REPORT2026.03.27

デザイン

学生が提案する新たな道具―粘り続けて生まれるプロダクトデザイン

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  • 京都芸術大学 広報課

私たちの生活は、たくさんの「モノ」で溢れています。日用品や家具、電化製品に文房具など、私たちは「モノ」に支えられて生活を送っています。


そんな私たちの暮らしを豊かにする未来の「モノ」の形を追求し、デザインするのが、プロダクトデザイン学科です。「社会での実現」と向き合うことも、大切になってくるプロダクトデザイン学科の学びでは、その視点をより深めるために、企業とともに企業の課題を解決する「産学連携授業」がおこなわれています。

今回は、2025年度に行われたエレコム株式会社との産学連携授業、「エレコムプロジェクト」に参加した学生、横田寧々さん(3年生)、小林友梨さん(3年生)、藤本理花さん(2年生)、そして担当教員の時岡英互先生にお話をうかがいました。

左から 小林さん、横田さん、藤本さん、時岡先生


リサーチから始まるエレコムプロジェクト

エレコム株式会社では、ネットワーク機器をはじめとした製品が主に扱われていますが、キャンプなどのアウトドアシーンにも活躍する「NESTOUT」というシリーズも展開されています。
今回のプロジェクトでは、「新たなキャンプ体験を発見せよ」をテーマに、「NESTOUT」の新たな商品の提案を学生たちがおこないました。
プロダクトデザイン学科の産学連携授業は、毎年2、3年生合同でおこなわれており、ともに刺激を受けながら進められています。

初めはグループワークでコンセプトの立案や企画の立ち上げ、そしてそのあとの個人ワークでは最終プレゼンに向けてモデルやCGなどの作成、実現するためのプロダクトデザインを練る、という流れで進んだプロジェクトでしたが、参加した学生のほとんどがキャンプ未経験だったそうで、体験するところからスタートさせたと時岡先生は語ります。

時岡先生「キャンプをやったことない人が多かったので、9月にキャンプへ行きました。そのときに、エレコムさんから「NESTOUT」の道具、バッテリーを始め、照明、扇風機なども使用させてもらって。実際に使ってみるという体験にもなりましたし、アウトドアってこんなものなのかぁって、リサーチする機会にもなりましたね」

目にしたり手にするだけではなく、実際に使う環境に行って、道具を使うお客さんの立場になることで、見つかる視点があります。今回お話をうかがった3人の学生も、キャンプを体験したことで「モノ」のアイデアが浮かんだと言います。

 

キャンプ体験から生まれた学生のアイデア

キャンプ体験のあと、学生たちはそれぞれ感じたことをアイデアにしていきます。
その中で、横田さんが注目したのが、テントを固定するための「ペグ」でした。

横田さん「キャンプのあと付箋に感じたことをひたすら書いて並べて、整理しました。そのなかで私はテントに刺すペグがすごく気になっていました。ペグは、引っかかったら転倒につながるし、もし川の近くでテントをはっていたら、サンダルで歩くことも多く、危ないのではと思いました」

こうした気づきの中から、横田さんの企画は”キャンプにおける安心・安全”をテーマに展開していきます。

「テントを360°守る持ち運びやすい人感センサーペグライト」

アイデアを深めていくためには、ターゲットを定めることも重要になってきます。
小林さんのグループでは、「キャンプ初心者」をターゲットにアイデアを深めていきました。

小林さん「メンバーがほとんどキャンプ初心者だったので、キャンプは楽しいところと、課題だと感じるところが見えてきました。なかでも、初心者がキャンプギアを買うのはハードルが高いよねという話になりました。家でも使えるキャンプギアがあったらいいのではないかと意見がまとまりました」

ターゲットに寄り添った問題意識から、課題解決できるキャンプギアを考案した小林さんのグループ。自分たちが初心者という視点から、同じような悩みを持ったユーザー目線で企画を提案することができました。

「缶詰専用ホットプレート」

最後に、藤本さんのグループでは、「キャンプだからこそできるアート体験」をテーマに企画を進めました。子供の頃にキャンプで絵を描き遊んでいたメンバーの体験から、アイデアが浮かんだと話します。

藤本さん「テントという普段見ないワクワクするものに、絵を描けたら楽しいんじゃないか、とアイデアが浮かびました。企画をエレコムの方に発表したとき、ターゲットは、子どもたちだけど、買うのは大人だから親もワクワクできるプロダクトにした方がいいとアドバイスをいただきました」

藤本さんは、エレコムの担当者からのアドバイスを受け、持ち運びしやすいことや、描いた絵を消すことができるように実験をかさねました。
クライアントからのアドバイスを受けて、どう対応するかということも、産学連携授業では大切な学びとなっています。

「テントをキャンバスに子供の感性を育む体験」


社会の求めるモノと、自分が求めるモノ

3人ともキャンプを体験したからこそ生まれた気付きをもとに、コンセプトやニーズを考え、よりターゲットに寄り添ったプロダクトデザインを目指していきました。しかし、この産学連携授業では企業、社会と繋がることも重要な任務となってくるため、「実現できる」「売れる商品」といった角度からの視点も大切になってきます。
その視点を持ち、自分が見つけたアイデアをどう社会と結びつけ、お客さんに届けるかが、苦労したことだったと横田さんは話します。


横田さん「私は最初、ペグによる転倒を防ぐものを作りたかったんですけど、売れるかどうかを考えたら、あまりにもニッチすぎるから売れないんじゃないかと思いました。そこで、転倒を防ぐはサブの価値にして、防犯するのをメインにする判断をしました。」

お客さんに「売れる」ことを意識した横田さん。当初の目的とは違う方向性にする判断をしたことで、たくさんの苦悩がありました。

横田さん「売れるかもしれないけど、方向性を変えたことでモヤモヤが残りました。でも、発表後にエレコムの方から最初に提案してくれていたアイデアの方が尖ってたし、好きやったと言われて、自分が”売れる”っていう言葉に執着していたことに気がつきました。」

自分の「作りたい」を貫くのか、「売れる」ものを作るのか。この狭間で揺れて悩んだ横田さん。産学連携授業においてこのバランス感覚は非常に大切なことだと時岡先生は言います。

時岡先生「プロダクトデザインって、一番難しいのが自分の作りたいものとお客さんニーズのバランスを取るところなんです。本人のやりたい思いはもちろん大切だけど、商品は売れないといけない。そこのせめぎあいが、産学連携授業の醍醐味であって、実は一番いい学びなんです。」

プロジェクトに参加した学生たちは、エレコムの方へのプレゼンに向け懸命に取り組み続けました。
エレコム株式会社の本社での最終プレゼン。緊張感のなか進んでいったプレゼンでしたが、学生のなかには商品化に進んだり、アイデアが認められた人もいました。

プレゼンテーションの様子

昨年9月のキャンプ体験から始まり、2月の初旬に最終プレゼン、長期間に渡りおこなわれたエレコムプロジェクト。
たくさんの壁を乗り越えながらもプロジェクトを終えられた3人に、エレコムプロジェクトを通して学んだことや、今後も大切にしたいことについて伺いました。


藤本さん「先輩の意見を聞けたことが大きな学びでした。アイデアはでるけど、それをどう形にすればいいのわからなかったときに先輩に教えていただけました。2年生で産学連携授業を受けたからこそ学べたと思います。」

2年生で産学連携授業に参加された藤本さん。実践して使えるものにするのが初めてだったからこそ、先輩方からも学ぶことが多かったと話してくれました。

次に横田さんは、企画の方向性で悩んだからこそ見つけたことについて話します。


横田さん「自分がやりたいことと、求められていることをいかに両立させながら作ることの難しさを学びました。自分がやりたいことを深めていくことで、新しい価値が見出せると思いました。」

また、横田さんは身近に存在していた「モノ」の形から着想を得たことで、
身の回りにある物を見ることの大切さも学んだと言います。

横田さん「機能をみたり、構造をみたりして、これはプロダクトに反映できるかもとか、アウトプットするなかで大事なきっかけにもなるので、この先も身近なものをしっかり見ていきたいなと思いました。」

日々の生活のなかで、さまざまなところに目を向け、視野を広げていくことは、プロダクトデザインのきっかけにも繋がります。

最後に、小林さんは、技術面での学びについて話してくれました。

小林さん「3Dレンダリングをして、商品の形をより実物に近づけたり、技術面の学びがたくさんありました。今までは雑貨系を作ることが多かったので、いつも制作しない家電製品の機能などをみていくのも面白かったし、内部構造を学ぶ授業もありました。そこで製品を分解することで新しい学びもありました。」

雑貨系のデザインを中心におこない、家電製品を制作するのは初めてだったという小林さん。新たな挑戦だったからこそ、たくさんの学びがあり、技術面も向上することができたと話してくれました。

プロジェクトに参加したことで、得た学びや新たな発見がたくさんあった3人。
それぞれ学んだことや得たものは異なっているものの、その技術や考えを、これからも大事にしていきたいという思いは共通していました。


企業との連携のなかで、社会という視点を頭に置いてものづくりをすることが、大きな課題となる産学連携授業。
新たな発見の連続や、慣れないことや上手くいかないこともあったなかで、粘って粘り続けたからこそ、学生たちの素敵な作品が生まれました。
プロジェクトを終えて、新たな視点や学びを得た学生たちが、今後どのような未来の「モノ」を作っていくのか、とても楽しみです。

(文:文芸表現学科 3年 井野あまね)

 

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