廃棄リネンを使ったファッションショー「tuottaa」―主催したのは2人の学生ブランドディレクター!
- 京都芸術大学 広報課

2025年2月13日(木)、廃棄されるリネン使ったファッションショー「tuottaa(トゥウォッタ)」が京都市京セラ美術館にある「光の広間」で開催されました。
この企画は京都芸術大学空間演出デザイン学科ファッションデザインコースの学生2人が、創業70年のリネンサプライ会社である株式会社フロニカさん協力のもと開催されたものです。
「光の広間」は屋根がガラスでできているため、室内に光が差し込み開放感のある空間です。外の光が今回の衣装に使われたリネンの白を際立たせており、「光の広間」の効果を最大限活用した、幻想的なファッションショーでした。


今回の記事では、「tuottaa」の主催者であり、ウエディングドレスブランド「Gift(イフト)」を立ち上げた空間演出デザイン学科の藤江菜々さん、岩本麻央さんにお話を伺いました。

きっかけは一通のメッセージ
空間演出デザイン学科ファッションデザインコースでは、3年生の授業で1人1ブランドを立ち上げ、最後にファッションショーで発表することを目標にしています。2人共同での立ち上げも可能ですが、歴代の先輩たちを見ていた先生からはあまり推奨されていなかったそう。それでも共同でウエディングドレスブランド「Gift(イフト)」を立ち上げた2人、実はそれまでは挨拶を軽く交わすほどの関係でした。そんな2人の関係を変えることになったのは、岩本さんが藤江さんに送った「一緒にやらない?」という一通のメッセージでした。

「ナンパしました」と笑う岩本さんは「私がウエディング関係のアルバイトをしているので、自分でドレスを作りたいなという思いがあったんですけど、1人でやるのは無理だなと思いました。なので、一緒にするなら技術のある人、いろんな経験をしている人がいいなと思い声をかけました」と話します。
岩本さんは藤江さんのポートフォリオなどを見て、活動に注目していました。
誘われたことに対し、藤江さんは「私は舞台衣装をメインに作っていたので、そのままアイドルの衣装作るのかなと考えていました。1人で考えていたら、考えが漠然として行き詰まっている状態でしたね。声をかけられて、一緒に作ったらワクワクするだろうなと直感で思い、オファーを受けました。声をかけてもらったのは素直に嬉しかったです。でも岩本さんってどんな人だ? と思いました(笑)」と笑顔で語ります。
それまで行き詰まっていた藤江さんは「ウエディングドレス」というワード1つで、アイデアが湧いてきたそう。

「Gift」のウエディングドレスと廃棄リネン
「Gift(イフト)」は幸せの国とされるスウェーデンでは「結婚」を意味し、2人は立ち上げるブランド名に使っています。「Gift」で扱うウエディングドレスは、主に株式会社フロニカリネンの全面協力を受け、ホテルなどで廃棄されるリネンを使っています。フロニカは設立70周年ということもあり、捨てられるだけのリネンを使い学生と何かできたらと思っていたそう。
「ドレスを作ると決めてから、どうしたらサスティナブルに作れるかを考えた結果、大きい生地がいると直感で思いました。大きい生地ならシーツかなと。京都は観光業が盛んでホテルも多いし、廃棄されるホテルリネンが多いんじゃないかなって。リネンを使う利点はジャバジャバ洗えることで、ファッションショーの前にもコインランドリーで洗っていました」とホテルリネンを使う利点について話してくれました。
また、「Gift」のウエディングドレスは生花を使っているのも特徴です。実は、生花をウエディングドレスに使うことはなかなかできないそう。
「ウエディングプランナーさんに話を聞いたところ、生花をドレスにつけたいという人も結構いるみたいです。ウエディング業界って、ブーケとかもウエディング用に作られているお花で、花粉がつかないように品種改良されて、それ専用に育てられているお花しか使えないんです。リネンを使ったドレスなら、お花屋さんのお花であったり、花嫁さんの好きなお花をさして雰囲気変えるとか業界的にタブーだったこと実現できるなって思いました。そこに需要があったり、他のブランドと差別化できたりするポイントなんじゃないかなと」


2人は「直接聞かないとわからないし、多方面からの意見をもとに作りたい」と考え、先生にもういいんじゃないかと言われるほどさまざまな場所に取材をしに行ったそう。2人の熱意がウエディングドレスに表れていると感じます。
多くの人に支えられた「tuottaa」の開催
今回の企画は株式会社フロニカが本学と衣装コンペをするので、賞を発表できる場がほしいと考え実現したのが「tuottaa(トゥオッタ)」でした。ショーでは、「Gift(イフト)」のウエディングドレスの披露だけでなく、衣装コンペで受賞した作品の発表も行われました。京セラ美術館は数時間の場所の貸し出しを行なっており、2人はこの機会に使わせていただきたいと直談判しました。 すごい行動力ですね……!

「京セラ美術館の方たちが学生だからと温かく対応してくださったんだろうなっていうのはひしひしと感じていますね。スタッフのみなさんがすごく温かかったんですよ! 学校のプロジェクトとは違って、先生が担当としてついていてない完全に個人の企画として運営をしていたので不安でしたが、大学職員の方たちが『なんかあったらなんでも言って!』っていうふうに言ってくれましたので心強かったです。本当にいろんな人の支えがあって、イベントは成功したんじゃないかなって思いますね」と話します。
このファッションショーの企画が決まったのは、なんと開催から1ヶ月前だったそうです。
岩本さんは「企画を1ヶ月でしないといけないってなって、週一で電話するくらい会議をしました。主催が私たち2人だけだったので、2人で全部決めるっていうのが初めてだったし、設営とかスタッフの人数とかも集めなきゃいけなかったし、全部急遽決まったので。作品を作った学生たちがまわりの友だちとかに声をかけてくれたので、みんなやってくれてよかったです」とスタッフをした学生についても話してくれました。


藤江さんも「イベントをするのも初めてだったので、何もわからないままのスタートでした。私たちだけだったら難しいところや細かいところまでは何も考えずに進めてしまうのを、『著作権とかどうなるの』とか『モデルの顔出しは大丈夫なのか』とか質問をされて、そういうところまで気を配らないといけないんだと気付かされて、すごくいい経験になったと思います」と学んだことについて語ります。
学生だから、2人だったからできた経験
学生の間に、ブランドの立ち上げやファッションショーを開催してきた2人。在学中だから大変なこともあったけど、在学中だからできたと思うことの方が多かったそう。「学生だから」は魔法の言葉だったと振り返ります。
「イベントを行う知識が乏しいので、誰かに教えて支えてもらわないと本当に開催できませんでした。大人になると視野が広がる反面、いろんなしがらみができて、素直にやりたいっていう気持ちが薄れていってしまうのではないかな思っていて。だからこそ、学生時代に『やりたい、立ち上げたい』と思った熱量のままイベントをできてよかったなって思います。名刺の受け取り方とか授業では学べないことを学んでいる感覚はすごくありました。学生ならではですね、いろんな人が温かく見守ってくれたのは」
「学生だから」大人たちが支えてくれ、成長できる。そんな経験ができたのは、2人の熱意ある行動の賜物だと感じます。
さらに、お互いについて聞いてみると褒め合いが始まり、どれだけお互いを大切に思っているのかがわかります。
藤江さんは「岩本は私が焦っていると、『なんとかなるよ〜』って言ってくれるんです。常にニコニコして、一歩引いてみてくれているのが私には心地よくて。穏やかなんですよ。落ち込んでいるとポッと声かけてくれるんです。それが支えだったし、逆に岩本がやばいって思っていると感じたときは『なんとかするよ!』って気持ちで、お互いがそうやって気遣い自分の得意不得意を理解していて、得意なことを活かそう、苦手なことは私がしようとお互いできていたのが、ブランドを2人でやっていくうえで大きかったです。立ち上げてここまでいいねって言ってもらえるくらいできたのはお互いのことを理解しているからかな」と岩本さんや2人のことについて笑顔で話します。
また、岩本さんは「制作の役割分担がうまかったです」と話してくれました。岩本さんが型紙を写して切る作業、藤江さんが縫う作業を担当していました。そのような役割分担をしっかりしたことも2人でしていてよかったことだと語ってくれました。
約1時間の取材中、終始笑い声の絶えず、2人がお互いを理解し、助け合っていると伝わってきました。
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「Gift」からそれぞれの道へ
ブランド立ち上げの授業も終わり、他の学生たちはすでに一区切りをつけているなか「Gift(イフト)」の2人は「tuottaa(トゥオッタ)」を開催しました。「Gift」もここで一区切りです。「Gift」としての活動はここで終えますが、2人はこの1年で得た学びを活かし、それぞれの道へ進みます。
岩本さんは将来について「私はドレスは作り続けたいですが、素材はリネン以外のものを考えています。『Gift』は2人で作ったものだから、そのまま継続するんじゃなくて派生ブランドみたいなことはやりたいなって思っていますが、それはそれという感じで。宣伝には『Gift』のアカウントを使うとかはできるかなとは思っています。せっかくフォローしてくださった達を退屈させないようにしたいです」と話します。
藤江さんは「私は逆にリネンを使いたい。ドレスよりは、皆さんが着るような服に展開していきたいですね。私は天然で黒染めをしてみたくって、黒・白・グレーとかのちょっとモノトーン系のリアルクローズのブランドをまた別に派生して作れたらいいなと思っています。それぞれ『Gift』のアカウントで宣伝できたらいいなと」とこれからの挑戦についても話してくれました。
2人のやりたいことは異なりますが、「Gift」で廃棄リネンを使ったウエディングドレスの制作を基にし、派生ブランドの展開に挑戦します。
活動的で、人を引き込む力がある魅力的なお2人の今後の活躍から目が離せません!
(文=呉谷夏生)

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