INTERVIEW2024.10.31

教育

卒業生のいるお店――pasta sorriso(兵庫県姫路市)

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  • 京都芸術大学 広報課

全国各地で活躍する京都芸術大学の卒業生たち。旅先や日常の中で「え、このお店も卒業生が?」と驚くことがしばしばあります。そんな意外な出会いが、私たちを笑顔にしてくれます。

この記事では、卒業生が手掛ける素敵なお店や商品をピックアップし、みなさんにご紹介。京都芸術大学を卒業した彼ら、彼女らの想いやこだわりが詰まったストーリーとともにご紹介します。ぜひ気になるお店を訪れ、新たな発見とつながりを体験してください。

兵庫県姫路市

小川陽平(おがわ ようへい)さん
農業生産法人 小川農園株式会社専務取締役・農村デザイナー
2004年 京都芸術大学 環境デザイン学科卒業 / 2006年 大学院芸術表現専攻(修士課程)修了

「食」を通じて自分たちにしかできないことを追求する

兵庫県姫路市山田町。稲刈りをひと通り終えた田んぼの横に、生パスタ工房 & 農家イタリアン pasta sorriso(パスタ ソリーゾ)はあります。元気な鳥の鳴き声が聞こえる開放的な店内で農村デザイナーの小川陽平さんにお話を伺いました。

pasta sorrisoができた経緯を教えてください

大学院を出て僕が就農した頃というのが、ちょうど国が農業の6次産業化を推し進めていたタイミングだったんです。米づくりや野菜づくりだけでなく、それを製造加工したり小売業やサービス業に展開していこうという流れですね。うちの場合は1次産業がお米づくり、2次産業がパスタの製造、3次産業がレストラン経営・販売ということになります。
妻がイタリア人ということもあって、これまでの日本の農家さんがやっていないような新しいことに挑戦したかったんです。それでお米を使ったパスタづくりに取り組み、農家とお客様をつなぐ場としてレストラン(pasta sorriso)をはじめました。

1次産業:お米づくり
2次産業:パスタの製造
3次産業:レストラン経営・販売

もともと姫路市のご出身なんですか

僕が生まれたのは姫路の駅前です。pasta sorrisoがある山田町のあたりは小さい頃に祖父母を訪ねて遊びに来る程度で、まさか自分がここで農業やお店をやるとは思ってもみませんでした。でも姫路という場所はまちづくりを考えていくうえでちょうどいいフィールドだと思っています。大きすぎず小さすぎず、自分と志の似ている人の存在が見える範囲にいるからでしょうね。

 

まちづくりのお話が出ましたが、現在はどのような取り組みをされていますか

姫路駅前のまちづくりや中播磨『海・里・山』をむすぶ『食』の研究会などに、旗振り役として関わっています。またファシリテーターとしてお声がけいただくことも増えていて、大小いろんなところに参画させてもらっています。
pasta sorrisoをはじめて10年近くになりますが、当初イメージしていたつなぐ場所としての存在意義とは少し違ったかたちになってきていると感じます。今は強力磁石といったイメージかもしれません。このお店を通じて自分たちにしかできないことを追求し発信してきたことで、より遠くの方々とつながれるようになったんです。まちづくり的な発想を持った一流の方々とのつながりが生まれているのは、このお店があったからだと思います。

農業用資材を使った子どもたちとのワークショップ(姫路市立美術館友の会の副会長をしている)
みんなが参加できる、姫路駅前広場のオープンニングを企画運営(くす玉は、京都芸術大学の後輩と一緒に姫路の杉を使って製作)

6次産業を実現していくなかで、農村デザイナーとしてすべきことが明確になってきたということでしょうか

そうですね、とにかく農業には挙げ出したらキリがないぐらい問題が山積みなんですよ。でも若い人たちと行動を起こし、そういう問題を少しずつクリアしていくことで、農村の価値を見出していけると信じています。このいろんな見方や考え方を組み合わせられる感覚は、うちがもともと農家ではなかったというのが大きいかもしれません。うちの父親も含めて、代々この町のお困りごとを解決するような仕事をしていて「まちづくり」という言葉が出てくる前からまちづくり的なことをやっていたそうです。
そういったことも踏まえ、農村デザイナーとして地域のお困りごとを美しく解決していきたいと思うようになりました。

地元の調理師専門学校で農業や生パスタの授業を担当(地元食材を使った創作料理コンテストを年に数回行っている)
子どもたちに楽しく農業に触れ合ってもらうため、田んぼの生き物調査と田植え体験を行っている

ただ解決するだけでなく美しさにこだわるのはなぜですか

美しさには物事を持続させる力があると信じているからです。姫路城もあの美しさがあったからこそ、戦時中の取り壊しを逃れて残すことができたという逸話があるそうです。つまり美しさが人の心を動かしたということですよね。
だからこそ、地域のお困りごとを解決するときにもその場しのぎの方法ではなく、デザインを活用し美しく解決することで持続可能なものを生み出していく必要があると考えています。

急激に高齢化が進む「姫路の林業を元気にしよう」「もっと姫路の杉を活用しよう」との思いから「姫路杉活」を立ち上げた(その活動の一環としてpasta sorrisoも民間でははじめて姫路産の杉を使用して建てた)
設計は京都芸術大学・環境デザイン学科の後輩によるもの
宍粟市のPR館を企画運営。過疎化が進む農村と都市部をつなぐ(ロゴや店舗設計は京都芸術大学・環境デザイン学科の後輩2人が担当)

これからのpasta sorrisoと小川さんについてどのように考えていますか

農業は万能接着剤だと思っています。農業をはじめてそれまでの経験がすべて結びついていったことで、自分の行動で無駄なことなどなかったんだと気付かされました。6次産業化の流れもあってか、いまの世の中的には「農業ってどこまでが農業?わからないなら全部やっちゃえ!」というスタンスが認められるようになってきている気がします。
だから今後も、pasta sorrisoを強力磁石として活用し多くの人とつながっていくことで、食を通じて自分たちにしかできないことを追求していきたいと考えています。

 

取材を進めていくなかで感じたのが、卒業してからも京都芸術大学とのつながりをとても大切にされているということでした。肌感覚の似ている同じ大学の卒業生とのネットワークを活用すること。そこに小川さん流の困りごとを美しく解決するためのヒントが隠されているのかもしれません。

 

【お店について | information】

pasta sorriso(パスタ ソリーゾ)
兵庫県姫路市山田町南山田105-3
TEL. 079-263-3755 / FAX. 079-263-3756
営業時間 ランチ=11:00–15:00 喫茶=15:00–16:00
定休日 火・水・木・金
※農家のため、農業繁忙期によって変動いたします。詳しくはお問い合わせください。
http://p-sorriso.com/

 

【卒業生の紹介 | introduce】
小川陽平(おがわ ようへい)
1982年、兵庫県生まれ。農業生産法人「小川農園株式会社」専務取締役。農村デザイナー。
京都芸術大学大学院芸術表現専攻修了。6年間京都で景観・観光まちづくりをテーマに地域デザインを学ぶ。その後、一般企業にてイベントの企画を行う。結婚を期にイタリアフレンツェに移住、日本文化を広めるイベントを行う傍ら、日伊貿易のサポートを行う会社を設立。日本に帰国後、地元姫路のまちづくりに携わる。その後、専業農家となり「農業をデザインする」をテーマにパスタソリーゾを設立。自社栽培の米を生パスタに加工した6次産業化に成功。

(文・構成:平山健宣)

 

 

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