REPORT2024.10.07

教育

産学連携授業ならではのプロダクトデザイン — 無印良品 京都山科×&PAPERS(マルシゲ紙器)×プロダクトデザイン学科

edited by
  • 上村 裕香

車、椅子、コップ、文房具、スマホ、玩具など、「モノ」に特化したデザインのスペシャリストを育てるプロダクトデザイン学科では、さまざまな企業とのコラボレーションを通してデザインを学ぶ産学連携授業が行われています。今回は無印良品 京都山科と、貼り箱で様々な雑貨を製作する&PAPERS(アンドペーパーズ)とのコラボレーションによる取り組みをご紹介します。

『&PAPERS』は、大正時代から続く貼り箱工房『マルシゲ紙器』を母体に持つ、ペーパープロダクトブランドです。烏丸五条近くにあるストア・ラボ・カフェを併設したショップには、色とりどりの紙や貼り箱が所狭しと並べられています。今回のプロジェクトでは、&PAPERSの製品に用いられている貼り箱の技術を活かし、無印良品の製品と組み合わせて「日常の困りごと」を解決するプロダクトを提案しました。

指導するのは、無印良品の外部デザイナーで本学非常勤教員を務める小山裕介先生と本学教授の北條崇先生。お話をうかがったのはプロダクトデザイン学科3年生の村井寛紀さん、太田雛乃さん、2年生の小堀周汰さんです。

左から 村井寛紀さん、太田雛乃さん、小堀周汰さん

お客様目線の商品開発

授業の初週には、&PAPERSのショップにうかがい、店舗見学を行いました。ショップにはペン立てやノートなど、紙で作られた雑貨が並び、世界中から取り寄せた様々な柄の紙が置かれています。
今回の授業を担当した小山先生は、元々、株式会社 良品計画で無印良品の家具や文具、子供用品のデザインを担当されていました。授業の開始時には、小山先生が仕事を通じて感じた無印良品の考え方や商品企画のメソッドをレクチャーいただきました。

ショップでは貼り箱を作るワークショップも行いました。貼り箱は、厚紙でベースをつくり、膠(にかわ)で表の紙を接着します。参加した学生たちは、「空気を含ませないように気を使う必要があるので、膠で接着するのが難しかったです。でも、膠を使うメリットもあって、動物の骨や皮から抽出されるコラーゲンが主成分なので、環境に害を及ぼさないんです。温めると柔らかくなり、接着力が復活するので貼り直すこともできます」と、実際に手を動かすことで素材の特性を学ぶことができたと話します。

翌週には、無印良品 京都山科と、&PAPERSを運営するマルシゲ紙器の店舗・工場見学へ。マルシゲ紙器では、貼り箱を製作する工程を見学し、実際に商品になるまでの過程や、その過程でかかるコストについて説明を受けました。

マルシゲ紙器ではひとつひとつ手作りで貼り箱を作っているため、カスタムが利きやすく、少数の注文も受けることができます。
小堀さんは、工場見学に行ったからこそ「自分がプロダクトを提案したり、試作したりしているときに『これを工場で作るなら、どんな工程が必要で、どのくらいのコストがかかるだろう』と考えて、作りやすさにこだわりました」と語ります。

無印良品 京都山科の店舗見学では、どういう商品を提案したら無印良品の製品にフィットできるだろうか、店舗にはどんな人が訪れているだろうかなど、学生それぞれの視点で店舗を見て回りました。
無印良品 京都山科は「食べる・見つける・買う」をコンセプトに、無印良品の標準的な品揃えに加え、野菜や肉、魚、惣菜、グロサリーなど、食に関する商品全般を取り扱っています。地域に寄り添う店舗として、食材の背景にある生産者の思いやストーリーを商品情報とともに掲示しているのも特色のひとつです。無印良品の考え方に共感する企業と協業し、山科地区を盛り上げることを目指しています。

無印良品の店舗見学を通じて、「『お客様目線』の商品開発について知ることができました」と太田さんは話します。

「無印良品 京都山科は『地域に寄り添う店舗』で、実際に地域の方に困りごとを聞いて商品開発に活かしているそうです。ユーザー目線での商品の改善にも力を入れていると聞きました。提案したものをお客さんに見てもらってフィードバックをもらって、お店だけで決定せずに商品を改善していくそうです」

暮らしの困りごとを見つめる

店舗見学のあとは、実際にプロダクトを提案するために個人ワークに移ります。「自分の暮らしにフィットするもの」をコンセプトに、自分たちの暮らしの困りごとを解決するプロダクトを考えていきました。
商品のターゲットは自分たちと同じ大学生。まずは、それぞれが暮らしの中で困っていることを写真に撮り、クラスメイトと共有して「小物の置き場に困っている」「ハンガーがごちゃごちゃして見える」といった困りごとを可視化していきました。

そして、次の週には1人ずつに「アイデアを50案考えてくる」課題が! 部屋の隅々まで目を光らせ、暮らしにフィットする商品のスケッチをいくつも書き出していきます。持ち寄った50案を教室に並べると、机がいくつも埋まる状態に。学生たちはそれぞれの案をじっくりと読み込み、「いいアイデアだと思う」「ここをもっとこうしたら……」と付箋にコメントを書いて投票します。他の学生からの意見をもとに5案に絞り、ブラッシュアップしていきました。

前半の授業では、自分たちの暮らしを見つめ、暮らしにフィットするプロダクトの案をまとめて、中間発表として&PAPERSと無印良品 京都山科の社員の方々にプレゼンを行いました。
ゴミ箱の中身を隠せるティッシュケースを考案した小堀さんは「無印良品の社員さんからは『お客さん目線でいいね』と言ってもらえて、『ティッシュケースを入れると歪んでしまうから強度が出るように工夫したほうがいい』というアドバイスをもらいました。&PAPERSさんからは『紙を貼りづらくなるからもっとシンプルな形にしたほうがいいんじゃないか』とご意見をいただきました。それを受けて、最終発表までに要素を足してみたり、削ってみたりと試行錯誤しましたね」と社員の方から受けたフィードバックについて話します。

思いつきで出したアイデアをどれだけ商品として実現可能性の高いものにできるか、ブラッシュアップしていけるかが大事なのだそう。ブラッシュアップする際、プロダクトを制作・販売している社員の方々に意見をいただけるのは産学連携授業ならではのことですね。

自分にフィットしたMUJIをつくる

授業の後半は、中間発表で受けたフィードバックを受け、提案するプロダクトをより洗練された商品へとブラッシュアップしていきます。8月には無印良品 京都山科での公開最終プレゼンテーションや展示を行いました。
成果展「暮らしをつくるものづくり展」は、8月9日(金)から8月18日(日)まで。無印良品の生活者視点のものづくり、シンプルで汎用性の高い商品をベースに、&PAPERS の生活を楽しむ姿勢と貼り箱技術を活用して、日々の暮らしをよりよくする道具を提案しました。

最終発表の最後には、無印良品 京都山科と&PAPERSの社員の方々の審査を経て、各賞が発表されました。今回は無印良品からいただいた7つの賞に選ばれた7名の中から、3名をご紹介します。

北之園 京都奈良事業部新店準備担当賞に村井さん、松枝 京都奈良事業部長賞に太田さん、岩本店長賞に小堀さんが選ばれました。

【北之園 京都奈良事業部新店準備担当賞】村井寛紀さん

ぼくはハンガー拡張パーツを考えました。細いハンガーを太くする、紙を使ったプロダクトです。細いハンガーは収納には便利だけど、跡がつきやすかったり、高級感が少なかったりする点に着目して、ハンガーが細い状態では洗濯物を干しておけて、拡張パーツをつけて太くするとスーツやシャツを型崩れせずに干すことができる商品を考えました。

無印良品のハンガーをよりよく使える商品です。構造はハンガーをガバッと包む形にしました。開いている状態だと平面なので、立体の形で生産・出荷する必要がなく、コストが抑えられます。
もう1つ提案したのは、ダストボックス用の蓋です。折り畳みタイプで、蓋を必要な分だけ開けておけます。
社員の方々には「完成度が高い」と言っていただけました。何度も試作し、カラー展開も考えて、シンプルだけど、細部までこだわって作れたと感じています。

 

【松枝京都奈良事業部長賞】太田雛乃さん

わたしは机の上の消しかすなどを捨てられる、ちょっとしたゴミのためのゴミ箱をつくりました。中間発表のときに「寸法の意味」を聞かれて、奥行きや高さ1つ1つの意味が説明できるように寸法にこだわって制作しました。この「ちょっとゴミ箱」は電車で使うことをイメージして、電車の桟にピッタリハマるような形にしました。

8の字ゴム構造なので、持ち運ぶ際は上に引っ張るだけで簡単に閉じることができます。中間発表で「なんでそのモチーフを使ったのか」についてもちゃんと説明できたほうがいいと言われていたので、無印良品 京都山科が力を入れている陸上養殖した鯖をモチーフに選びました。
また、棚の空いてしまう隙間を収納スペースとして活用できる隙間収納ボックスも提案しました。無印良品のスタッキングシェルフを使うとピッタリ収まります。

 

【岩本店長賞】小堀周汰さん

ぼくが提案したのはゴミ箱の中身を隠せるティッシュケースです。無印良品の社員さんには、「利用者目線でプロダクトを考えていていいね」と評価してもらえました。無印良品の「竹 ゴミ箱 大」と「竹100%卓上用ティッシュペーパー」とフィットするように、いろいろな形を試作してベストな形状を探りました。

使用していないときは折りたたむこともできて、使用するときはゴミ箱の上から被せるようにケースを置くことで中身を隠すことができます。色は無印良品の商品にフィットする差し色と、&PAPERSで取り扱いのある柄を使ったバージョンを考えました。他にも、ハンガーを入れる貼り箱なども発表しました。

産学連携授業ならではの学び

今回の授業を振り返って、村井さんは「いままで以上にコスト面を意識するようになりました。提案する商品は、形に凝ろうと思ったら凝ることもできるんですけど、そうではなくて、工場で生産できるものを想定して作っていくというのは産学連携授業ならではの作り方でした」と産学連携授業ならではの、プロダクトを制作する上で意識した点について話してくれました。
小堀さんも「配送する際に折り畳めるほうがいいとか、コストをどうやって抑えるかとか、普段考えない視点でプロダクトデザインを考えました。産学連携授業だからこその新しい学びだったと思います」と授業を振り返りました。

無印良品 京都山科と&PAPERS(アンドペーパーズ)とのコラボレーションによる授業を通して、工場で製品を作る現場目線・店頭で商品を手に取るお客様目線の考え方を学ぶことができたんですね。
今回お話をうかがった3人以外の学生が考えたプロダクトのアイデアも、多種多様で「暮らしをよりよくする」ために一役買いそうな魅力的なものばかりでした。今後、学生たちが考えた商品が店頭に並ぶこともあるかもしれません。もし見かけた際は、細部まで意味を考え、ユーザー目線のプロダクトデザインにこだわった学生たちの商品をぜひ手に取ってみてください!

 

 

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  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

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