REPORT2024.05.01

自分のペースで、さらなる高みへ―2024年度 京都芸術大学 通信教育部 入学式

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  • 京都芸術大学 広報課
  • 高橋 保世

桜の花がまさに満開を迎えようとしていた2024年4月7日(日)、京都芸術大学は京都・瓜生山キャンパスにて通信教育部の入学式を執り行いました。

この記事では、通信教育部入学式の様子をレポートします。

入学式は対面とオンラインのハイブリッド型で行われ、全国・全世界にいる新入生やそのご家族のみなさまに向けて、ライブ配信されました。

▼通信教育部式典のアーカイブ配信はこちら
https://youtube.com/live/olqu09ggI4E

新入生の皆さんの入場が終わると、開式の辞とともに式典がはじまりました。
はじめに、本学の理念「京都文藝復興」を本学教授の松平定知先生が朗読されました。

つづいて、吉川左紀子学長による学長式辞では、まず本学の設立経緯についてのお話からはじまりました。

「京都文藝復興」の作者であり本学建学の祖である德山 詳直本学前理事長は、1930年に生まれ、10代の多感な時期に戦争を体験したことをきっかけに、戦争のない平和な社会に貢献する芸術教育の学び舎を作りたいという強い意思が資金や人を集めました。

本学の前身となる京都芸術短期大学が設立されたのは1977年。その前年に発表したという「まだ見ぬわかものたちに」という文章の中で、德山前理事長はこのように書いています――

 

 この学園は、美について語り、美をさぐるものの集まりとして存在しています。

 ……ぜひ伝えたいのは、
 なにが美しくてなにがみにくいか
 なにがほんとうでなにが嘘か
 ひとを愛するとはどういうことなのか
 人間とはどんなものか
 いかに生きるべきか
 などといったことにつきると言えましょう。

 ……美を基軸とした人間観、世界観、生きざま論をぶつけ合い、語り合い、はぐくみ合ってゆきたいと考えています。

 

まだスマートフォンもなく、インターネットの普及率も低かった1998年に通信教育部を開設したのも、德山前理事長でした。芸術教育を通信教育で行うことは前代未聞であり、理事会では大きな反発があったと言われています――そのとき德山前理事長が諦めていたら、今日というこの日はありませんでした。

吉川学長は本学の一番の強みは「質の高い教育力」であると言います。

この4月に新設された「食文化デザインコース」「映像コース」の先生方には、この日まで大変な時間と労力を掛けて新しい教材の開発や教育システムの構築に尽力いただきました。これらのコースにご入学された皆さんに向けては、「ぜひ先生方とコミュニケーションをとって、学びについての感想や意見を伝えてもらえれば」と呼びかけました。

また、仕事や介護・子育て等との両立を図る新入生の皆さんに「大学生としての自覚を持って、卒業の日まで学びを継続してください」とエールを贈りました。

いまだ新規偏重、大量消費、そして欧米優位の価値観が残るなか、芸術の世界はそうした世の常識とは異なる価値観が保たれてきました。小さくて繊細なもの、この世に1つしかないものを持つ価値、そして日本を含む東洋で古来培われてきた芸術文化の持つ価値――そういったものを尊ぶ価値観が「藝術立国」「京都文藝復興」という本学の建学理念には内包されています。

 

通信教育で芸術やアート、デザインを学ぶ皆さんの目的は多様です。
いい仲間を見つけてほしいと思います。学ぶ楽しみだけではなく、伝える楽しみも味わってみてください。
そして、芸術、アート、デザインの学びの中から、ご自身のライフワークとなるような楽しみや喜びを見つけていただきたいと願っています。
京都芸術大学 通信教育部へのご入学、誠におめでとうございます。

 

次に、来賓を代表して東北芸術工科大学学長 中山ダイスケ先生から、祝辞をいただきました。

大学教育に携わると同時に、アートや舞台美術等デザインの分野で活躍しつづけてこられた中山先生ですが、もともと無理矢理やらされる勉強は嫌いで、高校までも主要科目の成績には非常なバラつきがあったのだそう。そして、自身の手で学び始めたのは40代からだった、と語ります。

クリエイティブの仕事でお金をもらうようになると、依頼者やお客さんへの責任、業界の後輩や先輩からの目……そういったものへの焦りに駆られ、仕事に必要な技術や知識を学ぶ。「今でも学んでいる毎日です」と中山先生。でも、他にも学びが変化したきっかけがあったそうです。

それは、ニューヨークでの5年間の活動で得た経験。アメリカやヨーロッパで舞台美術のお仕事をされる中で同僚のプロフェッショナルたちは、大きなプロジェクトが終わると短期間大学に戻り、論文を書いたりしていたのだそう。あるいは、パートナーが大学院に通うから自分は次のプロジェクトには参加せずに家事をやる、と言う同僚も。

年齢にとらわれず、大学と、あるいは「学び」との距離が近いあり方――それは、日本では見られないものでした。

京都芸術大学 通信教育部は、多様な年代の方々が、様々なご事情を持って学ぶ場所。それは、同級生の多くが同世代ではじまってゆく通学制大学での学びとは全く違う、「学生の数だけ人生の都合が集まっている場所」での学びになる、と中山先生は語ります。

 

皆さんが今日お持ちのそれぞれの熱意っていうものは、本当に正しい、学びへのエネルギーです。大きな意味での皆さんの人生のデザインの始まりでもあります。

そんな皆さんに、「頑張ってください」っていうお声がけは不要ですから。きっと皆さんもね、いろんな形でこれからも一生学び続けていかれる方たちでしょうから、どうかそのまま一生、学生でいてほしいなと思います。僕もそうありたいと思っています。

 

中山先生は最後に、「世界が平和になるための、皆さんが幸せになっていくための芸術」を目指しましょう、と新入生に呼びかけました。「皆さんの学びが皆さん自身と世界を明るく照らしてくれることを祈って、私の挨拶とさせていただきます。頑張ってください!」

つづいて、学生サークル「和太鼓 悳(わだいこ しん)」が祝奏を披露しました。

「和太鼓 悳(わだいこ しん)」は京都芸術大学の学生により構成されている和太鼓サークルです。技術だけでなく「心技体」をテーマに、メンバー全員がお互いの気持ちを理解し合い、自分自身への挑戦に向けて日々練習に励んでいます。

新入生の入学を祝して、明るい未来に向け笑顔を絶やさず、日々前向きに物事を捉え進んでいただけるよう、そして自然、芸術、人の思いに対して響く心を持ち、仲間とともに学生生活を満喫していただけるように、心を込めて「響(さん)」を演奏しました。

 

新入生を代表し、岸本 輝美子さん(美術科 日本画コース)が入学の辞を読み上げました。

実は、2023年3月に和の伝統文化コースを卒業した岸本さん。京都芸術大学で学ぼうと決めたきっかけは、高齢者福祉施設で指導していた工作レクリエーションのアイデアを得たいと考えたことだったそう。

「年齢の制限がなく、定められた単位を取得することで大学を卒業できる――そんなところに魅力を感じ、2019年4月に、興味があった和の伝統文化コースに入学しました」

コロナ禍で対面スクーリング授業が無くなってしまうなど様々なことはありましたが、4年間を通して日本の伝統文化の素晴らしさを知ることができたそうです。「日々のレポート課題や卒業研究は、想像以上に大変で、もういいわ、と投げ出したくなる時もありましたが、大きなやりがいや達成感を得ることができました」

卒業後、またふつふつと何かを学びたいという気持ちが湧き上がったという岸本さん。美術館で巨匠の絵画を見ているうちに、「こんな素晴らしい絵が描けるようになりたい」と思い、卒業生の作品も素晴らしかったことから日本画コースにご入学されたそうです。

「日本画とはどういうものであるかを知りたく、自分自身の作品を残すこともできますので、もう一度頑張ってみようと決意した所存です。和の伝統文化コース在籍時の先生方の熱心なご指導のおかげで、 この年になってもまだまだ知りたいことや学びたいことがたくさんあります。

新しい同級生との語らいも、楽しみにしています。頑張って学んでまいりますので、 ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。」


学校法人瓜生山学園の徳山豊理事長からは歓迎の辞として、新入生の皆さんにエールを贈りました。

今年度の通信教育部の新入生は4700人を超えており、通学部の新入生は1100名以上。また、前日には姉妹校である専門学校や通信制の高等学校の入学式もありました。新入生の皆さんには、それだけの数の同級生や仲間がいることになります。そして、この通信教育部では今年度、18歳から97歳までの方が学ばれることになります。

ひとりひとり、思いも、きっかけも、住んでいる所も生い立ちも違う皆さん。しかし、皆さんには「自分を高めたい、自分の探求心をもっともっと高みに持っていきたい」という熱い想いは共通してお持ちのはずです、と徳山理事長は新入生に伝えました。

 

これから4年間、ひとりひとりそれぞれのペースで、 それぞれの歩みかたでしっかりと創作・制作・研究を進めていっていただきたいと思います。私たち教職員は、全員が皆さんのために、皆さんとともに学び続け、そして皆さんの学習意欲に応えていきたいと、強く思っております。

どうぞ健康に気をつけて、そして共に成長し続けたいと思います。これから学生生活、エンジョイしていただきたいと思います。これからの生活を、もっともっと楽しんでください。

本日はご入学、誠におめでとうございます。

 

式典の締めくくりに、学園歌『59段の架け橋』を斉唱しました。

京都芸術大学の正面にある59段の大階段。新入生の皆さんはこれから4年間、いろいろな想いとともにこの階段を歩くことでしょう。

ご入学本当におめでとうございます。瓜生通信も、皆さんの学生生活が実り多きものになるように心から応援しています!

(文=天谷 航)

 

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  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

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