アーティストが主導するアートフェア「ARTISTS' FAIR KYOTO 2026」が京都国立博物館 明治古都館にて開催されました。
第9回目となる今回も、「Art Singularity」をコンセプトに掲げ、新進気鋭の若手アーティスト自らが企画・出品・販売までを手がける形式で実施。次世代のアーティストが京都から世界へと羽ばたく契機となるフェアとして、今年も大きな注目を集めています。
様々な展示・イベントがある本フェアの中で、3日間開催された京都芸術大学の教員が主導する小中学生向けのイベント「マイナビアートクラスー自分だけの好きを作ろうー」と「マイナビアートチョイスー自分だけの好きを探ろうー」の様子をお届けします。
マイナビアートクラス-子どもたちとつくる、想像力のアトリエ

1930年(昭和5年)建築の瀟洒な洋館・技術資料参考館。その2階に子どもたちが集まります。
テーブルの上には、一人ひとり異なる形のキャンバスが置かれていました。
はじめは少し緊張した面持ちだった子どもたちも、学生スタッフと言葉を交わすうちに次第に表情がやわらいでいきます。
「こんにちは。今日は皆さんのお手伝いをします。ひこにゃんって呼んでください」
そう自己紹介したのは、京都芸術大学こども芸術学科の彦坂敏昭先生。あだ名に会場から笑いが起こり、空気がふっとほどけます。
続いて、非常勤講師でアーティストの笹口数先生が「僕はカズさんって言います」と名乗り、制作の説明へ。
目の前のキャンバス(厳密に言うと、水彩紙を板材に貼ったパネル)はすべて手作りで、好きなものを選んで制作していくとのこと。それぞれ異なる形が、子どもたちの想像力を刺激しています。



そのキャンバスに描いていく画材も、クレヨンや絵具など馴染みの深いものから、色付きの水が入った霧吹き、削って使うハードパステルなど、普段子どもたちが使うことのないものまで並べられていました。また、紐や葉っぱ、「ぞうさん」と呼ばれる建築模型用の糊の注入器も並び、どれを使って何を描こう、と、子どもたちは真剣なまなざしで、笹口先生の話を聞いていました。

自分の選んだキャンバスを手に取り、ついに制作開始です。下書き用に配られた紙や、キャンバスの形と向き合い、画材の前で悩む子どもたち。先生方と学生スタッフが、緩やかに見守ります。
自分のテーブルに葉っぱやスポイト、様々な材料を持ってきて、ひとつひとつ見比べていきます。下書き無しで、思うがままに絵具をキャンバスに塗りたくる子や、下書き用紙で画材を試しては、あれでもない、これでもないと悩む子も。キャンバスいっぱいにマスキングテープを貼っていく子もいました。
学生スタッフや先生方も、子どもたちに寄り添って話をしたり、アドバイスをしたり。「発想凄いね!」という声や、「え、完成楽しみ……」という声もあがります。教えていく、というよりは、一緒に作り上げていく。そんな和やかな雰囲気が、終始漂っていました。

キャンバスをマスキングテープで区切って、ひとつひとつのスペースに、オレンジを塗っていく子も。それぞれ違うトーンのオレンジを作り出しては、几帳面に塗っていきます。「オレンジが好きなの?」と聞けば、「めっちゃ好きです!」と少し照れくさそうに教えてくれました。
やがて下の方は青色に色づいていき、キャンバスは緩やかなグラデーションを描いていきます。

「この中間のところ、どうしよう……」と悩んでいると、学生スタッフである前側遥香さん(こども芸術コース3年)が相談に乗ります。「これは私の意見なんやけどな……」と前置きしてから、画材を変えてみるか、色味はどうするか、など、提案していきます。そこからまた新しい案が生まれて、一緒にひとつの作品を仕上げていきました。

絵具の入った霧吹きの前では、キャンバスに細かくマスキングテープを貼った子どもが順番を待っていました。
その子に話しかけるのは、学生スタッフの三浦幹太さん(こども芸術コース4年)。「何色があるかだけ見とこうか。赤に、青に……」と、スプレーを指さして言います。「何色がいい?」と三浦さんが子どもを覗き込むように言うと、「茶色を作りたいんですけど、無いですよね……」と、遠慮がちに答えます。「無いなら作ればいいよ、茶色って、何色を混ぜたらできそう?」と聞くと、困ったように赤と黄と……とつぶやきます。「俺は、赤と黄と青を混ぜたらできると思うねんな」と、三浦さんが助け舟を出すと、「やってみます!」と笑顔を見せる子ども。
三浦さんは続けて、「これは個人的オススメやねんけど、赤紫っぽい色もあるやんか。紫って、赤と青を混ぜたらできんねんな。だから、紫と黄を混ぜるっていうのも、ありやと思う」とアドバイス。色の可能性が開いた子どもは、キラキラとした目で、スプレーを手に取っていました。

2時間弱かけて完成した絵は、どれも力作。銀色をめいっぱい使ったキラキラした絵や、画材を組み合わせた絵。自分の好きな世界観や色を組み合わせた絵が並び、子どもたちの個性が溢れ出ます。描き終わった人から、絵にタイトルをつけていきます。タイトル、と言われて戸惑っていた子どもたちも、学生スタッフが「絵にお名前をつけよっか」と言い換えると、筆が進んでいく様子でした。
絵が完成すると、それぞれが感想を言い合いました。
「ピンクの色の重ね方を工夫しました」と言うのは、制作中もずっと「ピンクが好き」と言っていた子でした。あらゆるピンクをパレットの上に出して、一つずつ色を試していました。
「葉っぱを付けるのが難しかったけど、先生に付けてもらって、良かったです」と言うのは、葉っぱを画材としてではなく、素材として使った子でした。ちょこんと葉っぱがキャンバスに乗っていて、発想力を感じます。
全員が、自分の絵を愛おしそうに見つめ、最初よりも晴れやかな表情で、「楽しかった」「良かった」と口にするのが印象的でした。


学生スタッフや先生方と少し会話を交わしながら、笑顔で帰っていく子どもたち。その後ろ姿を見送りつつ、学生スタッフの安保仁美さん(油画コース2年生)に、子どもたちの作品について感想を伺いました。
「年の離れた子の絵画を見るのははじめてだったけど、こだわりや意志を持って描いているな、っていうのをすごく感じて。同じ立場で一緒に制作を楽しめたことが嬉しかったです」
子どもたちの発想は自由で、それでいて真剣でした。学生スタッフもまた、その表現をどうすればより活かせるのかを共に考え、寄り添いながら支えていました。立場や年齢を越え、「描くこと」を通して並び立つ姿が、静かに心に残ります。
最後に、本イベントを主導していた笹口先生にも、イベントを終えての感想を伺いました。
「こうなるだろう、っていうことを考えずにやってて……。事前準備をして、本番に預ける、というか。子どもたちも一緒に作っていく仲間ですから。触れたものでどうなるか、どういう色になるか、というのを、僕も楽しみにしていました。でも、想像以上でしたね」
用意することと、委ねること。その両方があってこそ生まれた時間でした。
完成した作品を前に、笹口先生は学生スタッフと「これはすごいね」「こんなふうになるんだ」と言葉を交わします。結果を評価するというより、驚きを分かち合うようなやり取りでした。その表情には、静かな手応えがにじんでいました。

子どもたちの絵は、2月22日から3月1日まで、ARTISTS' FAIR KYOTO 2026の別会場である東福寺にて順次展示されました。
作品は、誰かの目に触れ、言葉を交わし、また別の感想を引き出していきます。作ることは、誰かに見てもらうことで、もう一度始まるのです。
あの日描かれた色や形が、東福寺という場所でどのように受け止められたのか。きっと誰かの心に届いていただろうと、確信めいた予感があります。
マイナビアートチョイス-子ども記者が、全力で「好き」を伝える
午後からは、また異なるイベントが始まります。メンバーの顔ぶれも変わり、画材はすっかり片づけられていました。代わりに目を引いたのは、プリントが挟まれたバインダーと、ホワイトボードに貼られた大きな紙。
集まった子どもたちも学生スタッフと「あれは何だろう」「何をするんだろう」と、不思議そうに話しています。

前に立つのは、引き続き彦坂先生と笹口先生。
「ひこにゃんと呼んでください」と挨拶すると、午前と同じように笑いが起こり、場の空気がやわらぎます。笹口先生や学生スタッフの自己紹介が終わると、彦坂先生はそのままホワイトボードの前で説明を始めました。
「今回はね、マイナビアートチョイスっていうイベントなんだけど……チョイスって英語、分かる人いるかな?」
一人が控えめに、「選ぶ……?」と答えます。
おおっ、と歓声が上がり、「そう、今回は自分の好きな作品を選んでもらいます!」と彦坂先生。
ARTISTS' FAIR KYOTO 2026のメイン会場である洋館・明治古都館には、若手アーティストたちの作品が展示されています。アーティスト自身が作品の前に立ち、来場者と交流したり、商談を進めたりする姿も。
「これは何に見えるでしょうか」
彦坂先生が指さしたホワイトボードの大きな紙には、色とりどりの紙がパズルのように配置されています。
「テトリスっぽい」「地図みたい」
子どもたちが口々に答えるなか、「新聞っぽい」という声が上がりました。
「そう。学生スタッフも含めて、皆さんには新聞を作ってもらいます」
期待と、「どうやって作るの?」という疑問が入り混じった歓声が沸き起こります。
好きな作品に、自分だけの賞を贈る。そして、どこが好きだったのかを記事にまとめる。
子どもたちの手元に置かれたバインダーには、作品の“好きなところ”を2つ書くための用紙と、作品のスケッチをするための紙が挟まれていました。新聞に欠かせない“写真”の代わりに、自分の視点で作品を描き、魅力を伝えるのです。

この新聞が後日、東福寺に展示される予定だと伝えられると、子どもたちは「ええっ」と驚きの声を上げました。
「つまり、皆さんは記者ということです」
そう言われると、またしても「ええっ」。
「記者ってどうすればいいんだろう」とざわめくなか、彦坂先生が続けます。
「じゃあ、今から3カウントしたあとに、皆さんは記者の顔になります。3、2、1!」
ぱっと、それぞれが記者の顔に。
室内の空気が一瞬で、新聞社の編集部のように変わりました。
学生スタッフと子どもたちがペアになり、自己紹介を済ませると——いよいよ取材へ出発です!
会場内に足を踏み入れると、様々な現代アートが並びます。子どもたちも、多様な表現に驚き、あちらこちらへと目を向けました。グループごとに出発し、それぞれが自分の好きな作品を探しに行きます。
鑑賞が進むにつれ、会場のあちこちで小さな会話が生まれていきます。
「これはなんだろう」「この作品、なんかいいな……」
それぞれの好きが、自然とこぼれ落ちていきました。


一人の子どもが絵の前で足を止めていると、作者が「こんにちは」と声をかけます。少し緊張しながらも、「この絵、好きです」と伝えると、作者は嬉しそうに「ありがとう」と応えました。何を描いたのか、なぜこの表現になったのか。言葉を交わすうちに、作品の見え方が少しずつ変わっていきます。
やがて、選んだ作品をスケッチする時間に。
真剣なまなざしで線を追っていくと、一目見ただけでは気づかなかった細部が浮かび上がります。こんなモチーフがあったのか、こんな造形が潜んでいたのか……。描くという行為そのものが、新たな発見へとつながっていました。
鑑賞を終え、技術資料参考館に帰ってきた後は、記事を書いたり、絵に色をつけたりしていきます。会場には、アートクラスでオレンジ色が好きだと言っていた子が。「ここ、どんな色だったっけ……」「え、たしか暖色だったんじゃない?」そう学生スタッフが補助すると、「あれ、また暖色だ」と気づきます。自分の好きな理由の一つに気づきながらも、絵と記事を仕上げていきます。



子どもたちは、「テトリスみたい」な形の違う色とりどりのブロックを一人ひとつ選び、その中に模写した絵と文章を収めていきます。フリーハンドで書く記事に、決まった型はありません。
東福寺でこの新聞を読む誰かに、自分の好きだった作品をどう伝えるか。どんな言葉なら届くだろうか。文字の大きさや配置、書き出しの一文まで、子どもたちは何度も考え直します。
なかでも最も頭を悩ませていたのが、“賞の名前”でした。作品を思い浮かべながら、自分の好きを伝えるのに最も適当な言葉を探していきます。
好きな理由を、一つの名前にする。
その時間は、思っている以上に真剣で、静かなものでした。
そうして完成した新聞の名前は、「マイチョイス新聞」。
いくつかの案が挙がるなかで、ある子どもの一言から決まりました。イベント名の「マイナビアートチョイス」と、自分たちが“選んだ”作品を載せる新聞であること。その両方が自然に重なる名前です。
「それ、いいやん」「分かりやすいね」
小さなうなずきが重なり、タイトルはすっと定まりました。
自分たちで作り、自分たちで名づけた新聞。
その名前には、子どもたちの選ぶという行為そのものが刻まれています。
ホワイトボードに掲げられた「マイチョイス新聞」を囲むと、会場にぱっと歓声が広がりました。自分たちの手で完成させた一枚を前に、どの顔にも達成感がにじみます。

「あの作品よかったよね」「ここが好きだった」「いろんなところを回って、良いところを見つけるのが大変だった。身体も頭もいっぱい使った」
「楽しかったけど、これを毎日はできないかも」
率直な感想に、周囲から笑いもこぼれます。
一方で、こんな声もありました。
「良い作品がたくさんあって、一つに決めるのが難しかった」
「自分の好きなものを、ほかの人に見てもらえるのが楽しい」
選び、迷い、言葉にして、誰かに届ける。
その過程そのものが、子どもたちにとって新しい体験だったのでしょう。
記者仲間のあいだで交わされた会話は、やがて新聞というかたちになり、まだ見ぬ誰かへと手渡されていきます。
好きは、胸の中にしまっておくものではなく、共有することで広がっていく——そんな手応えが、そこにはありました。
イベント終了後も、完成した新聞を囲みながら交流を続ける子どもたちと学生スタッフ。その輪の中で、鑑賞を終えた感想を学生スタッフに聞きました。
丸山笑奈(油画コース2年)さんは、
「私は作品を見るとき、さっと見ることが多く、あまり考察しながら鑑賞することはありませんでした。でも今回、子どもたちと一緒に回る中で、こういう見方もあるんだな、と気づかされました。作者の意図をより深く感じることができて、一緒に回れてよかったと思います」と振り返りました。
また、宮﨑菜尾さん(油画コース2年)は、鑑賞体験の共有について語ってくれました。
「子どもたちと一緒に回って、誰かと鑑賞することの楽しさを実感しました。一緒に見ることで感じたことを共有できるのが、楽しい要素だと思います。自分一人では興味を持たなかった作品にも、自然と興味が湧いてくるのが良いなと感じました」
「マイチョイス新聞」も、アートクラスで描いた絵画と同じく、東福寺にて展示されました。子どもたちの好きが溢れた新聞は、きっと誰かのまなざしに受け止められ、新たな対話を生んでいたことでしょう。

「好き」という純粋な衝動が、アートの新しい扉を開く
2つのイベントを通じて、子どもたちは「好き」を見つけ、形にし、そして誰かに届けました。
イベントを振り返り、ひこにゃんこと、彦坂敏昭先生はこう語ります。
「他者と作品を作ったり、見たりすることの楽しさを感じてくれていたらいいですね。子どもたちの見方は自由でみずみずしい。その目線から、大人も新しい見方を教えてもらいました」
ものづくりは、作って終わりではない。
誰かに見てもらい、言葉を交わし、そこから新たな関係や発見が生まれていく。そうした広がりこそが、美術の楽しみなのだと先生は続けます。
完成した作品の前で語り合う子どもたちの姿は、その言葉を体現しているようでした。
アーティストが集う場で、子どもたちもまた「創り手」であり「伝え手」となった二つのイベント。
それぞれの「好き」を携えた子どもたちは、ここからまた、自分で選び、決め、挑戦していくのでしょう。
作品は展示され、言葉は共有され、そこから新たな対話が生まれていきます。
ARTISTS' FAIR KYOTO 2026が掲げる「Art Singularity」という言葉の通り、多様な視点が交わる場の可能性を、子どもたちの自由でみずみずしいまなざしが、あらためて示してくれました。
(文=文芸表現学科3年 千葉美沙希)
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