
全国各地で活躍する京都芸術大学の卒業生たち。旅先や日常の中で「え、このお店も卒業生が?」と驚くことがしばしばあります。そんな意外な出会いが、私たちを笑顔にしてくれます。
この記事では、卒業生が手掛ける素敵なお店や商品をピックアップし、みなさんにご紹介。京都芸術大学を卒業した彼ら、彼女らの想いやこだわりが詰まったストーリーとともにご紹介します。ぜひ気になるお店を訪れ、新たな発見とつながりを体験してください。

京都府亀岡市
辰巳雄基(たつみ ゆうき)さん
丹波亀吾郎(たんばかめごろう) 店主
2013年 京都芸術大学 空間演出デザイン学科 空間デザインコース卒業
体がよろこぶ「おいしいお土産」
亀岡インターチェンジを降りて、車で約2分のところにある走田神社(はせだじんじゃ)。その向かいの駐車場にある白いトレーラーが「丹波亀吾郎」です。さわやかな風が通り抜けるお店横の一角で、店主の辰巳さんにお話を伺いました。

丹波亀吾郎ができた経緯を教えてください
実は亀岡にはお土産と言われてパッと出てくるものがないんです。一応あるにはあるんですが、いざどこかに出張へ行くとなったときには、ついつい阿闍梨餅を買って行ってしまう。
亀岡にはすばらしい素材の育つ土壌があるんだから亀岡でお土産をつくることができれば、周りにいるいろんな人たちと仕事やお金を回して生きていけるんじゃないかと考えてお店をはじめました。
あとそういった地域全体で取り組んでいくことが、環境問題に関心のある人や有機野菜を積極的に取り入れるといった意識を高く持った人だけに響くのではなく、垣根をヒョイっと飛び越えてメッセージを届けられるのって、単純に体がよろこぶ「おいしいお土産」なのかもしれないと思ったんです。

亀岡にはどういったご縁で来られたんですか
亀岡に来たのはほんとにただの偶然で、福祉施設を母体としているみずのき美術館のキュレーターをされている奥山理子さんに声をかけていただいたのがきっかけです。当初は福祉施設の仕事をさせてもらっていましたが、並行して亀岡ではじまった芸術祭の企画や古本屋、石の展示や農小屋の写真を撮って本をつくったりもしました。



そこから丹波亀吾郎にはどのようにつながっていきますか
あるとき亀岡の農家さんを訪ねてお話を聞くという機会をいただいたんです。お話を聞いていくとおもしろい話がたくさん聞けただけでなく、単純にめちゃくちゃ野菜がおいしくて食べたら元気が出たんですよ。
それで「これは絶対に伝えないといけない」ということで農家さんとマルシェをしてみたものの、イベントのときだけ消費されるイメージでいい流れが継続していかない。なかなか農家さんの理想のかたちになっていかないんです。そういった経験から、持続可能なかたちで農家さんのことを伝えていく方法はないかと模索し、丹波亀吾郎にたどり着きました。
ところで辰巳さんって何者なんでしょうか
僕にもまだその答えは出てないんですよね(笑)。一応、蒐集家(しゅうしゅうか)という肩書きで活動をしてたりしますが、これも肩書きを聞かれる機会が増えて仕方なくつけたという感じです。ただこのかめやきをつくること以外の活動も、全部よく似たことをしていると自分では思っています。農小屋を写真で集めて見せたり、石を拾って紹介するのもすべて自分がたまたま出会った(発見した)もののなかで「これは伝えたい」「共有して意見を聞いてみたい」と思ったものをどういったかたちで伝えるのか、その手段を変えているだけなんです。亀岡に来たときに農家さんの野菜を伝えたいと思ったのも同じ理由ですね。
丹波亀吾郎のおすすめの楽しみ方を教えてください
う~ん、それってシッポから食べるか頭から食べるかというような話ではないですよね(笑)。それでいうと、やっぱりこの目の前にあるすばらしい神社や風景とセットでかめやきを楽しんでもらうのがおすすめです。あと、かめやきは季節感を大事にしているので、そのときその瞬間にしか食べられない食材も登場します。そのときにしか出会えない味を楽しんでもらうというのもおすすめですね。


お店をやっていくうえで気をつけていることはありますか
体は正直なので、使う食材にきちんと責任を持つということですかね。あとはお客さまの生活のなかへお邪魔にならない程度に入っていけたら嬉しいですね。
たとえば毎週かめやきを買いに来てくださるおばあちゃんがいらっしゃるんです。1週間分をまとめて購入して毎日解凍して食べてくれている。つまり言い方が合っているかは分からないけれど、そのおばあちゃんの細胞の一部をかめやきがハックしているとも言えるんじゃないかと思うんです。だから使う食材にきちんと責任を持ってつくらないといけないなと。あと今以上に地域の子どもたちがおやつとしてかめやきを選んでくれるようになっていけば、地元で野菜を育てている農家さんたちの哲学とかも自然なかたちで伝えられるメディアに、このお店がなれるかもしれないとも考えています。
これからの丹波亀吾郎と辰巳さんについてどのように考えていますか
ここでお店をやっていると、1日で製造・販売できる数にはどうしても限界があります。そんななか、沖縄に住んでいる友人がかめやきをやりたいと連絡をしてきてくれたんです。現在そのプロジェクトはゆっくりと進行していますが、こういったかたちでかめやきのノウハウがあちこちに散らばっていくとおもしろいなあと思っています。とくに亀に固執しているわけでもないので、その地域にキツネがシンボルとして伝わっているなら「きつねやき」でもいいかもしれない。大事なのはその地域のなかで、きちんと仕事やお金が回って人が幸せに生きているということなんです。いろんな地域を調査し、かたちを変えながらでもその地域が回る方法を考えて発信する。そのためには自分が話すというよりは、そこでしっかりと生きている人の話を聞き教わることで、僕という人間の輪郭が立ち上がってくると思っています。あ、そう考えるとやっぱり僕はずっと蒐集をしているのかもしれないですね(笑)。
取材に訪れたときまず最初に目に飛び込んできたのは、のどかな風景のなかで旬の栗の皮を剥いている辰巳さんの姿でした。その穏やかだけどまっすぐ芯が感じられる姿は、丁寧に人と向き合い生きることに真摯に向き合っている蒐集家ならではのものなのかもしれません。
【お店について | information】
丹波亀吾郎
京都府亀岡市余部町走田2走田神社前
定休日 月・火・水・木・祝祭日
営業時間 10:00–17:00(金土日であれば祝日も営業しております)
Instagram @tamba.kamegoro
【卒業生の紹介 | introduce】
辰巳雄基(たつみ ゆうき)
奈良県生まれ、亀岡市在住。一般社団法人きりぶえ理事、農小屋学会、山成研究所、丹波亀吾郎店主。 日本全国の飲食店から集めたもので「ジャパニーズチップ展―テーブルの上で見つけた日本人のカタチ」漂流物の即売会「たつみの海でひろってきたもの店(展)」海や川から拾ったもので「石と網」農家さんの協力のもと、土と野菜を集めて「生ける野菜展」地域の竹細工と物語を収集した「竹を編む 記憶を辿る」など蒐集やリサーチでの発見をもとに展覧会や発表を行う。
著書に『箸袋でジャパニーズ・チップ!テーブルのうえで見つけたいろんな形』(リトルモア)、共著に『小屋の本 霧のまち亀岡からみる風景』(きりぶえ)がある。
(文・構成:平山健宣)
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