INTERVIEW2025.10.07

教育

卒業生のいるお店 — 京都岩倉逸京(環境デザイン学科卒業生・植浦基暁さんインタビュー)

edited by
  • 上村 裕香

全国各地で活躍する京都芸術大学の卒業生たち。旅先でふらっと立ち寄ったお店で「このお店のオーナーさん、もしかして京都芸術大学の卒業生?」なんて偶然の出会いもあるかもしれません。この連載では、卒業生が営むお店を、卒業生へのインタビューを通してご紹介します。お店をはじめたきっかけや、学生時代の学び、今後の展望についての質問を通して、卒業生の想いやこだわりを深く掘り下げます。きっとそこには、本学で培った感性や学びが、いまもなお息づいているはず。気になるお店があれば、ぜひ実際に訪れて、新たな発見とあたたかな繋がりを体験してみてください!

京都岩倉逸京(京都府京都市)
植浦基暁さん

京都岩倉逸京 代表

2004年 京都芸術大学 環境デザイン学科卒業

和食を身近に、新たな表現で

京都岩倉逸京は、安心・安全にこだわった手作りの和食ブランドとして京都市・岩倉から全国に展開されています。京都のおばんざいやお弁当、無添加の調味料、スープを扱う「逸京デリ」、おばんざいをビュッフェスタイルで楽しめるレストラン「逸京ダイニング」、逸京がプロデュースするオリジナルの和カフェ「逸京茶寮」など、複数店舗を運営。京都の料理人による伝統的な和食と、料理に込めた思いを表現するデザインを融合させ、百貨店でも展開しています。
代表の植浦基暁さんは本学の環境デザイン学科卒業生で、在学中に培ったデザインスキルとコミュニケーション能力を活かし、新しい形で和食を表現しています。「京都岩倉逸京」で提供する食品へのこだわりや学生時代の印象的なエピソードなどをうかがいました。

 


——このお店をはじめたきっかけは?

植浦さん:環境デザイン学科を卒業後、新卒で入社した会社では和装小物の製造販売や飲食などの事業に7年ほど携わり、そこで和食の料理人さんと出会いました。当時の和食は百貨店でもあまり注目されていなくて、派手な洋食デリと比べて地味なイメージがあったんです。でも、和食の料理人さんと話すと、すごくいい知恵や技術を持っている。その知識や料理へのこだわりをうまく表現できていないことが課題だと感じました。そこで、大学でデザインを学んでいた経験を活かして、料理人の方々の思いを表現するツールや広報物を作るようになりました。独立するとき、料理人さんに「一緒にやりたい」と言っていただき、ぼくも「もっと和食を身近にしたい」という思いがあったので、無添加にこだわった、地元の方が買いに来られるような和食のブランドを岩倉で開業しました。

 

——従来の和食と、どのような差別化を図ったのでしょうか?

植浦さん:広報物での料理の撮り方とか、写真にキャッチコピーを入れるとか、ちょっとしたことですが、デザインを洋食ブランドと並べても遜色ない表現にしました。当時のぼくは二十代半ばで、40〜50代の料理長とデザインについて話し合うのは難しい部分もありましたが、みなさん「自分が作った料理が広報紙やウェブ媒体でカッコよく表現されている」ことを純粋に喜んでくれたので、コミュニケーションが取りやすかったです。そのデザインが百貨店のバイヤーさんにも響いて、新しい和食の展開として全国に広がっていきました。

 

——お店で提供するメニューのこだわりは?

植浦さん:料亭で腕を振るっていた料理長が、実際に提供していた調合で作っているので、一般的なスーパーでは味わえないものを商品化しています。すき焼きの割り下なども、京都の料理人さんが作るものはスーパーで売られているものとはまったく違うんです。また、無添加にこだわっていて、着色料や防腐剤は使いません。添加物が入っている商品を否定しているわけではありませんが、例えば醤油は本来、塩分や糖分が含まれているので、添加物を入れなくても1年以上保存できるものなんです。でも、スーパーなどの場合は流通や在庫管理の都合で消費者に届くまでに時間がかかってしまうため、防腐剤が必要になる。添加物をすべて否定しているわけではなく、ぼくたちは純粋に「消費者に必要なものだけを届けたい」という思いから、着色料や防腐剤を使わず、お子さんからお年寄りまで安心して食べてもらえるものを作っています。

 

——京都の岩倉という土地でお店を営むことのよさはなんですか?

植浦さん:
岩倉は京都の中でも、一般的にイメージされる「京都」と違うような感覚があります。祇園や嵐山のような観光地はイメージしやすいけれど、岩倉は「どこ?」とピンと来ないお客さんが多い。岩倉は繁華街からは離れていますが、京野菜を育てている自然豊かな地域や新興住宅街があり、住みやすい土地です。地元のネットワークが強く、オープン当時も口コミで話題になりました。日常的に「百貨店で売っているような食材が買いたい」というニーズがあり、逸京デリの商品がちょうどフィットしたんだと思います。

 

 

地域デザインを学ぶ中で培った力

——学生時代は学科でどのようなことを学んでいましたか?

植浦さん:ぼくは環境デザイン学科で、3年生からは地域デザインコースを専攻しました。当時、人気だったのは建築コースだったんですけど、ぼくは少人数のコースの方が先生と話せると思ったんです。建築物を設計するより、地域を取材・調査し、課題を見つけて、改善点や提案をするような、コミュニティを重視した学びが多かったです。上の世代の方々を取材したり、地域の方々が抱えている課題を引き出したりすることを学んだことは、社会に出てからとても役に立っているなと感じます。同じコースのメンバーとも高いモチベーションで切磋琢磨して学び、卒業制作で学科の賞を目指したり、他大学も参加するコンクールに参加したりして、みんなで朝まで作品作りをしていました。

 

——現在、学生時代に学んだことが活かされているなと思う場面はありますか?

植浦さん:学科で培ったコミュニケーション能力は、現在の仕事で役に立っているなと感じます。新しく人と繋がるときに、どう歩み寄っていくかというコミュニケーション能力はやはりビジネスにおいても重要で、学生時代、厳しい指導を受けながら同級生たちと必死に課題をこなしていた経験が活きているなと思います。

 


食育という未来への挑戦

——お店の将来の夢や目指している姿はありますか?

植浦さん:会社では「食育」をテーマに事業を展開しています。一般的には子どもに教えるのが食育ですが、うちが目指すのは20〜40代の大人への食育です。子どもたちが食育の一環として田んぼで畑作業をして、土に触れ合っても、その日の夜に親がファミレスに連れて行ったり、ファーストフードを食べたりしていたら、それは将来の役に立つ食育とは呼べないですよね。大人が「食」について積極的に学ぶことが大切だと思うので、商品開発やイベントのときには、子どもたちだけじゃなく、親にも「食」の大切さを感じてもらえるように工夫しています。

 

——ホームカミングデーで提供予定メニューの角煮丼について、こだわりを教えてください。

植浦さん:角煮丼には、京都もち豚という京都のブランド豚を使っています。逸京茶寮でも人気の商品で、使っている食材はすべて無添加です。「安心安全」というこだわりをもって作っているので、味の違いも知ってもらえたらと思います。

毎年11月頃に開催されるホームカミングデーでは、昨年度に引き続き、今年度も全国各地で活躍する卒業生がホームカミング懇親会(立食パーティ形式)でお料理を提供してくれます。ぜひ、ほかの「卒業生のいるお店」についてもチェックしてみてください!

 

 

【お店について | information】
京都岩倉逸京
〒606-0029 京都市左京区岩倉北平岡町1番地
TEL 0120-706-616(携帯電話からは075-706-6166)
営業時間 11時〜19時
定休日 水曜日
http://www.kyoto-ikkei.com/

 

【卒業生の紹介 | introduce】
植浦基暁(うえうら もとあき)
1982年、兵庫県生まれ。京都芸術大学 環境デザイン学科卒業。大学卒業後、一般企業に就職。職場での経験と学生時代の教員免許取得の経験から、自ら「知育」「食育」「創育」を行う事業を立ち上げる。

 

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  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

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