出張編集部で夢を目標に!
「はじめはマンガ家になれると思っていなかった」。マンガコース(旧:マンガ学科)を卒業し、プロとして活躍する学生・卒業生たちも、はじめはそんな思いを抱いていたと言います。
マンガ家として、プロの舞台に立つ。学生たちの夢を「目標」に変えるきっかけとなるのが、マンガコース主催で年2回開催される「出張編集部」です。
出張編集部とはどのような授業なのか、マンガコースの教員・学生・卒業生にお話をお聞きしました。
プロの編集者のアドバイスが得られる「出張編集部」とは?

出張編集部とは、現場で活躍する出版社の編集者から、自身のマンガ原稿にアドバイスをもらえるマンガコースの課外授業です。大規模な同人誌即売会などでも開催されていますが、本学で開催する出張編集部は、編集者の方が直接瓜生山キャンパスまで足を運んでくださることが特徴です。
例年9月と2月に開催され、1年生は全員参加。まずは授業課題として1作品を完成させ、出張編集部で商業誌の作り手である編集者の講評を受けることで、自身のマンガの“現在地”を知ることができるのです。
集英社から少女マンガ誌の編集部にお越しいただく形でスタートした本授業も、現在は複数の出版社から、雑誌・WEBを合わせ各社8つ前後の編集部が集まる規模に成長しました。少年マンガの編集部から青年誌、少女マンガ誌まで、多様なジャンルの編集部から、経験豊富な編集者が集まります。
「学生の活躍の場をどのように増やしていくか」という課題を起点に、教員をはじめ、さまざまな編集者の熱意と、学生たちの熱意によって受け継がれてきた本イベントについて、マンガコース主任の井本 圭祐先生、そしてマンガコース退任後も出張編集部の開催を支えてくださっている細井雄二先生は、こう語ります。

井本先生:自分から持ち込みに行く子もいれば、いいものをもっているのに作品を見せるのをためらう奥手な子も多いので、マンガコースではカリキュラムの一部として、1年生から商業誌の編集部に見てもらうとはどういうことかを経験してもらっています。これまで描いたことがない子たちも、とにかくやってみる。基礎を叩き込んでマンガが描けるまで数年かける大学もある中で、まず行って、飛んでみようというのは、うちのマンガコースの魅力だと思っています。

細井先生:出張編集部はマンガ学科時代に学科長をされていた志賀公江さんのご紹介で、集英社の少女マンガ編集部に来ていただいたのがはじまりだったんです。少年向けも増やしたいと思っていた頃、ちょうど出版社の方から「少年誌の編集部も来たいと言っていて…」というお声がけをいただいて、ぜひぜひと。ですが、集英社のカラーに合う学生だけではないので、僕がこれまでにつながりのあった編集者にもお願いして、小学館や講談社からも来ていただけるようになりました。学生や卒業生たちの頑張りもあって、編集者の方も「この大学は行っても損はない」と思ってきてくださるところが増えてきたのかなと、感じています。
出張編集部からデビューまで、デビューから連載までの体験談!
では、学生たちは、出張編集部を通してどのようにマンガ家としてデビューし、連載に繋げることができたのでしょうか。在学生・卒業生の3名にお話をお聞きしました。

キャラクターデザイン学科マンガコース2期生。2026年1月、講談社 マガポケにて読切『ヴェルドラグ』配信、デビュー。

マンガ学科(現:マンガコース)12期生。2023年1月、集英社 となりのヤングジャンプにて読切『オルタネート』を配信、デビュー。在学中の2025年5月より、ヤングジャンプ誌上にて『タツキとタマキ』を連載開始。現在も連載中。コミックス2巻発売。

マンガ学科(現:マンガコース)9期生。在学中の2020年3月、集英社 ウルトラジャンプ4月号にて読切『オワリのはじまり』掲載、デビュー。2024年1月号よりウルトラジャンプ誌上にて『女装男子はスカートを脱ぎたい』を連載開始、現在も連載中。コミックス3巻発売。
「デビューはあくまでスタートラインだと思っています」力強くそう語り、連載を目指して書き続ける在学生の嶽丸石喜さんは、出張編集部参加からデビューまでの道のりについて、こう語ります。
嶽丸:マンガを描いたのは大学に入ってからだったので、マンガの基本的な知識は入学後の授業で一旦入れ込みまくって、先生から教わったことを実践して、指摘されたことは直して、9月の出張編集部までに課題の16pマンガを仕上げました。最初は、本当にずっと緊張してましたね。小さい頃からマンガを読んできて、それを手がけている人たちが目の前にいる、すごい、って。2回目の出張編集部でマガポケの編集者さんに出会って、デビューにつながった作品を描いていきました。
出張編集部で編集者から名刺をもらい、連絡を取り合いながら、フィードバックを受けて作品をブラッシュアップ。学生たちは、まずはデビューを目指し、着実に作品を描く経験を積んでいきます。

井本先生は「2025年度の夏に開催した出張編集部で、55名中29人の学生が名刺をもらっています。光るところがあると思っていただけたのか、ここまで来たから一枚渡しておこうと思われたのかはわかりませんし、名刺をもらったからと言って担当編集がついた、というわけではないんです」と話します。
出張編集部はあくまできっかけの場。1作品を完成させる目標であり、まずはさまざまな編集者に出会い、自分の作品を人に読まれる経験を重ね、編集者視点のフィードバックを受け取り、そこで得たものを次の作品へと繋いでいきます。
今でこそ連載を続け、プロとして活躍されているしなぎれさんも、当初は親御さんからの心配もあり「入学前は会社員になると考えていましたし、マンガ家なんてそうそうなれるもんじゃないと思っていました」と語ります。
しなぎれ:自分の作品は悪くはないだろうと思いつつ、自分でも感じていたように編集者さんからも「絵はいいけど、お話づくりが苦手だね」と言われて、やっぱりそうだよな、と。「マンガだけじゃなく、小説や映画、他の作品もたくさんインプットしていこう」というアドバイスをもらいました。その時に、この作品を賞に出しませんかというお話もいただいて、編集者さんに出しては直してということを繰り返していきました。その作品で受賞できて、私のマンガってお金をもらえるんだ、じゃあもうちょっと頑張ってみようかなって思ったんです。
自身の苦手な部分を出張編集部で改めて認識し、デビュー後もコツコツと描き続け、連載へ繋げたしなぎれさん。
出張編集部に参加する心構えをお聞きすると「編集者さんからストレートなことを言われるかもしれないけど、攻撃したいわけじゃなく、いい作品をつくるにあたって、意見をまっすぐ伝えてくれているだけだから、怖がらなくていいなと思います。それを受け止めるのも、どう活かすかも自分次第なので」と話してくださいました。
描く中で生まれる悩みを共有できる同級生や、先輩後輩との会話、経験豊富な教員のアドバイス。そして編集者の言葉。それぞれを学生自身が咀嚼して、マンガのクオリティが高められていきます。
ビジョンを立てることで、目標とやるべきことを明確にし、在学中に連載を持つことができた。

吉田ユウマさんも在学中にデビューを果たしたひとり。転学科を経てマンガを学びはじめ4年生のとき、週刊連載をスタートさせました。“卒業と同時に連載をしたい”という目標を掲げた吉田さんは、目標から逆算して、デビュー、連載までの具体的な道筋を立て、行動に移していったといいます。
吉田:読み切りをコンスタントに描き続けていく中で、代理原稿で本誌に掲載された作品のリアクションが良かったことから、連載会議に出すネームをつくってみますか」と、それが3年生の夏です。夏休みの7月と8月をまるまる使ってネームを作り、9月頭に連載が決まりました。でもあと1年大学が残っていたので、嬉しくもあったけど、次の日にはどうしようっていう感じで。連載が決まっても大学は辞めずに、ということは先生からも言われていました。
細井先生:僕の考えとしては、大学は職業斡旋所ではないので、学生たちをマンガ家にはしてあげたいけれど、それが最終目標じゃないんです。そして、マンガ家は仕事があるうちはマンガ家ですが、人気商売なのでいつかは終わる。そういう職業ですから、大学に入ってきた限りは、けじめとして最後までやりきって欲しい、と。とはいえ、自分の経験からも週刊連載がきついということはわかっていたので、編集部ともお話をして、卒業できるように配慮しますと言っていただけたので、辞めさせないよと伝えていました。

「意外と両立できました」と軽やかな口調で語る吉田さんですが、連載と、卒業制作もある大学生活最後の1年間を両立させることは、並大抵のことではなかったはず。教員も驚くほどのスケジューリング力で、東京から週に1回大学へ足を運び、卒業作品展まで学生生活を駆け抜けました。
吉田:とにかくマンガが描けるとき=手が使えるときは作業をして、皿洗いとかお風呂に入っているときは何を描こうか考えるようにはしていましたね。
これは結果論になってしまうんですが、出張編集部ではビジョンを立ててから行ったほうがいいなと思いました。例えば何歳までに連載をしたいという目標があると、それがあることによって自分の質問の幅も広がります。もし担当さんがついたとすれば、その時点で目標の擦り合わせができた状態でスタートできるので、「ここまでにデビューしていないといけないなら、この時点でネームを見てもらわないと」と自分から編集さんへ連絡を取る意味にもなりますし、ひとつ目標をもつことはやっておいた方がいいと思いました。
目標と明確な期限を設定し、着実に連載まで努力を続ける継続力。マンガ家を描くことを通して、すべての仕事やものづくりに共通する、目標を実現するためのヒントを話していただきました。
矢上先生:マンガって特殊なものなので、はじめて描く学生はいろいろ苦労すると思うんです。難しいと思います。でも難しくて当たり前、うまくいかなくて当たり前なので、とにかく少しでもできたことを楽しんで、自分を褒めて、楽しくたくさん描いてもらえたら、それが一番だと思います。

楽しく描く。そのモチベーションのひとつ、出張編集部を通して広がる学生・卒業生の活躍を今後もご紹介していきます。
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出射 優希Yuuki Idei
2002年兵庫県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。卒業後、ライターとして活動中。