのお話を聞かせていただいて、より地域への理解や関心が深まる時間だったなと思います。

 

アメノマヒトツノカミの原案を考えた志村さんは、フィールドワークで見たあたたかなまちの姿が印象的だったそう。

 

志村さん:フィールドワークを通じて感じた人の温かさや、自然の豊かさ、穏やかな雰囲気がこれからも続いてほしいという思いで、「祈りを打ち、災いを祓う」というテーマを考えました。商店街のアーケードについたカラフルなランタンや、水路の側のベンチでご飯を食べる人たちの姿に自分の地元を思い出して、しみじみしました。

 

本制作を控えた8月2日(日)には、例年に引き続き「白川粟田子ども夏祭り」で子どもたちに向けたワークショップを開催。ワークショップで制作した提灯は、粟田祭の際に「子ども提灯」というかたちで大燈呂と並んで巡行します。さらに、希望した子どもたちが提灯を手に巡行の列に加わり、一緒に粟田祭を盛り上げました。

根布さん:粟田大燈呂が10周年のときに、お子さんたちのお祭り離れを危惧された実行委員会さんと当時のメンバーで考えて企画されたそうです。子どもの頃にお祭りに参加して楽しかったという記憶があれば、大人になってもお祭りに参加してくれるだろうという気持ちで行っているワークショップで、今年の参加は約60人、巡行には40人ほどの子どもたちが参加してくれました。

まちの中で育まれる地域への愛着が、粟田大燈呂の高いクオリティを下支えしているのかもしれません。

 

粟田大燈呂が、みんなの帰ってくる場所に。

10月11日(日)の夜渡り神事当日には、本学の教職員や、友人の応援に駆けつけた在学生、過去の粟田大燈呂プロジェクトに参加した卒業生らも集まり、地域の人に見守られながら巡行。大通りで大回転が披露されると、沿道の観客からは拍手が起こりました。

北坂さん:私はプロジェクト未経験から、根布さんの誘いを受けてMSに挑戦したんです。昨年お客さんとして見た粟田大燈呂がめちゃくちゃかっこ良かったことは覚えていても、今年大燈呂を引く側になったらどんな感じなのかは想像がつかなくて。はじまってみると、大燈呂を見に来た人で歩道いっぱいで、社会実装プロジェクトという言葉の通り、社会に入り込み、私たちの作品が地域を盛り上げる存在になっている、という実感が湧きました。それに、先輩たちが過去の大燈呂を引くために戻ってきてくれる。このプロジェクトはそういう居場所にもなっているんだなと、嬉しくなりました。

 

制作中も、プロジェクトを経験した学生が様子を見にきたり、蝋入れの講習を行ったり。先輩からの声かけに励まされたと語ります。リピートする学生も多い粟田大燈呂プロジェクト。中からも外からも脈々と繋がりが続き、制作のテクニックやチーム作りのノウハウが受け継がれています。

 

北坂さん:粟田大燈呂は今年で19年目で、これからも続いていく長い歴史の中に自分たちがメンバーの一部として関われるなんて、他にはない貴重な経験だったなと思います。それから、学科も学年も、もちろん性格も違うメンバーたちと、ぶつかりながらも家族みたいに制作できた半年は、本当に素敵な時間でした。

 

また、地域創生に興味があったことからプロジェクトに参加した角谷さんは、観光客の多さや、足を止めて写真を撮ってもらえることにも喜びを感じたといいます。

角谷さん:私はもともと普通の進学校に通っていて、チームでものづくりをした経験がなかったんですが、1年生のとき参加したマンデープロジェクト(瓜生山ねぶたの制作)ではじめて感じた達成感が忘れられず。それに、所属する空間演出デザイン学科で学んでいる地域創生に関わることをやってみたいと思い、このプロジェクトに参加しました。

制作中は大変で、「これ完成できるのかな?」と不安でいっぱいだったんですが、無事に走り切って迎えた巡行当日、あんなにたくさんの人が見に来てくれたことがすごく嬉しかったです。地域と密接に関わり合いながらチームでものづくりをした経験は、これから先の学びにもなっていくと感じています。

 

プロジェクトは「いいことだらけ」だったと語る角谷さん。巡行で見たお客さんの笑顔に報われたことが伝わってきます。

金本さん:巡行で直接お客さんから感想を聞けて「つくって良かったなぁ」と、本当に思いました。自分の考えたデザインが、イラスト、粘土、針金といろんな要素を経て立体になり、実際に大きな燈呂として現れ、そして感想を聞けたことは大きな経験でした。

志村さん:私も、かっこいい、ありがとう、頑張れと、たくさん声をかけてもらって、大勢の人に見ていただけたことが嬉しかったです。子どもからお年寄りまで世代を超えて繋がって、地域の人が一体になってお祭りを盛り上げている姿がすごくいいなって。粟田っていう地域が改めて好きになりました。

根布さん:「クライアントさんが求めている大燈呂をつくる」という経験を大学生のうちにできることは、人生の中で貴重で大切な宝物になると思っています。試行錯誤の中で生まれた作品を、来年再来年も巡行してもらえることも、このプロジェクトの大きな魅力です。

過去に制作された大燈呂も巡行に参加。地域の中にも、在学生や社会人になった卒業生たちの帰る場所が生まれていく

学生一人ひとりの成長が伝統に新しい風を吹き込み、来年本学が粟田大燈呂の継承をはじめてから20年目を迎えます。そうした時間の中で、在学時に粟田大燈呂プロジェクトを経験し、教員として再びプロジェクトに戻ってきた卒業生も。

ご紹介した大燈呂は、粟田祭の期間外でも、東急ホテル東山の三条通沿いと中庭のショーウィンドウに常時展示されています。中庭の大燈呂の点灯時間は18-22時。ホテル利用者以外でもご自由にご覧頂けますので、お立寄りの際はぜひご鑑賞ください。

 

(撮影:吉見崚)

 

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  • 出射 優希Yuuki Idei

    2002年兵庫県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。卒業後、ライターとして活動中。

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