「みんな、思ったようにはいかなかったんじゃないかな」。2026年9月10日、「瓜生山ねぶた」のクライマックスとなる表彰式。壇上に立った佐藤卓学長のひと言に、式場に集う1年生800名と、サポート役の先輩アシスタントや担当教員の全員が一瞬、息を呑みました。時をさかのぼること約2時間前の午後6時、彼らが3ヵ月かけてつくりあげた20基のねぶたが点灯。講堂、エントランス、ギャラリーで輝く白い巨体を見上げながら、お互いの成果と努力を称える歓声を送りあったところだったから。
「どれも、素晴らしかった」と学長の言葉はつづきます。「ただ、ひとクラス40人のチームは、ひとつひとつが小さな社会のようなもの。意見が衝突したり、相手の意外な一面を知ったり、いろいろあったと思うんです」。その、思いどおりにならない経験こそが最も素晴らしい、というメッセージに一堂が納得。『不易流行』という共通テーマのもと、何度も話し合ってコンセプトを練り、慣れない木組みや針金、和紙と格闘しつづけた日々が、それぞれの脳裏によみがえりました。
今年で19年目となる「瓜生山ねぶた」は、1年生対象のワークショップ型授業「マンデイプロジェクト」の最終課題です。学科もコースも違う学生同士がチームとなり、4月から月曜日ごとにさまざまな共同作業にチャレンジ。その集大成として挑んだのが、このねぶたの構想と制作です。春に芽生えて育った絆が、みんなの胸をさらに熱くします。




ところで、昨年のテーマをご存知の方なら、「今年はわかりやすいんだな」と思ったはず。『ん』という、ねぶた史上最も短く不可解なお題に比べて、「どこかに落とし穴があるのでは?」と勘ぐりたくなるほど。「いやいや、そうじゃないんです」と打ち明けてくれたのは、テクニカルディレクターとして長年、「瓜生山ねぶた」を支えてきた森岡厚次先生。「今年は、次が20周年となる節目のとき。数人で相談するよりも、このプロジェクトを最初の立ち上げから支え続け、今日のプログラムへと創り上げた、箭内先生に骨太なテーマを決めてもらおうと」 。
かくして発表されたお題『不易流行~変わらぬもの、変わりゆくもの。~』を、1年生が自分たちなりに解釈。2週間という限られた制作期間のなか、定められた数量の電球や和紙を使って、“かき氷”、“チェス盤”、“ギャルとユニコーンの融合”など多種多様なねぶたを生み出しました。その自由な発想に「ん?」となったり、裏にあるコンセプトを聞いて「ん!」と感心したり。つくる側も見る側も、歴代ねぶたプロジェクトの原点に立ち返るようなテーマでした。



こうして無事、点灯式を迎えた20基のねぶた。そのひとつひとつを先生方が審査し、高く評価された作品に賞を授与するのが表彰式です。佐藤学長が冒頭の挨拶を述べた壇上で、まずはテクニカルディレクターが選出する特別枠の「TD賞」をはじめ、実質4位の「同窓会賞」、「奨励賞」、「優秀賞」、そして最高賞である「学長賞」までの5タイトルがつぎつぎと発表され、クラスの代表者たちに賞状が手渡されました。
そんな名場面を熱く盛り上げたのが、約12日間にわたって“ねぶた”制作風景を撮りつづけてきたアーカイブチームの先輩たち。表彰式のはじまりを告げるメイキング映像では、担当教員たちのメッセージで笑いを誘い、歓喜と落胆が交錯する発表シーンでは、直前に編集したとは思えない映像演出を提供。式場を興奮の渦で包みました。
ではここに、表彰式で発表された、5つの受賞作品をご紹介します。
TD賞
Rクラス『時を醸す』

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芳醇な香りが漂ってきそうなほど、圧倒的な緻密さで再現された「酒樽」。その内に込められたのは、「発酵」という変化と、根本にある、変わらない「価値」。テクニカルディレクターの森岡厚次、先生方も「最初はどうなるかと思ったけど、この細かさをこのクオリティで仕上げたのはすごい!」と絶賛する、まさに“超絶技巧”が光る傑作でした。
同窓会賞
Nクラス『くわえて、くわえる、』



「木彫りの熊」がくわえているのは、その農民芸術に加えられたのは、いったい何なのか。着眼点だけでなく、木彫りならではのノミ跡を針金で表現した造形センスも見事。同窓会代表者が「私もねぶた一期生」という告白で会場を湧かせ、賞状をクラス代表に手渡し。そのコメントは涙で意味不明でしたが、みんなへの感謝は伝わりました。
奨励賞
Lクラス『拓』



京都の有名な石庭がモチーフの作品を、あえて地面に対して垂直に立たせることで、不易の枯山水に「上から見る」という新たな視点を生み出す。「鑑賞者を巻き込むアイデアがすばらしい」と芸術学部長の河田学先生が称えた発想力を、見る人自身も働かせることで、石庭の表に置かれた14個だけではない、15個目の石にたどり着けます。
優秀賞
Eクラス『風を追いかけて』



大地や根まで風になびいているような大樹の姿で、心に吹く風の動きを表現。「暑くて雨も多い制作期間でしたが、この作品のおかげか、風が吹きましたね」と副学長の荒川朱美先生が賛辞を贈った瞬間、わっと泣き崩れるクラス代表。じつは“学長賞じゃなかった悔し涙”だったとわかり、式場にも驚きと称賛の風が巻きおこりました。
学長賞
Rクラス『時を醸す』




「W受賞になっちゃいましたけど、どなたも文句なしではないかと思います」。そんな佐藤卓学長のコメントとともに一堂を納得させたのが、クラス代表のメッセージ。「このコンセプトにたどり着くまで、夏休みに連日みんなで話し合ったことが報われた」との言葉に、単なる技巧だけでなく、情熱と思考から生まれた作品なのだと感じ入りました。
「“学生たちに感動を届けたい”と初代理事長が建てたこの式場・春秋座で、皆さんから感動をもらえて嬉しい」。感慨ひとしおの理事長から、本年度の全ねぶたイラスト入り「ねぶたてぬぐい」を贈られ、全員集合の大撮影会で式は終了。
ここで、表彰式には出ないけれど、点灯式ではまばゆい存在感を放っていた、2組のねぶたを紹介させていただきます。ひとつは、本学附属の高校生有志による「高校生ねぶた」。「大学生にも負けてないってTDの先生に褒められました」と素直に喜びを語ってくれました。そしてもうひとつは、10月11日に行われる神事「粟田祭」で市中を巡行する「粟田大燈呂」。こちらは白い姿で点灯式を迎えましたが、いまから極彩色に塗り上げられます。ぜひ祭の当日に完成形をご鑑賞ください。
「瓜生山ねぶた」は今年で19回目の開催となりますが、1年生にとっては一生に一度きりの経験。悔しさも喜びも、変わらぬ思い出として、新たな創造の道標として、心に灯りつづけるでしょう。みなさん、本当におつかれさまでした。2026年だけの大作を、ありがとうございます。
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(文:つちやさちこ 撮影:吉見崚)
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