REPORT2025.01.23

京都ファッションデザイン

ランウェイ叡山電車、今年も快走! — 空間演出デザイン学科ファッションデザインコースファッションショー2024【destroy⇄constract】

edited by
  • 上村 裕香
  • 高橋 保世

空間演出デザイン学科ファッションデザインコースの3年生が作った24のブランドのファッションショーが、叡山電車の走行する車内と八瀬比叡山口駅で1月12日(日)に開催されました。

叡山電鉄は京都市の北東部「洛北」に2つの路線を持つ鉄道会社です。出町柳駅を起点に北上し、途中の宝ケ池駅で二手に分かれ、東は八瀬比叡山口駅へ、西は貴船口駅や鞍馬駅に続いています。
本学と叡山電鉄株式会社は2023年4月に包括連携協定を結び、大学の最寄り駅である茶山駅を『茶山・京都芸術大学駅』に改名。駅舎ホームにて現代美術作家のヤノベケンジらによるアーティスト作品の展示を行うなど、本学のクリエイターとの協働によって駅舎や叡山電車沿線地域の魅力を向上するための取り組みを行ってきました。

叡山電車の車内で学生が作ったブランドのファッションショーを行う取り組みは昨年に引き続き2年目です。
今回の記事ではファッションショーの潜入レポートと、前期から「サステナビリティ」をテーマにブランドを作り上げ、ファッションショーの準備や運営に取り組んだファッションデザインコースの学生へのインタビューをお届けします!

KUA Fashion Show — 動く展示会 — destroy⇄constract

24のブランドに共通することは、崩されかけているものやことに目を向け、新たなブランドとしてモノを生み出していることです。私たちのブランドは、動く展示会を通して電車や駅のホームという日常の風景を破壊し、非日常であるファッションショー destroy(破壊する)⇄constract(構成する)を表現します。

車内がランウェイに変身!

当日は、出町柳駅で受付の学生がお出迎え。パンフレットを受け取り、改札を通ると、貸し切りの電車が待っていました。車体の先頭にはファッションショーのポスターが貼られています。ワクワクしながら乗車すると、一両すべてが埋まるくらいの人が座席についていました。

駅改札横で出迎えてくれた学生

車内は満席

昨年度は走行中の車内でもショーが行われましたが、安全面への配慮から今年度はプロジェクターを車内に設置し、観客は簡易スクリーンに投影された映像を楽しみました。電車が走り出すと、アナウンス・音楽とともにオープニング映像とブランドムービーがスクリーンに映し出されます。出町柳駅から八瀬比叡山口駅までの約15分間、ファッションショーの意図やブランドのコンセプトをじっくりと知る時間を通して、ショーへの期待感を高めていきます。

八瀬比叡山口駅に電車が到着すると、ホームに設置された椅子にもずらりと観客が。ホーム南側に設置されたテントから白い布を身に纏ったモデルたちが登場し、ホームに横一列に並ぶと、車内の乗客も窓の外を見ようと身を乗り出します。モデルたちが音楽とともに白い布を脱ぎ捨てるパフォーマンスで、盛り上がりは最高潮に。約40分のメインショーがはじまりました。

白い布を身に纏ったモデルたち

車内をランウェイに見立て、ブランドの服を身に纏って闊歩するモデルの姿に、乗客は釘付けで、気に入ったブランドを見つけて写真を撮っていました。サスティナビリティというテーマから様々なブランドが立ち上がり、一堂に介した今回のファッションショー。いくつかのブランドをご紹介します。

ASSENBLE(デザイナー:串畑聖奈)

日本建築の特徴である木組みの技法に着目し、釘や接着剤を使わないことにより「一度建てた建築物を解体し再構築できる」という日本建築のサスティナビリティを、ジュエリーの領域で表現する。日本建築の魅力を、だれもが身につけることのできるジュエリーを通して感じてほしい。

vimove(デザイナー:厚浦英杜)

災害時や運動時、また勇気が欲しい時に人々の心を支え、前向きな気持ちを引き出すためのブランド。もう使わなくなったテントやタープといった環境に優しいリサイクル素材を活用し、思わず着替えたくなるような服を提案する。テントやタープの防水・防風といった機能性を活かすことで、身体的なストレスを軽減し、快適な着心地を提供する。

hencho(澤井心)

「ガット」と呼ばれるテニスラケットの糸を使用したバスケットブランド。2、3か月の使用でごみとして廃棄されてしまうガットの廃棄問題に向き合い、新たな使い道を模索する。ガットは日本語で『腸』。ガット(腸)のカラフルで丈夫な特性を活かし、『編む』ことでバスケットを製作した。

ほかにも、廃棄予定の子供用レジャーシートを活用したアウトドアウェアブランドや、竹細工の魅力と可能性を広げるため立ち上げられた竹笠ブランドなど、さまざまなコンセプトのブランドが登場しました。

ブランドに込めた想いを

メインショーが終わると、八瀬比叡山口駅のホームと電車内を利用し、参加者がモデルと写真を撮ったり、作家とコミュニケーションを取ったりすることができるフォトグラフィーイベントも開催されました。

ショーのときにも「きれい」と声が上がっていたブランド「Gift(イフト)」は、岩本麻央さんと藤江菜々さんの共同ブランド。観光業が盛んな京都で、大量に廃棄されるホテルリネンに着目し、何度も洗うことのできるウェディングドレスを制作しました。キングサイズの大きなシーツでも、小さな穴がひとつ空けば処分されてしまうホテルリネン。その丈夫な生地の特性によって、生花をドレスにつけたいという花嫁さまの要望を叶えることに成功し、学内の展示会で行われたコンペでは学科の教員からの支持を集め、「サステナビリティ賞」を獲得しました。

こちらの「purove」は野球グローブの端材を洋服へとアップサイクルするブランド。デザイナーの寺井渚さんは奈良県の出身で、奈良県で100年以上の歴史を持つ伝統産業である野球グローブを通して、地元の魅力を発信したいと話します。

purove 野球グローブから発想を得てできたデザイン
puroveデザイナーの寺井渚さん

「リサーチの段階で野球グローブの職人さんに話を聞いて、端材をいただき、野球に関心がない人でも身近に感じてもらえるファッションアイテムを作りたいと考えて、女性用のビスチェをデザインしました。両肩から繋がるリボンやバッテンのデザインはグローブからアイデアを得ています。ファッションショーでは3着の異なるデザインのアイテムを披露しました。短い期間で3着のデザイン・制作をするのは大変でしたね。でも、ブランド紹介に使用するアイテムの写真の撮影やスタイリングなどをゼロから自分で行ったことは、いい経験になりました」

ファッションショーをデザインする

※リハーサルの様子

多くの乗客を惹きつけた多彩なブランドたち。デザインしたファッションデザインコースの3年生は、前期、後期の授業を通じて、サスティナビリティをテーマにブランド制作に取り組んできました。
前期にはリサーチを重ね、イメージボード(参考画像、デザイン画、素材などをボードに貼り、イメージを可視化していくもの)の作成、ブランドコンセプトの考案などを行いました。全体テーマ「サスティナビリティ」を与えられた学生たちは、世の中にはどのような社会問題・環境問題があるかをリサーチし、自分たちの持っている技術を使ってその問題をどのように解決するか、考えていきました。

リサーチの成果をもとに、1人または2人でそれぞれにブランドを構想し、軸となるテーマとコンセプトを決定。イメージボードをつくりながら、アイテムやロゴのデザインを固めていきました。制作して終わりではなく、SNSにブランドのロゴビジュアルやモデルを使ってのアイテム写真を投稿し、ブランディングの工程も実践で学んでいくのが、この授業の特徴です。

後期の授業でファッションショーを作っていく際には、ロゴやメインビジュアルをデザインし、SNSを運営する広報、車内やホームの空間演出を行う演出、当日の車内アナウンスや誘導を行う運営の3部門にわかれて活動を開始。リーフレット作成といったビジュアル面だけでなく、電車内とホームのバックヤードや車内を利用した撮影会イベントなども、すべて学生たちが準備・企画を担当しました。当日も運営部門の学生たちがモデルや乗客の誘導を行いました。

今回のファッションショーの学生リーダーを務めた串畑聖奈さんは「ファッションショーは全ブランドで作り上げるものなので、そのイメージをまとめるのが難しかったです」と授業を振り返ります。

学生リーダーの串畑聖奈さん

「前期のブランド制作は個人作業だったので、スケジュールも自分ひとりが把握しておけばよかったのですが、後期はファッションショーを20人以上の学生たちと作っていくので、団体で作り上げていく難しさがありました。コンセプトもそれぞれのブランドでちがうので、ファッションショーの方向性を決めたり、実際に指示を出して学生を動かしたりするところで人をまとめていくことに苦戦しました。でも、今回ショーをやってみてお客さんの笑顔を見られて、うまくいったなという実感があります。叡山電鉄とのタイアップは2年目で、昨年とちがう部分もあったのですが、企画案を提出したときに叡山電鉄の方に『好きにしていいよ』と言っていただけて、すごく心強かったです」

イベント終了後、出町柳への電車にはファッションショーを見にこられた方々がずらり。みなさん、今回のイベントについての感想を話されていました。来年度はどんな場所にどんなランウェイが登場するのか、次回もご期待ください!

(文=上村裕香 | 写真=高橋保世 ※の写真画像は学生からの提供)

 

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  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

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