1年生たちの情熱が、命を吹き込む。
今年のねぶたは、すべてが熱すぎる。2024年9月11日18時、点灯式のカウントダウンがはじまると、講堂を、エントランスを、ギャルリ・オーブを揺るがす大歓声が巻き起こりました。その叫びで目覚めたかのように、巨大な体を光らせる20基の「瓜生山ねぶた」。大歓声の主は、猛暑と闘いながらの約12日間でコンセプトから模型づくり、木組み立て、針金通し、和紙貼りの工程を経て、このねぶたを創りあげた1年生たちです。彼らを見守ってきた先輩アシスタントや担当教員たちも、あまりの熱狂ぶりに若干押されぎみ…。
この「瓜生山ねぶた」とは、17年つづく京都芸術大学の名物授業であり、学科横断型の授業「マンデイプロジェクト」の最終課題です。学科もコースもバラバラな約35名が、ひとつのクラスとしてチームを結成。授業を通してお互いの個性や能力を理解し、役割分担による共同作業を経験していく。その集大成となるのが、ねぶた制作です。「正直、どの年度よりも“本当に完成するのか?”と最後までヤキモキしました」と安堵の表情を浮かべるのは、芸術教養センター長の中山 博喜先生。
限定された条件、無限大の個性。
それにしても、ちょっと意地悪なのが今年のテーマ、『漆黒』。なにしろ「瓜生山ねぶた」には「骨組みに角材と針金を使用する」「和紙を張り、点灯する」といった制作条件が厳密に定められており、その筆頭が「白く光る」ことなのです。「だけど漆黒には、光の要素もあるんですよ。これまで色に関するテーマはなかったし、黒のお題に白い紙でどう答えるかなど…まあ、純粋な興味もありましたけどね」。結局はいたずら心を白状する、テクニカルディレクターの池永誠之先生。
ここではあえて伏せておきますが、いつもテーマを出すとき、先生方の頭には何らかのイメージが浮かんでいるそうです。ところが毎回、目の当たりにするのは、いい意味で期待をかすりもしない学生たちの奔放な発想。“死から逃げる漆黒のゴキブリ”、“心を虜にするゲーム機の躯体”、“思い出を重ねたスクールバッグ”などなど…。支給される和紙や針金、電球の数まで細かく決められているとは思えないほど、千差万別のカタチや質感を持つねぶたたちが、「これが、私たちの漆黒」とばかりに輝く個性を見せつけています。
「いいものが多すぎて選べない」というのが、お世辞ではなく本音だった今回のねぶた。点灯した作品を審査する先生方からの投票がなかなか集まらず、それをもとに受賞作の発表動画を制作するアーカイブチームはヤキモキ。そんな舞台裏を知らない学生たちは、表彰式の会場である春秋座に集合して、同チームが記録・編集した約2週間の作業風景に釘付けです。誰かの顔がスクリーンに映し出されるたび、湧きあがる笑い、どよめき、拍手喝采。まるで、もう式が始まっているかのような盛り上がりを見せています。
そしてついにすべての用意が整い、「これが皆さんのクリエイターとしての出発点!」という中山先生のご挨拶で、表彰式がスタート。20クラス約700名以上が見つめるなか、テクニカルディレクターが選出する「TD賞」、同窓会が選ぶ「同窓会賞」につづき、先生方の投票で決まる「奨励賞」と「優秀賞」、そして本ねぶたの最高賞である「学長賞」の5タイトルが発表され、クラスの代表者たちに賞状が授与されました。以下に、それぞれの受賞作品をご紹介いたします。
TD賞 Nクラス『毘沙門天の蜈蚣(むかで)』
大講堂のとなり、空間全体が階段状の教室に巣喰う大ムカデ。まさに観客たちへと這い寄ってくる姿は、恐ろしくも、美しく、目が離せません。コンセプトに「大妖怪であり、神の使いでもある」とある、その圧倒的な漆黒の存在を生みだしたのは、TDの先生方が評価の決め手とした「過酷な個人作業の中で、お互いに相手を信じあい、仲間とつながりあう気持ち」でした。
同窓会賞 Uクラス『投票』
逆さにした投票箱からこぼれて重なる投票用紙の山を、同じく紙のねぶたで表現した野心作。「漆黒ってなんだろう」という醒めた視点のコンセプトとは対照的に、つくり込みの高さから伝わる熱意に心を揺さぶられます。「これまで見たことのない表現、造形力、透け感がすばらしくて」と、選出した同窓会代表の方も、すっかり心をつかまれた様子。
奨励賞 Bクラス『視線』
一枚一枚が切り絵細工のように繊細な羽根を、無数にまとったフクロウの頭。その細部にばかり目を奪われそうになりますが、表彰状を授与した大野木先生が大絶賛したのは、「漆黒と目が合う」というコンセプトの肝でもある、眼の処理です。「感動しました」という心からの賛辞を受けて、思わず涙で声をつまらせる代表者の姿に、会場も静かな感動に包まれました。
優秀賞 Tクラス『強欲』
「漆を塗り重ねた漆黒のような、際限のない欲望」を、「黒い真珠」とも呼ばれるキャビアのために乱獲されるチョウザメで表現。教室の中を泳ぎまわる、生き生きとしたフォルム、お腹に抱えた無数の卵。「コンセプトの深さやリアルな造形力はもちろん、点灯すると卵が透けて浮かびあがる、ねぶたならではの仕掛けに惹かれました」と副学長の荒川朱美先生。
学長賞 Gクラス『ヒカリノツカイ』
「あなたが漠然と不安を抱くその漆黒の中にも彼はいる」。吉川左紀子学長が表彰台で思わず朗読した、詩的なコンセプトどおり、漆黒の深海を愛しむようにたゆたう、リュウグウノツカイ。約7.6mという仰ぎ見るほどの巨体は、なんと横にした状態で組み上げて、最後に起こしたのだとか。「この高さを実現した技術がすばらしい」というお褒めの言葉に、皆の顔が輝きました。
Gクラスを代表して、リーダーの藤本理花さん(プロダクトデザインコース)、副リーダーの大野璃子さん(アートプロデュースコース)、西田圭歩里さん(油画コース)の言葉。
「苦労した点も、嬉しかった点も、前代未聞の高さを誇るこのねぶたを“たちあげた”ことに尽きます。何度もテストしたけれど、最後まで不安で…無事に完成したこと、学長賞に選ばれたこと、すべてにまだ実感がありません。だけど、真面目で仲のいいクラスのみんなが、とことん話し合い、悩み抜いてつくったねぶた、多くの先生方に投票していただけて、本当にありがたいです。」
「みんな、本当にすごかったですね」と壇上に立った理事長が挨拶をはじめても、まだ興奮がおさまらない様子の学生たち。これからもっとすごいことをやってくれるのでは…と期待したくなる情熱が伝わってきます。そんな1年生全員が、最後の記念撮影で手にしていたのは、理事長から贈られたオリジナルの手ぬぐい。そこには、今年のテーマに合わせた漆黒の地色に、全ねぶたのイメージアイコンが白く輝いていました。
以上で、2024年度の点灯式・表彰式の報告は終わりです。最後に少しだけ、式が始まる少し前に点灯した、正門にある2基の大燈呂・ねぶたについてご紹介させてください。ひとつは10月13日の粟田祭に向けて、これから着彩がはじまる「粟田大燈呂」。そしてもうひとつは、初めて大学内で制作された、本学附属高校生による「高校生ねぶた」です。世代をこえ、プロジェクトをこえて、どんどん大きく進化をつづける「瓜生山ねぶた」。今年のすばらしい作品をつくりあげた皆さん、支えとなった多くの皆さん、本当におつかれさまでした。熱い熱い夏の終わりの感動を、ありがとうございます。
TOP全員集合写真=中山博喜
制作風景写真=吉見 崚
点灯式・表彰式・作品写真・クラス集合写真=高橋保世
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