その取り組みから生まれた記事を本Webマガジン「瓜生通信」でみなさまにお届けします。
京都河原町で路上ライブしている人にインタビュー
受験が終わる直前まで、芸術大学に進学するかずっと迷っていました。自分が本当に好きなことを選ぶのは、将来の選択肢を狭めるのではと不安にもなりました。
私は現在、京都芸術大学の文芸表現学科で小説や記事など文章について勉強をしています。この大学で文芸表現を学びたいと思った理由は、元をたどれば路上ライブでした。路上ライブを聞き、音楽に心を動かされ、音楽活動を始めて、今では歌詞を書くようになりました。特に、歌詞の物語性や文章で表現することに惹かれ、うっすらと文芸表現に興味を持つようになりました。そして、今は社会人になってから執筆活動とどう向き合うかに悩んでいます。
今回は、未来を選択する勇気をもらうべく、好きなことで生活している京都河原町の路上ライブをしているアーティストたちに、インタビューをしました。
好きが一番の原動力 —ニャージカル・ソウさん—

はじめに、ミュージカル・ソーというのこぎりの刃を使った楽器を演奏しているニャージカル・ソウさんに話を伺いました。彼女は沖縄出身で、曽祖父は三線を披露していたとのこと。生まれたときから身近に音楽があった止めないで、やってみたらいい彼女は、音楽を奏でることが楽しくて止められないと、楽しそうな声で語ってくれました。
好きであふれる行動力
ニャージカル・ソウさん:音楽を聞くと心から湧き出る何かを感じることがあります。たとえば、ある音楽を聴くときや、演奏するときに体に染み渡る感覚みたいなものが癖になって、気づいたら音楽に関わっていました。現在、京都で活動していますが、ミュージカル・ソウに出会ってからは演奏の技術を習得するために、普段は触らないパソコンを使って一生懸命情報収集して、ミュージカル・ソウの教室に出会うことができました。音楽が、普段ならしない行動を引き起こし、自分でも驚いています。
好きという理由だけで体が動いてしまう。ニャージカル・ソウさんのような人は、意外と少ないかもしれません。芸術大学ではおそらくそういう学生が比較的多いと思いますが、そこまで行動を起こせたり、没頭できたりするものがあるということはすごく尊いことだと思いました。
止めないで、やってみたらいい
また、彼女は夢を見ることの大切さを語ってくれました。
ニャージカル・ソウさん:社会の常識とか、安全に暮らすためにはルールがありますよね。多くの人は、そこで夢を持つことをやめてしまいます。けど、自分を信じて、自分にストッパーをかけずやってみてもいいと思います。みんながみんな同じだとつまらないから、わたしみたいな夢を見て自由に行動する人がいてもいいかなと思っています。
社会のしがらみや親の言葉で自分の夢をあきらめる人はいるかもしれません。しかしこうして自分の好きなことに触れている人は、やってみたらいいよと、こっそり応援してくれています。
誰かのエネルギーになれたら
ニャージカル・ソウさん:パフォーマンスをする上で一番こだわっているのは、見ている人に喜んでもらうことです。曲は聞いてくれている人に合わせて選んでいます。今日はちょっと下手かも、と思ったら途中でやめることもあります。外でやっている以上、苦情が入ることもあるし、『あの人、下手だな』って思われたくないです。
彼女の心遣いが一番垣間見える言葉でした。そして、少し照れながらこんな話もしてくれました。
ニャージカル・ソウさん:できるだけ、誰かの養分になれたらいいなって思っています。聞いてくれたその人にいいことがあって、その人がまた誰かを幸せにして、そうやってそのエネルギーが世界を一周したらいいなって。夢みたいな話かもしれませんけど、そういう気持ちで演奏しています。
京都河原町では外国人観光客が大勢通ります。ニャージカル・ソウさんを見て、こんな猫さんがいたと噂になったりしているかもしれないと思うと、夢を見て、動き続けることも悪くないのかもしれません。ニャージカル・ソウさんの話では、好きというだけで選んだ道を否定してくる人もいるの世のなかだけど、好きという気持ちのエネルギーを軽んじてはいけないと教えてくれました。
好きで生きるためのマインド —Renrenさん—

つぎにインタビューしたのは、路上やライブハウスでビートボックスを披露しているRenrenさん。彼は24歳で、専門学校に入る際に島根県の隠岐の島から大阪に出て、活動しています。今では路上パフォーマンス一本で生活をされています。しかし彼は決して、生活するためだけにパフォーマンスをしているわけではないと語ります。
お金よりも大事なこと
Renrenさん:ビートボックスで生活しているのは、お金持ちになりたいからじゃなくて、好きだからやっています。周りから『なぜ音楽で生活しているの?』と聞かれることもありますが、根本的なところに戻ったら好きだから、やりたいからやっている。ただそれだけなんです。
こう語る彼は自信に満ち溢れ、堂々としていました。稼ぐという動機だけでは、パフォーマンスを極めていくことはできないのでしょう。そんな彼も、一度は就職したそうです。
Renrenさん:一度、企業に就職したことがあります。ですが、ビートボックスの稼ぎが会社の給料を上回るようになって、これで生きていこうと決めました。もし、それで失敗して生活が成り立たなくなったら、その時はまた働けばいいと思っていました。やって後悔するよりもやらずにあのときやっておけばよかったなと後悔する方が、絶対に嫌だったんです。
この言葉には彼の信念がよく表れています。
路上ライブの価値
彼はSNSを使ったライブはしていないと話します。なぜ、生の演奏にこだわるのか、その理由を聞いてみました。
Renrenさん:SNSで聞いてもらうことはあまり性に合ってないと感じています。なぜならSNSって興味がないとすぐスクロールされちゃうのでなかなか自分のパフォーマンスを聞いてもらえません。でも路上なら自分のことを全く知らない人や外国人観光客にも見てもらえます。
あと、SNSのフォロワーのほとんどがストリートで僕を見てフォローしてくれた人です。SNS上の数字が重視される世の中ですが、人との繋がりを感じるっていうのは良いことなんじゃないかなと思っています。
また、実際に会ってフォローしてくれた人とは一つ一つの繋がりが濃いと語ります
Renrenさん:目の前で聞いてくれる人の顔が見られるというのは嬉しいですよね、昨日、聞いてくれていたお客さんがメモを書いて渡してくれました。メモには、『SNSよりストリートや現場で頑張っている人たちの方が心を動かされるから頑張って』と書いてありました。そういう生のパフォーマンスの良さを分かってくれる人がいるので、それは嬉しいですね。
わたしは、共感してくれる人がいるということこそが、この活動を続ける一番の理由ではないかと思いました。空間を作り、お互いの顔を見てパフォーマンスをする、その瞬間を彼は一番楽しんでいると感じました。生活のためだけに活動するのではなく、お金よりも大事な好きという気持ちを追求した先で偶然生まれるのがお金ということなのかもしれません。
夢を叶えていくということ
大きな目標や夢ばかりに囚われてしまう人が多い中で、最後に彼が、大切な考え方を思い出させてくれる一言を話してくれました。
Renrenさん:高校生のときはビートボックスでご飯食べて生活したいと夢物語で思っていました。今それができるようになったから、今度はどこで一番売れたいとか、こういうイベントやりたいとか、次の目標が生まれて、また一つ制覇すると次の野望が生まれます。最終ゴール地点を決めずに、とにかく今目の前にあることに挑戦したいと思っています。
Renrenさんのやらずに後悔する方が嫌だという言葉が印象に残るインタビューでした。文芸表現を学ぶことを選んだ時の私も、本当は同じ気持ちだったのかもしれません。今回の取材は、好きなことを続ける理由や、挑戦することの意味を改めて考えるきっかけになりました。
好きで結ぶエニシ —鵺×Tase—

最後にインタビューしたのは、ビートボックスとラップでコラボ演奏をしていた鵺さんとTaseさん。鵺さんは30歳で、昼間は、人力車の仕事をしており、夜に路上パフォーマンスをしています。一方Taseさんは20歳で、私と同年代。京都大学に通う学生でした。
一緒にやろうで広がる縁
鵺さんはライブを高校生の時から続けていて、この活動が生きるための原動力だといっていました。鵺さんが京都に来たのは昨年の11月。この二人は元々、向かい側の道で路上ライブをしていて、せっかくだから一緒にパフォーマンスしようと鵺さんが誘ったことから、縁がつながったそうです。きっと音楽活動をしていなければ出会っていなかった二人に一緒に音楽活動することの思いを伺いました。
鵺さん:11月に京都へ引っ越してきて、向かい側の路上で演奏していたのがTaseさんでした。最初は別々にパフォーマンスしていたけど、『正面で向き合っているとうるさいじゃん。一緒にやろうよ』
と声をかけたことがきっかけで、そこから一緒に演奏するようになりました。最初は、チグハグでなかなかうまくいきませんでしたが、今では息の合ったパフォーマンスができるようになりました。
路上ってレゲエのギター弾きやラッパーなど様々な人が集まっているので、ライブをやっていると、『一緒にやろうよ』で一緒に演奏が始まることもありますね。
実際、二人の周りにはラッパーやギタリスト、レゲエミュージシャンなど様々な人が集まっていました。彼らにとって、路上は演奏する場所であると同時に、人と人がつながる場所でもあるようです。
なんとかしなきゃで始まった路上ライブ
一方、Taseさんが路上ライブを始めた理由は、鵺さんと違って少し現実的な話でした。
Taseさん:去年の10月ぐらいにお金に困っていた時期がありました。アルバイトもうまくいかなくて、なんとかしなきゃなって、コロナ禍の時に遊びでやっていたビートボックスとラップを試しに路上パフォーマンスやってみようと思ったんです。
そしたら、思いのほかお客さんが来てくれて、稼げることに気づいて、それから続けています。
売れるまでの過程ではない
多くの人は、路上ライブを、「メジャーデビューまでの下積み」だと想像しますが、鵺さんは少し違う考えを持っていました。
鵺さん:昔は、路上ライブって、有名アーティストのように“売れるまでの過程”って思われることも多かったけど、俺の中では路上ライブが完成形です。楽しく稼げて、技術も上がって、友達もできる。最高のパフォーマンスの形だと思います。
昼は人力車の仕事をし、夜は路上パフォーマンスをする鵺さん。年齢的にも稼がないといけない現実もあったのだという。それでも彼の顔に曇りはありませんでした。
生きている感じがする
なぜ路上での活動を10年も続けられるのか尋ねると、鵺さんは少し考えてから答えてくれました。
鵺さん:これをやっている時が、一番生きている感じがします。将来性があるかと聞かれれば、自分でも分からないけど、やらなくなると楽しくなくなるし、楽しくないと、何も生まれないです。
やらなければ楽しく生きられないと思うほど好きなことを追えば、どんな人生でも彩りを足せるのかもしれません。また、路上ライブは演奏する場所であるだけではなく「一緒にやろう」の一言から仲間が生まれ、人の繋がりが生まれる場所でもありました。好きなことを続けることは、一人で夢を追い続けることではなく、人との縁を育て、自分の居場所をつくっていくことだと考え方が変わりました。
まとめ

彼らの物語はいかがでしたか。
今回インタビューをした「好き」を仕事にしている人たちに共通していたのは、特別な才能ではなく、好きだから続けること、そして挑戦してみる姿勢を持っていることでした。夢の形も、働き方も、人とのつながり方も三者三様でした。それぞれが自分なりの答えを見つけていたように思います。
京都芸術大学で学ぶ人も、卒業後に様々な人生を送っていると思います。卒業後、どんな深さで芸術に関わるかは本人次第ですが、自分で選んだ関わり方なら、きっと楽しいと、インタビューに協力いただいた三組から教えてもらえました。まだまだ将来の話で、わからないこともたくさんありますが、わたしなりの創作との関わり方を焦らず探していこうと思います。
(文=文芸表現学科 2年 村本 咲優 )
京都芸術大学 Newsletter
京都芸術大学の教員が「今、気になっている」アート・デザインの話題と、週に一度のコラムをお届けします。メールアドレスだけで登録完了、来週から届きます。
-
京都芸術大学 広報課Office of Public Relations, Kyoto University of the Arts
所在地: 京都芸術大学 瓜生山キャンパス
連絡先: 075-791-9112
E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp