INTERVIEW2025.08.28

文芸教育

創作×空間|ひらめき、くつろぎ、そして描くこと――文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信

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  • 京都芸術大学 広報課

京都芸術大学 文芸表現学科 社会実装科目「文芸と社会II」は、学生が視て経験した活動や作品をWebマガジン「瓜生通信」の記事として執筆するエディター・ライターの授業です。本授業を受講した学生による記事を「文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信」と題し、お届けします。

創作の出発点

あなたはアイデアが生まれるのってどんな瞬間だと思いますか?

たとえば何気なく立ち寄った古本屋で、ふと目にした一冊。友人との雑談でこぼれた一言。あるいは、窓の外の風景をぼんやり眺めていたそのとき。

創作の出発点は、意外なほど日常のなかに潜んでいます。そしてそれは、「どこにいるか」「どんな空間に身を置いているか」によって、大きく左右されるのではないでしょうか。

創作とは、ひとりきりで机に向かうだけの行為ではないと私は考えます。
思考のヒントを与えてくれる場所、煮詰まった心をほどく場所、そして実際に作品を生み出す場所。そのすべてが、創るという営みを静かに支えてくれているのです。

この記事では、「ひらめき」「くつろぎ」「創造」という三つのキーワードを軸に、創作を支える場所を巡っていきます。

創り手の背後にある、目立たないけれど重要な“居場所”。その存在に目を向けたとき、創作という行為の輪郭が、くっきり浮かび上がってくるのです。


ひらめきー面白さの種を求めて

 

「良くも悪くも自分にしか興味がない」

そう話してくれたのは、キャラクターデザイン学科の野口つかささん。

イラストレーションを学ぶために、福岡から学生の街と呼ばれる京都に足を踏み入れました。
そんな彼女が「ひらめき」のために足を運ぶのが、京都芸術大学から歩いて20分ほどのところにある「深夜喫茶しんしんしん」です。

お客さんの半数以上が大学生で、京都芸術大学の学生もよく来店します。

こちらの喫茶店は午後8時から午前3時まで営業していて、店内の雰囲気はレトロなインテリアにしっとり落ち着いていました。4人以上は入れないという静かなこの場所は夜の思考にぴったりの空間ですね。

 

「隣の席に座った人とお話したり、喫茶店に置いてあるノートを読んだりすると良い刺激になります。そのノートに『君たちはどう生きたっていい』と書かれていたのが印象的でした。

こうして見知らぬ誰かとの会話や、名前もわからない人が残した言葉に触れることは、自分の考えを広げたり、創作の視点を新しくしたりするきっかけになります。

喫茶店にいる時間とひらめきがどう結びつくのか、その関係性について野口さんに聞いてみたところ……

「喫茶店はじっくりものを考えたり、ぼうっとしたりするのに向いている場所だと思います。そこから創作の種が生まれるのかもしれませんね。喫茶店は一人で居られる場所でもあり、一方で、誰か他の人がいる場所でもあるので、自分と社会との境界的な場所でもあると思います」と答えてくれました。

ひらめきとは、突然天から降ってくるものではありません。

日常の中に転がっている「面白さの種」を拾い集め、自分の引き出しにストックしていく地道な作業でもあるのです。

深夜喫茶での時間は、野口さんにとって、そんなひらめきの“種集め”の時間になっています。

 

くつろぎー湯気のなかで

次に訪れたのは、なんと昭和初期から営業している銭湯「銀水湯」。

サウナやジェットバスがあり、タオルの貸し出しまで行っています。
ここが、野口さんにとっての「くつろぎ」の場所です。

 

「軟水のお湯がお肌にいいらしいんです」

そう話す野口さんの口調はどこか照れくさそうで、でもお気に入りの場所ということが伝わってきます。

「わたし、サウナに入るのは『整う』ためにやってて。サウナに入って、水風呂に入って、お湯に入って、水風呂に入って……ずうっとそんな感じ。そうやってぼうっとするのも気持ちいいし、頭の中で、あれどうしよう、これどうしようって考えることも、お風呂の中だとよくできる気がします」

銭湯とはある意味、日常から離れた場所と言えるのではないでしょうか。日常を観察し、ひらめきを得るためには、ときには日常から少し離れることも必要なのかもしれません。
浴場という閉ざされた非日常の中で、余計なものをリセットする時間。
それもまた、創作を支える大切な“場所”のひとつです。

創造―手が動き出すその時に

そして翌日。夜の間にアイデアを集め、気持ちを整えたあとに待っているのが実際に手を動かす「創造」の時間です。
野口さんは、作業する場所にあまりこだわりはないらしいのですが「大学が一番集中できる」と話してくれました。

「家にいると完全にオフになっちゃうんですよね。でも、大学にいると“周りも頑張ってる”感じがするから、スイッチが入るんです」

創作はひとりで行うものだけれど、同じように描いている人が隣にいるだけで、不思議と意識が変わります。

そのわずかな刺激が、よいプレッシャーとなり、自分を前へと押してくれているのです。

「私、負けず嫌いなんで」

そう言って笑った野口さんの横顔には、静かなエネルギーがありました。

そして今回の取材をもとに野口さんに作品を作っていただきました!

作品名:アーティシエの少女 杏樹

 

制作意図
 

今回依頼された内容は、「深夜喫茶しんしんしん」と「銀水湯」という二つの場所を中心に、京都という街を題材にしたキャラクターのデザインと、その背景含む一枚絵を描くことでした。これまで背景を描く機会がほとんどなかったため、新鮮な気持ちで取り組むことが出来ました。

制作にあたり、改めて京都と向き合ったとき、私はこの街を「芸術と文化の街」として捉え直しました。そして、それぞれの代表的なモチーフとして、芸術は絵の具、文化は本を選んでデザインすることにしました。

私は芸術を、人にだけ許された特権のようなものだと考えています。京都芸術大学に通うまでは、芸術は娯楽だと考えていました。しかし、人類の成り立ちや、芸術とは何かという根本的な問いを学ぶうちに、芸術とは人が生きていく上で欠かせないものだと考えるようになりました。言い換えれば、芸術の有無が人と獣を分けるひとつの指針になるのではないかということです。

今回構築した世界の中では「人」と「ケモノ」が存在します。不景気や物価高、ハラスメント、差別いった積み重なる問題への対処に追われ、やがて理性を失いケモノへと変わってしまう。この設定は一見ファンタジーのようですが、実際には現代社会をそのまま表現したものです。その中で、クリエイターを目指す私達が何をしなければいけないのか、どんな存在になりたいのか、そんな憧れや希望を込めて、杏樹というキャラクターを作りました。アーティシエという言葉は、そのままアーティストとパティシエを合体させた造語です。アーティシエ達が人々を「癒す」役割を担っているのは、「深夜喫茶しんしんしん」と「銀水湯」というふたつの場所が、人々を癒す場所であることに由来しています。

この世界には彼女以外にも多くのアーティシエが存在し、日々人々を癒して回っています。私も、将来は誰かの心を癒せるようなクリエイターになりたいと思います。また、日々に疲れて我を忘れてしまいそうなときは、どこかに自分を癒してくれる芸術があることを忘れないで欲しいです。

アイデアが浮かぶ場所。
気持ちが整う場所。
手を動かす場所。

そのすべてが「創作を支える場所」です。
自分の中に何かを溜め、何かを手放し、そして何かを形にする。その過程のどこかに、ふと立ち寄るお店や静かな空間があるだけで、創作は少しだけ前に進みます。

創作に必要なのは、努力や才能だけではありません。
自分に合った“居場所”を知っていることもまた、大切な武器なのです。

 

(構成・執筆:文芸表現学科 3年生 南 燈和)

 

 

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