INTERVIEW2026.01.07

文芸教育

縁をつなぐ 縁が交わる場所「koen」――文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信

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  • 京都芸術大学 広報課

京都芸術大学 文芸表現学科 社会実装科目「文芸と社会」は、学生が視て経験した活動や作品をWebマガジン「瓜生通信」に大学広報記事として執筆するエディター・ライターの授業です。
本授業を受講した学生による記事を「文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信」と題し、みなさまにお届けします。

 

縁が交わる場所

叡山電鉄 茶山・京都芸術大学駅から徒歩8分のところにあるカフェ「koen(コウエン)」。写真家である嶌村吉祥丸(しまむらきっしょうまる)さんがオーナーを務めるその場所は、カフェでありながら、ギャラリーやショップの一面も持ち合わせています。街ゆくひとが自然に集まり、会話が生まれるまるでちいさな隠れ家のような空間。
嶌村さんは東京を拠点に、アーティスト・写真家として、国内外問わず幅広い分野で活動しておられます。「koen」のほかにも、「ラーメン吉祥丸」や、フレグランスブランド「kibn」などもプロデュースされています。

プロフィール
嶌村吉祥丸(しまむらきっしょうまる)
東京生まれ。アーティスト・写真家として、分野を越境し国内外を問わず活動。東京ではギャラリー「same gallery」のディレクターとして企画なども行うほか、「ラーメン吉祥丸」やフレグランスブランド「kibn」をプロデュース。おもな個展に"Unusual Usual"(Portland, 2014)、 “Inside Out” (Warsaw, 2016)、"photosynthesis"(Tokyo, 2020)などがある。

そんな多方面で活躍する嶌村さんがこの場所に「koen」をひらくことになったのは、流れのなかで出会ったひととのご縁がきっかけだったそう。
「自分は東京生まれ東京育ちで、現在も生活のほとんどを東京で過ごしているなかで京都にきました。様々な国を旅してきましたが、ひととの出会いや、東京以外の街やコミュニティをみて、改めて京都という街がおもしろい場所だなと感じました。京都で友人と食事をしていた流れで見た不動産屋でいちばん上にある物件が偶然にもこの場所でした。」
たしかに、京都の建物や景観のいたるところに歴史を感じることが多くあるような気がするし、東京にくらべると日本らしさのようなものが散りばめられた土地だと感じます。
また、お話のなかの「流れのなかで」ということばが、とても印象にのこりました。出会いや偶然の積み重ねによって自然に生まれた場所だからこそ、自然とひととのつながりをもつことができるのかもしれないなと感じました。
 

最初はギャラリー兼滞在スペースのような、こじんまりとした場所を想定していたそうですが、途中で空いたとなりの物件を合わせるかたちで、現在の「koen」が生まれました。

「最初はカフェをやるつもりは正直なくて、小さなギャラリー兼寝泊まりできる場所を想定していました。もともと物件として買ったのは片側のみ(写真向かって左)だったのですが隣接した物件も(写真向かって右)購入できることになり、現在のkoenの構想をはじめました。」
これは偶然というより必然にちかいのではないかと感じるほど、建つべくして「koen」はここに生まれた場所だとおもいました。すこしでもタイミングが違っていたら、いまのかたちになることはなかっただろうから、チャンスというのか運というのか、そういう偶然めいたことをつかまえてかたちにできたことはとても運命的なことだと感じました。

 

アートと生活

ギャラリーのとなりにカフェスペースがある、という一風変わった構造になっている「koen」ですが、そこには、嶌村さんのアートに対する素敵な考えが込められていました。
「ギャラリーや美術館という場所は、美術に近いひとからしたら抵抗なく日常的に行く場所だと思いますが多くのひとにとっては行くのにハードルがあったり、日常のなかにアートに触れる機会が存在していないことが多いとおもいます。だからこそ、アートが目的ではなくとも、ちょっとお茶しに来ただけでもいいですし、あるいはアート見たあと、その感想を友だちと共有する場のようなひと呼吸できる場になればとおもっています。」
たしかに美術館に行く、アートを見るということはすこしハードルが高いようにも感じます。実際、わたしも行きたいとおもったことはあるけれど行ったことはまだありません。けれど「koen」のようにコーヒーを飲みながらふと作品が目に入るような場所なら、自然にアートに触れることができるきっかけがうまれるかもしれないなと感じました。
 

 

縁の循環

「koen」のちかくには、わたしたちが通う京都芸術大学があります。アーティストとして表現することを志す者たちをそばで応援しているかのように、ギャラリーとしての「koen」は存在しています。
嶌村さんは公園が目の前にあるという立地に惹かれ、この場所を購入したと話していましたが、偶然にも近くに芸大があるということも考慮してのことだったそう。その理由にも、縁というキーワードがおおきく関わっていました。

「学生のときには、社会とのあいだに薄い膜があるというか、感覚的に隔たりを感じているひとが多いとおもいます。もちろんなかには既に会社とやりとりしたり、展示したりしている方もいるとおもいますが、koenとしては学生にとってもいろんなきっかけを持てるような場であり刺激を与えることのできるような場にもなってほしいです。僕自身も学生のころに、たくさんの大人から学び、様々な刺激をもらいました。そのおかげで今の自分の仕事や人生がありますし、卒業してアーティストになるひともならないひとも、ひととの出会いや経験はきっと誰の人生にとっても豊かさや幸せにつながると思うので、自分もいただいたご縁を少しでも循環させていけたらなとおもっています。」
学生と社会のあいだにある膜という表現には、とても共感できる部分がありました。
とくに芸大生は、なにかを企画しアクションを起こさなければならないことが多くあるけれど、学生という立場でできることはかぎられていると感じています。ひととのつながりもあまりないわたしたち学生にとって、これからにつながるきっかけになるような場所が身近にあるということは、とても心強いことだなとおもいました。

また、「koen」では、ギャラリースペースで作家さんの展示を定期的におこなっています。嶌村さんは学生の展示も企画できたらと思っているそうで、実験的な場所であってほしいという願いがあるのだとお話してくれました。

「だれしも最初の個展は不完全であり、手探りな状態での挑戦があるとおもいます。koenのギャラリーは、展示をする場としてはコンパクトですが、ひとつのアイデアを試すにはじゅうぶんな広さです。最初の個展や、実験的な展示には適しているとおもっていて。学生かどうかに関係なく僕らがこういう思想のもとにこういう場を設けているということ、その思想に共感し、その人なりの表現ができれば挑戦して欲しいとおもっています。」

わたしはこのお話をきいて、気が引き締まりました。学生という立場をどこかマイナスに捉えているいっぽうで、その立場を無意識に利用してしまっていることも少なからずあるなと振り返って感じました。表現者として社会で活動されている方々に比べれば未熟であることは間違いないけれど、そこに縋っていてはいけないなということをつよく痛感しました。

「学生のときには限られた社会のなかでの思想に影響されてしまうかもしれないけれど、無理に何者かになろうとしなくていいとおもっています。もしいま少しでもやりたいことがあったり、アイデアがあったりするなら、そのアイデアをできる範囲でいいから小さくてもアウトプットしてみたらいい。たとえば展示をすることは、特に1回目はハードルが高いとおもいますが、だからこそ喫茶店の端っこでも、大学のなかのスペースでもいいから、とりあえず自分の表現やプロジェクトを純度の高いままでかたちにすることを繰り返すこと。あなたがそのときそれをするべきだなっておもったら、小さくてもいいから直感に従ってやってみたらいいのではないかなとおもいます。koenという場がその直感を養ったり、共有したり、表現するきっかけや手助けをすることができれば幸いです。」

 

「koen」は、だれもがふらっと立ち寄ることのできる拠りどころのような場所であり、表現するものを応援し、そばで見守っているような場所でもあると感じました。
嶌村さんが流れのなかで出会ってきたひとたちと作りあげた「koen」は、だれかの表現のはじまりをそっと受けとめてくれる、そんな気がしました。制作に行き詰まったときこそ、ほっとひと息つくことで、いままでみえてこなかったまたあたらしい世界がみえるようになるのではないでしょうか。

 

(構成・執筆:文芸表現学科2年 新井 蒼空)

 

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