プロダクトデザイン学科では毎年さまざまな産学連携プロジェクトが行われており、後期の授業ではインテリアや家具を扱う企業と連携した授業を毎年開講しています。
2022年度後期には、あの日本を代表する木工家具メーカー「マルニ木工」とのコラボレーションが行われましたので、瓜生通信でその全貌をレポートします。
日本を代表する木工家具メーカー「マルニ木工」
家具好きの方なら誰しもがご存知かと思いますが、「マルニ木工」は創業以来、木製洋家具作りに取り組んできた「木」を知り尽くした家具メーカーです。1928年に広島で創業し、技術難度の高い木材の曲げ技術を擁し、「工芸の工業化」をモットーに、家具の工業生産を日本ではじめて確立させたといわれています。材料の選別から部品加工、組み立てや塗装・張りなど、木工家具生産に関わる全ての工程を一貫して行い、創業以来、木工家具づくり一筋で歩んでこられました。
「木」という素材に対する美意識の高さや、精緻なモノづくりの技を融合した家具づくりを行い、近年は世界的に高い評価を受け、日本のみならず、世界中の公共施設などに製品を納入されています。
なかでも有名なプロダクトは「HIROSHIMAアームチェア」ではないでしょうか。
世界の定番を作ることを目指して2008年に開発されたこの椅子は、現在、空港のラウンジやレストランやカフェ、オフィスなど世界中で愛用されています。例えば、アップルの本社「アップル・パーク」では、「HIROSHIMAアームチェア」がずらりと並んでいます。
マルニ木工×プロダクトデザイン学科
今回の産学連携プロジェクトでは、大江孝明 准教授が自身の研究内容を踏まえ、デザインテーマとデザインプロセスを構築し、マルニ木工さんとの合意を経てプロジェクトをスタート。木を知り尽くしたマルニ木工さんと一緒に、「木」と「家具」のリサーチを行い、木を使った新たなインテリアプロダクトを提案しました。
多様化する社会の中で、さまざまな暮らしがある今、「木」を使って家具を作る本質的な理由、そして現代社会において木製家具が必要な理由を探求し、それぞれの学生が「家具」を実際につくり、木製家具の果たす役割や機能を形にしていきました。
最終プレゼンにはマルニ木工の山中 洋 代表取締役社長にもお越しいただき、学生それぞれが考案した木製家具をプレゼンテーションしました。単なるプレゼンではなく家具モデルも制作し、実際に山中社長や先生方が腰掛けたり触ったり、使い心地を試しながら講評が行われました。
プレゼン後には大江先生から山中社長へのインタビューが行われ、今回の産学連携プロジェクトや学生の作品、そして木製家具をつくることについてお話を伺いました。
大江先生:本学との産学連携プロジェクトにどのように印象をお持ちですか。
山中社長:マルニ木工としては大学と産学連携プロジェクトを行い、学生のみなさんの授業に参加させてもらうことは初めての経験でした。最初は期待と不安が入り混じっていましたが、授業の回数を重ねるごとに学生の考えや思いを体感できるようになり、僕自身とても勉強になったということが正直な印象です。
一番自分の中で気づきがあったことは、学生のみなさんが持つ初心の大切さです。やはり社会に出てから長い時間が経つと知識や経験が増えていきます。それはそれでもちろん良いことですが、一方でできない理由ややらない理由を考えるようになってしまう、そんな側面もあります。だから今回学生のみなさんが考案したアイデアの通り、いろんなしがらみやフィルターのない、クリエイターとしての純粋な探求心を持ち続けることが大切だとあらためて気づかされました。
これは学生のみなさんがこれから社会に出ていく上でのアドバイスでもあります。さまざまな分野でご活躍されると思いますが、やはりいいアイデアやデザインだけではダメな局面が出てきます。その状況を乗り越える力として、初心、そして純粋な探求心を持ち続けていてほしいなと思います。
大江先生:学生の作品の中で面白いと思った作品を教えてください。
山中社長:もちろん作品すべて興味深いものばかりでしたが、特に塚本安紀さんや辻有夏さん、長谷川文乃さん、早坂灯子さん、そして吉岡英さんの作品はテーマに対する考え方や視点が個性的だと思いました。最終プレゼンで聞いた説明も理路整然として分かりやすく、オリジナリティ溢れるアプローチだと感じ、興味を持って聞いていました。
大江先生:「オリジナリティ溢れるアプローチ」というと?
山中社長:例えば、長谷川文乃さんは、木が生きていて、空気の湿度や木の水分量によって木に曲がり、反りが生まれることに着目し、“自然に反っていく木の動きを楽しむ家具”《SORI stool》を提案してくれました。実は木製家具をつくる上で、反りなどの木の動きは一般的にタブーとされています。逆に木製家具メーカーは、木は動いちゃいけない、反っちゃいけない、曲がらないためにどうするかみたいなアプローチを考えるので、驚きの発想でした。
早坂灯子さんは木の“経年劣化の美しさ”に着目し、一緒に成長する家具《SOU》を提案しました。幼児期は机として、学童期は学習椅子として、成人期はリラックスチェアとして。一つの家具が時の流れとともに家族と一緒に成長し、目的用途が変わっていくさまに驚きました。これはある意味サステナビリティの発想でもあると思います。世代を超えて長く使う、もしくは、用途を変えながら家族と共に歩んでいくというのはすごくいいアプローチだと思いました。
こういった着眼点が「オリジナリティ溢れるアプローチ」だと思います。
ビジネスの現場においてはコスト意識もあるので、そもそも作れない、売れないといった話はどうしても物を作る上で出てきます。しかしそういったことを一旦取り払って、純粋に木と向き合って出てくるアイデアたちが「オリジナリティ溢れるアプローチ」ではないでしょうか。今回の学生たちの提案からそれを感じ、例えばビジネス経験が豊富な社会人が純粋な視点をもった学生のアイデアを昇華させるなど、そんなコラボができるとなにか面白いことができそうだとも思いました。
大江先生:今回のテーマは「木」でしたが、マルニ木工さん、あるいは山中社長が捉えている「木」の良さってどんなものでしょうか。
山中社長:「天然素材を使って工業製品を作る」という矛盾が一番の魅力だと思っています。それを、プラスチックや鉄といった素材はそもそもが加工製品ですが、「木」って素材自体が天然なんですよね。だからこそ経年変化が生じたり、木目の違いが生まれたり。
木の触感や匂い、そして音…そんな五感に訴える要素も多いです。そんなものを使って工業製品にする素材ってあんまり無いですよね。それが「木」の持つ、天然素材ならではの魅力だと考えています。
木製家具をつくっていると、一期一会のような切なさも感じたりします。同じものには二度と出会えない。同じ形をしていても、厳密にいうと木目の違いなどによって全ての木は違う表情をしています。実際にお客様の中でも一つひとつの家具が魅せる表情を大事にしている方もいらっしゃいます。作り手にとっては、すべての家具が基本的には違う個体のように感じるので、そういう意味で二度と出会えない木目には、切ない哀愁を感じるところもあるし、逆に魅力にも感じますね。
大江先生:塚本安紀さんはひとつひとつの木目の違いに着目して、より木目の美しさを感じられる家具を提案しました。これは天然素材としての「木」の面白さを問う製品だと思いますが、一方で均一化が進む現代社会ではそれを許容してくれないことがあると思います。いま世の中に出ている木工製品が一寸の狂いもなく完成されすぎていて、ユーザーも木が天然素材であることをあまり認識していない可能性があります。
山中社長:逆説的ですが、それは私たちメーカー側にも責任があると考えています。お客様からのクレームを恐れて良い製品を突き詰めてしまうと、どんどん製品が無機質になって創造できないという本末転倒なことになってしまいます。一概に「木」という天然素材の面白さをお客様が理解してくれないというわけではなく、やはり作り手の私たちにも責任があると考えています。作り手にそもそも森に行ったことがあるのか、木が生えているところ見たことがあるのかと問うと、きっと全員は手を挙げないのではないでしょうか。やはりこの業界や事業に携わるのであれば、直接的・体験的に「木」関わってこそ得られる知識が必要だと思います。
実は成木を100%としたときに、家具として使うことができるのは10%ぐらいなんですね。丸太になった時点で、すでに半分以下。で、それを板に引いて、加工をしていくと大体10%ほどになります。だから、残りの85%はその過程で捨てられている。そう考えると、すごく貴重な資源を使っているんですよね。しかも家具用の木は大体樹齢80年とか100年のものを使っています。だからこそ、やはり2,3年で壊れたり捨てたりされちゃダメですよね。50年、100年と長く使えるものにしないといけないです。
こういうことを私たち作り手がもっと発信していかなければならないと思っています。そして実はこれは家具業界だけではなく、「木」に関わる業界全体の問題だと思っています。デザイナーや建築家、ゼネコン関係、そして今回のように学校も、木に直接・間接的に関わる人が啓蒙活動を地道にやっていく以外は方法がないと思います。
大江先生:そうですね。学校という言葉も出ましたが、我々教育者がどれだけ素材の話を学生たちに伝えていけるかどうか、責任ある立場だと思います。
今回マルニ木工さんとご一緒させていただいて、大学の教育的視点がより学生に伝わった感触があります。山中社長からお話を伺って、今回の産学連携プロジェクトに意味があったことを確信しました。ありがとうございました。
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