2025年度後期 京都・南座「一文字看板」制作プロジェクトー「初笑い! 松竹新喜劇 新春お年玉公演」の一文字看板が完成!
- 京都芸術大学 広報課
歌舞伎発祥の地とされる四条河原町の劇場「南座」。慶長八年から400年を超える歴史をもち、歌舞伎をはじめさまざまなジャンルのエンターテインメントの中心であり続ける由緒ある劇場です。
令和8年1月2日(金)から1月7日(水)の6日間、本学の学生が制作した「一文字看板(いちもんじかんばん)」が南座の入り口に掲げられました。2025年度の後期に制作された一文字看板の演目は「初笑い! 松竹新喜劇 新春お年玉公演」です。


南座看板制作プロジェクトは、芸術教養科目社会実装プロジェクトの一環として実施されています。近年、耐震補強工事が完了した南座は、伝統を保ちながらも新しいイベントもできる劇場として生まれ変わりました。この新開場にともない、2018年後期より本プロジェクトが始動しました。
縦1.45メートル、横10.3メートルの南座の正面入り口を飾る看板を、さまざまな学科の主に1年生から2年生までの学生約30名が協力して制作するプロジェクトです。
今回は、2025年度後期の南座看板制作プロジェクトに参加した6名の学生に、看板制作の裏側、思い出、そしてプロジェクトを通して得た学びについて、語ってもらいました!

―宮澤和花(みやざわ わか)さん プロダクトデザイン学科プロダクトデザインコース|2年
―桂菜々美(かつら ななみ)さん 情報デザイン学科イラストレーションコース|2年
―田辺東子(たなべ さきこ)さん プロダクトデザイン学科プロダクトデザインコース|2年
―板倉梓(いたくら あずさ)さん こども芸術学科こども芸術コース|2年
―松尾日菜子(まつお ひなこ)さん 映画学科映画製作コース|2年
―羽原彩桜(はばら さくら)さん 情報デザイン学科ゲームクリエーションコース|2年
本プロジェクトのキックオフは2025年9月。キックオフミーティングでは、中心となるマネジメントメンバーの学生が、プロジェクトに参加する学生と面談を行いました。その面談を通して各学生の特技や持ち味、キャラクターを把握し、それらを最大限に生かせるよう5つの班に振り分け、バランスを保ちながら役割分担をしたそう。9月下旬には、京都市景観条例についてのレクチャーを通して、京都という町の地域性を学び、10月下旬には看板の具体的なデザイン案がまとめられ、そこからいよいよ手作業での制作へと進みます。
一連の流れ、そしてプロジェクトに携わる学生たちが定めた目標について、田辺さんと板倉さんが教えてくれました。

田辺さん「事前にクライアントである南座様から公演パンフレットなど資料をいただき、それを読んで内容を把握しました。公演時期にあわせて、お正月らしい要素を取り入れることも含めて、松竹新喜劇の新春お年玉公演のイメージを損なわないように心がけました」

板倉さん「以前に作った看板よりも、もっと上のクオリティを目指そうという思いがありました。同時に、過去の看板にも、これから先の看板にも負けないような看板を作ることができるように心がけて活動していました」
看板のデザインが決定すると、そこからは本格的な制作の作業へと移ります。この南座看板プロジェクトの特徴は、手描きにこだわっていることです。
まず、以前制作され、披露された演目の看板を削り、白く塗り、まっさらな状態にします。そこからA3の紙に今回のプロジェクトの演目のデザインを印刷し、転写。これがいわゆる下書きの状態です。


その後、制作班の学生ひとりひとりに担当範囲が割り当てられ、学生自らが手を動かし、筆で色を塗っていきます。もちろん、一度塗りで終わることはありません。全体を俯瞰しながら、何度も色を重ね、完成まで作業を進めていきます。




細部までこだわり、1ミリのズレも生まれないよう、慎重な作業が求められるこの工程では、ひときわ、学生たちのこだわりが発揮されます。


宮澤さん「凝ろうと思えばいくらでも凝れるんです。同時に手を抜こうと思えばちょっと手を抜くこともできる。でも、手を抜いてしまうと、その範囲が看板全体から浮いて見えてしまうので……。作業中に次から次へと生まれる違和感をどれだけ消すことができるかが勝負です。消して、やり直してを繰り返し、何回も磨いていく作業が、制作工程では求められます」
板倉さん「看板は、完成して掲げられるときに少し傾斜がつけられて、夜にはライトアップされるんです。そうすると、絵具が盛り上がっている部分の凹凸が、実際に掲げられたときには影を作ってしまって、見る人にとっての違和感を生み出してしまうんです」


桂さん「0.5ミリまでこだわらないといけないのがこのプロジェクトなので、本当に少しずつ、少しずつ塗っていきます。その過程で気に入らないところや、違和感を感じたら、忘れないように絶対にチームメンバーに伝えるようにしていました。同時に、客観的な視点を持っているメンバーからも意見を求めて、とにかく自分を信じすぎないように心がけていました。自分がいいと思っていても、見る人はそう思わない可能性もあるので」

1ミリ、0.5ミリまでこだわりぬいた、気の遠くなるような地道な作業ですが、今回お話を聞いたみなさんは、南座看板制作プロジェクトへの参加は、3回、4回目だそうです。何度も経験したい、学びたいと思わせる、このプロジェクトの魅力とはなんなのでしょうか。
今回のプロジェクトで4回目の参加となる松尾さんは、入学してすぐ、1年生の前期からこの南座看板制作プロジェクトに参加してきました。今ではプロジェクト内での最上級生、ベテランです。

松尾さん「最初にこのプロジェクトに参加したとき、信じられないくらい細部までこだわっていることに驚きました。でも、それが嫌ではなかったんです。大きな看板だけど、最後まで、細部までこだわらないと、完成した看板を遠くから引きで見たときに細かいズレがわかってしまう。そのこだわりの意味を理解したときに、『こだわる』こと自体がむしろとても楽しくなって。それで1年生のときから4回、プロジェクトに参加しています」

今回で参加が3回目の田辺さんは、2025年度のプロジェクトを通して得た気づきについて、話してくれました。
田辺さん「今年度、前期と後期の2回、リーダーとして活動して発見したのは、メンバーが変わると、プロジェクト全体の雰囲気がガラッと変化するということです。作業内容は同じでも、前期での経験をそのまま再現すればいいというわけではなく、より丁寧に説明しないと伝わらないことがあるということを後期で知りました。リーダーとして、真剣に伝えなくてはいけないことはしっかり伝える。数十人のプロジェクトを進めるために、リーダーとしてどうメンバーに働きかけたらいいのかということを、俯瞰的に学ぶことができました」

2年生後期は、本学のプロジェクト活動における集大成の時期ともいえます。そんな今回のプロジェクトで、2年生の経験者であるみなさんは、マネジメントメンバーとして、あるいは経験者・先輩としての役割を担いました。その中で、今までには感じなかった難しさを実感したといいます。
板倉さん「前期も後期も、マネジメントメンバーとして活動しました。先生からは『人をまとめられるような人になってほしい』と言われ、それを達成するにはどうしたらいいのかを考え、行動するようにしていましたが、とても難しかったです。まず、メンバー全員の顔と名前を覚えるところからはじめました。他のメンバーに指摘するときにも、口うるさくなりすぎてメンバーとの心の距離が離れてしまわないように注意しました。みんなを引っ張るマネージメントメンバーとして、なにか困ったらすぐに相談できる存在を目指していました。今回のプロジェクトのメンバーはみんな私の声掛けに笑顔で応えてくれて、素直に困っていることを相談してくれました。そういうメンバーの存在がとてもありがたかったです。」
宮澤さん「私も前期・後期とマネジメントメンバーとして活動しました。苦労したのは、事情があって作業に来られない学生への対応と、その学生が担当した看板の塗り作業をどうやって完成までもっていくのかという点でした。参加していない学生は、担当範囲が『できていない』という事実を認識できないんです。塗り作業は何段階も重ねていってようやく完成するものなのに、塗り作業の1回目だけで『もうできている』と勘違いしてしまうことがありました。なので、まずはその『できていない』気付いてもらうことから始めました。といっても、やっぱり作業にあまり来られない学生にも楽しんで制作してほしいし、完成した看板を見て、『あの部分は私が塗って、完成させたんだ』という達成感も味わってもらいたかったんです。クオリティを保ちながら、楽しんでメンバーに作業してもらうためにどうサポートするかが課題でした」

学科もコースもバラバラで、このプロジェクトに参加しなければ知り合うことのなかった学生が、切磋琢磨し合い、信頼関係を築きながら、一文字看板の完成という同じゴールに向かって進んでいくのが、このプロジェクトの特徴でもあります。
今回、お話を伺ったみなさんも、情報デザイン学科、映画学科、プロダクトデザイン学科、こども芸術学科と、所属する学科・コースは多岐にわたります。
それぞれの学科での学びとはまた一味違う、看板制作プロジェクトならではの苦労や、それぞれの専門分野の視点から得られた気づきについて、羽原さんに話してもらいました。

羽原さん「私は普段、情報デザイン学科で学んでいて、主な作業はパソコンでしています。絵を描くときも全部デジタルで作業してきたので、この南座看板制作プロジェクトでいきなり筆を持つことになって新鮮でした。実際に作業してみると、自分には技術が足りないということがわかったんです。普段から筆を使って制作している周囲のメンバーから、『塗っているところが山になって(盛り上がって)いる』と指摘してもらって、そこを削って修正する。それを何度も繰り返して、最終的な完成を目指すのは、とても大変だったけど、それでも、とても楽しかった思い出です」


最後に、完成した一文字看板を実際に南座で目にした時の気持ちを聞かせてもらいました。
宮澤さん「感動と安心。このふたつでした。大学での作業では、階段の上から看板を見下ろして全体のバランスを確認していたので、実際に『看板』として見上げながら制作することはできなかったんです。ちゃんと描けているだろうか、見上げたときに違和感がないだろうかと、心配をしながらの完成でした。だから、実際に南座で掲げられた一文字看板を見たとき、『ちゃんとできている』ということに感動して、一気に安心できました」

さまざまなジャンルの学科の学生が交わるからこそ得られる学びと成長。学生たちの得意、不得意を学び補う努力。そのすべてが、南座の一文字看板というひとつの作品に結実しています。





今回の看板の設置期間は終了しましたが、来年度前期の南座看板制作プロジェクトでは、また異なる演目の一文字看板が制作されます。単なる「制作」だけで終わらない、「プロジェクト」の完成を目指す学生たちの努力の成果を、実際に南座へ足を運んでご覧になり、そしてその演目を鑑賞してみてはいかがでしょうか!
(文=文芸表現学科4年 愛知はな)
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