COLUMN2026.02.19

教育

何者でもない時間

edited by
  • 京都芸術大学 広報課

踏み出した次の一歩がどこに着地するのか——高いのか低いのか、前なのか後ろなのか——まるで見当もつかない。そこは、そんな場所でした。

大学を卒業するにあたって進路を考えたとき、ふと思い出したのが、昔から気になり、少し憧れていた「青年海外協力隊」でした。当時は職種によってかなりの倍率でもあり、不安を感じながら受験しましたが、幸いにも合格。赴任先に決まったのは、「ニジェール共和国」という、聞いたこともない国でした。
今のようにネットが当たり前ではなかった時代。本棚から地図帳を引っ張り出してその場所を確かめ、本屋に駆け込んでどんな国か調べてみると、アフリカのど真ん中に位置し、国土の4/5がサハラ砂漠。世界でも最貧国といわれるその土地に、ただただきょとんとしたのを覚えています。
語学などの訓練を経て、いざ赴任してみると、言葉も文化もまったく違う。食べるものも見るものも初めて尽くし。音も匂いも見知らぬものに溢れ、五感が驚きっぱなしの日々でした。赴任先の町には日本人は自分ひとり。会話すらままならない毎日でしたが、それでも、日々はワクワクに満ちていました。
そんな中で訪れたサハラ砂漠。そこは一面砂の世界。そこで感じたのが、冒頭に記した感覚です。自分がどこにいるのか、まったくわからない、そんな不安。でも、不思議と落ち着く。厳しくもあり、優しくもあるような、矛盾をはらんだ不思議な場所でした。それはサハラだけではなく、ニジェールという地でずっと感じていたことなのかもしれません。

僕は芸術を求めてそこに行ったわけではありません。けれど、そこで数々の人、様々なもの、多くの出来事に出会いました。それらは僕の中で何かの形に変わり、僕自身にもなり、僕の作品の源泉ともなり、今の僕を形作る一部になっているように感じています。そしてそれは、今もなお続いているのだと思います。

何も考えずに「えいや」と踏み出した足が、どこに着地するのかもわからないまま進み続ける。その中で出会ったものが、知らず知らずのうちに、自分に大きな影響を与えるのだろうと、改めて思います。

 

美術科 陶芸コース かのう たかお
出典:『雲母』芸術時間 2025年冬号

 

京都芸術大学 Newsletter

京都芸術大学の教員が執筆するコラムと、クリエイター・研究者が選ぶ、世界を学ぶ最新トピックスを無料でお届けします。ご希望の方は、メールアドレスをご入力するだけで、来週より配信を開始します。以下よりお申し込みください。

お申し込みはこちらから

  • 京都芸術大学 広報課Office of Public Relations, Kyoto University of the Arts

    所在地: 京都芸術大学 瓜生山キャンパス
    連絡先: 075-791-9112
    E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp

お気に入り登録しました

既に登録済みです。

お気に入り記事を削除します。
よろしいですか?