暑い暑い夏の終わりを予感させる、2023年9月13日の宵。体育館で、エントランスで、ギャラリーで、つぎつぎと巨大なねぶたに光が灯され、制作した学生たちの歓声が、真っ白な輝きとともに暗闇を吹き飛ばしました。キャンパス内、3つのエリアに展示されたねぶたは、あわせて20基。つくり手として参加した学生、約800名。1年生のみが春から選択できる学科横断の授業「マンデイプロジェクト」の総仕上げとして、全員参加で挑む壮大なワークショップ「瓜生山ねぶた」点灯式のスタートです。
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2007年度からはじまり、いまや大学の伝統行事となりつつある、この「瓜生山ねぶた」。コースも学科もバラバラな約40名の1年生どうしが、同じクラスのチームとしてどれだけ協力しあえるかが、制作の重要なポイントです。「とくに今年の主役となる1年生は、多感な高校時代の大半をコロナ禍で過ごした人たち。コミュニケーションはうまくとれているかな、と内心ヒヤヒヤしながら見ていました」と打ち明けるのは、テクニカルディレクターの森岡厚次先生。
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“どよめきが起こった”と大学の公式SNSもつぶやいた、今回のテーマは『1mm』。昨年の『リアルとフェイク』と同様、コンセプト慣れしていない1年生の頭をかき乱したようです。「最近のテーマ発表はね、“アーカイブチーム”という瓜生山ねぶたの全記録スタッフが動画化してくれるんですよ。その中に、僕らなりのヒントを散りばめているつもりだけど…」。ニヤリと笑うテクニカルディレクター、池永誠之先生。
ChatGPTといったAIの精密さと、人間のあいまいさなど。例年どおりに時事ネタから連想したテーマではあるけれど、「学生たちの答え(ねぶた)が、ことごとく予想を裏切るもの」なので、その裏切りをどの先生も楽しみにしているそうです。
今年もまた、“数十年かけて1mm成長する鍾乳石”、“厚さ1mmのマスク”、“たったの1mmで気持ち上向くアイライン”など…小さな単位からあふれ出たアイデアが、巨大な創造物となって会場を照らしだしました。
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点灯したねぶたを、つくり手から鑑賞者となった学生たちが見てまわる間に、先生方もすべての作品を審査。表彰式の会場である春秋座に20クラス全員が揃う頃には、集計の結果がアーカイブチームによって映像化され、あとは発表を待つばかり。同じくアーカイブチームが記録・編集した約2週間の作業風景がスクリーンに映し出されると、みんなの中に込みあげてくる感情が、うねる波のように会場全体をつつみこみます。
その気持ちを受けとめるかのように、「これから悔しがる人も、喜ぶ人もいるだろうけど、自分たちがやりきった証しとして、評価に対する一喜一憂をかみしめてほしい」と、芸術教養センター長の中山 博喜先生。総勢800名以上が息を詰めて見守るなか、テクニカルディレクターが選出する「TD賞」、同窓会が選ぶ「同窓会賞」、「佳作賞」と「優秀賞」、そして瓜生山ねぶたの最高賞である「学長賞」の5タイトルが発表され、クラスの代表者たちに賞状が授与されました。
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以下に、それぞれの受賞作品をご紹介いたします。
TD賞 Nクラス『解泡』
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ラムネびんの口からあふれ出す泡、泡、泡。そのフタに「私たちの思いは1mm」とあるように、コロナ禍から解放されたパワー、希望、不安のすべてが、和紙をちぎり、揉み、重ねて描いた細かな泡沫や、なめらかなフォルムの中に凝縮されています。「最初は心配だったけど、つくりはじめてからは全員でまとまっていく姿が賞の決め手に」と感慨深げに語る、TDの池永・森岡、両先生。
同窓会賞 Eクラス『積み重ね』
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ただ本を重ねただけなのに、なぜかうっとりするほど美しいのは、巧みに計算された配置のせいか、一冊ごとの質感やタイトルの緻密さのなせる技か。「積んだ本でどこまで迫力が出せるか…と心配だったけど、コツコツ地道にがんばってくれたみんなのおかげです」という代表者のコメントから、受賞の理由を読み解けます。本への愛情と敬意が静かに伝わってくる名作です。
佳作賞 Dクラス『閃の一手』
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巨大なQRコードが搭載されているのは、これまた巨大な囲碁の碁盤。「なぜ囲碁…?」と不思議に思われた方はネットで検索を。「これまでに見たことのない骨組みで、最初は“なんじゃこら”と思ったけど、完成した姿を見たら、アイデアからタイトルまで秀逸!」と、芸術学部長の河田学先生も絶賛。ちなみにQRコードは実際に読み込める仕様となっており、Dクラスの創作風景がカラフルに紹介されていました。
優秀賞 Mクラス『上映中』
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「人生はたった1mmだ。46億年の地球の歴史を24時間にまとめると、人ひとりの命は0.002秒。」それが、映画のフィルム1mmで記録できる秒数なのだとか。物質的で哲学的なコンセプトを、人生を1コマずつ描いたアルバム風の切り絵で、エモーショナルに表現。「生きることへのやさしさと慈しみにあふれた、いい作品ですね」と副学長の荒川朱美先生も、賞状を渡しながらニッコリ。
学長賞 Gクラス『しぶきを追う』
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だれもが一度は体験する“金魚すくい”。その、すくわれる刹那の金魚と揺れる水面、沈むポイが一体となった美しさは、まさに真夏の夜の夢のよう。「間に合わないかも」という焦りと闘いながらも、ひとりひとりが得意分野を活かし、和紙の隙間をうめるなど最後までこだわりぬいたそうです。「金魚の表情にやられた」と絶賛する吉川左紀子学長、この夜はポイに追われる夢を見たかも…。
祈るように息をひそめ、最後の最後まで自分たちの受賞を待っていた15クラスの学生たち。サプライズの受賞者が「全員」だと聞いて、つい落胆してしまったのも無理のないことです。それでも、ひとりひとりのがんばりを賞賛して、理事長から贈られたオリジナル手ぬぐいを受けとって思わず笑顔に。手ぬぐいには、全ねぶたのイメージアイコンが可愛く染め抜かれていました。
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「最後はみんなで手ぬぐい持って記念撮影!」ということで、学長賞のGクラスを中心に全員でポーズ。プロ写真家である中山 博喜先生がカメラを構える、なんとも贅沢な集合写真です。こうして無事に点灯式・表彰式を終えた「瓜生山ねぶた2023」。8月の終わりから12日間、夏休み返上でひたすら木組みや針金、和紙と格闘し、仲間と心をあわせて完成させたのは、ほんの1mmからはじまり、この先も成長しつづける、みなさん自身の大きな器です。本当におつかれさまでした。今年もすてきな作品をありがとうございます。
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集合写真撮影:中山博喜
ねぶた作品一覧(受賞作品以外)
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(ねぶた作品撮影:高橋保世)
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高橋 保世Yasuyo Takahashi
1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。