REPORT2024.09.04

教育

2035年の京都の未来のくらしを考える — パナソニック×プロダクトデザイン学科の産学連携授業

edited by
  • 上村 裕香

車、椅子、コップ、文房具、スマホ、玩具など、「モノ」に特化したデザインのスペシャリストを育てるプロダクトデザイン学科では、さまざまな企業とのコラボレーションを通してデザインを学ぶ産学連携授業が行われています。今回はグローバル企業であるパナソニック株式会社デザイン本部とのコラボレーションによる取り組みをご紹介します。

今年度のテーマはずばり「2035年の京都の未来のくらし」!
この記事では、プロダクトデザイン学科3年生の八木佑磨さん、市岡瑞季さん、藤永悠生さん、三木心暖さんに、パナソニックから学んだ未来のビジョンを考えるメソッドを使って、プロダクトデザイン学科の学生がどんな理想の未来を想像し、プロダクトを提案したのか伺いました。

イメージが変わった

この授業は大きく前半と後半に分けられ、全14週の授業のうち、前半の7週はグループワークを行い、後半の7週は個人制作でプロダクトを考えました。14週を通して「2035年の京都の未来のくらし」というパナソニックから提供されたテーマについてパナソニックのデザイナーの方々に毎回入れ替わりで来校いただき、直接講義や指導を行っていただく中で、学生同士でも議論しつつ、考えを深めていきました。

授業のはじめには、イントロダクションとしてパナソニックという企業の考え方や未来構想についての講義があり、2週目にはパナソニックミュージアムの見学も行いました。パナソニックの経営理念と歴史を学び、過去を知ることで、未来を考えるための取り組みです。
パナソニックミュージアムの見学を通して、「会社へのイメージが変わった」と三木さんは言います。

「ミュージアム内には年表があったり、どの製品が何年に作られたかがわかるように並べられていたりして、歴史がわかりやすかったです。見学に行くまでは、パナソニックはグローバル企業で規模も大きい会社なので『お堅い企業なのかな』と漠然と想像していたんですけど、会社見学に行ってみると『未来や世界を見据えている、フレキシブルな企業なんだな』という印象に変わりました」

2035年の京都の未来のくらし

グループワークに移ると、4人1組に分かれ、まずは「今の暮らしにおける未来の兆し」について考えていきました。自動運転やAIの発達、VR技術の導入など、日常の中にある未来の兆しを見つけることで、そこから未来がどう変化していくのかという仮説を立てていきます。
ここでは、このままだと悪い方向に未来が進んでしまうんじゃないかと想定する「成り行きの未来」と、自分たちがあるべき姿だと感じる「理想の未来」を分けて考え、未来に想定される課題に対しての理由や対策を洗い出すことで、コンセプトを明確にしていきました。

たとえば、今回取材した4人のグループの理想のビジョンは『多様な価値への「トライ」を恐れず/諦めず/気軽にし続けられることで、未知に出会う喜びと理解し合える相手が増える、安心感が広がるくらし』。
自分たちの理想の社会を言語化し、ひとつの文章にまとめることで明確なビジョンを描くことができるのだといいます。そのビジョンをもとに、いくつかの社会的場面や公共空間における具体的な「あるべき姿」をそれぞれに書き出したものがこちらです。

前半の授業では、こうした自分たちの理想の未来を言語化し、社会的なシーンや提案したいプロダクトについてまとめ、中間発表としてパナソニックの社員の方にプレゼンしました。

藤永さんは授業を通して社員の方から受けたフィードバックについて「文章の精査をすごく細かく行いました。ぼくたちのビジョンの1つ目の言葉である『多様な』という言葉も、『多様な』でいいのか、ちがう言葉の選択もあるんじゃないかと、検討に検討を重ねて。パナソニックの社員さんに何度もフィードバックをもらいながら、言葉ひとつひとつにこだわりました」と振り返ります。
今後、ポートフォリオを制作するのにも役に立つと感じたそう。「プロダクトを魅力的に伝える言葉づくり」を学ぶことで、自分のアイデアをより明確にプレゼンできそうですね。

2035年に必要なプロダクト

授業の後半では、前半で考えた理想の社会を実現するためのプロダクトを提案しました。グループワークで言語化したテーマをベースに、具体的な個人のテーマを設定し、最終プレゼンでは考案したプロダクトを3DCGモデルや映像、イラスト、文章などで表現しました。

ここで、「プロダクトデザインって、具体的にどんな手順でやるんですか?」と直球な質問をぶつけてみると、市岡さんが制作過程の記録を見せてくれました!

市岡さんが考案したプロダクトは「どこでもキャンバス」という、子どもが街中でアートを楽しめるVR技術を提案するプロダクトです。最終的な形はこちらの虫眼鏡型。

虫眼鏡を覗きながら液晶画面の向こうにある街の風景に指をすべらせると、液晶に映った風景に色とりどりの線が引けたり、ペイントできたりするプロダクトを考えました。

虫眼鏡の形がかわいらしいこちらのプロダクトですが、最終形に行き着くまでには様々な紆余曲折があったと言います。
「まずは、前半のグループワークで考えた『グループでの実現したい未来』から、『自分の実現したい未来』に落とし込む作業を行いました。システムマップを利用しながら、理想の未来を実現するために特に重要な要素や、想定される社会的場面を書き出し、それを実現するためにはどうしたらいいのかを要素ごとに書き出していきました。そのあとは、いまの最先端の技術で作られている製品について調べて、2035年の未来ではどんなふうに進化しているだろう、と考えました。そのイメージから、ラフスケッチや3DCGのモデリング、試作などもして、教員やパナソニックの社員さんからフィードバックをもらって造形を練り直す。そういった、行ったり来たりの工程を繰り返しながら、プレゼンの形にたどり着きました。最初はスプレー型のデバイスを考えていたのですが、子どもたちが興味を持ちやすい形にしたいと思って、虫眼鏡型のデザインにしました」

デザインへの向き合い方

アイデアを展開していくときにも、パナソニックの社員の方が毎授業来られ、感想や意見をくださったそう。7月末の最終プレゼンでも、16人の学生がそれぞれにプロダクトを提案し、フィードバックをいただきました。
京都市のごみ問題と人の移動についての問題を解決するため、「ごみ収集キックボード」を提案した三木さんは、「ぼくも、市岡さんと同じように制作過程で立体物と平面の組み合わせに悩んでいました。キックボードで移動する際に、収集したゴミを入れておけるボックスがあればいいなと思ってデザインしたのですが、ゴミを入れる部分が大きすぎて邪魔だという指摘があって、最後まで形状には悩みました。最終プレゼンでも『プレゼンで紹介した造形以外も考えてみたらいいんじゃないか』というアドバイスをもらいました。いま、ブラッシュアップしている最中です。ポートフォリオに掲載できるように、よりよいデザインを考えています」と話します。

今回の授業を振り返って、八木さんは「これまでは、デザインを『問題解決』の手段として考えていることが多かったのですが、この授業で未来を考えているうちに、デザインへの考え方そのものが変わったと感じます。2035年の未来はどうなっているかわからないし、どういった問題や解決策があるのかもわからない。そんな中で、逆に『問題を定義づけることこそ、デザインの役割なのかな?』というふうに感じました。なにかを解決するためのデザインというよりは、問題へのアプローチの仕方を考えるデザインの方法を身につけられたように思います」と自分のデザインへの向き合い方が半年の授業を通して変化したことについて話してくれました。
グループのほかの3人も「たしかに」「わかる」と深くうなづいていました。

グローバル企業とのコラボレーションによる社会実装授業を通して、2035年の京都の未来のくらしについて考えた半年間。学生たちにとっては、今までとは違う枠組みでプロダクトデザインを考えられる、有意義な時間になったようです。
みなさんは、2035年の京都と聞いて、どんな未来のくらしを想像しますか? 今回お話をうかがった4人以外にも、学生が考えたプロダクトのアイデアをいくつかご紹介します。みなさんも、理想の未来に向けて、想像の羽を広げてみてください。

 

 

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  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

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