1998年に4年制の通信教育課程を開設して以来、あらゆる人に開かれた学びの場を提供し続けている京都芸術大学。通信制大学院でも多くの社会人がさらなる芸術探求に挑んでいます。
なかでも、スキルアップを目指すビジネスパーソンや、学びの社会還元を目指す層から高い注目を集めているのが「学際デザイン研究領域」です。
創造的思考と構想力、行動力を磨き、分野を横断した研究を通じて社会の新たな価値創造を目指す同領域。
ピアラーニング(仲間とともに学ぶスタイル)での共創も大きな特色ですが、ここで出会った仲間たちと大学院修了後も研究を深め、一般社団法人を設立して「社会実装」を果たしたグループがあります。早川克美教授のゼミで学んだ「一般社団法人わらしべ」のメンバー、小林祐輔さん、西沢仁美さん、西村祐哉さん、渡邉玉緒さんです。
自己開示からはじまるオンラインの学び
「画面の前で一人粛々と進める」「人間関係が希薄になりそう」――通信制やオンライン学習に対して、そうしたイメージを持たれる方は少なくないかもしれません。しかも、世代も住む場所も職業もバラバラな大人たちが集まり、どのように強固な結束力を育んでいくのでしょうか。
「最初はカメラオフで“文字だけ”でのやり取りからスタートし、声のみ、そしてカメラオンへと段階を踏んでいきました。だからこそ、人見知りな私でも、見た目や雰囲気に囚われずに純粋な意見交換ができるようになりました」と振り返るのは、山梨県から参加していた渡邉さんです。
保育園を運営する小林さんも、「移動時間がかからない分、単発で高頻度に集まることができた。異なる土地や職業の仲間から聞く話は、常に新鮮でワクワクするものでした」と語ります。
早川ゼミの学びは、互いの価値観や葛藤をさらけ出す、徹底的な「自己開示」から始まります。年齢も経験も異なるメンバーが、フラットに本音をぶつけ合う環境が、対面以上の強い信頼関係と、心理的安全性を生み出していきました。

120案の試行錯誤から生まれた「女性管理職の感情表現ワークショップ」
4人の研究テーマである「女性管理職のストレスに対する感情表現ワークショップ」も、自己開示の中で共有された身近な葛藤から芽生えたものでした。
きっかけは、IT企業でデザインやビジネスに携わる西沢さんが、職場での出来事をメンバーに打ち明けたこと。「管理職として日々必死に頑張っているのに、同性の部下から『あなたのようにはなれない』と言われ、遠い存在に見られているジレンマを感じていました」。
リサーチを進めると、一定の経験を積んだ女性管理職ほど「できること」「できないこと」が見えるようになり、モヤモヤを外に発信できずに抱え込んでしまう実態が見えてきました。
「言語化するのが難しい感情に対して、無理に言語化を求めるのは酷。せっかく芸大で学ぶのだから、アート的なアプローチで向き合おうと考えました」と西村さんは語ります。
120案を超えるアイデアから精査し、試行錯誤を経てたどり着いたのが「iroとikiの感情表現ワークショップ」です。

本ワークショップでは、心理学者ロバート・プルチックの「感情の輪」を基に感情を「色(iro)」で表現する手法と、呼吸に関する先行研究を踏まえ、自身の「吐息(iki)」を水面の絵の具に吹きかけて模様を描くマーブリング技法を組み合わせました。
これにより、職場でのストレスに起因する言語化しにくいモヤモヤや感情を波紋やグラデーションとして可視化し、客観的に眺めたり、他者と分かち合えるプログラムです。
「ワークショップの設計にあたっては、早川先生から『神は細部に宿る』と叩き込まれました。参加者がリラックスして感情を解放できるよう、会場の照明や動線、BGM、テーブルに置くお菓子や飲み物の選定に至るまで先行研究を調べ尽くし、五感に働きかける設計を追求しました」と小林さんは明かします。

「研究」から「社会実装」へ――社会へひらく「受け皿」としての挑戦
修士論文を書き上げ、学会発表を終えた4人は、一般社団法人「わらしべ」を立ち上げ、研究成果を社会へ届ける「社会実装」のフェーズへと踏み出しました。
「学際デザイン研究領域で学ぶ中で、早川先生からの教えもあり、自分たちの中でも『研究をしっかりと社会実装(社会で実践)していくこと』が重要だという思いがありました。では、社会実装するための仕組みとして何が最適かを考えたときに、社団法人という形を作って飛び出してみようという話になったんです」と西村さんは振り返ります。
さらにこの法人化には、自分たちのワークショップの実践だけでなく、未来を見据えた構想も込められていました。
「同じように社会に向けたテーマを持つ他の院生や研究者と繋がり、コラボレーションしたり、それぞれの活動の『受け皿』になったりできたら素敵だなと考えました。そのためには、研究室に留まるのではなく、僕らがプレイヤーとして社会の中に出て行かなければいけない。それが社団法人を立ち上げた大きな理由です」(西村さん)
また、「研究」から「社会での実践」へと移行したことで、向き合うスタンスにも変化が生まれました。
「研究の段階では、仮説の正しさを証明するために前提条件を固定する必要がありました。でも、社団法人化した今は、来てくれた参加者一人ひとりにより深く向き合えるよう、説明をシンプルにそぎ落とすなど、より柔軟にアップデートを続けています」(西沢さん)



予定調和の日々に「新しい風」を吹かせる学びの場
大人になり、仕事でも一定の成果を出せるようになったからこそ陥りがちな「予定調和な日々」。大学院での2年間は、4人の仕事や価値観にも大きな変化をもたらしました。
シンクタンクで研究職に就く渡邉さんは、「仕事では数字ばかり追って現実が見えていなかったことに気づかされました。徹底的に “観察”する姿勢を学んだことで、職場でも『雰囲気が変わったね』と言われるようになりました。大人になってから、子どものように純粋な熱量を持つ仲間と出会い、自分の中の情熱に再び火を灯すことができたのが最大の財産です」と語ります。
西村さんもまた、「大人になってからゼロから始まった縁が、ここまで熱を帯びて持続することに驚いています。仕事のようなパターン化された正解のない『予定調和ではいかない世界』を取り戻すことができました」と笑顔を見せます。
西沢さんは、「通信制というと動画を見たりオンラインで会話したりするイメージでしたが、実際には絵を描き、フィールドワークや合宿もあって、すごく身体性のある学びでした。2年間を通じて得た経験が、しっかりと自分の身体の中に残っている実感があります」と手応えを語ります。
そして小林さんは、「最初は『良く見せたい』『良いものを出したい』という気持ちもありましたが、最後は他人の評価なんてどうでもよくなり、『自分が納得できるまでやるんだ』という境地に行き着きました」と苦笑。頭で覚えるデザイン思考ではなく、足を運び手を動かす『体得』の学びを通じて、仕事の枠を越えて純粋に突き抜ける体験ができたと感じているそうです。

画面越しであることを忘れるほどの熱い対話と、泥臭い試行錯誤を繰り返して得た絆。
圧倒的な熱量で2年間を駆け抜けた大人たちは、学びと社会に本気で向き合いながら、これからも「一般社団法人わらしべ」として挑戦を広げていきます。
一般社団法人わらしべ ワークショップ開催情報
「一般社団法人わらしべ」では、女性管理職の方々を対象とした体験型ワークショップを定期開催しています。
次回開催日時: 2026年11月13日(金)
詳細・お申し込み: 一般社団法人わらしべ note
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