
この連載では、卒業生が営むお店を、卒業生へのインタビューを通してご紹介します。お店をはじめたきっかけや、学生時代の学び、今後の展望についての質問を通して、卒業生の想いやこだわりを深く掘り下げます。きっとそこには、本学で培った感性や学びが、いまもなお息づいているはず。気になるお店があれば、ぜひ実際に訪れて、新たな発見とあたたかな繋がりを体験してみてください!
益や酒店(京都府京都市)
益田藍さん
株式会社益屋 代表
2007年 京都芸術大学 環境デザイン学科卒業
気軽に日本酒を楽しめるお店を

京都市内で「益や酒店(ますやさけてん)」「サケホール益や」「カモガワアーツ&キッチン」の3店舗と「益や製菓」というブランドを展開する益田藍さん。2015年の開業以来、地元の常連客や観光客、外国からの旅行者など多くの人が気軽に通える日本酒バルとして注目を集め、現在は缶入り日本酒とおつまみの製造販売も手がけています。
今回は、環境デザイン学科卒業生の益田さんに、お店づくりのこだわりや大学での学び、今後の展望などについてうかがいました。
———益田さんが展開されているお店について、それぞれご紹介いただけますか。
益田さん:1号店として10年前に「益や酒店」をオープンしました。京都市御幸町通り四条にある、カウンターやテーブル席のある日本酒バルのような雰囲気のお店です。次に京都市内の烏丸エリアに「サケホール益や」を開業しました。「サケホール益や」はもう少し客席が多くて、コース料理なども提供する、同じく日本酒を軸とした飲食店です。3店舗目は「カモガワアーツ&キッチン」で、1・2階がカフェ、最上階が事務所スペースになっています。ケータリング事業もここで行っていて、パーティースタイルのオードブルセットやお弁当の提供と、店内利用もできるようにしています。そして2023年からは、「益や製菓」というブランドを立ち上げました。缶に入った日本酒と自社製造のおつまみを製造、販売しています。京都タワーサンドや東京のGINZA SIXに直営店があり、それ以外の百貨店や新幹線の構内などでも置いてもらっています。
——お店をはじめたきっかけは?
益田さん:大学卒業後は、内装の設計施工会社に勤めていました。設計、施工、積算、営業、現場管理などを1人ですべて担当する、「1人工務店の社長」みたいな感じで、それが自分には合っていたんです。その経験から、経営やマネジメントの業務を担っていきたいなと感じて、その後飲食店での経験を経て、独立しました。
会社に勤めていた頃、清潔で入りやすく、それでいて高級すぎず、女性でも日本酒を気軽に飲み比べできるお店があまりないなと感じていました。自分でお店をするなら、20代から30代の女性が日常的に使えるようなお店にしたいと思って、「益や酒店」を開業しました。
——元々、日本酒がお好きだったんですか?
益田さん:家にはいつもありましたね。両親が好きで飲んでいたんです。また、学生時代にアルバイトしていた和食屋さんに日本酒が置いてあって、少し残った日本酒を一升瓶ごといただき、よく飲んでいました。
手を加えすぎないシンプルな内装で
——大学卒業後は設計と施工のお仕事をされていたとのことですが、現在の店舗の内装についてのこだわりはどんな部分ですか?
益田さん:内装施工の仕事をしていたとき、色々な物件を手掛ける中で、やりたいことを詰め込みすぎると上手くまとまらない、ということを学びました。なので、店舗の内装については引き算というか、詰め込みすぎず、魅せるところを絞る、という方針で設計しています。七条鴨川で店舗を構える「カモガワアーツ&キッチン」も、アートを壁面に飾っていますが、それ以外は手を加えていません。この店舗は元から壁がモルタルだったので、装飾を施さない方がアート作品が引き立つ空間になると思ったんです。「益や酒店」では、店舗で扱っている日本酒を壁面に設置しています。この日本酒はディスプレイの機能だけではなく、実際に提供するお酒も並べています。
——お店の看板メニューはなんですか?
益田さん:フードメニューだと「いぶりがっこのポテトサラダ」がおすすめです。創業当初から「お店に来たら必ず食べる」という方や、遠方からこのメニューを楽しみに来てくださる方もいます。お酒に合いやすく、燻製の効いた「いぶりがっこ」が食感としても楽しめるので、定番のおすすめです。「ゆばピザ」もロングセラー商品です。メニュー開発には、入社間もないスタッフも参加します。若手でもベテランでも常に新しいアイデアを考え、提案できる社風で、そこから生まれるメニューが多いです。
——京都という土地でお店を営むことのよさはなんですか?
益田さん:地元の方もよく来てくださいますが、お店に訪れる地元の方の話を聞きたい、コミュニケーションを取りたいという他県や海外の方など、色々な方がいらっしゃいます。これは京都ならではだと思います。わたしは実家が京都で、京都のコンパクトさが好きだったので、自然と「お店を出すなら京都で」と考えていました。
学生時代の学びを活かして
——学生時代は学科でどんなことを学んでいましたか?
益田さん:環境デザイン学科の建築・インテリア・環境デザインコースで、住宅や公共の建物について学んだり、模型を作ったりしていました。小学生の頃から絵を描くことやものづくりが好きだったので、大学で模型作りを遅くまでやったり、クラスメイトの家に集まって作業したりした思い出がいまも残っています。
——現在、学生時代に学んだことが活かされているなと思う場面はありますか?
益田さん:たくさんありますが、特に「期限を守ること」の重要性は、仕事をする上でも感じます。社会人になって、すべての仕事は納期や期日で回っているということを実感しています。また、だれかを手伝ったり面倒を見たりしないと、自分も手伝ってもらえないということも、学生時代にチームで活動しながら学んだことですね。現在、アルバイトで働いてくれている京都芸術大学の学生たちも「互いに助け合って、一緒にやる」ということを大切にしてくれていると思います。
——お店の将来の夢や目標はありますか?
益田さん:「日本酒で京都の人を楽しませ、人の役に立つ、人を豊かにする」という経営理念を共有している社員がそれぞれやりたいことを考えて、軸をぶらさずにチャレンジしていってほしいと思っています。飲食店って、意外とエンターテインメントみたいなところがあるので、人を楽しませることが大切なんです。どんな仕事をしていても、「なにかの役に立っている」と自分が思えないと続けられないと思います。人の役に立ち、豊かにすることで自分も生きがいを持つということを大切にして、これからも進んでいきたいです。個人的には、10年後にかつてのスタッフや常連さんがお店に来てくれたとき、ここで一杯飲んだらほっとできる、帰ってこられる場所であり続けたいです。

——ホームカミングデー当日の提供予定メニューのおつまみと日本酒について、こだわりや注目してほしいポイントがあれば教えてください。
益田さん:いぶりがっこのポテトサラダを提供します。立食形式で食べやすい、ケータリングスタイルでお出ししたいと思います。日本酒は益や酒店で人気の京都の蔵のお酒を持っていきたいと思っているので、せっかくなので色々な種類を飲み比べできるようにしたいです。「益や酒店」で人気のおつまみと日本酒で、ペアリングを楽しんでもらえるよう準備しますので、ぜひみなさん遊びにきてください。
毎年11月頃に開催されるホームカミングデーでは、昨年度に引き続き、今年度も全国各地で活躍する卒業生がホームカミング懇親会(立食パーティ形式)でお料理を提供してくれます。ぜひ、ほかの「卒業生のいるお店」についてもチェックしてみてください!
【お店について | information】
益や酒店
〒604-8044
京都市中京区御幸町通り四条上ル大日町426 1階
営業時間 平日15:00〜24:00、土日祝12:00〜24:00
店休日 不定休
【お店からのお知らせ | announcement】
10月1日は日本酒の日!日本酒造りがスタートする季節です。益や製菓も各地でポップアップ開催中!10月は,,,
10月1日〜 クイーンズ伊勢丹品川店
10月9日〜 伊丹空港 諸国屋
10月22日〜 京都駅 新幹線構内 京のみやげ
10月25日 招徳酒造 蔵開き
10月31日〜 京都駅ポルタ地下2階
開催予定!
【卒業生の紹介 | introduce】
益田藍(ますだ あい)
株式会社益屋・代表取締役。京都造形芸術大学環境デザイン学科建築コースを卒業後、株式会社スペースで店舗の設計・施工を担当する。退職後、2015年に日本酒店「益や酒店」をオープン。2017年に「サケホール益や」、2020年には「カモガワアーツ&キッチン」を開店。2023年、「益や製菓」販売開始。
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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。