
新入生の門出を歓迎するように、桜の花が満開を迎えた2025年4月5日(土)、京都・瓜生山キャンパスにて、本学通信教育課程の入学式が執り行われました。当日は雲一つない晴天で、全国各地から集まった新入生たちは思い思いの晴れ着に身を包み、仲間たちとの出会いに胸を膨らませていました。
この記事では、通信教育課程入学式の様子をレポートします。
日本全国や海外から、18歳から90代の方までが主にオンラインで受講する本学の通信教育課程。入学式は対面とオンラインのハイブリッド型で行われ、当日会場に来られなかった新入生もオンラインで式典に参加することができました。また、ご家族のみなさまにもライブ配信を通して、新入生の晴れやかな姿をご視聴いただけました。
(式典のアーカイブ配信はこちら→)
https://www.youtube.com/live/5GWPPJLfC-k

新入生のみなさんの入場が終わると、式典がはじまりました。
はじめに、本学の理念「京都文藝復興」を本学教員の中村淳平先生が朗読しました。

続いて、佐藤卓新学長による学長式辞です。佐藤学長は「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」などの商品パッケージやポスターなどのグラフィックデザイン、施設のサイン、商品ブランディングの分野で活躍し、NHKEテレ「デザインあ」「デザインあneo」の総合指導も務めています。本学のロゴマークも佐藤学長が2013年にデザインしたものです。

佐藤学長は学長就任にあたって、デザインは新たなものを生み出す仕事ではなく、様々なものの間を繋ぐ仕事であると述べ、「世間では、デザインは特別なものだと思われています。デザイン家電という言葉は一般に『洗練されたデザインの家電』を指しています。しかし、洗練されたものや可愛いもの、現代的なものだけがデザインではありません。それ以外のものも、すべてデザインです。信号機ひとつとってもデザインですし、右側通行左側通行といったルールもデザインです。デザインというのは、わたしたちの身の回りにあり、わたしたちの営みの間を繋いでくれているものだと思います。学長に就任したわたしの使命は、『大学をデザインする』ことであると考えています。みなさんとともに、新しい繋ぎ方、より良い繋ぎ方を探していきたいと思っています」と挨拶しました。
本学の通信教育過程は1998年にスタートし、現在では学生数は17,000名を超え、学生の年齢は10代から90代までに広がっています。佐藤学長はそうした通信教育課程の沿革に触れ、「テクノロジーの進歩によって、通信で学ぶという選択肢ができた。わたしの学生時代にはなかった学び方です。教育においても、様々な繋ぎ方が可能になったということだと思います。京都芸術大学では通信教育のシステムをいち早く取り入れ、様々な取り組みを行ってきました。開学以来、積み上げたノウハウがあり、魅力的な先生方がいらっしゃる素晴らしい環境を、みなさんの芸術創作の糧にしていってください」と新入生に激励の言葉を贈りました。
佐藤学長はデザイナー・彫刻家であった五十嵐威暢さんの「アートは思い、デザインは思いやり」という言葉を引用し、アートとデザインのあり方について、次のように新入生に伝えました。
「思いは主体が自分にあります。思いやりは、主体が自分ではなく、相手や周囲の環境にあります。わたしも『アートは思い、デザインは思いやり』という言葉を大切にしてきましたが、最近はアートにもデザインにも思いと思いやりが必要で、順番が違うと理解すると良いのではないかと思うようになりました。アートというのは、まず思いがあり、作品を制作して自分の思いを表現する。そして、そのあとに鑑賞者に対して『どう見てくれるだろうか』と考える思いやりが生まれる。デザインは『こうすると人の役に立つんじゃないか』という思いやりが先にあり、その次にデザイナーとしての思いが込められていく。そういう捉え方もできるのではないかと考えています」
そして、佐藤学長が12年前にデザインした本学のロゴマークについて、「このマークは、一滴の墨汁を紙に落としたときにできた偶然の形です。通常、ロゴマークをつくるときには、デザインの目的や考え方に合わせて、輪郭をわたしがつくります。しかし、このシンボルマークの輪郭は、自然がつくっています。京都芸術大学の建学の理念である『藝術立国』や『京都文藝復興』の姿勢について考え、『自然に委ねる』デザインを提案しました。わたしは何百とシンボルマークをデザインしてきましたが、このような考え方でシンボルマークを制作したことは、他に一度もありません。デザインを自然に委ねることはなかなかないことですが、この大学のロゴマークだからこそ、成立していると考えています」と制作意図を説明し、建学の理念への考えを述べました。
最後に、戦争や災害、パンデミック、環境問題などの課題が山積している現代において、芸術を学ぶ学生や芸術家だからこそできることがあると述べ、新入生の今後の活動が充実したものになることを祈念しました。

次に、来賓を代表して姉妹校である東北芸術工科大学学長の中山ダイスケ先生から、祝辞をいただきました。
中山先生はご自身の学生時代を「最初から優秀だったわけではなく、社会人になって現場に出てから勉強をはじめた」と振り返り、その理由を「クリエイティブの仕事でお金をもらいはじめたとき、クライアントに対して素人ではいけないと思ったから」と回顧します。
「医療の仕事をするときには医療のことを勉強してからデザインし、食品の仕事では食品会社に出向いて勉強し、信頼していただける状態になってからデザインするということを繰り返してきました。自分の意思で勉強しはじめたのは、40代以降のことです」
中山先生は、20代後半から30代にかけて留学したニューヨークで、出会った人々の学びとの距離に衝撃を受けたといいます。中山先生がアートプロジェクトやファッションショー、建築のディレクターを務める中で出会った人々の多くが、年齢を問わず、常に大学と近い距離にいたと話され、「ぼくがいたクリエイティブの現場では、ギャラリーのスタッフや劇場のディレクターがプロジェクトを終えて3か月だけ大学に戻るとか、子育てが終わったタイミングで博士課程に戻るとか、30代、40代の人たちが普通に大学での学びを近いものとして捉えていました。彼らはそれを『return to school』あるいは『back to school』と表現します。学校に戻るのではなく、学びに戻るということですね。何歳でも学べる環境が素敵だと感じました。通信教育課程のみなさんの中にも、いろいろな人生のタイミングでこの大学に来られた方がいらっしゃると思います。学ぶことができる環境に感謝しながら、これからの大学での学びを深めていってください」と新入生にエールを贈りました。

つづいて、京都芸術大学の学生サークル「和太鼓 悳(しん)」が祝奏を披露しました。
「和太鼓 悳」は瓜生山学園の学生により構成されている和太鼓サークルです。「心技体」をテーマに、メンバー全員がお互いの気持ちを理解し合い、自分自身へ挑戦することを目標に、日々練習に励んでいます。
新入生の入学を祝して、明るい未来に向け笑顔を絶やさず、日々前向きに物事を捉え進んでいただけるよう、そして自然、芸術、人の思いに対して響く心を持ち、仲間とともに学生生活を満喫していただけるように、心を込めて「燦(さん)」を演奏しました。


新入生を代表し、芸術学コースの市川めぐみさんが入学の辞を読み上げました。市川さんは2021年、通信教育課程芸術教養学科に3年次編入し、2024年3月に卒業されました。卒業後、美術館で仕事をする中で、芸術領域への探究心が膨らみ、美術史や芸術理論などの専門的な学びを深めるとともに自身の芸術専門分野を確立したいと考え、再び芸術学コースで学ぶことを決意されたそうです。

暖かな日差しに包まれ、春の草木が芽吹く季節となりました。
本日は、私たち新入生のために、このような盛大な式を催していただき、
誠にありがとうございます。新入生を代表してお礼申し上げます。
また、新入生を代表して、檀上にてご挨拶できることを名誉に思い、感謝いたします。
私は、2021年4月に3年次編入にて京都芸術大学 通信教育部 芸術教養学科で、
仕事をしながらの学び直しを経験しました。
入学のきっかけは、当時インテリアコーディネーターとして仕事に邁進しつつ、更なるステップアップや、今後の人生の展望を考えていたところ、〝社会や生活を見つめ、考えるまなざしを養い、自ら問いをたて考察し、デザイン思考を獲得する〟という芸術教養学科での学びにひかれ、入学を決意いたしました。
同時期から美術館でのアートコミュニケーターのボランティア活動も始めたことで、芸術分野への興味も膨らんでいき、入学の翌年から博物館学芸員課程も追加で履修をはじめました。博物館実習は京都瓜生山キャンパスの芸術館で行われ、本学の学びの中で初めての、対面での授業やグループ課題などに取り組み、同じ芸術教養学科の20歳年下の学友も出来ました。様々なスケジュールに追われつつ、課題や試験、卒業研究は大変でしたが、学友と共に、学び励まし合いながら、2024年3月に卒業し、学芸員の資格も無事取得することができました。
この学びによって、例えばデザインを例にとると、以前はデザインはモノや建築など、形・色のあるものと思っていましたが、時間のデザイン、コミュニティーのデザイン、編集としてのデザインなどを知り、学びを深めるなかで、「モノの見方・感じ方」が大きく変わり、視野が広がっていく経験をしました。
卒業後の1年間は、ご縁のあった美術館で仕事をさせて頂き、休日は主に、各地の美術館を巡って楽しむなか、ふつふつと芸術領域への探求心が高まっていくのを感じました。そこで、美術史や芸術理論などの専門的な学びを深めるとともに、研究技術や考え方を身につけ、自身の芸術専門分野を確立したいと考え、芸術学コースでの学びをふたたび決意しました。
そして学ぶのであれば、博物館学芸員課程のスクーリングや、感動的な卒業式で足を運んだ、この京都芸術大学にて、再び学びを深めたいと思い、本学を志願いたしました。
これからも、仕事と家庭と勉強を両立しながらの学びは、決して平たんな道のりではないと思います。これまで学びで大変な時は、〝楽苦しい(たのくるしい)!〟と念じながら、乗り越えて来ました。この、〝楽苦しい!〟とは、芸術教養学科在学時に、学科長だった
早川克美教授が、よくおっしゃっていた言葉で、〝苦しいけど楽しい!〟という意味です。楽しいだけでなく、苦しさも伴う学びだからこそ、より自分自身を高みに連れて行ってくれる学びの場となることと信じています。
4月から、新入生の皆さんと共に、新しい探求の学びの旅が始まることに、ワクワクしています。皆さんも一緒に、〝楽苦しい!〟学びの旅を、満喫しましょう!この学びによって、またどんな新しい景色が見えるのか、今から楽しみです。
そして、これからお世話になります教職員の皆様、ご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願い致します。
2025年4月5日
京都芸術大学 通信教育部 芸術学部 芸術学科 芸術学コース 市川めぐみ
新入生からの熱い思いを受け、学校法人瓜生山学園の徳山豊理事長から歓送の辞が贈られました。
徳山理事長は本学の通信教育課程を96歳で卒業された方について紹介し、「本学の在籍上限年数は9年ですが、その方は9年在籍し一度退学して、再入学を経て、10年かけて本学を卒業されました。四国から京都まで2か月に1度、スクーリングに通われ、96歳での卒業はギネス記録として認定されました。現在、本学の通信教育課程には98歳で学びを続けているみなさんの先輩もおられます」と通信教育課程ならではの多世代の学びを強調しました。
そして、締めくくりに以下のメッセージを贈りました。
「この学校でみなさんが学ばれる。教職員はみなさんの学びをサポートさせていただく。いや、もっといえば、本学には教員はいません。教員も、みなさんとともに学び続ける仲間です。学生のみなさんと一緒に教員も学び、ともにディスカッションしながら学びを深めていきます。学びを続ける中では、ときに困難に直面することもあるかと思います。ぜひ、仲間とともに学びを続けていってください。今日はそのスタートラインです。健康に気をつけて一緒に学んでいきましょう。本日は誠におめでとうございます」

式典の最後には、新入生・教職員一同で学園歌『59段の架け橋』を斉唱しました。
入学式閉式後は、各学科・コースでガイダンスが行われ、新入生は学びのスタートを切りました。通信教育課程の学生にとって、大学での式典やイベントは先生方や学友と集う貴重な機会でもあります。これからともに学ぶ学友との交流は密度の濃い時間となりました。
大学での4年間が、みなさんの人生にとって素晴らしい時間となることを願っています。新入生のみなさん、この度はご入学、誠におめでとうございます。
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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。