叡山電鉄の車内がランウェイに! — 空間演出デザイン学科ファッションデザインコースファッションショー2023【ARROW】
- 上村 裕香
空間演出デザイン学科ファッションデザインコースの3年生が作った21のブランドのファッションショーが、叡山電車の走行する車内と八瀬比叡山口駅で1月13日(土)に開催されました。
叡山電鉄は京都市の北東部「洛北」に2つの路線を持つ鉄道会社です。出町柳駅を起点に北上し、途中の宝ケ池駅で二手に分かれ、東は八瀬比叡山口駅へ、西は貴船口駅や鞍馬駅に続いています。
本学と叡山電鉄株式会社は2023年4月に包括連携協定を結び、大学の最寄り駅である茶山駅を『茶山・京都芸術大学駅』に改名。駅舎ホームにて現代美術作家のヤノベケンジらによるアーティスト作品の展示を行うなど、本学のクリエイターとの協働によって駅舎や叡山電車沿線地域の魅力を向上するための取り組みを行ってきました。
“サステナビリティ"といえば、もちろん環境によいイメージだけど、伝統や暮らし方、そういうこともA→Zまで知ってほしい。私たちのアイデアと少しの創造のレールの上を走る15分間。このランウェイの終点からもう一つ先の切符をきる。
「サスティナブルなブランド」を考える
ファッションデザインコースの3年生は授業でサスティナビリティをテーマにブランド制作に取り組んできました。
前期にはリサーチを重ね、イメージボード(参考画像、デザイン画、素材などをボードに貼り、イメージを可視化していくもの)の作成、ブランドコンセプトの考案などを行いました。6月からはブランドの実物を製作・撮影し、7月には学内にて展示会も開催しました。
全体テーマ「サスティナビリティ」に対しては、もともと興味のある分野を深掘りしたり、生活で目にしたものからリサーチを広げたり、伝統工芸品からアイデアを広げたりと、さまざまな方向からアプローチしたといいます。
ブランドを構想するときには「どのようなターゲットに向けた系統のブランドか」「サスティナブルなブランドとして、消費者にどのような影響を与えたいか」などを考えながら、軸となるテーマとコンセプトを決定。イメージボードをつくりながら、アイテムやロゴのデザインを固めていきました。
車内がランウェイに変身!
そして開催された、今回の叡山電鉄の車内でのファッションショー。出町柳駅から貸し切りの電車に乗車すると、一両すべてが埋まるくらいの人が座席についていました。
電車が走り出し、車内のスピーカーから流れるアナウンス・音楽とともに各ブランドのモデルが現れると、車内がランウェイに変身! 出町柳駅から八瀬比叡山口駅までの約15分間、個性豊かなブランドのモデルがショーを繰り広げました。
こうした作品、モデル、そして演出・モデル手配・空間づくり・音響・ポスターなどのデザイン・運営なども、学生たちが一から作り上げてきました。
後期の授業でファッションショーを作っていく際には、広報・空間・運営の3部門にわかれて活動を開始。
リーフレット作成といったビジュアル面だけでなく、電車内とホームのバックヤードや車内を利用した撮影会イベントなども、すべて学生たちが準備・企画を担当しました。当日も運営部門の学生たちがモデルや乗客の誘導を行いました。
八瀬比叡山口駅に電車が到着すると、もう一両にも乗客が乗りこみ、約40分のメインショーがはじまります。サスティナビリティというテーマから様々なブランドが立ち上がり、一堂に介した今回のファッションショー。いくつかのブランドをご紹介します。
BATA BATA(山野愛華)
幟(のぼり)を裂き、編みなおすことで水着に転換するブランドです。店舗の宣伝のために使用される幟は3か月ごとに交換されることに問題意識をもち、幟を「日常に溶け込んでいる使い捨ての象徴」として捉え、サスティナブルなアプローチを追求しました。
9 KYUU(辺ハリミ・劉桜)
お香とジュエリーを組み合わせたジュエリーブランド。現代では、アロマやアルコールによる香料が普及したことで、天然香木を使用した「お香」の若者離れが進んでいます。そこで、お香の楽しさを知るきっかけを作り、お香文化を継承するサスティナブル、「つめたさの中であたたかく香るジュエリー」をモットーにしています。
hachiju hachi(平位真彩)
米の美しさ、米の形の新たな魅力を伝えるジュエリーブランドです。八十八もの手間がかかるといわれている米作り。昨今、米作りにおいて農家の高齢化・後継者不足が問題となっていることに着目し、若い世代に知ってもらうきっかけ作りとしてシルバーピアスを提案しています。
sower(新里小春)
風船でつくる新しい帽子のブランドです。帽子の細かな装飾も風船を素材に製作し、植物を体験するアクティビティを提案しています。特別な日に着用し、風船と種に思い出やその日の記憶を結びつけて飛ばすことでタイムカプセルのような体験を届けます。
ほかにも、マタニティー用品を赤ちゃんの被服に作り変えるブランドや、そろばんを身近なファッションアイテムに変身させたブランドなど、さまざまなコンセプトのブランドが登場しました。
美しさと想いを伝える
メインショーが終わると、八瀬比叡山口駅のホームと電車内を利用し、参加者がモデルと写真を撮ったり、作家とコミュニケーションを取ったりすることができるフォトグラフィーイベントも開催されました。
ブランド「hachiju hachi」の平位真彩さんは「米農家をしている祖父が『米粒の形は美しいんだ』と言っていたことが、米粒の形をしたピアスを提案したきっかけです。今回参加していただいた方とお話ししてみると、やはり『新鮮です』『驚きました』という反応が多かったですね。伝統を引き継いで、伝えていくということもサスティナブルな取り組みだと思うので、これからより多くの人にお米の美しさを伝えていきたいです」と語りました。
叡山電鉄とのコラボレーションで実現した今回のファッションショーについて、叡山電鉄株式会社 取締役 総務部長の中山俊朗さんは「叡山電車内でファッションショーをするというのははじめての取り組みです。走行する車内でのショーは15分間という制約があり、担当の先生からお話をうかがったときは『本当にできるのかな』という不安もありました。しかし、実際に今日拝見し、ファッションショー自体の完成度の高さに驚きました。ブランドのコンセプトやデザインだけでなく、音楽やモデル、演出についても学生さんがすべて考えて動かれたと聞いて感心しました。今後も、京都芸術大学の学生さんに叡山電鉄に親しみを感じていただけるよう、様々な取り組みやコラボレーションができればいいと思っています」と顔をほころばせます。
今回のファッションショーの学生リーダーを務めた劉桜さんは「作品を発信することの大切さと難しさを学びました」と授業を振り返ります。
「ショーを作っていく過程で、アイテムを見ただけでは、コンセプトや各ブランドの想いを知っていただくことが難しいという課題に突き当たりました。そこで、今回のショーではブランドのひとつひとつについて、オープニングショーの電車内でアナウンスを流したり、リーフレットで各ブランドの紹介を行ったりと、ブランドに込めた想いを伝える工夫を取り入れました。こうした工夫をしたことで、ビジュアルの華やかさと制作背景の深さを参加者の方々に楽しんでいただけたと思います」
当日はあいにくの天候でしたが、ホームを利用する予定のイベントも電車内で交流できるように変更するなど、学生たちの臨機応変な対応で無事イベントをやり遂げました。
イベント終了後、出町柳への電車にはファッションショーを見にこられた方々がずらり。みなさん、今回のイベントについての感想を話されていました。
車内をランウェイにするという新しい取り組みが光った今回のファッションショー。来年度はどんな場所にどんなランウェイが登場するのか、次回もご期待ください!
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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。