これこそが“ねぶた”、これこそが“祭り”。2022年9月14日18時、照明を消した会場の暗がりで、巨大なねぶた20基がいっせいに白い光を放つとともに、怒涛の拍手が湧きおこりました。なかには「やった」「最高!」という、こらえきれない歓声も。今年も無事に点灯式を迎えたこの「瓜生山ねぶた」は、2007年度からはじまった本学の名物授業。春から開講されている基礎力養成プログラム、「マンデイプロジェクト」の総仕上げともいえる超大型ワークショップです。
このプログラムの特色は、コースや学科に関係なく、クラス(制作チーム)が編成されること。最初はまったく初対面のメンバーたちが、さまざまな課題に取り組むなかで、企画や作業を分担・協力していきます。「最終課題である“ねぶた”制作の頃には、メンバーそれぞれが互いの個性や特技を知り尽くす仲に。そのことが、より大きなドラマを生むんです」とテクニカルディレクターの森岡厚次先生。8月末からのわずか2週間ほどの間に、ゼロから誕生したねぶたは、みんなの想いを詰め込まれ、だれも見たことのない“何か”へと成長していくのです。
昨年は「SDGs」、その前は「0/zero」。毎年、共通テーマ(=お題)が設定される“ねぶた”ですが、今年のテーマは「リアルとフェイク」。「いつもは時事性を重視して、直前に決めたりしているんだけど、これは1年前から温めていたもの。それが世界情勢の急変で、ぐっとタイムリーになってしまって」と苦笑するのは、テクニカルディレクター池永誠之先生。
コロナ禍で「自宅」と「現場」に作業班を分けた去年、自宅での作業が作品にかつてない緻密さをもたらしたと言います。今年はフレキシブルな対応で、大勢の現場作業が可能になったものの、「自宅作業」の良さもしっかり継承されていたとか。
「自分の手で木を切り、針金を曲げる作業は、きわめて“リアル”。表現するのは、“つくられた”コンセプト。この制作そのものを通して、リアルとフェイクを体感してもらえたら」。そんな先生たちの前に現れた“ねぶた”たちは、仏像にピーナッツ、カッコウ、イカ墨、ウーバーイーツ、金閣寺などなど…姿かたちもコンセプトも多種多様。しっかりとした造形のつくりこみが、その不思議なものたちに、確かな生命を与えていました。
“ねぶた”が灯された後は、それぞれが別のクラスの作品を観賞。先生方による審査・集計がおこなわれ、いよいよ表彰式がはじまります。3年ぶりに20クラス、741名の学生全員が集結した会場・春秋座のスクリーンには、さまざまな制作風景を切りとったアーカイブ映像が。スタッフが徹夜で編集したという見事な出来映えに、大きな拍手やどよめきが巻き起こります。
さらに、先生からの「おつかれさま! まずは、お互いのがんばりを讃えあおう」と声で、割れんばかりの拍手が鳴り響く会場。
どんどん興奮が高まるなかで、瓜生山ねぶたの最高賞である「学長賞」、テクニカルディレクターが選出する「TD賞」、そして「優秀賞」、「佳作賞」の4つの賞が発表され、クラスの代表者たちに賞状が授与されました。以下に、それぞれの受賞作品をご紹介いたします。
TD賞 ― Rクラス『見たまんまがそのまんま?』
立派な足の先の爪、甲羅についた寄生生物まで忠実に再現された、タラバガニ。その足に結ばれたタグには「見た目悪し、だが味は良し」とあり、多くを語らず、現実社会に存在するさまざまなリアルとフェイクを表現しています。「クラスみんなで、最後の最後までクオリティを高めている姿を見て、決めました」と述べたTDの池永誠之先生が、代表者全員をひじタッチで祝福。
佳作 ― Oクラス『決断』
「モーゼの十戒」を表現した作品は、“荒れた波(情報)の中をかきわけ、ひとつの答えを導き出すモーゼのように、進む未来を自ら切り開くのは自分次第”と語りかけます。和紙を使いこなして質感、量感を生みだし、大階段という難しい場所をうまく活かして、大海が割れるという壮大な世界観を表現しているところが、高い評価につながったようです。
優秀賞 ― Cクラス『盆栽』
「人の手による美しさ、松自身が成長する美しさ、その二つの世界に私たちは魅了される」という言葉が添えられた作品は、ダイナミックな造形力で観るものに迫りつつ、松の葉一本一本や木の幹の風合いまで、繊細に表現されています。「リアルとフェイクを融合させ、人工と自然を行き来するコンセプトも素敵です」とは、賞状を授与した副学長である荒川先生のお言葉です。
学長賞 ― Tクラス『ホーリーナイトメア☆アニマルズ』
現実に存在するマレーバクと、悪夢を吸うと語られる伝説上のバク。背中向けのリアルとフェイクをつなぐのは、夢や空想をかたちにした雲のようなモチーフ。数え切れないキーワードのなかから見つけだした「獏」と「夢」を、最後まで細部にこだわり、つくりこんでいったとか。受賞コメントがわりに「いつものかけ声!」をコールしたチームの団結力が、生みだした傑作です。
すべての発表が終わった後、「じつはサプライズが…」と先生が紹介したのは、理事長からのビデオメッセージです。あいにく式には出席できなかったものの、学内で見てきたひとりひとりのがんばりを賞賛。全ねぶたのイメージアイコンを染め抜いたオリジナル手ぬぐいが、特別賞としてメンバー全員に贈呈されました。
「せっかくだから、黙ったまま、マスクをとって記念撮影しましょう」ということで、最後はみんなの笑顔で閉会。こうして、「瓜生山ねぶた2022」のクライマックスである点灯式は無事終了しました。けれど、この巨大プロジェクトから生まれた絆は、卒業後までつづくことも珍しくないそうです。激動する世の中、何がリアルで、何がフェイクかわからないまま、判断を迫られることもあるでしょう。けれど、この熱気は、いま感じている気持ちだけは、本物だから。みなさん、すばらしい作品をありがとう。完成おめでとうございます。
(ねぶた作品・点灯式撮影:高橋保世、制作風景撮影:広報課)
京都芸術大学 Newsletter
京都芸術大学の教員が執筆するコラムと、クリエイター・研究者が選ぶ、世界を学ぶ最新トピックスを無料でお届けします。ご希望の方は、メールアドレスをご入力するだけで、来週水曜日より配信を開始します。以下よりお申し込みください。
-
京都芸術大学 広報課Office of Public Relations, Kyoto University of the Arts
所在地: 京都芸術大学 瓜生山キャンパス
連絡先: 075-791-9112
E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp -
高橋 保世Yasuyo Takahashi
1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。