INTERVIEW2026.03.31

京都アート教育

医学研究所北野病院 産婦人科病棟に、そっと寄り添うアートを ホスピタルアートプロジェクト「HAPii+」2025

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  • 出射 優希

医学研究所北野病院 産婦人科病棟に宿す、2025年度後期ホスピタルアート

丁寧にマスキングを行い、院内で静かに黙々と絵筆を動かす学生たち。壁に向かう真剣な背中が、ホスピタルアートプロジェクト「HAPii+」に取り組む学生たちの熱量を映し出しています。

2025年度の後期は2つの病院にご依頼いただき、施工を行いました。そのうちのひとつが、医学研究所北野病院の産婦人科病棟。

医学研究所北野病院は、2021年度に取り組んだNICU(新生児集中治療室)・GCU(新生児治療回復室)、2022年度に外来待合エリア、2023年度の化学療法センターにつづき、4度目のご依頼です。これまでの取り組みで築いてきた信頼関係のもと、より繊細さやきめ細やかな配慮が求められる現場への挑戦となりました。ナースステーションの周囲や、デイルームと呼ばれる妊婦さんと面会のご家族の交流スペース、デイルームに面した新生児面会窓、そして分娩室・処置室へつながる廊下の壁面にホスピタルアートを施します。

 

過去の医学研究所北野病院でのプロジェクトレポート(https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/1248

 

生まれたばかりの赤ちゃんの声や、立ち働く医療者の方の足音。そして、さまざまに不安や緊張を抱えたお母さんたちの存在を背に、一人ひとりが繊細に空間デザインへ向き合ったホスピタルアートは、どのような試行錯誤を経て誕生したのでしょうか。制作に取り組んだ学生たちを取材しました。

 

ホスピタルアートプロジェクト、HAPii+とは?

「HAPii+」とは、ホスピタルアートを通じた病気や怪我の治療に励む患者さん・ご家族・医療従事者方に向けて、ホスピタルアートを通してより安心できる空間づくりに取り組む社会実装プロジェクトです。学生らが主体となって図案の構想、病院へのプレゼンテーション、意見交流、作業計画の策定を行い、アート・デザインの力が社会でどのように貢献できるかを考えます。

 

産科病棟で過ごす人の胸のうちに「そっと、よりそう」

お話を伺った学生 左から 森地さん、横井さん、神原さん、大高さん

“ひとつひとつの気持ちに、そっと寄り添う”というコンセプトで制作された今回のデザインの背景について、リーダーの神原彩さん(キャラクターデザイン学科 キャラクターデザインコース|2年)と、副リーダーの大高美爽斗さん(プロダクトデザイン学科 クロステックデザインコース|1年)はこう語ります。

神原:産科病棟で過ごす人たちはいろんな思いを抱えていて、同じ病棟の中でも、場所や人によって感じていることが変わるので、一つひとつの感情を大切にしながらデザインを考えていきました。北野病院の方から、提出した3案ともいいと言っていただけたので、そこをどう組み合わせるかが難しくて。3案のうち1つをデザインのメインに使って、残り2案はプラスアルファで赤ちゃんの足型を押すお祝いカードのデザインとして生かしました。

大高:いろんな気持ちがある中で、どういう形が一番相応しいかなと考えて、古くから日本で安産祈願に用いられる組紐や七宝紋用、犬など、縁起の良いモチーフを取り入れています。一つの気持ちだけじゃなく、いろんな気持ちを包括できる、寄り添えるデザインを目指しています。北野病院さんでは、お祝い膳はフレンチを出していたり、内装も和の要素はないので、和風なモチーフは合わないかもという話も出て、そこはどう組み合わせてバランスを取るかが難しかったですね。

祝福の時間だけでなく、深刻な状況も想定される産科病棟で、そよ風のようなデザインが優しく空間を包み込んでいました。

今回だけでなく、どの病院とのやりとりでも、デザインの決定までは何度も意見交流会を重ね、イメージの相違がないかを確認すると同時に、そこで働く医療従事者の方にも受け入れていただけるデザインを探っていくのだといいます。

また、これまでは改装中の院内で描くことが多かったといいますが、今回は患者さんが過ごす院内での施工。ゆっくりと歩くお母さんの姿や、子どもたちの泣き声、その場で過ごす人たちの空気を直に受け止めながら、空間に合わせてデザインのブラッシュアップを続けました。

 

プロジェクトマネージャが受け継ぐ、HAPii+のマインドとノウハウ

どんな現場でも、その場の光や空間に配置したときのバランスを見て、少しずつ調整する細やかさ、そして変更を重ねても混乱しない現場管理の方法は、代々HAPii+に参加した学生たちが積み上げてきたもの。

そんなノウハウを受け継ぎ、次に繋げる役割を担っているのが、リーダーを中心に俯瞰しながら進行を支えるプロジェクトマネージャー(以下PM)の学生です。今年度は、過去にもHAPii+に参加してきた森地眞花さん(情報デザイン学科 ビジュアルデザインコース | 2年)、横井優さん(情報デザイン学科 イラストレーションコース | 2年)を含む4名がその役割を担いました。制作の最前線に立つのではなく、チームの空気や進行状況を見極めながら方向性を整え、完成度を高めていく役割を担い、二人はどのようなことを考えたのでしょうか。

横井:PMは、メンバーと一緒に同列に並んで走っていくというよりは、一歩後ろからみんなの様子を見守って、より良い方向に導く役割だと思っています。

森地:PMになって、メンバーの一人ひとりと向き合う時間が増えました。ビジュアルを作ってくれている人も、施工の設計をする職人も、全員と関わるからこそ、誰一人置いていかないという気持ちをもちながらマネジメントするようにしていました。

人のためのデザインに関心があったという森地さんと、納品するまで様々な角度から言語化を重ねるPMの仕事を通して、成長したいと話す横井さん。常に自分の役割を顧みながらどっしりと構えるPMは、プロジェクトメンバーを励まし、ときに全体を一段引き上げる存在です。現在は、卒業した学生も教職員としてHAPii+の現場を支えてくれています。

 

HAPii+を通して社会へ向き合い、プロとして変化を続ける学生たち

ホスピタルアートを通して、クライアントや、そのデザインを受け取る人たちと向き合い続けることで、メンタリティも、技術面も、深く掘り下げていく学生たち。学科での制作にも、プロジェクトでの経験が影響を与えているといいます。
神原:キャラクターデザイン学科で行っているゲーム制作でも、HAPii+で知ったスケジュール管理の方法が活かされている気がします。もともとは思い付きで動くタイプだったんですが、みんなが作業に参加できる時間を管理すると、この日制作を進めたいという時に集めやすかったり、スケジュール管理をできた方が動きやすいな、と思うようになりました。

横井:私はクオリティに関して、これまでは自分の満足したところで終わってしまうことが多かったんですが、PMになって自分が指摘をする側になり、自分の雑さも正せるようになってきました。それから、HAPii+では病院のみなさんとコミュニケーションを取る場面が本当に多くて、“クライアントの求めていること”を考えるようになりました。最近は課題を制作するときも、先生たちがクライアントという意識になってきて、授業ごとにシラバスを読み込むようになったのも大きな変化でした。

 

HAPii+への参加を通して、変化を続ける学生たち

プロジェクトの当初から、そんな学生たちの様子を見守ってくださっている北野病院の施設管理を担う叶迫さんは、「いつもみなさんひたむきに、一生懸命やってくれることが嬉しいですよね。それに尽きます。ホスピタルアートに対して、患者さんからも、いい声をもらいますよ。」と語ってくださいました。
またひとつ完成したホスピタルアートは、今日も病棟で過ごす人たちの思いに寄り添います。

 

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  • 出射 優希Yuuki Idei

    2002年兵庫県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。卒業後、ライターとして活動中。

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